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㊵レイラと二人(クロード)
しおりを挟む気が付くと、地面に倒れていた。周りに木の枝が沢山落ちている。木がクッションになってくれたのと、下が草の生い茂った柔らかな土地だったので何とか助かったか・・・しばらく気を失っていたようだな。
レイラは?俺の首に手を回して顔を胸に埋めたまま動かない。
俺にしがみついたまま気を失っている・・・のか?
「レイラ、レイラ!」
俺の呼び掛けにしばらく答えない。
だけど、息遣いは伝わる。
良かった。生きてる。
怪我はしていないか?
俺の上で気を失っているので、身動きがとれないので、少しだけ体をずらして見える範囲で確認する。
腕に切り傷が沢山付いている。けど、大きな傷はない。
とりあえず、見える範囲は大丈夫そうだ。
レイラの白銀の髪に乗る葉っぱを取りながらレイラを眺める。
俺は・・・両足は・・・たぶん動く。両手も動く。けど、レイラの乗る体が熱い。レイラの熱か?とも思ったが、どうやら脇腹を負傷している。
脇腹の辺りを触ってみると、何かで濡れている。触った手を確認すると血がべっとりと着いていた。オマケに、何かが腹に刺さったままだ。
幸い刺さったままだから何とか持ちこたえているのか、刺さっているものを取ったら一気に血が出て出血多量になるだろう。
とりあえず、レイラを起こさなければ。
「レイラ、レイラ。」
「・・・う・・・ん・・・」
俺の呼び掛けに、レイラが目を開く。
「ここは・・・あっっ!ミカ!」
レイラは俺の上に寝ていた事に気が付いて慌てて身体を起こす。
「レイラ、大丈夫か?痛い所は無いか?」
「ええ、ミカが庇ってくれたから大丈夫よ。ミカこそ大丈夫?」
そう言いながら仰向けに寝たままの俺に、上から問いかけてくる。レイラは今自分が何処に居るのかわかっていないらしい。
「大丈夫だよ、少しどいてくれると助かるんだが。・・・このままこうしてレイラを眺めてるのも悪くないからいいよ。」
「え?」
レイラが俺の言葉に、自身の状況を改めて確認する。
レイラは俺に跨った状態で俺の腰あたりに座り込んでいる。それに気が付いたのか、
「きゃっ!」
と慌てて俺の上から飛び退く。
「ご、ゴメンなさい!なんてはしたない事を・・・」
顔を真っ赤にして謝るレイラも可愛い。
「いや、大丈夫だ。」
俺は上体をゆっくり起こしながら腹の状態を確認する。
木の枝が突き刺さっているけど、意外と細い。
左脇の方なので、内蔵は大丈夫か?
後、上体を起こしてみて気がついたが、右足が痺れている。
落ちた時の衝撃で一時的なものだといいが、立てるか?
「ミカ!ひどい怪我じゃない!!」
レイラが俺の状況を見て青ざめる。
「ああ、ちょっと失敗したみたいだ。」
「ごめんなさい!わたくしずっと上に乗っていたのね、痛かったでしょ?」
心配そうに俺を見つめるレイラ。
「大丈夫、レイラの体温を感じることが出来たから痛みなんて感じなかったよ。」
レイラの心配を和らげるように、にっと笑う。
「と、とりあえず止血しないと、お水はないかしら。」
少し照れたように、辺りをキョロキョロと探す。
「レイラ、俺の事はいいから離れないでくれ。」
崖から岩が落ちたのは恐らく偶然なんかじゃない。オリビアの仕業かもしれない。
だとすると、助けが来るまでに敵が来る可能性もある。俺は立ち上がると、近くに落ちていた剣まで歩く。
やはり右足に力が入らない。動くと腹の痛みもひどい。
「ミカ!無理しないで!」
苦痛に顔を歪めながら剣まで辿り着くと、剣を手に取ってから近くの木に寄りかかって座り込んだ。
動くのは無理か・・・
「レイラ、こっちへおいで。」
俺は座り込んだ位置からレイラを呼ぶ。
しかしレイラは何かを見つけたのか、草を摘んでいる。
「レイラ?」
「ミカ、この辺り沢山草が生い茂ってるからあるかと思って探したらあったわ。」
そう言って見せてくれたものはヨミモギ草だった。
「それは、ヨミモギ草だね。」
「ええ、傷薬よ。止血と化膿止めになるわ。昔ミカに教えてもらったのよ。」
そう言うと、レイラは石を拾って大きな石の上ですり潰し始めた。
そういえば、ヨミモギ草の事を昔レイラに教えた気がする。ヨミモギ草は何処にでも生えていて知っていると意外と役立つ草だ。良く覚えていたな。
レイラはヨミモギ草をすり潰すと、自分のドレスの引きちぎれた所からドレスを裂いて長い布を作る。
「刺さっている木はどうしましょう?」
「ああ、細いから抜けるかな?すまないが引き抜くから、抜いたらさっき磨り潰したヨミモギ草を傷に塗り込んで欲しい。」
「わかったわ。痛いけど我慢してね。」
「大丈夫、抜くぞ。」
俺は躊躇なく自分の腹に刺さる木の枝を引き抜いた。
引き抜いた後から血が溢れ出る。
レイラが慌ててヨミモギ草のすり潰した物を傷に付けて切り裂いたドレスの布を体にきつくまきつけてくれる。
「痛いわよね・・・」
血のにじむ場所を痛々しげに眺めて心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「レイラが抱きしめてくれたら痛みも吹き飛ぶよ。」
俺はレイラに心配させないように冗談を言って笑う。
「もう、ミカってばこんな時に冗談言わないでよ!」
レイラは少し膨れたように怒って、その後俺の傷の反対側、右側に膝を下ろすと両手でそっと俺を抱きしめた。
温もりにほっとする・・・けど、熱い。
「レイラ?熱が上がってるんじゃないのか?」
抱きしめられたまま、レイラに話しかける。
「大丈夫よ。」
「大丈夫じゃない!熱いぞ!」
そう言うと、左手でレイラの体をぐいっと引き寄せて俺の胸に収める。レイラは体を引かれて膝立ちからペたりと腰を下ろして座り込んで、俺の胸に頭を預ける形になった。
「ミカの方が大変なのよ?」
そういうレイラに俺は問答無用で抱きしめる。
「やっぱり熱い。無理はしないでくれ。」
レイラは俺に逆に抱きしめられて耳まで真っ赤になっている。自分から抱きしめるのが恥ずかしかったのかな?
「ごめん、レイラの手が血で汚れてしまった。」
傷の手当をしたのでレイラの手は血とヨミモギ草の汁で汚れている。
近くに小川が流れているのは上から見えていた。川まで行けば洗えるだろうが、今は1人にするわけにはいかない。それに、俺と一緒に移動出来たとしても、落ちた場所から動かない方がいい。
「大丈夫よ。拭けば問題ないわ。」
レイラはドレスの裾で手を拭いてみせる。
俺が執事の頃なら絶対に「はしたないですよ。淑女はそんな事致しません。」とたしなめるところだが、そのドレスもボロボロだ。
「とりあえず、俺も動けそうにないからしばらくこうしていよう。必ずシドとライルが助けに来てくれる。」
崖に落ちたのを二人は見ているからもう探しに向かっているだろう。
シドとライルが馬車から離れていて良かった。近くにいたら巻き添えを食らったかもしれない。
とりあえず、こんな状況だが今は二人きりだ。危機的状況にあるのは変わりないけど、レイラと一緒なら落ち着ける。
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