悪女ですがなにか~追放悪妃は廃太子を道連れに後宮生活を謳歌する~

松田 詩依

文字の大きさ
15 / 30
2章 悪女、決闘!

14話 悪女、茶会

しおりを挟む
 ――一週間後。いよいよ、決闘の審判を下す日がやってきた。

(何故俺がこんなことに……っ)

 そんな中、雨黒はぎりりと奥歯を噛んだ。
 それもそのはず。雨黒は今、後宮で三人の美女――皇太子妃に囲まれているからだ。
 目の前にはずらりと並んだ豪華な茶菓子。そして良い香りを漂わせる茶――ここは茶会。皇太子妃たちの集いの場所。

「雨黒様、そんな怖い顔なさらずに」

 おっとりと微笑む緩やかな黒髪の美女――第二皇太子妃・孔青麗こうせいれい

「そうですよ。せっかく私たちの茶会にいらしたのですから、もっと肩の力をお抜きになって」

 豊満な肉体に艶やかな衣装を纏った赤髪の美女――第三皇太子妃・秋赤陽しゅうせきよう

「今日はとっても楽しい日になりそうですね!」

 明るく陽気なもっとも年若い茶髪の少女――第四皇太子妃・白花葉はくかよう
 蘭華が抜けた今、蝶月を含めたこの四名が皇太子妃として君臨しているのである。

「妃の茶会に招かれることなんて滅多にないのだから、其方も楽しむとよい」
「は、はあ……」

 面白そうだからと決闘の成り行きを見に来た皇太子・煌亮に笑われ雨黒は小さく息をついた。

「政務を放ってこんなとこに来ている場合ですか、殿下……」
「いいだろう! なにせあの蘭華の敗北を拝めるのだからな! この勝負、蝶月が勝つに決まってる!」

 龍煌は三人の妃たちを侍らせながら鼻の下を伸ばし、げらげらと笑っていた。

「そう。今日は私たちも楽しみにしていたのですよ」
「なんたって、今日は私たちは『お題』に参加せずともこうして美味しいお菓子とお茶を楽しめばいいだけなのだから」

 青麗と赤陽が顔を見合わせてにやりと笑う。
 そう。今日の本題は、蘭華と蝶月の決闘。
 彼女たちが丹精込めて作ってきた刺繍をこの三人の妃たちが審査し、勝敗を決すのだ。


「お待たせ致しました――」

 そこに待ち人がやってきた。
 慧を侍らせ自信満々に蝶月がやってきた。

「皆様方、貴重なお茶会の時間を割いてしまって申し訳ありませんわ。ですが、今日はいつもの勝負を忘れゆったりとお楽しみください」
「ふふ……第一皇太子妃になって随分と偉そうな口を叩くようになったのね」
「そんなことありませんわ。私はただ煌亮様のご期待に添えるよう邁進しただけ。皆さま方の上に立ったなどというつもりは毛頭ありませんわ」

 にこりと笑って受け流す蝶月の態度に、赤陽は不満げに舌打ちを零す。

「それで? 紅蘭華はどこに?」
「まだ来ておりません」

 雨黒が告げると、蝶月がははっと声を出して笑った。

「あはっ! 私と戦うのを恐れて尻尾巻いて逃げ出したのかしら――」
「お待たせ致しましたわ!」

 そんな期待を裏切るように、あの悪女がやってきた。

「皆さまお久しゅう御座います! お元気そうでなによりですわ」
「相変わらず変わらないわね、蘭華様は」
「皇太子様を退けて再婚だなんてとんだ度胸だこと」

 いつもと変わらぬ蘭華を見て青麗と赤陽は呆れ顔で笑うが、そこに一応敵意はない。

「お、お一人でいらっしゃったのですか? 侍女などは……」
「生憎私侍女はおりませんので! 今勧誘しているところですの!」
「ひっ……!」

 気弱そうに言葉を漏らす花葉に対し、蘭華がにこりと慧を見る。
 慧は悪寒が走るのを感じながら、さっと目をそらした。

「遅いから逃げたのかと思ったわ」
「まさか。蝶月様との決闘、楽しみにしておりましたもの! 暗いなかで夜通し針を刺しておりましたので、いつもより時間がかかってしまっただけです!」

 嫌みを嫌みと受け取らず、満面の笑みを浮かべる蘭華に蝶月の顔が歪んだ。

「まあいいわ……皆さまのお時間を奪うだけ無駄ですもの。さっさと刺繍を見せ合いましょう」
「私の作品はこちらですわ!」

 我先にと蘭華が傷だらけの手で刺繍を広げた。

「まあ……これは」

 布一面に泳ぐのは赤い目を持った黒龍。背は金色でなんとも雄々しい。
 その完成度の高さに妃たちは感嘆の声を漏らした。

「私は龍煌様を想像して刺繍を施しましたの! 野性味が溢れ、大きく、逞しく……強い姿はまさに黒龍そのもの!」

 うふふ、と頬に手を当てながら蘭華は顔を赤らめる。
 元夫とその妻たちの前で惚気るとはまさに大胆不敵。だが、彼女の目には龍煌しか入っていないようだ。

「黒龍なんて邪神だろう。どこまで俺を侮辱したいんだ」
「あら、私は龍煌様を描いただけで皇太子殿下のことなど一言も申し上げておりませんよ? 自意識過剰さんなんですね」

 煌亮が顔を引きつらせながら刺繍から目をそらす。

「……まあよい、次だ蝶月」
「はいっ、煌亮様! さあ、慧。見せてあげて!」
「――は」

 すると慧はさっと前に現れ、刺繍を広げた。

「――これは」
「美しい」

 その刺繍の美しさに、思わず雨黒までもが息をのんだ。
 夜空に見立てた漆黒の布に浮かぶのは美しい満月。その傍を飛び回る、立派な白龍。

「白龍は煌亮様の象徴。美しい満月が浮かぶ夜空を飛び、殿下が都の安寧を見守っているのです!」
「さすがは蝶月だ……相変わらず素晴らしい腕だ」

 ここまで負け無しの蝶月は自信満々に胸を張る。
 図らずも対称的になった二作。妃たちはじっとその刺繍を見つめた。

「どちらも素晴らしいけれど……勝敗を決めなければいけないわね」
「決闘は投票制で決します。皆さま、よいと思った作品を私の耳元で囁きください」

 雨黒の指示で一人一人、彼の耳元で投票者を選ぶ。
 時間はかからなかった。
 緊張感が流れる中で、雨黒は至って冷静に口を開いた。

「この決闘の勝者は――」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...