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⑳盗賊ー2(ミカエル)
しおりを挟む「貴様らっっ!!お嬢様に何をっっ!その汚い手を離せ!!」
俺はお嬢様に跨るやつを勢いよく引っ剥がすとそのまま剣を突き立て、お嬢様の手を押さえている奴が慌てて逃げ出そうとするのを後ろから斬り捨てた。
そして、まだ周りに居た奴らが逃げるのを後ろから追いかけて全て斬り捨てる。
静かになったところで、俺はコートを素早く脱ぐと、レイラお嬢様の顕になった肌を隠すように掛ける。
「ミカ、ミカ!」
レイラお嬢様はぐちゃぐちゃの涙顔で俺にすがりついてくる。お嬢様の身体は震えていた・・・
そんなお嬢様を俺は両手で優しく抱きしめた。
「怖かった・・・っ!」
「申し訳ございません。」
何が起ったのかも分からず、男たちに囲まれて、押さえつけられ、衣服を破られて・・・どれほどの恐怖だったか・・・
俺の判断ミスだ。あの時馬車を動かさず戦っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
俺は震えながら泣くレイラお嬢様を強く抱きしめた。
しばらくして、俺の胸に顔を埋めるお嬢様に話しかける。
「お嬢様、申し訳ございません。もう少し片付けなくてはならないので、私にしっかり捕まっていてくださいますか?」
まだうちの護衛が戦っているかもしれない。
全員死なせたら、またお嬢様が悲しむ。
だけど、俺はもうレイラお嬢様を離すつもりは無い。だからレイラお嬢様を抱いたまま戻る。
お嬢様をこんな目に遭わせたヤツらを一人も逃がしてたまるか!
俺はお嬢様を左手に抱き抱えて元来た道を戻った。
俺が馬車を動かしたことで、賊は俺の方にほとんど来ていたはずだ。
戻ってみると、まだ二人なんとか持ち堪えて戦っていた。
敵の数はもう五人しかいない。
俺はお嬢様を抱き抱えたままその場に駆けつけ、賊たちを薙ぎ払った。
「よく耐えてくれた。」
俺が声を掛けると、二人は限界だったのか、その場に崩れ落ちて「助かった」と、呟いた。
俺はまだ息のある奴を捉えておくよう、護衛の二人に告げると、お嬢様を一刻も早くお屋敷にお連れする為、生きていてくれた馬にお嬢様を乗せて走ったーーー
「一体何があったんだ!!」
お屋敷に戻ると、話を聞き付けてグレイシス侯爵様が駆け出して来た。
そして、レイラお嬢様の様子を見て叫ぶ。
お嬢様の乱れた髪、乱れた衣服、恐怖で上手く立てないと言うお嬢様を抱き抱える俺、お嬢様の上半身には俺のコートを着せてある。
この状況は明らかにキレるだろうな・・・
「グレイシス侯爵様、申し訳ございません。詳細はレイラお嬢様をお部屋までお連れしてから、後ほどお話させていただきます。」
今はレイラお嬢様を休ませて差し上げるのが先決だ。
「レイラ・・・大丈夫なのか?」
グレイシス侯爵様が心配そうにお嬢様に話しかける。
「ええ、お父様、ミカが助けてくれたので大丈夫です。ご心配されるような事にはなっていませんわ。」
レイラお嬢様は気丈にも侯爵様に答えてにっこり笑う。
「ミカエル、レイラを頼んだぞ。」
グレイシス侯爵様は俺を見ると部屋へと戻って行った。
俺はそのままお嬢様をお部屋にお連れして、湯浴みの準備が整っているを確認すると、後をミーナに任せて部屋を出て、侯爵様の部屋へと向かった。
「そうか、そんな事が・・・」
俺は事のあら方をグレイシス侯爵様にお話した。
「レイラお嬢様は明らかに何者かに狙われています。」
「こう立て続けに起こるとそうだろうな・・・しかも、今回は前回の失敗を対策に入れた周到な犯行だったようだな。」
「はい、生存者を捉えるよう言ってありますので、何かわかるかと思います。」
「うむ・・・しかしレイラを狙う目的は何だ?」
グレイシス侯爵も腑に落ちないようだ。
「申し上げにくいのですが、賊はレイラお嬢様を慰みものにするなどとほざいておりました。恐らく、ヘンリー王子の前に出られないお身体にして、婚約破棄を目論んでいる者がいるのかと・・・」
「なんだと?!レイラにそんな酷いことを!何処のどいつだ!」
普段冷静なグレイシス侯爵様も娘の事になると感情を隠せないらしい。
「それなのですが・・・前回も今回も、お茶会の帰りに襲われております。レイラお嬢様がお茶会に行くのを知っていた者だとすると、お茶会の参加者の中に犯人がいるのかと・・・」
俺がそこまで言うと侯爵様が話に割ってはいる。
「そうか、レイラが付き合っているご令嬢はどなたも申し分無い身分の令嬢だ。あの令嬢達の中に犯人がいるのか?」
確かに、過激な発言をするご令嬢方だ、密かにレイラお嬢様を狙っていても不思議ではない。
「いえ、私は犯人は別に居ると踏んでいます。」
「それは何故だ?」
「お茶会の帰りばかりと先ほど申し上げましたが、そんなすぐ相手が分かるような事をするでしょうか?お嬢様がお出かけされたのは最初に襲われたお茶会の後、二回だけです。先日のジェフリー公爵様のパーティーと、今日のお茶会です。先日のパーティーの後は突然ヘンリー王子が送ってくださることになりました。実はあの日も何処かに賊は潜んでいたが、王子とご一緒だったので襲えなかったのでは・・・と推察しております。」
「なるほど・・・確かに、それは考えられるな。では、誰が・・・」
「今はまだ分かりません。もう少し調べます。今回は賊も捉えておりますので、何か聞き出せるかもしれません。」
「そうだな・・・私も探ってみよう。・・・ミカエル、君がいてくれて本当に良かった。ありがとう。」
「私は役割を果たした迄です。それより、賊を裏で操っているヤツは許せません。」
「ああ、許せん。」
天使のようなレイラお嬢様を傷付けたヤツは絶対許さない。俺と侯爵様は静かに決意をするのだった。
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