悪役令嬢は訳あり執事に溺愛される

さらさ

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⑫ミカの本業

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あれから女子会は会話が弾み、すっかり夕方になってしまった。

「もうこんな時間ですわ、長々とお邪魔してしまい申し訳ございませんでした。」

「いいえ、とても楽しくて時間があっという間でしたわ。またぜひいらしてくださいませね。」

「ぜひ、またご一緒させてくださいませね。」

わたくし達はそれぞれ挨拶を交わすとミルフォード侯爵家を後にした。




「ねぇ、ミカ、リサ様は大丈夫かしら、まさか皆様さっきのを本当に実行なさったりしないわよね?」

ご令嬢方方はどこからそんな事を思いつくのかというような事をあれこれと提案されていた。
リサ嬢の飲み物に虫を入れる。リサ様のドレスにスープを掛ける。熱い紅茶を掛ける。お化粧室に閉じ込める等、極めつけは階段から突き落とす。
それはさすがにお止めしたけれど、リサ様が心配になる。

「皆さん過激ですね、お一人では何もなさらないでしょうけど、ご一緒になると何をされるかわかりません。私も気をつけますが、レイラお嬢様もお気をつけください。」

「ええ、分かったわ。出来るだけリサ様に被害が及ばないようにご令嬢方を注意するわね。」

わたくしが応えると、ミカはふぅと息を吐く。

「リサ嬢のことは私にお任せ下さい。レイラお嬢様は悪巧みに巻き込まれないようになさってください。私はそれが心配です。」

ミカが困った顔でわたくしを見る。
あら、わたくし?わたくしは危険は無いと思うのだけど、ミカは心配症ね。

そんな話をしていると、突然馬車がガタンッと大きな音を立てて大きく揺れて止まる。
その拍子に椅子から転げ落ちそうになるわたくしをミカが受け止めてくれる。

「何?何があったのかしら。」

外が騒がしい。

「レイラお嬢様、ドアを開けますので私の後ろに付いていてください。」

ミカが外の様子を見るためにドアを開ける。
右の手は剣に掛かっている。
何か良くないことが起こっていそうでドキドキする。
ミカが勢いよくドアを開けると、五~六人の男の姿が見えた。盗賊?

「大人しく出て来い!死にたくなかったらお嬢様を渡しな!」

外の男が叫ぶ。
狙いは私?怖い。ミカの服をきゅっと掴む。

「お嬢様、しばらくここで動かないでください。絶対出ないでくださいね。」

ミカはちらりとわたくしを見ると笑ってみせる。
そして、馬車から飛び降りた。

「お嬢様を渡す?そんな事するわけないだろう。」

ミカが静かに言う。

「お、偉く綺麗な兄ちゃんだな!お前も侵して売ってやろうか!」

男達が口汚く笑うのが聞こえる。
わたくしは耳を塞いでミカを見る。

「目の前に居る相手の力量も分からんとは・・・下衆が。」

ミカは静かにそう言うと剣を煌めかせる。
舞うような綺麗な動きに思わず目が惹き付けられる。ミカの姿しか目に入らないくらい綺麗だった。

一瞬で辺りは静かになる。

ミカが馬車の入口を背にして立っているので外の様子はよく分からない。けれど、なんとなく血の匂いが漂ってくる。ミカが全員切ったの?
そう思っていると、ミカがくるりと振り返る。

「お嬢様、お待たせ致しました。お怪我はございませんか?」

ミカのいつもの笑顔に緊張がほぐれる。

「終わったの?」

ミカに人を殺めて欲しくないって思うのはわたくしの傲慢で我儘な事だっていうのは分かってる。
ミカを護衛として傍に置いている以上、わたくしの為にミカが人を殺めているのは知っている。だからミカが人を殺めることを怖がらない。怖がってはいけない。

治安が不安定な地域も沢山あるので、たまに盗賊が現れることもある。
こういう事も稀に起こるのだ。

「前のお二人は?無事なの?」

馬車を操舵していた御者さんと、その隣に護衛の方が乗っていたはず。

「お二人は・・・助けられませんでした。今から私が馬車を操舵して帰りますので、お嬢様は中に居てくださいね。」

「そう・・・」

一人で馬車の中にいるのは心細くて嫌だな・・・

「おひとりでは怖いのですか?」

ミカがわざと煽るように笑いながら言う。
私の事なんてミカに見抜かれているのだわ。
なんだか悔しくて思わずわたくしは強がってしまう。

「だ、大丈夫よ!」

きっとミカはわたくしがこう答えるのもお見通しなのよね。ミカの隣の方が安心出来て良いのだけど、やっぱり人目につく外は危ないし、何があるかわからないので、ミカとしては中にいて欲しいのよね。
外にいるのがミカなら安心できる。

「お屋敷までよろしくね。」

わたくしがニッコリするとミカはニコッと笑ってわたくしの頭をぽんぽんと無でてくれる。

「しばらくの辛抱ですので、我慢してくださいね。」

そうしてわたくし達二人は家路を急ぐ・・・






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