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⑬天使の護衛(ミカエル)
しおりを挟む今日はレイラお嬢様はミルフォード公爵令嬢のアンナ様のお茶会にお呼ばれされている。
俺はお嬢様の座る席の後ろで待機している。
時折チラチラとご令嬢からの視線を感じるが、基本無視だ。
アンナ嬢はレイラお嬢様とは同じ侯爵令嬢なのにレイラお嬢様を立ててくださる。見た目は・・・
アンナ嬢はレイラお嬢様を立てるふりをして他のご令嬢を捲し立ててレイラお嬢様の悪役令嬢の演技に便乗している。俺はそう見ている。
アンナ嬢の狙いは恐らくヘンリー王子だろう。
レイラお嬢様が失脚すれば、身分共に申し分ない自分に婚約者の話が回ってくるとでも思っているのだろう。
レイラお嬢様はお優しいのでそんな疑いは全く持っていらっしゃらないようだが・・
アンナ嬢の誤算はレイラお嬢様が婚約破棄を望まれていることだろう。アンナ嬢が陥れているつもりかもしれないが、実はレイラお嬢様の悪役に徹しきれない悪役令嬢っぷりを手伝っているだけなのだ。
まぁ、レイラお嬢様に実害が及びそうな事は阻止させてもらうが、今は泳がせている。
女性というのはある一点に意見が一致するととてもおしゃべりになるようで、さっきから会話が止まない。お嬢様はついて行けず、とりあえず相づちを打っている感じで可愛らしいけどな。
しばらく会話は続き、終わったのは日が暮れ始めた頃だった。
お屋敷までの道のりでレイラお嬢様はリサ嬢を心配されていた。ならば悪役令嬢なんてしなければいいのに・・・と思ってしまうが、レイラお嬢様がしたい事なので何も言わない。
俺が心配なのはお嬢様が巻き込まれて傷つかないかという事だけだ。
馬車は暫く走り、森に差し掛かった頃、急に馬車が大きな音を立てて止まる。
急に止まった勢いで椅子から投げ出されそうになるお嬢様を片手で受け止めて、俺はもう片方の手を剣に伸ばす。
外から馬の嘶きと、人の争う声、剣がぶつかり合う声が聞こえる。明らかにこの馬車が何者かに襲われている。
この馬車をグレイシス家の物と知っての事なのか、行きずりの犯行なのか、分からないがお嬢様の名を知られるわけにはいかないな・・・
「お嬢様、ドアを開けますので私の後ろに付いていてください。」
俺はそう言うと勢いよくドアを開けた。
ざっと外を見渡すと、見えるだけで七人の男がいる。御者と護衛は・・・殺られてしまったようだ。
下衆がお嬢様を渡せとか汚い声で叫んでいる。
その汚い声に反応して、レイラお嬢様が俺の服をぎゅっと掴む。レイラお嬢様に嫌な事を聞かせてしまったな・・・
「お嬢様、しばらくここで動かないでください。絶対出ないでくださいね。」
俺はレイラお嬢様を見ると笑顔で安心するよう笑って見せてから、馬車を降りた。
「お嬢様を渡す?そんな事するわけないだろう。」
「お、偉く綺麗な兄ちゃんだな!お前も侵して売ってやろうか!」
俺を見た男達が目をギラギラとさせながら口汚く笑う。
俺は男達を前にため息を吐く。
「目の前に居る相手の力量も分からんとは・・・下衆が。」
これ以上汚い言葉をレイラお嬢様に聞かせるな!
俺は剣を振るいながらもレイラ嬢様の居るドアの前からはほとんど動くことなく、レイラお嬢様に俺が切った奴らを見せないように立ち回る。
全部片付け終わると、レイラお嬢様の方に振り返り、笑顔で安心させる。
「お嬢様、お待たせ致しました。お怪我はございませんか?」
するとレイラお嬢様が「終わったの?」と聞いてくる。その声は明らかに緊張で上擦った声だ。
お嬢様は人の生き死にに敏感で、すぐに心を傷められる方だ。盗賊とはいえ、何か思うところがあるのだろうが、そのことは口に出さない。
本当は怖いだろうに、平気なフリをする気丈なお嬢様だ。
「前のお二人は?無事なの?」
前に乗っていた二人を心配するレイラお嬢様。
とにかく、このままここに居るのは危険だ、すぐに動かなければ。
「お二人は・・・助けられませんでした。今から私が馬車を操舵して帰りますので、お嬢様は中に居てくださいね。」
「そう・・・」
レイラお嬢様の不安が伝わってくる。
きっと俺と離れて一人室内にいるのが怖いのだろう。
けれど、どんな攻撃が来るかわからない以上、御者の席にレイラお嬢様を座らせる訳にはいかない。
「おひとりでは怖いのですか?」
俺はずるい手を使ってレイラお嬢様の要望に答えるわけにはいかない事を暗に言ってみる。
「だ、大丈夫よ!」
レイラお嬢様は予想通りの答えを口にする。
「お屋敷までよろしくね。」
ニッコリ笑った顔はやはりまだ不安がかげる笑顔だったが、レイラお嬢様は俺が陽動した事を解っていて微笑んでいらっしゃるんだ。
俺はレイラお嬢様の頭を優しく撫でた。
「しばらくの辛抱ですので、我慢してくださいね。」
そう言って俺は馬車の扉をゆっくり閉めた。
とりあえず今は一刻も早くレイラお嬢様をお屋敷までお連れする事が先決だ。
盗賊が何故、この馬車の中にお嬢様が乗っている事を知っていたのか、気になる事はあるが・・・調べるのは後だ。
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