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③そこに天使がいた(ミカエル)
しおりを挟む俺はレイラ様付き執事権ボディガードのミカエル。
七年前俺はレイラお嬢様に拾われた。
七年前、目が覚めるとそこには天使が居た。
俺の顔をじっと覗き込み、俺が目覚めたのを知ると大粒の涙を零しながら「良かった」と微笑んだ。
天使だと思った。
俺は死んでしまったのかと・・・
だけど身体のあちこちの痛みが現実なのだと知らせてくれた。
ここは何処かと尋ねると、天使はにっこり微笑んで話し出す。
「ここはイルザンド王国のグレイシス侯爵家の中よ、危険なところではないから安心して、わたくしはレイラ・グレイシス、あなたは?」
「俺?俺は・・・」
その時、俺は自分のことを忘れていることに気がついた。何も思い出せない。
基本的なことは分かる。
侯爵家がどれほど高い身分で、レイラと名乗った天使が侯爵令嬢だと言うことも理解出来る。
なのに俺自身のことが何も思い出せなかった。
自分のことが思い出せないと言うと、天使は俺に名前が無いと不便だと言って、名前を付けてくれた。
「あなたは今日からミカエルよ。」
直ぐに思いついたのか、自慢げに言う天使に、俺はそんな大袈裟な名前はいらないと言った。
けれど、自分でつけた名前が気に入ったのか、変えてくれる様子はなく、妥協して呼ぶ時はミカと呼ぶと言ってくれた。
俺は倒れていた状況から賊に襲われたのか、谷を転げ落ちたのか、とにかく助かったのが奇跡なくらいの大怪我をしていたらしい。
目覚めてからも腕と足の骨折が治るまで俺はベッドの住人となり、侯爵令嬢みずから俺の世話を焼いてくれた。
彼女は俺より三つ四つ年下だと思うが、使用人に任せることなく小さな体で甲斐甲斐しく動き回って世話を焼く姿がとても可愛らしかった。
そして、怪我が完治した頃、侯爵様から俺の身元を探したが、検討がつかなかったと告げられた。
どこの誰なのか分からない。どこへ行けばいいかも分からない俺に天使は微笑む。
「行く所がないならここの子になればいいのよ。」
何故か侯爵様夫妻も同意してくださった。
だけど、どこの馬の骨かもわからない俺を子供にする?
侯爵様はどれほどお人好しなんだ。
俺でもそれは無茶だとわかるぞ!
俺はその申し出は丁重にお断りし、代わりにここで働かせて欲しいとお願いした。
親子は渋々承諾し、俺の希望を聞き入れてくれて、レイラ様付きの使用人にして下さった。
俺は侯爵様とレイラお嬢様から頂いた恩を返す為、天使のようなレイラお嬢様をお守りすると誓った。
なのに、三年後、俺が席を外していた時にレイラお嬢様は庭で転んで頭をひどく打ち、昏睡状態になられた。
そして、やっと目を覚まされたと思って安心したのも束の間、しばらくしてレイラお嬢様から突然聞かされたのは、前世の記憶を思い出したという事。しかもこことは別の世界だったという事。
そして、今いるここが前世のゲームという物語の中だと。
お嬢様の話ではレイラお嬢様はゲームの中では傲慢でわがままな令嬢らしいがそれは全く別人だと思う。だが、どうやらお嬢様はゲームの中のレイラお嬢様を演じると決めたらしい。
心優しいレイラお嬢様の事なので、自分が幸せになったら他の方が幸せになれないと思っているようだ。
そんなことをする必要は無いのではと言っても聞いてくれない。俺はレイラお嬢様に幸せになってもらいたいのに・・・
だが、俺にだけ話し、協力して欲しいと頼まれると断れるはずもなく、仕方なくレイラお嬢様の悪役令嬢としての振る舞いをフォローするようになった。
こんな可愛らしいレイラお嬢様が目を釣りあげて、低い身長を誤魔化す為に転びそうな高いヒールを履いてまで演じているのだ。
それも普段は出てこないような言葉で相手を罵りながら。
周りは当然よく思わないだろうが、俺だけは本当のレイラお嬢様を知っている。
それは俺の自慢で、演じている悪役令嬢でさえ可愛らしいと思っているのは黙っておこう。
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