20 / 35
20話 白状
しおりを挟む飛竜を退けたその日、俺達は村の人達にお礼に食事を振舞ってもらい、泊めてもらうことが出来た。
翌朝、村を出る時に小さな女の子がかけて来た。
「お兄ちゃん、昨日はお母さんを助けてくれてありがとう 」
それは俺が最初に助けた小さいな子供だった。
満面の笑顔で俺を見上げる姿は、昨日の恐怖と絶望、悲しみに満ちた顔を思わせることは無い。
「お母さんが無事で良かったね 」
俺達が間に合わず、命を落とした村人も沢山居た中で、せめて俺が最初に助けたこの子の笑顔が消えなくて良かった。
自己満足に過ぎないのだろうけどそう思った。
「これ、朝摘んできたの。お礼 」
そう言って差し出された小さな両手には花が数本握られていた。
「ありがとう、元気でね 」
俺はその花を受け取ってから馬に股がった。
いつまでも手を振る小さな女の子に、一度だけ振り返って手を振り返した。
魔物はあちこちの山や森に住んでいる。
こんな小さな村では防衛手段もままならない事もあるだろう。国の警備隊が常駐することもない。
すべての人達を守る事なんて出来ないのは分かってるつもりだ。けど、こうして目の当たりにすると、俺が出来ることは無いのかと考えてしまう。魔力の無い無力な俺が、まして国外に対して出来ることなんて何も無いんだと直ぐに答えにたどり着くのだけど、何かを考えずにはいられなかった。
「キース、これをシンシアに渡して 」
さっき貰った花から一輪、シンシアに手渡そうと思ったけど、俺が手渡すと何が起きるか分からないのでキースに渡してもらう。
「まぁ、とてもいい香りの花ですね、カイン様、ありがとうございます 」
しばらく花に触れることのなかったシンシアが柔らかな笑顔で俺に返す。
早くあの庭園でお茶がしたいな・・・
「イリヤ、マリン、君達にも 」
俺は花を一輪ずつ2人に手渡す。
「ありがとう、可愛い花ね 」
二人も花を手に嬉しそうな、柔らかな笑顔をうかべた。本来この二人もこんな表情で日々を過ごしていたのかも知れないな。
「キース、君にも 」
「私も頂けるのですか? 」
差し出した俺の手を見て驚くキースを見て俺も笑う。
「当たり前だろ? 俺達全員が居なければあの村を救うことは出来なかった。誰が欠けていても無理だったと思う。これはみんなで貰ったものだよ 」
「・・・・・・ありがとうございます 」
「きゅーっ 」
ルードがカバンから出て来て俺の手に持った花をねだるので一本分けてあげると、ルードはそれを食べてしまった。
「あ、こら、それは食べ物じゃない! 食べるな! 」
「きう? 」
お代わりと言わんばかりに俺の手を見つめるルード。それを見て皆が笑う。
そうして俺達は時には魔物に遭遇しながら旅を続けた。
「この山を超えれば明日にはグリエル公国の国境です 」
キースの声に頷く。
「グリエル公国は閉鎖的な国だから入るのが少し大変かもね 」
イリヤの言葉を聞いてそんな事勉強したなと思い出す。
グリエル公国は三代前のグリエル公爵がグリモア王国から独立した国だ。グリモア王家とは血の繋がりが深く、独立したきっかけも兄弟喧嘩が元らしい。
なのでグリモア王国とグリエル公国は未だに仲が悪いし、グリエル公爵は常に命を狙われている為、用心深いグリエル公爵は外からの入国者に対し厳しいとも聞く。
「貴方達身分証明書持ってる? ・・・わけないか 」
イリヤは俺を上から下まで舐めまわしてため息を着く。俺をなんだと思ってるんだ。だけど、当たってるから何も言えない。
「うん、持ってない。ヤバいかな 」
そうだ、よく考えたら俺とシンシアが身分を明かすのは不味い。今更だけど、グリエルは避けて通った方が良いのか?
「持ってないと入れないかも知れないわね、どうしようか・・・私の弟って言うのもエルフと人間じゃ無理だし、キースの弟って事にしとく? キースは身分証明書持ってるわよね? 」
「持っていますが、私の身分証には職業、アイラム王国騎士と書かれています。不味いのでは? 」
「確かに、他国の騎士が入るのは警戒されそうね 」
そう言って今度はキースとシンシアを見る。
「もしかして、シンシアはアイラム王国のお姫様? 」
「え? 」
突然本当の事を聞かれて焦るシンシア。
「キースが王国騎士で、シンシアの事を様付けで呼んでるってことは、それ相応の身分って事でしょ? 」
イリヤ、鋭いな、俺の事も最初に王子だと見抜いてたし、イリヤに隠しとくのは無駄かもしれない。そう思った時、イリヤはちらりと俺を見る。
「確かアイラム王国の第二王女とアーシエンダ王国のカインクラム王子は婚約関係よね? 」
何で国外の事にそんなに詳しいんだろう?イリヤは何者だ? 少なくとも一般人じゃないだろう。イリヤも俺達に何か隠してるのか?
「・・・・・・何で俺はアーシエンダの王子確定の言い方なんだよ 」
「あら、違うの? 」
「いや、・・・そうだよ、シンシアは俺の婚約者だ 」
諦めて白状する。
これ以上隠しても無駄だと思ったし、イリヤ達なら大丈夫だと思った。
「やっぱりね、最初から疑ってたけど、シンシアとカインの関係があまり婚約者っぽく無かったからちょっと自信なかったのよ 」
「悪かったな 」
イリヤの言いたい事は分かる。
「カインはシンシアの事をキースに任せすぎじゃない? もっとシンシアのそばにいてあげてもいいと思うけど、馬に乗る時もいつもキースの馬だから、キースとシンシアが出来てるのかとも思っちゃったじゃない 」
「・・・・・・悪かったな、俺はシンシアに触れないんだからしょうがないだろ 」
「え? どういう事? 」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる