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明希の場合 6.
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それから三日間、翔の昼飯は珍しくずっと購買のパンだった。
孝太郎が中庭にいることに気が付いたから、わざわざ会いに行く口実づくりだろうか。
実際に翔は毎日孝太郎に声をかけていたらしく、家で孝太郎に「どうにかしてよ!」とけたたましく文句を言われていた。そんなの俺に言われても、って感じだからもちろんスルーしてたけどね。
でも、今日は翔も弁当だ。だから、今日は孝太郎にうるさいことを言われないで済むな、なんて暢気に考えながら、俺は無意識のうちに自ら地雷地帯に足を踏み入れていた。
「今日は弁当なんだな」
「うん、まぁ」
翔のところは両親ともに忙しいから、お手伝いさんが家にいるといっていた。マジで別世界。だから、今翔が食べている、彩も栄養バランスも考えつくされた弁当もお手伝いさんが作ったものだそうだ。俺の茶色い弁当とは大違いだよ。
「翔の弁当はいつもおしゃれだよなぁ」
「俺は明希のやつのほうが“弁当”って感じでいいと思うけど」
そういうと、翔はひょいっと俺の弁当から卵焼きを取り、ぱくっと食べてしまった。
「あまっ」
「苦手だった?」
「いや、甘い卵焼き初めて食べたけど、うまいな。お菓子みたい」
だろ、孝太郎も好きなんだぜ、とは言えないけど。
貴重なたんぱく源を奪われた俺は、仕返しと言わんばかりに、翔の弁当から人参とインゲンが牛肉に巻かれたやつを奪ってやる。
「うっま」
その甘辛味の肉巻きはびっくりするほどうまかった。
まず肉が違う。そもそもうちは牛肉なんてめったに買えないからね。昨日の俺が弁当に入れた肉巻きは豚肉だったし。野菜は同じだけど、俺が買うおつとめ品とは甘味なんかがやっぱり違う気がする。
弁当から見る経済格差、っていうコラムがかけるかもしれんなと思考を明後日のほうに飛ばしていると、なぜか翔は弁当を食べる箸を止め、「じ~~」っていう擬音がぴったりな視線を俺によこしていた。
「……食べたらだめだった?」
もしかして好物だったのだろうか。確かに一パック99円の激安卵で作った俺の卵焼きと国産素材をふんだんに使用した(想像)野菜の肉巻きでは『等価交換』とは言えないかもしれないけど、そんなに怒らんでも……。
「いや別にいいけど。……明希の昨日の弁当にも肉巻き入ってたよな」
「豚肉だけどな」
「あとは卵焼きといんげんの胡麻和えとさつまいも」
「おーそうだったか?」
「一昨日は、野菜炒めっぽいやつと卵焼き。その前の日は鮭と卵焼きときんぴらごぼう」
「……よく覚えてるな」
そこでようやく違和感を覚えた俺は少し背筋を伸ばした。でも、何を言わんとしているかはさっぱりわからない。対する翔は淡々としているが、視線は射貫くように俺を見たままだ。
「今日の俺の弁当と明希の弁当でかぶってるおかずは一つもないね」
「そうだな?」
やっぱり何が言いたいのかわからなくて思わず首を傾げた。
卵焼きとかメジャーなおかずならありえなくないが、俺の貧乏弁当と、翔のおしゃれ弁当のラインナップがかぶることなんてそうそうないだろう。まぁ同じ卵焼きでも『料理名』が同じだけであって、実際は全然別物だとは思うけど。
「弁当ってさ、結構それぞれ家の特徴がでるよね」
「……そう、だな?」
「だよね。なら、家族じゃない人と弁当のおかずが100%一緒になることってあり得ると思う? しかも三日間も」
そう言ってにっこりと笑った翔はやっぱりイケメンだった。
家族じゃないのに弁当のおかずが三日間全く同じになる可能性。
絶対、とは言い切れないけど、多分限りなくゼロに近いだろう。
さすがの俺も翔が何を言わんとしていることをようやく理解した。
この三日間、翔は購買に行くたびに中庭にいる孝太郎に話しかけていた。その時、弁当の中身も見たんだろう。その中身を全部覚えているのはさすがだなと思うが、まぁ弁当の中身どころか弁当箱も同じなんだから疑問に思っても仕方がない。
というか、なぜ気が付かなかったんだ、俺。
例えばの話、もし外で一緒にいるところを見られても「たまたま会った」っていう言い訳は一応通るだろう ―そもそも、俺と孝太郎が一緒に出掛けるなんてことはほとんどないけど―。
それなのにまさか、弁当で自爆するなんて。
やばいぞ。想定外すぎて、逃れる方法が全く思い浮かばない。
にっこりと威圧的なイケメンスマイルを浮かべながら俺をまっすぐと見据える翔の顔面に見とれている場合じゃ絶対にないのに、それでも目が離せない。
やっぱりどんな顔でもイケメンだなと思ってしまう。
「……ない、ことも、ないんじゃ、ない…かな?」
不発弾であること祈りながら絞りだした声はあからさまに上ずっていた。でも、ワンチャン生き残る道を探して、俺はへらっと笑い返してみる。
「そっか」
そんな俺に翔はそれ以上何も言わず、何事もなかったようにまた弁当を食べ始めた。
ほんの一瞬、その整った眉を悲し気に下げてから。
しまった、と思ってももう遅い。
翔はきっとむやみやたらに人を疑ったりはしない。
だから、俺にこの話をするまで、翔だって「どういうことか」と頭を悩ませたんじゃないだろうか。
その上であえて核心に迫らず、遠回りな聞き方をしたのは、『俺から話してほしい』と思ったからなんじゃないのか?
それなのに、俺は翔を裏切った。いくら孝太郎との関係は俺の一存で話せることではないとはいえ、もっと言い方はあったはずなのに……。
「翔…えっと…」
「諏訪野~~!」
何か言わないと、とふり絞った言葉は他者の声でかき消されてしまった。
どうやら部活仲間らしく、今日の練習は休みになったというようなことを話しているが、なかなか話が長い。
結局そいつは昼休みが終わるまでだらだらと話していき、俺も今日はバイトですぐに帰らないといけないこともあって、その日は何も話すことができないままになってしまった。
孝太郎が中庭にいることに気が付いたから、わざわざ会いに行く口実づくりだろうか。
実際に翔は毎日孝太郎に声をかけていたらしく、家で孝太郎に「どうにかしてよ!」とけたたましく文句を言われていた。そんなの俺に言われても、って感じだからもちろんスルーしてたけどね。
でも、今日は翔も弁当だ。だから、今日は孝太郎にうるさいことを言われないで済むな、なんて暢気に考えながら、俺は無意識のうちに自ら地雷地帯に足を踏み入れていた。
「今日は弁当なんだな」
「うん、まぁ」
翔のところは両親ともに忙しいから、お手伝いさんが家にいるといっていた。マジで別世界。だから、今翔が食べている、彩も栄養バランスも考えつくされた弁当もお手伝いさんが作ったものだそうだ。俺の茶色い弁当とは大違いだよ。
「翔の弁当はいつもおしゃれだよなぁ」
「俺は明希のやつのほうが“弁当”って感じでいいと思うけど」
そういうと、翔はひょいっと俺の弁当から卵焼きを取り、ぱくっと食べてしまった。
「あまっ」
「苦手だった?」
「いや、甘い卵焼き初めて食べたけど、うまいな。お菓子みたい」
だろ、孝太郎も好きなんだぜ、とは言えないけど。
貴重なたんぱく源を奪われた俺は、仕返しと言わんばかりに、翔の弁当から人参とインゲンが牛肉に巻かれたやつを奪ってやる。
「うっま」
その甘辛味の肉巻きはびっくりするほどうまかった。
まず肉が違う。そもそもうちは牛肉なんてめったに買えないからね。昨日の俺が弁当に入れた肉巻きは豚肉だったし。野菜は同じだけど、俺が買うおつとめ品とは甘味なんかがやっぱり違う気がする。
弁当から見る経済格差、っていうコラムがかけるかもしれんなと思考を明後日のほうに飛ばしていると、なぜか翔は弁当を食べる箸を止め、「じ~~」っていう擬音がぴったりな視線を俺によこしていた。
「……食べたらだめだった?」
もしかして好物だったのだろうか。確かに一パック99円の激安卵で作った俺の卵焼きと国産素材をふんだんに使用した(想像)野菜の肉巻きでは『等価交換』とは言えないかもしれないけど、そんなに怒らんでも……。
「いや別にいいけど。……明希の昨日の弁当にも肉巻き入ってたよな」
「豚肉だけどな」
「あとは卵焼きといんげんの胡麻和えとさつまいも」
「おーそうだったか?」
「一昨日は、野菜炒めっぽいやつと卵焼き。その前の日は鮭と卵焼きときんぴらごぼう」
「……よく覚えてるな」
そこでようやく違和感を覚えた俺は少し背筋を伸ばした。でも、何を言わんとしているかはさっぱりわからない。対する翔は淡々としているが、視線は射貫くように俺を見たままだ。
「今日の俺の弁当と明希の弁当でかぶってるおかずは一つもないね」
「そうだな?」
やっぱり何が言いたいのかわからなくて思わず首を傾げた。
卵焼きとかメジャーなおかずならありえなくないが、俺の貧乏弁当と、翔のおしゃれ弁当のラインナップがかぶることなんてそうそうないだろう。まぁ同じ卵焼きでも『料理名』が同じだけであって、実際は全然別物だとは思うけど。
「弁当ってさ、結構それぞれ家の特徴がでるよね」
「……そう、だな?」
「だよね。なら、家族じゃない人と弁当のおかずが100%一緒になることってあり得ると思う? しかも三日間も」
そう言ってにっこりと笑った翔はやっぱりイケメンだった。
家族じゃないのに弁当のおかずが三日間全く同じになる可能性。
絶対、とは言い切れないけど、多分限りなくゼロに近いだろう。
さすがの俺も翔が何を言わんとしていることをようやく理解した。
この三日間、翔は購買に行くたびに中庭にいる孝太郎に話しかけていた。その時、弁当の中身も見たんだろう。その中身を全部覚えているのはさすがだなと思うが、まぁ弁当の中身どころか弁当箱も同じなんだから疑問に思っても仕方がない。
というか、なぜ気が付かなかったんだ、俺。
例えばの話、もし外で一緒にいるところを見られても「たまたま会った」っていう言い訳は一応通るだろう ―そもそも、俺と孝太郎が一緒に出掛けるなんてことはほとんどないけど―。
それなのにまさか、弁当で自爆するなんて。
やばいぞ。想定外すぎて、逃れる方法が全く思い浮かばない。
にっこりと威圧的なイケメンスマイルを浮かべながら俺をまっすぐと見据える翔の顔面に見とれている場合じゃ絶対にないのに、それでも目が離せない。
やっぱりどんな顔でもイケメンだなと思ってしまう。
「……ない、ことも、ないんじゃ、ない…かな?」
不発弾であること祈りながら絞りだした声はあからさまに上ずっていた。でも、ワンチャン生き残る道を探して、俺はへらっと笑い返してみる。
「そっか」
そんな俺に翔はそれ以上何も言わず、何事もなかったようにまた弁当を食べ始めた。
ほんの一瞬、その整った眉を悲し気に下げてから。
しまった、と思ってももう遅い。
翔はきっとむやみやたらに人を疑ったりはしない。
だから、俺にこの話をするまで、翔だって「どういうことか」と頭を悩ませたんじゃないだろうか。
その上であえて核心に迫らず、遠回りな聞き方をしたのは、『俺から話してほしい』と思ったからなんじゃないのか?
それなのに、俺は翔を裏切った。いくら孝太郎との関係は俺の一存で話せることではないとはいえ、もっと言い方はあったはずなのに……。
「翔…えっと…」
「諏訪野~~!」
何か言わないと、とふり絞った言葉は他者の声でかき消されてしまった。
どうやら部活仲間らしく、今日の練習は休みになったというようなことを話しているが、なかなか話が長い。
結局そいつは昼休みが終わるまでだらだらと話していき、俺も今日はバイトですぐに帰らないといけないこともあって、その日は何も話すことができないままになってしまった。
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