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5話 お見舞い
しおりを挟むあれから、とりあえず来てもらった医者に見てもらって、どこも異常は無かったのだけど、やっぱり頭を打っているから2~3日は安静にするように言われ、しばらくは部屋で過ごすことになった。
令嬢が頭をドアにぶつけるって、きっと私くらいよね・・・恥ずかしくて世間様には言えないわね。
そんな事を思いながらも、部屋で一日を過ごすことには慣れているので、なんの苦もなく一日が過ぎた。
一日中部屋に居ていいなら私は本を貪り読む。
この世界には私の好きなライトノベルなんかの恋愛物や異世界物は無いけど、小説は存在する。私の望むものでは無いけれど、恋物語もある。
小説は知識を得る上では最高のツールだと思っているので、家にある本は片っ端から読んでいた。
そして、暇があれば私の頭の中にある恋愛小説を書いてみたりもしていたので、部屋に篭れと言われれば何日でも篭もることが出来る。
変わってるとお兄様が言うのも一理ある。
家にある本ならほとんど読んでしまっているので、物語だけでなく教育書や政治書、歴史書等、読めるものならなんでも読んでいた。
普通の令嬢ならこんな本は興味を持たないだろうというものまで手をつけているのだから、変わっていると言われても納得が行く。
二日目も誰に遠慮することも無く読書にふけることが出来ると、心はうきうきしていたのに、その時間は無常にも奪われることとなる。
「お嬢様、レオンハルト様がお見えです 」
エミリーの声に、本の中にのめり込んでいた私の意識が現実へと引き戻される。
「本当に来たのね、応接室かしら 」
「はい、こちらに伺いたいと仰っていらっしゃいますが、如何致しましょう? 」
私は明らかに望んでいなかったとわかるよう、大きなため息を着くと、立ち上がってクローゼットに向かって歩く。
「私が応接室に向かうわ、準備をお願い 」
さすがにくつろいだ姿のまま行く訳には行かないので、着替えをして髪を整えてもらう。
別に、レオンハルト様が来てるからお洒落をしているわけじゃないからね!
「レオンハルト様、お待たせ致しました。こんにちは 」
応接室に入ると、レオンハルト様とお兄様が座って待っていた。
私を見るなりレオンハルト様が立ち上がる。
「こんにちは、身体の調子はどう? 目眩は? 」
レオンハルト様が心配そうに私に近づいてくる。
「ええ、もう大丈夫ですわ、わざわざ起こし頂きましてありがとうございます 」
「お見舞いに来る約束をしたからね 」
レオンハルト様はにっこり笑って私に手を差し出される。
ん? これは何?
私が少し戸惑っていると、レオンハルト様がクスッと笑う。
「まだ本調子じゃないだろ? 椅子までエスコートさせてくれるかな? 」
全然元気なんですけど!
まぁ、仮病を使った手前、仕方がない・・・
「ありがとうございます 」
私は差し出された手をそっと取ると、そのまま腕に絡めるように手の位置を変えられる。
確かに、腕に捕まる方が体を預けられる分楽だけど、私は至って元気なんだけど・・・
「本当はここまで来てもらうのも心配で、君の部屋まで行きたかったんだけど、ここで待つよう言われてしまったので、心配で仕方なかったんだ 」
私の顔を覗き込みながら心配そうに話すレオンハルト様、貴方は女タラシですか? タラシですね? 行動が慣れすぎてるもの、あちこちで女性にこんなことを言っているに違いない。
「この前お会いしたばかりの私の事までお気にかけてくださるなんて、レオンハルト様はお優しいのですね 」
エスコートと言っても入口からテーブルセットまではそんなに距離は無いのですぐに到着して、私に座るよう促してくれる。
「私がエリシア嬢に怪我を負わせてしまったんだから当たり前だよ 」
「私が勝手にぶつかってしまっただけですので、お気遣いなく 」
「エリシア、レオンハルト様はお前が心配で来てくださったのに、そんな言い方ないだろ 」
お兄様、お兄様は私を溺愛していると思っていたのに、貴方はレオンハルト様の味方なの?
「エリシア嬢、そんなにジルを睨まないでやって 」
私が恨めしそうにお兄様を睨みつけていると、横からレオンハルト様が割って入る。
「私がジルにエリシア嬢に会わせて欲しいって頼んだんだ、怒らないでやってくれるかな 」
レオンハルト様が私に会いたい? 何故? 今までレオンハルト様とは接点なんてなかったはずなんだけど何故?
ああ、そう言えば、お兄様が私の事を自慢していたって言っていたわね、お兄様自慢の美人の妹を見てみたかったってことかしら?
まぁ、深く聞いて仲良くなる気もないので触れないでおこう。
「まぁ、ご婚約者がいらっしゃるのに、そんな事を他の女性に言うものではありませんわ、私でなければ勘違いしてしまいますわよ 」
あんたは婚約者と仲良くしてればなんの問題もないのよ!
って意味を込めて言ってやったのに、二人は変な顔で私の事を凝視する。
「え? 」
なんでそんな顔で見るのだろう?
私なんか変なこと言った?
「エリシア、何言ってるの? 」
「え? 」
何と言われても質問の意味がわからない。そう思っていると、お兄様はレオンハルト様に目線を向けた。
私も吊られてレオンハルト様を見ると、レオンハルト様は私と目が合って苦笑いをする。
「私に婚約者なんて居ないけど? 」
「は? 」
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