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明希の場合 5.
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「でも! イチャイチャしてるところに遭遇するのはほんとに嫌だから!」
俺たちは思春期真っ盛り。孝太郎の言う通り親が恋愛している姿など正直見たくはない。
とは言え、付き合いたてのカップルにいちゃつくなというのも酷な話だ。
そこでもたらされた孝太郎の提案は、俺たちにとって最適解だった。
「俺と明希ちゃんがこっちに住むから、お父さんたちはあっちで二人で住んで」
というわけで、こっちの部屋はいわば子供部屋、あっちの部屋は同棲カップルの部屋と相成ったわけである。
ボロアパートの隣同士なんて、ぶっちゃけ一軒家の一階、二階よりプライバシーは薄い。
だから約束はただ一つ。一日一回は全員顔を合わせること、それだけ。
朝ごはんは大体それぞれの部屋で食べるけど、平日の晩ご飯は俺が用意するから、夜にこっちの部屋に集合する。
俺も孝太郎もバイトしてるし、俺の父親も残業で遅くなりがちだからご飯を食べる時間はばらばらでも、全員帰ってくるまではこっちの部屋にいて、揃ったら「おやすみ」って言って解散。
休日は昼も夜も俺の父親が作るから、俺たちがあっちの部屋に行く。
こうやって二つの部屋を行き来する方式で、俺たちはうまいこと生活してるわけだ。
だけど、これが”普通”ではないことも重々わかっているわけで。
このことを知っているのは、今のところこの部屋の右隣に住んでいるのんちゃんだけ。
のんちゃん的には我が家の状況は大変おいしいそうで。父親カップルのどちらがどうとか、涎をたらしながら妄想に励んでいてる。マジでやめて欲しい。
もっと嫌なのは、「若いお二人は…?」なんて、俺と孝太郎の関係まで邪推してくることだ。本当に勘弁して欲しい。「のんちゃんはBL脳だからしかたないよ」なんて孝太郎は言ってたけど、頼むから否定してくれ。
また話がそれた。とにかく、もし翔に俺と孝太郎の関係を知ったら、さすがの翔も怒るだろう。なんで黙ってたんだって。いいやつだから、あからさまに嫌な態度は取らないかもしれないが、それでもきっとこれまでにみたいな友人関係の保つのは難しい。
俺は、ようやくできた大切な友人を失いたくない。
初めのうちに中学が同じであることくらい話しておけばよかったと後悔してももう遅い。だから、俺は隠し通すことに決めた。
きっと、高校を卒業すれば、翔の孝太郎に対する気持ちも冷めることを信じて。
そう決意も新たにしてすぐ、いきなりやらかしたって信じられる?
完全に翔の観察力を見くびっていた。
「……ねぇ明希ってさ、弁当自分で作ってるって言ってたよね?」
「あぁそうだけど」
この学校は私立だけあって学食があるけど、毎日使えば当然それなりの出費になる。だから、平日に四人分の弁当を用意するのも俺の担当。前の日の晩御飯のついでに弁当のおかずも作っておいて、休みの日に常備菜なんかも作り置きしている。
今日は焼鮭ときんぴらごぼうに卵焼き等々。卵焼きは毎日入れるからなかなかの腕だと自負している。今日の卵焼きははだし巻きもどき。孝太郎は甘いやつ派らしいから、味は日替わりだ。
翔も大体は弁当持参だから一緒に教室で食べているけど、今日は売店で買ってきたパンを食べている。でも、それだけは物足りないのか、俺の弁当を食い入るように見つめてくるから、卵焼きを箸に挟んで差し出してみたら、そのままぱくりと食べられた。図らずもイケメンに「あ~ん」をしてしまったではないか。
「うまっ」
「どうもー」
口をもぐもぐと動かすイケメンのお褒めの言葉に満足げに頷く。ごくんと飲み込んだ時に動いた喉ぼとけまでかっこいいってどういうことなんだろうな。
「さっき購買に行ったとき、中庭で三星くん見つけたから話しかけてきたんだよ」
「へぇ」
教室は人が多くて嫌だとか言って、孝太郎はいつも中庭のベンチで一人弁当を食べているらしい。だからそこで遭遇したんだろう。
また孝太郎の話かと若干げんなりしつつ、そういうチャンスは見逃さないところがさすがコミュ強だとも思う。
「三星くんも弁当でさ、おいしそうだねって言ったら、『うん、おいしい』ってにこやかに返事してくれてさ、めっちゃかわいかった」
「へぇ」
弁当が美味しいのは間違いない。俺が作ったやつだからな。ただ、孝太郎がかわいいかどうかは甚だ疑問だ。そのせいでつい生返事をしてしまった。
学校での孝太郎は悪態こそつかないまでも、翔に対してはかなりの塩対応。話しかけても、無表情で「そうだね」で終わり。だからこそ翔は孝太郎が珍しくにこやかに返事をしてくれたって喜んでいるんだから、そこは友人として「よかったな」くらいは言うべきだったか。
俺のそっけなさを変に思われてないかと翔をちらりと横目で見ると、なぜかじいっとこちらを凝視している翔と目が合った。
こっちを見ていると思ってなかったし、余りにイケメン過ぎるせいでドクンと大きく心臓が鳴ってしまったではないか。
「……なに?」
平静を装ってみたけど、まだ心臓がバクバク言っている。やっぱり冷たい奴だとか思われただろうか。でも、翔は「何でもない」って俺から視線を外して何事もなかったようにパンをほおばった。
そこで、よかった、と胸をなでおろしたその時の俺を殴ってやりたい。
俺たちは思春期真っ盛り。孝太郎の言う通り親が恋愛している姿など正直見たくはない。
とは言え、付き合いたてのカップルにいちゃつくなというのも酷な話だ。
そこでもたらされた孝太郎の提案は、俺たちにとって最適解だった。
「俺と明希ちゃんがこっちに住むから、お父さんたちはあっちで二人で住んで」
というわけで、こっちの部屋はいわば子供部屋、あっちの部屋は同棲カップルの部屋と相成ったわけである。
ボロアパートの隣同士なんて、ぶっちゃけ一軒家の一階、二階よりプライバシーは薄い。
だから約束はただ一つ。一日一回は全員顔を合わせること、それだけ。
朝ごはんは大体それぞれの部屋で食べるけど、平日の晩ご飯は俺が用意するから、夜にこっちの部屋に集合する。
俺も孝太郎もバイトしてるし、俺の父親も残業で遅くなりがちだからご飯を食べる時間はばらばらでも、全員帰ってくるまではこっちの部屋にいて、揃ったら「おやすみ」って言って解散。
休日は昼も夜も俺の父親が作るから、俺たちがあっちの部屋に行く。
こうやって二つの部屋を行き来する方式で、俺たちはうまいこと生活してるわけだ。
だけど、これが”普通”ではないことも重々わかっているわけで。
このことを知っているのは、今のところこの部屋の右隣に住んでいるのんちゃんだけ。
のんちゃん的には我が家の状況は大変おいしいそうで。父親カップルのどちらがどうとか、涎をたらしながら妄想に励んでいてる。マジでやめて欲しい。
もっと嫌なのは、「若いお二人は…?」なんて、俺と孝太郎の関係まで邪推してくることだ。本当に勘弁して欲しい。「のんちゃんはBL脳だからしかたないよ」なんて孝太郎は言ってたけど、頼むから否定してくれ。
また話がそれた。とにかく、もし翔に俺と孝太郎の関係を知ったら、さすがの翔も怒るだろう。なんで黙ってたんだって。いいやつだから、あからさまに嫌な態度は取らないかもしれないが、それでもきっとこれまでにみたいな友人関係の保つのは難しい。
俺は、ようやくできた大切な友人を失いたくない。
初めのうちに中学が同じであることくらい話しておけばよかったと後悔してももう遅い。だから、俺は隠し通すことに決めた。
きっと、高校を卒業すれば、翔の孝太郎に対する気持ちも冷めることを信じて。
そう決意も新たにしてすぐ、いきなりやらかしたって信じられる?
完全に翔の観察力を見くびっていた。
「……ねぇ明希ってさ、弁当自分で作ってるって言ってたよね?」
「あぁそうだけど」
この学校は私立だけあって学食があるけど、毎日使えば当然それなりの出費になる。だから、平日に四人分の弁当を用意するのも俺の担当。前の日の晩御飯のついでに弁当のおかずも作っておいて、休みの日に常備菜なんかも作り置きしている。
今日は焼鮭ときんぴらごぼうに卵焼き等々。卵焼きは毎日入れるからなかなかの腕だと自負している。今日の卵焼きははだし巻きもどき。孝太郎は甘いやつ派らしいから、味は日替わりだ。
翔も大体は弁当持参だから一緒に教室で食べているけど、今日は売店で買ってきたパンを食べている。でも、それだけは物足りないのか、俺の弁当を食い入るように見つめてくるから、卵焼きを箸に挟んで差し出してみたら、そのままぱくりと食べられた。図らずもイケメンに「あ~ん」をしてしまったではないか。
「うまっ」
「どうもー」
口をもぐもぐと動かすイケメンのお褒めの言葉に満足げに頷く。ごくんと飲み込んだ時に動いた喉ぼとけまでかっこいいってどういうことなんだろうな。
「さっき購買に行ったとき、中庭で三星くん見つけたから話しかけてきたんだよ」
「へぇ」
教室は人が多くて嫌だとか言って、孝太郎はいつも中庭のベンチで一人弁当を食べているらしい。だからそこで遭遇したんだろう。
また孝太郎の話かと若干げんなりしつつ、そういうチャンスは見逃さないところがさすがコミュ強だとも思う。
「三星くんも弁当でさ、おいしそうだねって言ったら、『うん、おいしい』ってにこやかに返事してくれてさ、めっちゃかわいかった」
「へぇ」
弁当が美味しいのは間違いない。俺が作ったやつだからな。ただ、孝太郎がかわいいかどうかは甚だ疑問だ。そのせいでつい生返事をしてしまった。
学校での孝太郎は悪態こそつかないまでも、翔に対してはかなりの塩対応。話しかけても、無表情で「そうだね」で終わり。だからこそ翔は孝太郎が珍しくにこやかに返事をしてくれたって喜んでいるんだから、そこは友人として「よかったな」くらいは言うべきだったか。
俺のそっけなさを変に思われてないかと翔をちらりと横目で見ると、なぜかじいっとこちらを凝視している翔と目が合った。
こっちを見ていると思ってなかったし、余りにイケメン過ぎるせいでドクンと大きく心臓が鳴ってしまったではないか。
「……なに?」
平静を装ってみたけど、まだ心臓がバクバク言っている。やっぱり冷たい奴だとか思われただろうか。でも、翔は「何でもない」って俺から視線を外して何事もなかったようにパンをほおばった。
そこで、よかった、と胸をなでおろしたその時の俺を殴ってやりたい。
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