42 / 71
42話 新しい試み
しおりを挟む戻ってきてから三日、まだレオンハルト様からの連絡はない。
その代わり、クリスティーナ様からまたうちに来ると連絡が入った。
「正直、クリスティーナ嬢がうちに来た時はただならない雰囲気で、エリシアと会わせて大丈夫かと心配したけど、大丈夫そう? 」
お兄様にクリスティーナ様が来ることを伝えると、心配されてしまった。
確かに、私が帰ってくるのを待ち構えるくらい怒ってたんだから、お兄様にもその雰囲気は伝わってたのだろう。
「大丈夫よ、クリスティーナ様とは少し意見の食い違いがあったけど、仲直りしたのよ 」
大丈夫だと微笑んでみせると、お兄様は嘆息して私を見つめる。
「そっか、なら良かった、嫌でも侯爵家からの訪問を拒否するなんて出来ないからね、もちろん、エリシアが嫌だと言うなら、私は打つ手を持ってはいるけどね 」
お兄様は口角を上げて微笑む。
その笑顔の裏にあるものを見るのは怖い気がするけれど、確かにお兄様なら何か手は持っていそうね。
「お兄様、ありがとう、もしも困った事があったら助けてね 」
「もちろんだよ 」
お兄様の笑顔を見ると安心する。
これからの事も良く分からないのだけど、お兄様が着いていてくれるなら安心よね?
「エリシア様、度々お邪魔して申し訳ないわ 」
「とんでもない、ようこそおいで下さいました 」
クリスティーナ様が到着すると、すぐに私の部屋に案内する。
今日のクリスティーナ様は馬車から降りた時から私の書いた小説を胸に抱えてにこにこと可愛らしい笑顔を浮かべている。ご機嫌良さそうね。
「早速なのだけど 」
席に着くと身を乗り出して話し出すクリスティーナ様、とても生き生きとした表情だ。
「このお話、とても面白かったわ 」
そう言って紙の束をテーブルに置く。
それは3日前にクリスティーナ様が持って帰った私が書いた小説。
「お気に召していただいて良かったわ、人に見せるのは初めてなのでとてもドキドキしてたのよ 」
素直な感想に、私も嬉しくなる。
「これ、誰にも見せたことがないの? 」
「ええ、私が書いたものなんて恥ずかしくて 」
「もったいない! 」
突然クリスティーナ様が立ち上がって私に詰寄る。何がもったいないというの?
「え? 何が 」
「こんなに面白い、素敵なお話を埋もれさせておくなんて勿体ないわ 」
「そんなに褒めてもらえるなんて、とても嬉しいわ 」
お世辞でも、褒めてもらえると嬉しいものね、こんなに絶賛してくれるとは思わなかったけど。
「ねぇ、このお話書籍化しましょう! 」
「・・・・・・は? 書籍化? 無理よ!」
クリスティーナ様は何を言っているのだろう。
「何が無理なの? こんなお話、この世界には無いもの、絶対女性の間で話題になるわ、もっとお話あるんでしょ? 」
「あるけど・・・どうやって? 」
「それは任せて! うちの会社で書籍を発行してるところがあるから、そこで作らせるわ 」
クリスティーナ様は自信満々に胸を張る。
「この世界の人にこんなお話、受け入れてもらえるかしら 」
「大丈夫よ、どこの世界も女性が好きなのは甘い恋物語よ、だけどこの世界には女性が書いたものが少なすぎて男性目線ばかりなのよね、絶対ウケるわよ! 」
そう言って、ニヤリと笑って何かを荷物から取り出す。
「挿絵は私が担当するわ 」
そう言って差し出したのは素敵なイラストだった。
「え?! めちゃくちゃ綺麗!可愛い! 」
「こんなのも書いてみたんだけど 」
そう言って見せてくれたもう1枚。
「きゃーっ! カッコイイ! これ、私の書いた小説の登場人物? 」
「そうよ、私のイメージで描いたから違ってたらごめんなさい 」
「イメージそのままよ! これ、クリスティーナ様が描いたの? 」
「ええ、私前世は漫画家志望のイラストレーターだったの 」
そう言われて納得がいった。
クリスティーナ様が描いてくれた絵は漫画なのよ、この世界にあるはずもないものなので、私も見るのは久しぶりだけど、やっぱり漫画の絵が好きだわ。
「挿絵って・・・小説に挿絵を入れるのも珍しいけど、この漫画チックな絵を入れて受け入れてもらえるかしら 」
「私も不安だったんだけど、侍女達に見せたら反響良かったのよ、絶対女性ウケするわ 」
どこの世界も感性は同じなのかしら、確かに、クリスティーナ様の絵はとても上手で魅力的なので想像が膨らむわね。
「どう? やってみない? 」
そう言われて、少し考える。
どうせレオンハルト様の思惑で表に出ないと行けなくなる。そうすると必然的に目立つのだから他に手を出しても変わらないか・・・私の書いたものが本当に読んでもらえるなら、やってみてもいいかもしれない。
「分かったわ、お願いいたします 」
にっこり笑ってクリスティーナ様と目を見合せた。
そことき、ドアが鳴ってエミリーが姿を現した。
「失礼致します。レオンハルト様がお越しです 」
「え? レオンハルト様が? 」
10
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる