侯爵令嬢は弟の代わりに男として生きることを決めました。

さらさ

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番外編 レティシア

8話 涙と笑顔

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会場に入ると、私に気が付いた何人かが口々にヒソヒソと話す声が聞こえる。

「レティシア様ですわよ。随分久しぶりですけど、あの噂は本当かしら」
「可愛い顔してよくやるわね」
「クラウス様達に気にかけてもらってるからって、いい気になってるんでしょ?」

もう随分経つのに、みんなよく覚えてるな・・・帰りたい・・・

僕が俯いていると、男の人が声をかけてきた。

「久しぶりだね、また俺とデートする? 」

私の肩に馴れ馴れしく手を置いて話しかけてきたのはサーヤ様の兄、ジョセフだった。
お父様に責められたはずなのに、懲りないな・・・

「・・・離してください」

「そんなに冷たくするなよ、俺たちの仲だろう? 」

どんな仲なんだ。
深い中になったつもりもないし、あんたは他人だ。

周りが遠巻きにヒソヒソと話してるのがわかる。
嫌だ。こいつから早く離れたい。

「離し・・・」

「俺の女に何してくれてんだ? 」

私が離してと言って手を振り払う前に、ジョセフの手が私の肩から離れる。

その手を掴む人を見て、私は息を止めた。

「俺の女? こいつはずっと引きこもってたのに、そんな訳ないだろ」

ジョセフはそう言いながら背の高い人物を見上げる。

「お前、誰だ? 」

「ギル・・・っ! 」

私は涙をボロボロと流しながらギルを見ていた。

そんな私の涙を、ギルは指の甲で拭ってくれる。

「レティシア、待たせてごめん」

ギルの声だ。
目の前にギルがいる。
別れた時より逞しい体、相変わらず細身だけど、立ち姿に隙がないのがわかる。

「お前、何者だ? 」

「俺はギルバート・ブレイスウェイ、レティシアの婚約者だ」

ギルが名乗る。

「婚約者? こいつの? 」

「ああ、俺がいない間にあんたが流したレティシアの酷い噂の話しは聞いてる。俺のレティシアに酷いことをしてくれたな」

そう言ってジョセフを見るギルはめちゃくちゃ怒ってる。

「噂じゃないよ、ホントだよ、俺とレティシアは関係を持ったんだ、その上他の奴ともやった。そんな女が婚約者なんて、可哀想だな」

「な、私はそんな事してない! 」

私は反論したけど、周りが私を見る目は疑っている。
ギルに誤解されちゃう。

「レティシアがそんな事する訳ないだろう、レティシアの事は俺が一番よくわかってる。無実の子を貶めるのはやめろ」

ギルは私の肩を抱き寄せて私を庇いながらジョセフを睨みつける。
周りの噂より私を信じてくれる。
やっぱりギルだ。嬉しい。

「信じる信じないは勝手だけど、周りは1度出た噂は忘れないぜ」

ジョセフはそう言って周りのギャラリーを見る。

「そんな噂、俺は気にしないし、もっといい噂で俺が塗り替えてやる」

そう言うと、突然ギルが私の前に片膝を着いて座って、私の左手を取って私を見上げる。
 
そのポーズに周りの女性たちからざわめきが聞こえる。

「レティシア、あの森で交わした約束が遅くなってしまってごめん。ずっと俺の事を待っていてくれたんだろ? やっと戻ってくることが出来た。
レティシア、愛してる。もしもまだ同じ気持ちでいてもらえるのなら、俺と結婚して貰えませんか? 」

ギルの突然のプロポーズに顔が火照る。

「ギルがいない間に、変な噂が流れてしまったわ・・・私のせいで貴方の事を傷つけてしまうかも知れない・・・」

私はいつもギルを巻き込んで、ギルに負担をかけてしまう。
そんなギルに今まで頼りっきりだった事が、ギルがいない間によく分かった。

「レティシアが何もしていないのは俺が一番よくわかる。俺が信じるのはレティシアだけだ。もしもレティシアに俺が傷付けられるのなら、その痛みも喜んで受け入れよう。もしも君が傷付いているのなら、俺は君を傷つける全てのものから守ってあげたい。何度でも言う。愛してるんだ」

その言葉に、張り詰めていた物が崩れ落ちて、強がっていたけど、本当は噂にとても傷ついていた事を自覚した。
私の頬を涙が伝う。

「ありがとう。ギルが信じてくれるのなら、他の誰から罵られようと、私は強くいられるわ。私もあなたの事を愛しています。ずっと帰ってきてくれると信じてお待ちしておりました・・・こんな私で良ければ、結婚してくださいますか? 」

涙を流しながら微笑んで応えると、ギルが立ち上がって私の涙を指の甲で拭った後、そっと抱きしめてくれる。

「もちろん。俺はレティシアでないと嫌だ」

そして、私の顎を持ち上げて軽いキスをする。

ギルのキスに一気に顔に熱が集まって真っ赤になったのが分かる。

「ギル・・・皆の前で恥ずかしい・・・」

周りで女性達が悲鳴のような声を出しているのが聞こえていた。
辺りを見ると、女性達は頬を赤らめて口を両手で覆って見ている。
そして、1人が手を叩いた。
それを皮切りに、みんなが拍手を始めた。

「え? 」

驚く私の耳に意外な声が聞こえてくる。

「おめでとう」
「素敵だわ」
「キスだけで顔を赤らめるような子が噂のような事をしたなんて思えないな」
「レティシア様、可愛らしいわ」

ギルのおかげで、気が付くと私を遠巻きに噂していた人達の印象が一気に暖かい空気に変わっていた。





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