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⑥任務 (ユリアン)
しおりを挟む私の名前はユリアン・グラウロット。
第二騎士団副団長を務めている。私には最近降りた神託により任務が命ぜられた。
〘 某日、魔族領への道のどこかに黒髪黒目の贄が現れる〙と言う神託に従い、現れた贄を捕獲するよう命ぜられたのだ。
私はその日朝から魔族領への通路を何度か往復した。三度目の帰路で、私は黒髪の、少女と言ってもいいくらい可愛らしい女性を見つけた。見つけてしまった。
贄とは、魔王への生贄だ。
私は魔王の生贄がどのような目に合うのか知っている。知っていたからこそ、見つけたくはなかった。
なのに、その娘は元気に、私に町はどこ?と問いかけて来た。
私がどこに行きたいのか尋ねると、しばらく黙り込んで、「行く所が無い。」とこぼした。
行く所がない?そう言えば、神託で現れると聞いていたが、この娘は何処から来たのか。
どういう事か尋ねると、しばらく黙り込んで、ぽろぽろと涙を流し始めた。
私はどうしていいのか分からず、思わずそっと抱きしめてしまった。
いきなり初対面の女性に抱きつくなど、紳士らしからぬ行動を取ってしまったのだが、なぜか抱きしめたいと思ってしまった。
「行く所が無いのなら私の所に来ますか?」
私の問いかけに、またしばらく黙り込む。
あ、そういえば、名乗っていませんでした。
これじゃあ怪しいヤツだ。
名乗って怪しいものでは無いと言っても、戸惑っている様子。
「取って食べたりしないですよ?」
安心させようと思ってそう言うと、彼女は笑って、
「別に取って食われたりするとか思ってないよ?」
と言う。やっと笑ってくれた。
そして、笑ってくれた時のこの嬉しさ。なんだろう?
自分の事を「俺」と言い、自分を男だと思いたいのか、ちょっと変わった娘だが、知らない所に連れて来られて心細いのだろう。
気がつくと泣いている。これでは目が離せない。本当に彼女が神託のあった贄なのだろうか?
だけど、彼女が笑った時、確かに悪い気が浄化される感覚がある。この能力を持っているのが贄の条件。彼女は神託のあった女性なのだろう。
でも、彼女は何も知らない。
自分が贄として選ばれたことを。
いくら神託とはいえ、何も知らない娘を贄にするなど間違っている。
私は彼女に出会って、屈託のない笑顔を見て迷っている。
彼女を見つけた事を報告すべきか・・・
このまま私の元で隠しておくことは出来ないのか。
しかし、贄は世界にとって大切な存在だ。魔王の暴走を止めるために定期的に神託の降りた者を捧げている。
そうしないと、魔族の活動が活発になり、人間に害をおよぼすようになるからだ。
「贄を見つけたか?」
報告の為、城に向かった私に神官が問いかけてくる。
「いえ、申し訳ございません。昨日は見つける事が出来ませんでした。もう少しお時間をください。」
「必ず探し出して連れて来い。」
「はい。」
思わず嘘の報告をしてしまった。
こんな事をしてもどうしようも無いことは分かっているのに・・・
家を出る前、
「今日は目もまだ腫れているようですし、疲れているでしょうから、部屋でゆっくりしていてください。」
と言うと、ユリアンさんは?と聞かれたので、仕事に行ってくると伝えると、すごく不安そうな顔をしていた。
1人にしておくのが心配だ。早く帰りたい。
「よう、ユリアン、生贄の女の子は見つかったか?」
そう言って話しかけてきたのは同僚のジョシュアだ。彼は同期で士官学校の時からの腐れ縁だ。
「いや、見つけられなかった。」
私はジョシュアにも嘘をつく。
「贄になる女の子はどんな子なんだろうな?可愛い子だったら可哀想だなー。」
ジョシュアは自由奔放で、結構な遊び人だ。
今まで何人の女性と付き合ってきたのか・・・
「そうだな・・・」
「ん?元気ないな。さすがに心優しいユリアンには自分が見つけて連れてこないといけないのが辛いか?」
ジョシュアは私の性格をよくわかっている。
「ああ、彼女がどうなるのか分かってて送り込むのは気が引ける。」
「彼女?」
しまった。思わず私は彼女と口走ってしまった。
「贄は女性だから彼女だろ?」
慌てて取り繕う。
「まあ、そうだけど・・・実は見つけてて、あまりにもべっぴんさんだから隠してるのかと思ったぞ。」
ジョシュア鋭いな。
「そんな訳ないだろう。」
「でも、どんな子が選ばれたのか知らないけど、可哀想だよな、魔王の性奴隷になるなんて。」
ジョシュアから発せられた言葉に心臓が鷲掴みにされる。
そうだ。生贄は魔王の性奴隷として捧げられる。
シンラにそんな事言えないし、させたくない。
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