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㉞真実と親の打算(グレイシス侯爵)
しおりを挟む七年前、娘のレイラが一人の意識を失った男の子を連れて帰って来た。
その子は傷だらけで、生きているのが不思議なくらいの大怪我をしていた。
看病をするというレイラに、最初はどこの誰かもわからない男の世話をさせるのはダメだと言った。
しかし、私の気が変わることになる。
レイラを外して、男の子のボロボロになった衣服を脱がせていた時、右の太ももに紐が巻き付けられているのに気がついた。その足には小さな袋が巻きつけられていて、余程大事なものなのか、頑丈に巻き付けられていた。
それを使用人が外して、私に渡してくれる。
私は袋の中を見た瞬間、これは誰にも見られてはいけないと思った。
この袋のことは誰にも、レイラにも言ってはならないと使用人に告げると、私は部屋に戻った。
袋から中身を取り出すと、大きなサファイアの付いた指輪が出てきた。
指輪の細工は見事なもので、裏側には・・・ルシリア帝国の紋が刻まれている。
これは・・・おそらくルシリア帝国の皇帝継承者の印。
私も国を司る宰相をしている者だ。国外の情勢も把握している。
ルシリア帝国現皇帝には六人の息子がいる。皇帝も高齢になってきた為、後継者を決めた話は知っている。
その後継者に選ばれたのが、第六皇子のクロード殿下。
なんと、末の皇子が時期皇帝に選ばれたのだ。
クロード皇子の才覚については、諸外国にも知れ渡る物だった。
ただ、まだ未成年の為、公の場に姿を現すことはほとんど無く、私も姿を見たことは無い。
だが、この指輪と歳格好はクロード皇子と合致する。ただ一つ、髪の色を除いては・・・
これは盗まれたものなのか、もし、本人だとするなら、クロード皇子は後継者に選ばれて以降、上の兄達から常に命を狙われていると聞いた。
今日のこの事態も恐らく命を狙われた結果だろう。そうなると、ここに皇子が居るのは、今の所知られていない。皇子を拾った時、一緒に居た使用人には口止めをしないと・・・
皇子の為にもこの事は内密に進めねば・・・
しかし、皇子は記憶を無くしていた。医者の話では一過性のものだろうと言う事だったので、皇子が、自分のことを思い出すまでは伏せている事にした。
とりあえず、うちの養子にでもするか・・・と思っていたのに、皇子は使用人として働きたいと申し出た。皇子を、使用人に・・・複雑な思いでいっぱいだったが、皇子の意見を尊重させて頂く形になった。
まあ、私に突然優秀な息子が出来るより、使用人として家に入る方が、誰も怪しまないだろう。
それからしばらく様子を見ていたが、記憶をなくしているとは思えないほど、皇子・・・ミカエル(レイラが名付けた)は聡明で、物事を冷静に判断できる子だった。そして、半年ほどした頃、私は親友のマーカスに頼んで、ミカエルを、鍛えてもらうことにした。いつ襲われても自分の身を守れるくらいにはなってもらわないといけない。
そう思ったのも束の間、ミカエルは元々剣を叩き込まれていたようで、すぐにマーカスを超えてしまったのだ。身を守るために、教え込まれていたのは分かるが、余りにも剣の腕が天才的すぎる。これも、後継者に選ばれた所以か?
そして、ミカエル・・・クロード皇子は記憶を取り戻した。
記憶が戻ってからの行動も流石だった。
私にだけ打ち明け、自国の内情を話し、私に協力を依頼してきた。
私はもちろん、引き受けた。
それからはクロード皇子が信頼出来る相手に私が内密で連絡を取り、クロード皇子が生きていることを知らせ、それは皇帝の耳にも入っている。なので、クロード皇子を後継者から外すことは無い。それからはルシリア帝国の使者とやり取りし、何度か私の客として来たこともある。
最初使者が来た時に、クロード皇子が執事の格好をしているのを見て、衝撃を受けていたが、クロード皇子が「俺が無理やりやらせてくれって頼んだんだ。楽しいぞ!」と言ってくれたので、怪訝な顔はされるが、とりあえず何も言わなくなった。
以来、来る度に、「クロード殿下!大きく、立派になられて!」と泣く姿は恒例になった。
私達は秘密裏に、皇子が成人を迎えるまで皇子を守る役目を果たして来た。
これは、私の打算でもあるのだが・・・
クロード皇子はレイラの事を好いてくれている。レイラはあの様子からして、自分がミカエルを好きなことに気がついていないようだが・・・まぁ、ヘンリー王子の婚約者という立場で、他の男性を好きになるなどあってはならんのだが・・・
この前、レイラが、襲われた日の晩、クロード皇子は一晩中レイラに付いていたようだ。
クロード皇子の事は信頼しているから、問題は無いが、念の為、責任は取れるのか促してみたら、クロード皇子は「元よりそのつもりですので、ご安心を。」と答えた。この答えを聴けただけで私は満足だ。ヘンリー王子からの略奪愛 、頑張ってくれ。
と、思っていたら、レイラとヘンリー王子との婚約が破棄になった。
だが、私としては何の問題もない。クロード皇子の意志も確認している。親としては安泰なのだ。
後はクロード皇子のサポートをするのみだ。
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