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4話 お兄様の思惑
しおりを挟む「エリシア、大丈夫? 」
そんな声に、ふと目を開けると、優しい眼差しで心配そうに覗き込むお兄様の姿が目に入った。
「あ・・・れ? 私・・・寝てたの?」
「うん、レオンハルト様に運ばれてる途中、気を失ったみたいなんだけど、覚えてない? 」
ああ、そうでした! しっかり覚えてます! だって演技ですから・・・って、私本当に寝ちゃってたの?
「レオンハルト様は? もうお帰りなられました?」
「ここに居るよ、目が覚めて良かった 」
私の期待を込めた言葉とは裏腹に、レオンハルト様がお兄様の隣に姿を現す。
ゲッ、しっかりまだ居たのね・・・
お話するつもりがないから寝たフリをしたのに、意味の無い努力だったのね・・・(特に努力はしてないけど)
「レオンハルト様、ここまで運んで下さってありがとうございます 」
起き上がるとエミリーが背中にクッションを当ててくれる。
とりあえず、礼儀としてレオンハルト様にお礼を言わなきゃいけないじゃない。寝起きの顔を見られるのも恥ずかしいけど、よく思われたい訳じゃないのでまぁいいか。
「具合は? 気持ち悪くない? 頭を打ってるから心配だ 」
レオンハルト様が心配そうに私の顔を覗き込むように伺ってくる。
あの・・・その綺麗な顔を近づけるのはやめて貰えませんか? お兄様とダブルパンチで鼻血出そうです。
「はい、もう大丈夫ですわ、ご心配をおかけして申し訳ございません 」
「良かった、医者が来てるからちゃんと見てもらってね、じゃあ、私はこれで失礼するけど、またお見舞いに来させてもらってもいいかな? 」
何ですって? お見舞い? 嫌ですけど!
「ありがとうございます。お見舞いだなんて、私元気ですのよ? 」
心の中で悪態をつきながらも顔は笑顔で、やんわりお断りする。
「エリシア、レオンハルト様はまたお前とお会いしたいって思ってくれてるんだよ、その時は俺も一緒だから、お見舞いくらいお受けしてもいいと思うよ 」
横からお兄様が割って入って余計なことを言う。
それくらいわかってるわよ! だから、私はお近づきになりたくないだけなの!
「まぁ・・・お兄様がご一緒でしたら・・・」
「そう、じゃあ、また来るね 」
レオンハルト様は優しい笑顔を残して部屋を出て行った。
レオンハルト様が部屋を出てしばらく待ってから、私はお兄様を睨みつける。
「お兄様・・・」
「ん? なんだい? 」
「私、今日レオンハルト様がいらっしゃるなんて聞いてませんでしたわ 」
恨みがましく睨む私をよそに、お兄様は呑気にほほ笑みを浮かべる。
「だって、サプライズは隠しておかないとサプライズにならないだろう? 」
「サプライズは相手の喜ぶ事をするのではなくて? 」
「あれ? レオンハルト様に会えて嬉しくなかった? 」
今まで、私が喜んでいるように見えていたのだろうか?
もう素朴な疑問しか浮かばないわ。
「あの・・・お兄様、何故私が喜ぶと? 」
「我が国の第二王子のレオンハルト様だよ? お近づきになれるなんて、光栄なことじゃないか? 」
「まぁ、確かにそうですわね 」
普通の令嬢ならそうだろう。
だけど、うちは王族と仲良く出来るような爵位でも無いし、普通に考えたら結婚出来るような身分でも無い。(普通に考えたらね、ゲームでは裏技的なことをやるけれど、そんな事を本当にするとは思えないし、私は結婚したいとも思わない)精々、妾としてそばに置いていただくくらいが関の山だわ。
「・・・私に殿下の妾になれ・・・と仰っているのですか? 」
「そんな事言ってないよ、ただ、私は幸いレオンハルト様には覚えも良く、親しくさせて頂いているので、エリシアにも何かの繋がりを持って貰えたらって思ったんだ・・・まぁ、お前がレオンハルト様の美貌に惹かれなかったのは意外だけど、私だって、妹には幸せになってもらいたいって思いもあるんだ。可愛い妹をその辺のやつに渡すくらいなら、王族の方がまだ幾分かマシだと思ったんだよ・・・ レオンハルト様もエリシアには興味を持たれているようだったし、いいアイデアだと思ったんだけどな・・・」
最後の方が兄の本音なのだろう、しゅんと艶やかな花が萎れるように肩を落とすお兄様、傍から見たら麗しいお兄様の哀愁の漂う姿に同情をするのが当たり前だろう。でも、私はそんなお兄様の姿には惑わされないわ!
「私はそんな事望んでいません。出来れば、慎ましく生きていきたいと思っているのに、目立つようなことはしたくないんです! 」
「そうなんだよな・・・お前は私にははっきりと物を言えるし、私に似て美しくて賢い子だと思うのに、表には出たがらないから不思議だったんだよ 」
お兄様が不思議そうに私を見る。
「普通の令嬢なら王子に会えただけで興奮するのに、お前って変わってるよね 」
子爵嫡男のくせに、王子にタメ口を聞くお前に言われたくはない。
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