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2章 悪女、決闘!
17話 悪女、歓迎
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「というわけで、本日付で私たちの宮に凄腕の侍女が来てくれることになりました!」
「ほ、本日からお世話になります……董慧と申します」
緊張した面持ちで深々と頭を下げる慧。
彼女と向き合う龍煌は目を丸くして驚いていた。
「……彼女は、まさか?」
「はい、そのまさかです! 約束通り、決闘で勝ち得てきましたっ!」
「…………まあ。お前ならやるとは思っていたよ」
龍煌は驚きはしていたものの、信じられないといった様子ではなかった。
どぎまぎしている慧を見やり、小さく息をつく。
「李龍煌だ。俺の噂は色々聞いているだろう」
「……え、ええ」
「怖いのであれば無理に近づく必要もない。俺は自分のことは自分でできる故、蘭華の身の回りの世話だけでいい」
「……本当に蘭華様の仰る通りなのですね」
謙虚な物言いに、慧は目を瞬かせた。
今度は逆に龍煌の眉間に皺が寄る。
「お前……彼女になにをいった」
「もちろん、龍煌様の素晴らしさを説いたのですよ! そのお優しさ、強さ……! 確かに恐ろしい噂が流れているのは事実ですが、一目会えばきっと慧も気に入る、と!」
目を輝かし喜々として微笑む蘭華に龍煌は頭を抱えた。
「その……不束者ですが、よろしくお願い致します」
「……頼む」
二人でぎこちなく礼をして挨拶は終えた。
すると蘭華はぱんと手を叩く。
「それでははじめましょうか!」
「なにを……?」
「決まっているでしょう! 慧の歓迎会ですよっ!」
*
「――これは」
数時間後、慧は目を見開いた。
目の前に並ぶ豪勢な料理。そして侍女にも関わらず、今日は歓迎会だからと一歩も動くことを許されなかったことに。
「畑でとれたお芋やホウレンソウ……後は龍煌様が獲って頂いた鴨の肉など使って豪勢にしてみました!」
「自炊にもようやく慣れてきた。案外楽しいものだ」
芋煮や煮魚、焼き鳥、お鍋――質素ながらも豪勢な食事がずらっと並んでいた。
侍女が主人に手料理を振る舞われている。
おまけに皇太子自ら――。
(なんなのこの人たちは)
嬉しそうに手をたたき合いながら喜んでいる夫婦を慧は遠い目で見つめていた。
「……妃や皇太子殿下とあろう御方達がこんなことしていいのですか」
「え? いいに決まっているではありませんか。私たち新婚ですもの」
「自分のことは自分でやる。折角外に出たのだから体を動かさないとな」
(似たもの夫婦すぎる!!)
慧はあんぐりと口を開けた。
わざわざ決闘までして自分を引き抜いたのだ。どんな命令が下るかひやひやしていたものだが――まさか一緒に食卓を囲めだなんて。
「ほらほら、一緒に食べましょう!」
おまけにずずいと箸と皿まで差し出されている。
「い、いただきます……」
妃が自炊だなんて聞いたこともない。
見た目はいいがどんな味なんだ。恐る恐る芋煮を口に運ぶ。
「…………おいしい」
「よかったあ!」
それはとても懐かしい味がした。
まるで故郷で母が作った料理を食べているかのような優しい味。こんな温かく穏やかな料理を食べることなんて久々だった。
「……何故、麗霞様は私を侍女に迎え入れたのですか?」
「ここを立派な宮にしたかったからですよ。龍煌様はいつか皇帝となる御方、ですからね」
「……は?」
笑顔で放たれた爆弾発言を慧は一瞬聞かなかったことにしようとした。
この二人、まさか下剋上を企んでいる? いやいや、自分はそんなことに巻き込まれたくはない。
よし、素知らぬふりをしよう。
「み、宮にするのであれば……お名前は決まっているのですか?」
「そういえば、決めておりませんでしたね」
はたと蘭華は手を叩き、そしてうーんと首を傾げた。
「龍煌様、なにかいいお名前ありませんか?」
「……俺にそのようなことを求めるな」
そういって、蘭華が指折り数えながら候補を挙げていくがどれも酷い名前だった。
「そういう慧はなにか良いお名前はありませんか?」
「私などが意見をだすのは……」
「いいのいいの! だって慧はもう私たちの家族ですから!」
屈託ない笑顔に慧の心が緩んでいく。
今まで誤解していたが、きっと彼女は裏表はないどこまでも真っ直ぐ過ぎる人なのだろう。
「――紅月。紅月宮というのはどうでしょう。蘭華様も殿下も共に赤がお似合いで、殿下の象徴は月ですから」
その名に蘭華と龍煌は顔を合わせ大きく頷く。
「素敵っ! いいですねっ、今日からここは紅月宮に致しましょう!」
そしてボロ宮――改め紅月宮での三人の生活が始まろうとしていた。
「ほ、本日からお世話になります……董慧と申します」
緊張した面持ちで深々と頭を下げる慧。
彼女と向き合う龍煌は目を丸くして驚いていた。
「……彼女は、まさか?」
「はい、そのまさかです! 約束通り、決闘で勝ち得てきましたっ!」
「…………まあ。お前ならやるとは思っていたよ」
龍煌は驚きはしていたものの、信じられないといった様子ではなかった。
どぎまぎしている慧を見やり、小さく息をつく。
「李龍煌だ。俺の噂は色々聞いているだろう」
「……え、ええ」
「怖いのであれば無理に近づく必要もない。俺は自分のことは自分でできる故、蘭華の身の回りの世話だけでいい」
「……本当に蘭華様の仰る通りなのですね」
謙虚な物言いに、慧は目を瞬かせた。
今度は逆に龍煌の眉間に皺が寄る。
「お前……彼女になにをいった」
「もちろん、龍煌様の素晴らしさを説いたのですよ! そのお優しさ、強さ……! 確かに恐ろしい噂が流れているのは事実ですが、一目会えばきっと慧も気に入る、と!」
目を輝かし喜々として微笑む蘭華に龍煌は頭を抱えた。
「その……不束者ですが、よろしくお願い致します」
「……頼む」
二人でぎこちなく礼をして挨拶は終えた。
すると蘭華はぱんと手を叩く。
「それでははじめましょうか!」
「なにを……?」
「決まっているでしょう! 慧の歓迎会ですよっ!」
*
「――これは」
数時間後、慧は目を見開いた。
目の前に並ぶ豪勢な料理。そして侍女にも関わらず、今日は歓迎会だからと一歩も動くことを許されなかったことに。
「畑でとれたお芋やホウレンソウ……後は龍煌様が獲って頂いた鴨の肉など使って豪勢にしてみました!」
「自炊にもようやく慣れてきた。案外楽しいものだ」
芋煮や煮魚、焼き鳥、お鍋――質素ながらも豪勢な食事がずらっと並んでいた。
侍女が主人に手料理を振る舞われている。
おまけに皇太子自ら――。
(なんなのこの人たちは)
嬉しそうに手をたたき合いながら喜んでいる夫婦を慧は遠い目で見つめていた。
「……妃や皇太子殿下とあろう御方達がこんなことしていいのですか」
「え? いいに決まっているではありませんか。私たち新婚ですもの」
「自分のことは自分でやる。折角外に出たのだから体を動かさないとな」
(似たもの夫婦すぎる!!)
慧はあんぐりと口を開けた。
わざわざ決闘までして自分を引き抜いたのだ。どんな命令が下るかひやひやしていたものだが――まさか一緒に食卓を囲めだなんて。
「ほらほら、一緒に食べましょう!」
おまけにずずいと箸と皿まで差し出されている。
「い、いただきます……」
妃が自炊だなんて聞いたこともない。
見た目はいいがどんな味なんだ。恐る恐る芋煮を口に運ぶ。
「…………おいしい」
「よかったあ!」
それはとても懐かしい味がした。
まるで故郷で母が作った料理を食べているかのような優しい味。こんな温かく穏やかな料理を食べることなんて久々だった。
「……何故、麗霞様は私を侍女に迎え入れたのですか?」
「ここを立派な宮にしたかったからですよ。龍煌様はいつか皇帝となる御方、ですからね」
「……は?」
笑顔で放たれた爆弾発言を慧は一瞬聞かなかったことにしようとした。
この二人、まさか下剋上を企んでいる? いやいや、自分はそんなことに巻き込まれたくはない。
よし、素知らぬふりをしよう。
「み、宮にするのであれば……お名前は決まっているのですか?」
「そういえば、決めておりませんでしたね」
はたと蘭華は手を叩き、そしてうーんと首を傾げた。
「龍煌様、なにかいいお名前ありませんか?」
「……俺にそのようなことを求めるな」
そういって、蘭華が指折り数えながら候補を挙げていくがどれも酷い名前だった。
「そういう慧はなにか良いお名前はありませんか?」
「私などが意見をだすのは……」
「いいのいいの! だって慧はもう私たちの家族ですから!」
屈託ない笑顔に慧の心が緩んでいく。
今まで誤解していたが、きっと彼女は裏表はないどこまでも真っ直ぐ過ぎる人なのだろう。
「――紅月。紅月宮というのはどうでしょう。蘭華様も殿下も共に赤がお似合いで、殿下の象徴は月ですから」
その名に蘭華と龍煌は顔を合わせ大きく頷く。
「素敵っ! いいですねっ、今日からここは紅月宮に致しましょう!」
そしてボロ宮――改め紅月宮での三人の生活が始まろうとしていた。
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