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ヴィルハント平原(現在、書き直し作業中)
1-11.それぞれの心中に眠るもの
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しばらくその光景を眺めていると、ヨトが切り出す。
「あのさ、馬探してくるから、待っててもらってもいいかな?」
「あっ、そっか、そいや逃げちゃったもんね、肝心なところ忘れてたよ」
「じゃあ、あの、お願いします」
ヨトは俺達の返答を聞くと踵を返して、そのまま走ってシンキに乗っかった。流れるように刀を抜いてシンキの尻を引っ叩くと、そのまま彼女らは岩山の間の道を戻っていった。
――そこで気がついたが、先ほどいたあの世界とまったく地形が同じだ。
「あっ、タジさん……やっぱりここ、あそこだったんですね」
「俺も同じこと考えてたところ。やっぱりそっか、一体どういう関係があるんだろう」
俺達は、ただ待つのも暇なので、崖っぷちに座り込んで海を眺めた――
「ん、山中くんどしたの?」
「え? あ、いや、その、ちょっとそれは流石に無理です」
崖から一歩離れたところで座り込む山中。まぁ、高所恐怖症なら仕方ないことだろう、落ちてしまえば下の浅瀬に真っ逆さまだ。
「わっちょっ何してるんですか、落ちますよ!? 死にますよ!?」
その下の光景を覗き込んでいると、山中が震えた声で俺の行動を制止する。
「大丈夫だってそんな簡単に落ちやしないって!」
とはいえ、手に持っているこの箱は落としてしまいそうなので、すぐ横に置いた。
「そ、そんなところにおいたら落っことしちゃいますって!」
彼はやっぱり怖いのか、へっぴり腰で手だけ伸ばして緑色の箱を手に取った。
~~~ ~~~ ~~~~~~~
「あれ、ここは?」
暗い闇の中に僕はいた。突然足元に緑色の網が描かれていき、更に上にも緑色の網模様が描かれていく。
そして目の前に、黒髪の美少女が立っていた。
「初めまして峰くん、こうやって会うのは初めてだね」
「あっ、あやちゃん!?」
僕の目の前にいたのは僕がずっと恋い焦がれていた冬野あやちゃん。アニメ『想い出探求カルテット』に登場するメインキャラクターの一人で、立ち位置はお姉さんキャラ、みっちぇとゆりちーの面倒を無理やり見せられてる(とはいえあやちゃんもまんざらではない)、とてもお淑やかな娘だ。
男女関係なしに同性愛に寛容なアニメで、所々そういったシーンがあり、特に修学旅行回のまりんとゆりちーは――話すと長くなってしまうので割愛するが、とにかくこのアニメに登場するあやちゃんがずっと好きで、彼女と本当に会えるだなんて夢にも思っていなかった。
「ど、どんな、はへっ、よ、用ですか!?」
「どんな用って、決まってるじゃないですか」
突如彼女が耳元に近付いて、生暖かい息と共に声が吹き込んできた。
「峰くんに会いに、ですよ?」
ぞわぞわした甘い、幸せの感触が全身に這い上がり、僕の身体が若干力を失う。あやちゃんが、僕に――いきなり抱きしめられて、それで、なんかにおい嗅がれてっ
「あ、あやちゃん……っ!」
「ふふっ、ねぇ峰くん、本当の世界で会いたくない? もし会えたら、ずっとこうできるんですよ?」
あやちゃんは実は寂しがりやで、それでいて親密な人にはなんとサドっ気が入っていて、今僕は、あやちゃんからその両方の面を感じ取っている。
「あ、会いたい……」
「なら――その手にある箱を開けてください、その中には、私をそっちに連れてくる大事な物が入っているんです。勿論、百合香だって、美智だって、連れてこれちゃうんですよ」
「は、はい……」
~~~ ~~~ ~~~~~~~
「あっ、あやちゃん……」
「ん? どうした山中くん」
突然何をつぶやいたかと思えば、山中が黒い封に手を伸ばしている事に気付いた。すぐに立ち上がってそれを止め、箱を奪い取る。
「開けちゃダメだろ! 山中くんだって、ここから漂ってるやばい感じ、分かってたよね!?」
「……あやちゃんが! あやちゃんに会いたいんだ!」
誰だろう、山中の彼女だろうか。しかしそんなことは関係ない、良くわからないデタラメを言っているところ、何かおかしくなってしまったのだろう。おそらくはこの箱が原因か――
気が付くと黒い空間の中にいた。それはみるみる内にいつも見ていたギルドの中の光景に切り替わっていき、目の前にはいつもの桃髪の受付嬢――ミルチュットがいた。
「あれ、なんでこんな所にいるんだ?」
「タジさん、私から頼み事をしてもいいですかー?」
「はいっ、ミルチュットさんの為ならなんだってしますよ!」
良くわからないけれど彼女から頼み事をするなんて珍しい。一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
「その報酬を、是非あの人に譲ってあげてー、私のところに持ってきてくださいねー」
「えっ、あぁ、そりゃそうするつもり――でしたけど、この箱やばいんですよ、ミルチュットさん絶対開けないでくださいよ!」
「興味ないし別にいーですよー」
いつもと変わらぬ間延びした声でそう言ったミルチュットさん、なぜこんな事を頼んだのだろう、不思議で仕方がない。
「……んー? タジさん、どうやら私は箱をあなたに開けさせるためにいるらしいですねー」
「へ?」
突然わけの分からない事を言われて困惑した、一体何を言っているのだろう。
「一番好きな人を思い起こさせて、その人から箱を開けるよう頼まれる、そういう面白い魔法のようですねー」
「ど、どういうことですか?」
「つまり私は偽者でー、この場所も偽者って事ですねー」
「……あ、そういや確か俺は、なんでギルドなんかにいるんだろう」
「不思議ですねー、それにしても一番好き、ですかー。今までのナンパ全部本気だったんですねー」
「えっ、そりゃ、そ、そうでしたよ! へへっ、ミルチュットさんのハート全力でぇ……」
どんどん声が小さくなって顔が紅潮するのを感じた。彼女は相変わらず無表情だが、口だけ笑わせていた。そして、落ち着かせるために働いた頭が疑問を浮かべた。
「なんで、これが幻覚なのに、ミルチュットさんは、その、本当のミルチュットさんみたいな――」
「タジさんが恵まれてるからですねー、色々と。タジさん達の選んだクエストで喜ぶはずだった人は恵まれてませんねー、運に。」
その言葉の意味は分からなかったけれど、俺には幻覚が通じないようだ。
「いひひっ、私を殺したタジにこんな弱っちい呪術効くはず無いのにねー!」
「えっ……エリ――」
カウンターから、ミルチュットさんの横から飛び出してきた綺麗な金髪の五歳の少女に見覚えがあった。
彼女に手を伸ばそうとした瞬間世界が白い光で弾け飛び、乾いた世界に戻ってきた。
「――あっ、タジさん。ごめんなさい、俺なんか変になってました……」
「えっ、あっ、いいよそんな事……」
どこか喪失感を覚えて、座り直して、海に沈んでいく夕日を眺め続けた。得も言われぬ罪悪感がこみ上げてくる。
「…………」
「タ、タジさん?」
山中は一つ咳払いすると、俺に話しかけてくる。
「あの、知ってますか? 『想い出探求カルテット』」
「日常アニメだったね、三期とも全部見たよ――あっ、あやちゃんってまさか」
「そうですそうです! まさかタジさんも見てたとはっ!」
となると、山中が見た幻覚っていうのは……まぁ、深くは考えないでおこう。
「じゃあさ、三期の後から原作ってどうなってる? 割りと時間経ってると思うんだけど」
「え、三期終わったばっかですよ」
「へ?」
俺がこの世界に来たのは、確かにちょうど『想い出探求カルテット』の三期が終わった頃だ。そのアニメの最終回を見終えて、少し経った、それは覚えている。
「俺、こっちに来て随分経つよ? 時間軸狂ってる系かな?」
「あははっ、それならそれで話も合って助かる気はしますけどね!」
「まっ、それもそうだね……」
となると、俺達は同じ時間くらいにこの世界に連れて来られてる事になるのだろうか。山中と俺の違いは、一体何なのだろう……
「じゃあ、あの、タジさんは想カルのメンバー誰が一番好きですか?」
「んっと、ゆりちーかな」
「タジさんロリコンですか?」
「へへっ、ミルチュットさん大好きな奴がロリコンだと思うかー?」
そのまま『想カル』の話が弾み、時間を忘れた頃に馬の走る軽快な音が聞こえてきた。
「いやいや二期八話はみっちぇの決心あってこそのお誘い――」
「なになに、何の話!?」
「えぇっ!?」
突然後ろからヨトの声がしてびっくりたまげてへんてこな声を出してしまう。ずいぶん遠くだと思ってたらもうこんなに――
「ヨトさんは想カルの誰が好きですか?」
「んー、なにそれ踊り子さんのグループ?」
「えっ、知らないならいいんですよっ、へへへっ」
なんか山中くんが下衆い笑いを見せて優越感に浸っているようだった。
「あっ、ヨトちゃん馬どうだった?」
「見つけてきたぜぇー、ほらほら、連れてきたし!」
後ろを向くと、たしかに三頭の馬がいた。挙動は正常で、こびりついていたであろうあの黒い泥はすっかり綺麗さっぱりのようだった。
「ヨトちゃん、この箱触ったら幻覚見るらしいんだけど、どうする?」
「ん、じゃあタジが持ってて!」
「……まぁ、そうだね」
ヨトが持って何か起きてしまったらマズい、普段の彼女なら暴れても制止できるかもしれないが、もしもあの刀に炎が宿れば俺はタダじゃ済まない。最悪箱を開けられて終わってしまうだろう、幻覚の中のミルチュットが言ってくれていたこの魔法の意図がそうであるなら、必ずただ事ではなくなる。
俺達は彼女の呼び戻してくれた馬に乗り、すっかり暗くなってしまった砂漠を駆けてヴィルム街へと戻っていった。
そして冒険者の宿に泊まり、長い一日を終えた。
~~~ ~~~ ~~~~~~~
「うん? あれ、ここは」
ヨトは深い眠りについたはずだったが、突如として黒い空間に投げ出される。
「何だよ何もねー夢に放り出すな! 私は寝るんだ!」
そう怒鳴って黒い空間で寝転がるヨトに、何者かが声をかけた。
「……ヨト」
「んっ――あっ、な、何?」
僅かに顔を赤らめて、ヨトはその低い声に応える。
「何やら面倒な事に巻き込んでしまったようで、すまなかった」
「……んー? いいんだよ別に、まぁ、ちょっとお人好しすぎるけどさ」
その声の主の方を向くことなく、笑って応じる。そのまま男は話を続けた。
「こう言ってはなんだが、お前が――いや、俺がお前を助けずにいた方が、話は早かったかもしれないな」
「良く分かんないけど、気になるから全部話してよ、勿体ぶらないで」
「……分かった。ご存知の通り、お前の身体には俺の血が入っているんだ」
「うん」
「シンキは言うまでもない。そしてこの闇の血を使って、俺達闇人は世界を闇で埋め尽くそうとしたんだ」
「へー、何のために?」
「それは良くわからない、しかしエプリオ神を殺すためだとか、言っていた」
「嫌いだったもんね、君」
「あぁ、世に広まっていて、人に信仰されているクソったれの神様だよ。色んな物を世界から切り離して、自分の都合の良いように世界を作ってるんだ」
「ふーん……じゃあ、あのお爺さん誰?」
「彼が、ナッキだ。闇の大王の力をあの箱の中に封じ込めた張本人で、あの桜は俺達の闇を殺す沈む闇で育った物だ。あの桜が放つその闇のせいで、彼らは箱を奪還することすらできなかった」
「そう、なんだ。じゃあ私がそれを食らっても死ななかったのはなんで?」
「俺は、沈む闇と闇の血、その両方に加えて人の血が流れていたんだ、故に人と勘違いされてきた」
「すっごい雑種なんだね」
「ハハハ、動物みたいだな。それからは忌み子として扱われて、後はご存知の通りさ」
「……辛かったねぇ。ありがとう、勿体ぶらずに話してくれて。君とこんなに踏み入った話できるとは思わなかった」
「…………」
「ほら、いいんだよ、あの時みたいに、さ。話してくれたお礼ということで」
そこでようやく、ヨトは声の主の方を向く。彼女の目には黒い鎧が映り、ひどく懐かしげに感じられたようだった。立ち上がって腕を広げてみせた彼女に、黒い鎧は抱きつく。彼女はまたそれを受け入れ、優しくその背中を叩いた。
「あのさ、馬探してくるから、待っててもらってもいいかな?」
「あっ、そっか、そいや逃げちゃったもんね、肝心なところ忘れてたよ」
「じゃあ、あの、お願いします」
ヨトは俺達の返答を聞くと踵を返して、そのまま走ってシンキに乗っかった。流れるように刀を抜いてシンキの尻を引っ叩くと、そのまま彼女らは岩山の間の道を戻っていった。
――そこで気がついたが、先ほどいたあの世界とまったく地形が同じだ。
「あっ、タジさん……やっぱりここ、あそこだったんですね」
「俺も同じこと考えてたところ。やっぱりそっか、一体どういう関係があるんだろう」
俺達は、ただ待つのも暇なので、崖っぷちに座り込んで海を眺めた――
「ん、山中くんどしたの?」
「え? あ、いや、その、ちょっとそれは流石に無理です」
崖から一歩離れたところで座り込む山中。まぁ、高所恐怖症なら仕方ないことだろう、落ちてしまえば下の浅瀬に真っ逆さまだ。
「わっちょっ何してるんですか、落ちますよ!? 死にますよ!?」
その下の光景を覗き込んでいると、山中が震えた声で俺の行動を制止する。
「大丈夫だってそんな簡単に落ちやしないって!」
とはいえ、手に持っているこの箱は落としてしまいそうなので、すぐ横に置いた。
「そ、そんなところにおいたら落っことしちゃいますって!」
彼はやっぱり怖いのか、へっぴり腰で手だけ伸ばして緑色の箱を手に取った。
~~~ ~~~ ~~~~~~~
「あれ、ここは?」
暗い闇の中に僕はいた。突然足元に緑色の網が描かれていき、更に上にも緑色の網模様が描かれていく。
そして目の前に、黒髪の美少女が立っていた。
「初めまして峰くん、こうやって会うのは初めてだね」
「あっ、あやちゃん!?」
僕の目の前にいたのは僕がずっと恋い焦がれていた冬野あやちゃん。アニメ『想い出探求カルテット』に登場するメインキャラクターの一人で、立ち位置はお姉さんキャラ、みっちぇとゆりちーの面倒を無理やり見せられてる(とはいえあやちゃんもまんざらではない)、とてもお淑やかな娘だ。
男女関係なしに同性愛に寛容なアニメで、所々そういったシーンがあり、特に修学旅行回のまりんとゆりちーは――話すと長くなってしまうので割愛するが、とにかくこのアニメに登場するあやちゃんがずっと好きで、彼女と本当に会えるだなんて夢にも思っていなかった。
「ど、どんな、はへっ、よ、用ですか!?」
「どんな用って、決まってるじゃないですか」
突如彼女が耳元に近付いて、生暖かい息と共に声が吹き込んできた。
「峰くんに会いに、ですよ?」
ぞわぞわした甘い、幸せの感触が全身に這い上がり、僕の身体が若干力を失う。あやちゃんが、僕に――いきなり抱きしめられて、それで、なんかにおい嗅がれてっ
「あ、あやちゃん……っ!」
「ふふっ、ねぇ峰くん、本当の世界で会いたくない? もし会えたら、ずっとこうできるんですよ?」
あやちゃんは実は寂しがりやで、それでいて親密な人にはなんとサドっ気が入っていて、今僕は、あやちゃんからその両方の面を感じ取っている。
「あ、会いたい……」
「なら――その手にある箱を開けてください、その中には、私をそっちに連れてくる大事な物が入っているんです。勿論、百合香だって、美智だって、連れてこれちゃうんですよ」
「は、はい……」
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「あっ、あやちゃん……」
「ん? どうした山中くん」
突然何をつぶやいたかと思えば、山中が黒い封に手を伸ばしている事に気付いた。すぐに立ち上がってそれを止め、箱を奪い取る。
「開けちゃダメだろ! 山中くんだって、ここから漂ってるやばい感じ、分かってたよね!?」
「……あやちゃんが! あやちゃんに会いたいんだ!」
誰だろう、山中の彼女だろうか。しかしそんなことは関係ない、良くわからないデタラメを言っているところ、何かおかしくなってしまったのだろう。おそらくはこの箱が原因か――
気が付くと黒い空間の中にいた。それはみるみる内にいつも見ていたギルドの中の光景に切り替わっていき、目の前にはいつもの桃髪の受付嬢――ミルチュットがいた。
「あれ、なんでこんな所にいるんだ?」
「タジさん、私から頼み事をしてもいいですかー?」
「はいっ、ミルチュットさんの為ならなんだってしますよ!」
良くわからないけれど彼女から頼み事をするなんて珍しい。一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
「その報酬を、是非あの人に譲ってあげてー、私のところに持ってきてくださいねー」
「えっ、あぁ、そりゃそうするつもり――でしたけど、この箱やばいんですよ、ミルチュットさん絶対開けないでくださいよ!」
「興味ないし別にいーですよー」
いつもと変わらぬ間延びした声でそう言ったミルチュットさん、なぜこんな事を頼んだのだろう、不思議で仕方がない。
「……んー? タジさん、どうやら私は箱をあなたに開けさせるためにいるらしいですねー」
「へ?」
突然わけの分からない事を言われて困惑した、一体何を言っているのだろう。
「一番好きな人を思い起こさせて、その人から箱を開けるよう頼まれる、そういう面白い魔法のようですねー」
「ど、どういうことですか?」
「つまり私は偽者でー、この場所も偽者って事ですねー」
「……あ、そういや確か俺は、なんでギルドなんかにいるんだろう」
「不思議ですねー、それにしても一番好き、ですかー。今までのナンパ全部本気だったんですねー」
「えっ、そりゃ、そ、そうでしたよ! へへっ、ミルチュットさんのハート全力でぇ……」
どんどん声が小さくなって顔が紅潮するのを感じた。彼女は相変わらず無表情だが、口だけ笑わせていた。そして、落ち着かせるために働いた頭が疑問を浮かべた。
「なんで、これが幻覚なのに、ミルチュットさんは、その、本当のミルチュットさんみたいな――」
「タジさんが恵まれてるからですねー、色々と。タジさん達の選んだクエストで喜ぶはずだった人は恵まれてませんねー、運に。」
その言葉の意味は分からなかったけれど、俺には幻覚が通じないようだ。
「いひひっ、私を殺したタジにこんな弱っちい呪術効くはず無いのにねー!」
「えっ……エリ――」
カウンターから、ミルチュットさんの横から飛び出してきた綺麗な金髪の五歳の少女に見覚えがあった。
彼女に手を伸ばそうとした瞬間世界が白い光で弾け飛び、乾いた世界に戻ってきた。
「――あっ、タジさん。ごめんなさい、俺なんか変になってました……」
「えっ、あっ、いいよそんな事……」
どこか喪失感を覚えて、座り直して、海に沈んでいく夕日を眺め続けた。得も言われぬ罪悪感がこみ上げてくる。
「…………」
「タ、タジさん?」
山中は一つ咳払いすると、俺に話しかけてくる。
「あの、知ってますか? 『想い出探求カルテット』」
「日常アニメだったね、三期とも全部見たよ――あっ、あやちゃんってまさか」
「そうですそうです! まさかタジさんも見てたとはっ!」
となると、山中が見た幻覚っていうのは……まぁ、深くは考えないでおこう。
「じゃあさ、三期の後から原作ってどうなってる? 割りと時間経ってると思うんだけど」
「え、三期終わったばっかですよ」
「へ?」
俺がこの世界に来たのは、確かにちょうど『想い出探求カルテット』の三期が終わった頃だ。そのアニメの最終回を見終えて、少し経った、それは覚えている。
「俺、こっちに来て随分経つよ? 時間軸狂ってる系かな?」
「あははっ、それならそれで話も合って助かる気はしますけどね!」
「まっ、それもそうだね……」
となると、俺達は同じ時間くらいにこの世界に連れて来られてる事になるのだろうか。山中と俺の違いは、一体何なのだろう……
「じゃあ、あの、タジさんは想カルのメンバー誰が一番好きですか?」
「んっと、ゆりちーかな」
「タジさんロリコンですか?」
「へへっ、ミルチュットさん大好きな奴がロリコンだと思うかー?」
そのまま『想カル』の話が弾み、時間を忘れた頃に馬の走る軽快な音が聞こえてきた。
「いやいや二期八話はみっちぇの決心あってこそのお誘い――」
「なになに、何の話!?」
「えぇっ!?」
突然後ろからヨトの声がしてびっくりたまげてへんてこな声を出してしまう。ずいぶん遠くだと思ってたらもうこんなに――
「ヨトさんは想カルの誰が好きですか?」
「んー、なにそれ踊り子さんのグループ?」
「えっ、知らないならいいんですよっ、へへへっ」
なんか山中くんが下衆い笑いを見せて優越感に浸っているようだった。
「あっ、ヨトちゃん馬どうだった?」
「見つけてきたぜぇー、ほらほら、連れてきたし!」
後ろを向くと、たしかに三頭の馬がいた。挙動は正常で、こびりついていたであろうあの黒い泥はすっかり綺麗さっぱりのようだった。
「ヨトちゃん、この箱触ったら幻覚見るらしいんだけど、どうする?」
「ん、じゃあタジが持ってて!」
「……まぁ、そうだね」
ヨトが持って何か起きてしまったらマズい、普段の彼女なら暴れても制止できるかもしれないが、もしもあの刀に炎が宿れば俺はタダじゃ済まない。最悪箱を開けられて終わってしまうだろう、幻覚の中のミルチュットが言ってくれていたこの魔法の意図がそうであるなら、必ずただ事ではなくなる。
俺達は彼女の呼び戻してくれた馬に乗り、すっかり暗くなってしまった砂漠を駆けてヴィルム街へと戻っていった。
そして冒険者の宿に泊まり、長い一日を終えた。
~~~ ~~~ ~~~~~~~
「うん? あれ、ここは」
ヨトは深い眠りについたはずだったが、突如として黒い空間に投げ出される。
「何だよ何もねー夢に放り出すな! 私は寝るんだ!」
そう怒鳴って黒い空間で寝転がるヨトに、何者かが声をかけた。
「……ヨト」
「んっ――あっ、な、何?」
僅かに顔を赤らめて、ヨトはその低い声に応える。
「何やら面倒な事に巻き込んでしまったようで、すまなかった」
「……んー? いいんだよ別に、まぁ、ちょっとお人好しすぎるけどさ」
その声の主の方を向くことなく、笑って応じる。そのまま男は話を続けた。
「こう言ってはなんだが、お前が――いや、俺がお前を助けずにいた方が、話は早かったかもしれないな」
「良く分かんないけど、気になるから全部話してよ、勿体ぶらないで」
「……分かった。ご存知の通り、お前の身体には俺の血が入っているんだ」
「うん」
「シンキは言うまでもない。そしてこの闇の血を使って、俺達闇人は世界を闇で埋め尽くそうとしたんだ」
「へー、何のために?」
「それは良くわからない、しかしエプリオ神を殺すためだとか、言っていた」
「嫌いだったもんね、君」
「あぁ、世に広まっていて、人に信仰されているクソったれの神様だよ。色んな物を世界から切り離して、自分の都合の良いように世界を作ってるんだ」
「ふーん……じゃあ、あのお爺さん誰?」
「彼が、ナッキだ。闇の大王の力をあの箱の中に封じ込めた張本人で、あの桜は俺達の闇を殺す沈む闇で育った物だ。あの桜が放つその闇のせいで、彼らは箱を奪還することすらできなかった」
「そう、なんだ。じゃあ私がそれを食らっても死ななかったのはなんで?」
「俺は、沈む闇と闇の血、その両方に加えて人の血が流れていたんだ、故に人と勘違いされてきた」
「すっごい雑種なんだね」
「ハハハ、動物みたいだな。それからは忌み子として扱われて、後はご存知の通りさ」
「……辛かったねぇ。ありがとう、勿体ぶらずに話してくれて。君とこんなに踏み入った話できるとは思わなかった」
「…………」
「ほら、いいんだよ、あの時みたいに、さ。話してくれたお礼ということで」
そこでようやく、ヨトは声の主の方を向く。彼女の目には黒い鎧が映り、ひどく懐かしげに感じられたようだった。立ち上がって腕を広げてみせた彼女に、黒い鎧は抱きつく。彼女はまたそれを受け入れ、優しくその背中を叩いた。
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