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41話 何を求められているの?
しおりを挟む「そ、それは! 」
クリスティーナ様が手に持った紙の束を見た瞬間、私は奪い返そうと手をクリスティーナ様に向かって伸ばしながら立ち上がっていた。
「クリスティーナ様、それは私のです。返してください 」
取り戻そうと手を伸ばすと、クリスティーナ様は手を引っ込めて紙の束を抱え込む。
「これはエリシア様が書いたの? 」
「それを読んだの? 」
クリスティーナ様が手に抱えている紙の束、それは私が書いた恋愛小説だ。
「さっき、エリシア様が着替えてる間に見つけて、少し読ませてもらったわ 」
「ちょっと、勝手に読まないでよ! 」
誰かに見せるつもりで書いたものじゃないのに、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「ねぇ、これ借りて帰ってもいいかしら 」
クリスティーナ様はにっこり微笑みながら小首を傾げて私を見る。
「え? 借りる? どういう事? 」
「これ、面白いわね、こんな小説この世界には無いもの! 持って帰って続きを見たいんだけど、借りてもいいかしら 」
少し興奮気味に話すクリスティーナ様。
「私もこの世界にはラノベみたいな恋愛小説が無いから自分で書いてみたものなんだけど、人に見せるなんて恥ずかしいわ 」
「大丈夫、とてもよく書けてると思うわ、お願い、貸してくれない? 」
明るく言われても躊躇う。
転生したこの世界に軽く読めて面白い恋愛小説がなかったので、自分の思い描く、こうなったらいいなっていう世界を書いて満足していた。
自信はなくて、人に見せることは無かったのに、初めて見せる相手が悪役令嬢にならないと決めているヒロイン?
書いたものを見られるのは恥ずかしいけど、面白いと言って貰えたのは嬉しい。
「・・・・・・めちゃくちゃ恥ずかしいから、他の人には見せないでね 」
「もちろん! ありがとう、帰って続きを読むのが楽しみだわ 」
嬉しそうに微笑むクリスティーナ様を見て、私もこの世界の恋愛物は面白みがないと思っていたので、気持ちはわかる。そうね、前世の記憶を持つクリスティーナ様ならこの世界には無い恋愛小説も素直に受け入れてくれるかも知れない。
「早く帰りたいからお暇するわ 」
そわそわと私の書いた小説を胸に抱えて立ち上がるクリスティーナ様を追うように私も立ち上がる。
「クリスティーナ様、仕事の事はまた連絡しますね 」
「ええ、お願い、ではまたね 」
クリスティーナ様はそう言って嬉しそうに我が家を後にした。
「エリシア、クリスティーナ嬢は帰ったのかい? 」
エントランスでクリスティーナ様を見送った後、家の中に戻るとお兄様に話しかけられた。
「はい、先程帰られました 」
「クリスティーナ嬢も美しい人だよね 」
ジルフレアお兄様が他人を褒めるのはよくある事だ。だけどクリスティーナ様は本当に薔薇の花のように美しいのでお世辞では無いかもしれない。
「そうね、私なんかでは勝負にもならないわ 」
「そんな事ないよ、エリシアは世界一美しい、俺はエリシアが好きだよ 」
お兄様に甘く微笑まれてそう言われると、兄妹でも照れる。
「もう、お兄様ったらいつもお世辞が上手いわね 」
「お世辞なんか言ってない、本当に思ったことを言ってるんだけど? 」
「はいはい・・・そうだわ、 そんな事よりも、お兄様に聞きたいことがあるの 」
「ん? なんだい? ここじゃなんだから部屋で聞こうか? 」
「ええ、そうね 」
お兄様に促されて、お兄様の部屋へ移動する事にした。
「で? 聞きたいことって? レオンハルト様のことかな? 」
お兄様は椅子に腰かけるとおもむろに話の続きを促す。
さすがお兄様、私が何を聞きたいのか検討がついてるみたいね。
「そうよ、お兄様は私がレオンハルト様とディアルドに行くよう画策してたんでしょ? 」
「あ、わかっちゃった? 」
軽いノリで明るく話すお兄様、レオンハルト様の事だと思ってた時点で分かってはいたんでしょうけど、さすがお兄様。
「私をディアルドに連れて行って何を企んでたの? 本当の理由を教えて! 」
「戻ってくるまでにレオンハルト様が話してないってことは、私からは話せないよ 」
お兄様なら答えてくれると思っていたのに、お兄様は姿勢を正して真っ直ぐに私を見据えて答える。
「何故? 」
知ってるなら話してくれてもいいのに。
「私はレオンハルト様の提案に乗って協力しただけだ。レオンハルト様が話していないのに話すわけにはいかないよ、エリシアごめんね 」
凛とした表情で、でも最後は少し申し訳なさそうに話すお兄様。
こういう時のお兄様は何を言っても無駄なのは知ってる。話してはくれそうにないわね・・・
「分かりました。今度レオンハルト様に聞いてみます 」
レオンハルト様がちゃんと答えてくれるかは分からないけれど、教えてくれないと私も何が最終的に求められていることなのか分からない。
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