俺の友人は。

なつか

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明希の場合 7.

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悶々としたままバイトを終えて帰宅すると、相変わらず孝太郎は暢気に寝ころびながらBL小説を読んでいた。親の前でも何のためらいもなく読めるのはすごいと思うけど、さすがに読むように勧めるのはどうかと思うぞ。
父親たちがあっちの部屋に戻った後、俺が夕飯を食べているときも、風呂から出てきた後もずっと同じ体勢のままでいるもんだから、俺は仕方なく孝太郎から本を取り上げた。
「なにすんの?!」
「翔にばれた」
「なにが?」
「俺とお前に何かしら関りがあること」
どういう関りがあるのかまではきっとわかってないだろうけど、と今日あったことを孝太郎に話したら案の定のしかめっ面。からの、暴言。
「人の弁当、観察するとかキモッ!」
「そういう言い方すんな」
「はぁ?! 明希ちゃんはあいつに優しすぎ! だいたい聞き方も嫌味っぽいし!」
優しいのは俺じゃなくて翔だ。嫌味どころか、もっと詰め寄ったりされてもおかしくなかった。それなのに、あんな顔をさせてしまった。傷つけてしまった。
後悔を刻むように、俺は唇をかんだ。

「とにかく、明日話すから」
「へ~~なんて言うの? 実は一緒に住んでましたって?」
「っ……」
何て話したらいいかなんてわからない。でも、どう取り繕ったって結局隠し事をしていたっていう事実は変わらない。それならもうすべてを話してしまいたい。
自分が楽になりたいだけだろうって言われたら否定できない。でも、翔の想いに報いるにはもうそれくらいしかできないのだから。

俺は明日、きっと友人を失うのだろう。



そう思っていたのに、翔は翌日学校を休んだ。
インフルエンザにかかったらしい。そういえば、昨日の昼休みに来ていたバスケ部員が、部内で蔓延しているというようなことを話していたっけ。
思いがけずできてしまったこの執行猶予に、俺の勇んだ気持ちはしおしおとしぼんでいく。こういうことは時間があればあるほど色々と考えてしまって、雁字搦めになる。
いっそのこと早く処刑されてしまいたいのに、悪いことは重なるものだ。
全く身が入らない授業を何とか乗り切った翌日、俺もめでたくインフルエンザの仲間入りを果たした。

インフルエンザは冬の病気だと思っていたが、今年は秋口から異例の流行拡大、ってそういえばニュースで見た(貧乏ながら一応テレビはある)。俺も流行の波にのっちゃったな、なんて笑っていられたのも熱が上がりきる前まで。
多分、熱を出したのなんて小学生以来ぶり。あまりのしんどさに正直死ぬんじゃないかと思ったけど、無事に三日ほどで熱は下がり、四日もたてば普通に動ける程度には回復した。
そうしたら熱に浮かされていた頭にも思考力が戻ってきてしまうわけで。何とか逃げ道を探そうとする弱い心を追いやろうとも、出席停止期間中は家事禁止! と言い渡されてしまったせいでやることもない。孝太郎が暇つぶしにどうぞ~、と枕元に置いていったBL小説を読む気にもなれず、仕方なしに教科書を開いてみる。
発症したのが土曜日だったから、登校できるようになるのは木曜日から。期末試験はまだ少し先だが、四日も休むのは結構痛い。
俺は、翔のように授業聞いてれば大丈夫、なんて天才型ではないし、孝太郎のようにコツコツと知識を積み上げていける秀才型でもない。
必死になって何度も何度も自分に叩き込むような泥臭い勉強の仕方しかできない。ほんとはもっとバイトを入れたいけど、今の週2回が限界なのもそのせいだ。
こういう時は逆にゲームもスマホもないような環境でよかったのかもしれないなと思う。人はどうしても楽な方に流されるから。
でも、もしスマホを持っていたら、翔に電話とかSNSで謝ったりもできたかも。いや、これも楽しようとしてるだけだろうか、なんてどうしても翔のことが頭から離れなくて。ガチャリと玄関のドアが開く音にハッとしたとき、手に持っていた教科書は結局一ページも進んでなかった。

「明希ちゃん調子どう~?」
「もう大丈夫そう。お前は?」
「ぜーんぜん大丈夫」
ドアの向こうから聞こえてきた孝太郎の元気そうな声にほっと胸をなでおろす。幸いなことに孝太郎には移さずに済んだようだ。
持病のある優一朗さんにも、仕事を休めない俺の父親にも移すわけにはいかないからって、俺が寝込んでからずっと世話をしてくれた。こういう時、頼れる相手がいるというのは助かる。
「俺のおすすめ読んだ?」
「読まねぇよ。いいから、今日のノート貸して」
「えーーつまんないの。ん? あれ?」
孝太郎とのくだらないやり取りの最中にコンコンっと玄関ドアをたたく音が響いた。この部屋ではなく、右隣の、のんちゃんの部屋からだ。
のんちゃんは在宅仕事だし、超絶インドアだから多分いるだろうが、そもそも誰かが訪ねてくるということがめったにない。玄関ドアの開く音がした後、のんちゃんと話す男が聞こえたから、なんかの勧誘かな? なんて話しながらノートを孝太郎から受けとっていると、今度はこっちの部屋の玄関ドアを叩く音が響いた。
「やっぱり勧誘~?」
めんどくさっと悪態をつきながらも「はいは~い」なんておざなりな返事とともに孝太郎は玄関へと向かっていった。
まぁ勧誘の人であれば別に心配はいらないか。多分、どんなにしつこい相手でも、孝太郎が打ち負けることはない。
そう思っていたのに、玄関のドアが閉まる音がしたあと、孝太郎は外に出たようでしばらくしても戻ってこないではないか。
さすがに少し心配になって俺の部屋のドアに耳を当ててみる。人が話している気配はするが、声はほとんど聞こえない。
このボロアパートは話の内容までは聞き取れないにしても、普通の声量でも声は聞こえるのに。まさか、わざわざ小声で話してる?
頭に疑問符を浮かべながら、ここは出ていくべきかとドアノブに手をかけたところで丁度玄関ドアが開く音が聞こえた。
「孝太郎、誰だった?」
一応まだ隔離期間だから俺の部屋の内側から声をかける。
「明希ちゃんにお客さーん」
「はっ?」
俺の疑問に答えることなく孝太郎が部屋の前を通り過ぎて行った少し後、誰かが俺の部屋のドアを叩いた。

「明希? 具合どう?」

聞こえてきた腰を砕けさせるような低音ボイスに、背筋が震えてしまったのは仕方がないことだと思うだろ?
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