悪役令嬢は訳あり執事に溺愛される

さらさ

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㉑わたくしの安定剤

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お湯に浸かると、あちこち擦りむいていたのか、ヒリヒリと痛い。
ミーナに促され、ゆっくりとお湯に浸かると温かさが一気に体を巡る。

「レイラお嬢様、痛い所はごさいませんか?」

ミーナが気遣わしげに聞いてくる。

「あちこち擦りむいているみたい。痛いわね。」

私は正直に言いながら腕を上げて確かめる。
きっと、馬車が倒れた時だわ。あの時、ミカは外に居たのに大丈夫だったのかしら。

「まぁ、本当ですわ、レイラお嬢様の雪のようなお肌に傷が!後で手当しましょうね。」

そう言ってミーナはゆっくりと肌を洗ってくれて、その後髪も洗ってくれる。

優しい動作に心がほぐれていく・・・


身体を洗い終わって室内着に着替えて、擦り傷に薬を塗ってもらうと、ミーナが髪を乾かしてくれる。
お風呂で温まったのと、髪を触ってもらっている心地良さにほんわかしていると、コンコンコンとノックが鳴る。
「どうぞ。」と答えるとミカが入って来た。

「レイラお嬢様、お食事はどうなさいますか?」

「今日はいいわ。食べる気分じゃないもの。」

そう言うと、近付いてきたミカの手には何かが乗っていた。
ふわりとベルガモットの香りが漂う。

「アールグレイのミルクティーね!」

わたくしが当てると、ミカがにっこり笑って頷く。

「少しだけでも胃になにか入れてください。一緒にスコーンをお持ちしました。」

「ありがとう。後でミカも一緒に食べましょう。」

そうして、わたくしは髪を乾かし終わるとミカと一緒にお茶を楽しんだ。

「ミカ、今日は本当にありがとう。わたくしはミカに守られてばかりね。」

わたくしはミカに本当に感謝している。ミカが居なかったら今頃どんな酷いことになっていたか・・・想像したくない。

「私は私の役割を果たしているだけです。今日はレイラお嬢様を完璧にお守りすることが出来ませんでした。申し訳ございません。」

ミカは畏まってわたくしに頭を下げる。

「やめてちょうだい!わたくし無事だったのよ?ミカが直ぐに駆けつけてくれたからだわ。ミカが居なければどうなっていたか・・・」

そこまで話して気分が悪くなる。
男たちの下卑た笑いが耳の中で木霊する。

「レイラお嬢様?大丈夫ですか?」

わたくしが青ざめた顔をしているのに気がついてミカが気遣わしげに問掛ける。

「ちょっとダメ・・・」

治まっていた震えがまた戻ってくる。
怖い。怖かった・・・っ!

「レイラお嬢様、私が触れても大丈夫ですか?」

気がつくと、ミカがわたくしの座る椅子の横に来ていて、しゃがみこんで私と目線を合わせるように下からそっと見つめていた。

「ミカ!!怖かった・・・っ」

わたくしはミカが触れていいかと問いかけているのに、近くにいるミカを見た途端、わたくしからミカに抱きついていた。
しゃがみこんでいたミカにわたくしが上から抱きついたので、ミカはそのまま後ろに尻もちをついてしまったけれど、優しくわたくしを受け止めてくれた。

震えるわたくしをミカは優しく抱きしめて、ぽんぽんと、子供をあやす様に背中を叩いてくれる。

「ミカ、何故触れていいか聞くの?」

少し落ち着きを取り戻してミカに尋ねる。
いつも普通に触れてくるのに。

「・・・今男に触れられるのは怖いかと思いまして・・・」

遠慮がちにミカが理由を話してくれる。

「ミカに触れられて嫌なんて事は絶対無いわ。大丈夫よ。」

わたくしはミカの顔を見てハッキリと答える。
ミカは何故か微妙な顔をしていた。

「はは、信頼頂けて光栄です。」

ミカが変な笑い方をするので、わたくしは思わず笑ってしまう。

「何それ、ミカ、変よ?」

「そうですか?」

ミカは相変わらずわたくしを笑わせるのが上手い。
さっきまでの震えがどこかに行ってしまったわ。

「レイラお嬢様、今夜は眠れそうですか?」

わたくしが落ち着いたのを待って、ミカが優しい表情で問いかけてくる。
正直、夜中一人になると絶対思い出しそうで怖い。ミカに居て欲しいけど、それだとミカが休めないわよね・・・よく考えたら、今日はミカめちゃくちゃいっぱい戦って、わたくしを片手で抱き抱えて走った挙句、そのまま戦闘をしていたわ。
疲れているんじゃないかしら・・・
そう思って優しく抱きしめてくれているミカを見上げると、ミカは心配そうにわたくしを見ていた。

「眠れそうになければ、そばに居ますので、どうか安心してお休みください。」

「それだとミカが休めないわ。」

「私は一日くらい寝なくても大丈夫です。」

平気な顔をして答えるミカ、夜中ずっと起きてるつもり?

「それはダメよ!・・・じゃあ、わたくしが眠ったらミカもこの部屋で寝ていいわ。」

わたくしはいい案だと思って、ミカに提案したけれど、ミカを見ると、また微妙な顔をしていた。

「ん?どうしたの?ミカ?」

「私も一応男なんですけどね・・・」

ミカが顔を赤らめて言う。

一応どころか、ミカはちゃんと男だわよ。何を言っているのかしら。
わたくしが訳が分からない顔をしていると、ミカが真顔に戻って話し出す。

「分かりました。レイラお嬢様がお眠りになったら私はここのカウチを使わせていただきます。よろしいですか?」

「うん、本当はベッドでちゃんと休んで欲しいけど・・・ごめんね。」

「全然大丈夫ですよ。私はどこででも寝れます。」

ミカは平気そうに言うけれど、そんなんじゃちゃんと疲れが取れないと思う。

「わたくしのベッドで一緒に寝る?」

冗談めかして言ってみる。

「レイラお嬢様!」

ミカに軽くゲンコツを落とされてしまった。
そうよね、わたくしはヘンリー王子の婚約者の身、本当はミカでも寝室に入れちゃいけないのよね。

でも、ミカにいてもらわないと怖い。
今日だけは・・・ね。



「ミカ、手繋いでいい?」

わたくしはベッドに入って眠る前、ミカに手を繋いで欲しいとおねだりした。
ミカはそれに応えて、そっと手を握ってくれる。
わたくしはその温もりに、やっと安心して眠りにつくことが出来た。










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