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13. 特別
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重なった唇をゆっくりと離せば、巴の切れ長の瞳には戸惑いが浮かんでいた。
当然だ。発情状態でないときに旭から巴にキスをしたのはこれが初めてなんだから。
これまでのキスは熱に支配された身体が巴を誘うためだけのものだった。
そこにあるのは、浅ましい欲望だけ。それを拒めば拒むほど旭の身体は欲に操られ、快楽をむさぼった。
心と体がばらばらになっていくようで、恐ろしくて仕方がなかった。
でも、今は違う。
発情は収まっているし、旭の体は旭の意思で動く。
旭の心が、体が、「キスがしたい」と動いた。
「なんで、巴は怒ってるの?」
教えて欲しい、その答えを。勘違いじゃないと、そう言ってほしい。
まだ戸惑ったままの巴の瞳をじいっと見つめる。
長い睫毛が揺れる少しだけ吊り上がった切れ長の目。その間を通る高い鼻筋と、形の整った唇。いつ見ても、どんな表情でも、その造形は完ぺきに美しい。
何度も、何年も見ているのに、つい見とれてしまう。
大切な、大切な幼馴染。特別で、唯一無二の存在。
でも、巴にとって旭はそうじゃない。
ずっとそう思っていた。
だって、巴は旭のほかに特別な存在を作ったから。
初めて巴が恋人を作ったのは中学の時。
学内で有名人だった巴に恋人ができたという噂はすぐに旭の耳にも入った。
相手は巴と同じクラスの女の子。同じ委員会に所属していたから、旭も何度か話したことがあった。
笑うと頬に浮かぶえくぼがかわいい子だなと思ったことを覚えている。
でも、巴は恋人のことを旭に話すことはなかったし、旭もなにも聞かなかった。それに学校の行き帰りはそれまでと変わらず二人だったし、休日も特に変わることなくいつも二人でいた。
そうしているうちに、今度は別れたらしいことを噂で知った。
それ以降も巴は何度も恋人を作ったけど、巴は何も言わなかったし、旭から聞いたこともない。
恋人がいてもいなくても巴と旭の関係は少しも変わらなかった。だから、わざわざ聞く必要もなかった。
そのせいもあってか、幼馴染なんかよりもよっぽど特別であるはずの恋人は、巴にとってなぜか希薄な存在のように思えた。
それは、巴にとって恋人は特別な存在ではないからじゃないか。
だとしたら、ただの幼馴染でしかない自分が巴の“特別”になるはずがない。
だから、巴を特別だと思う気持ちは旭の一方通行なのだと、ずっとそう思っていた。
それなのに、今、巴は旭に怒り、執着を向けている。
これまで誰にも向けることのなかった特別な感情を。
「俺は、巴の何?」
その問いかけに、そらすことなく見つめたままでいた巴の瞳が揺れた。
さっきまであった戸惑いとは違う。驚きや困惑でもない。
冷たく、凍り付いた瞳に光が差し込んだように、巴は優しく微笑んだ。
「旭は僕の神様。僕だけの神様」
指の背で旭の頬を撫でた巴はそのまま顔を近づけると、そっと触れるだけのキスをした。
ついばむように何度も唇を重ねていると、不意に聞こえた金属音とともに後ろ手に回されていた腕が自由を得た。
その途端、まるで飛び掛かるように巴の首へと両腕を回せば、その勢いで巴ごとベッドへと倒れこんだ。
外れたのは片腕だけだったようで、まだ右手には黒い革の手錠が付いている。内側にはふわふわのファーが付いていて、どうりで動かない割に痛みはなかったわけだ。もちろん、外れた左手には何の痕も残っていない。
旭を傷つけないようにとする優しさと、逃がすまいとする執着をそのまま表したようなその手錠を見て、旭は一気に体温が上がった。
さっきの発情はもう収まっている。でも、確かに旭の身体は昂っていた。
その証拠に、下半身が焼けそうなほどに熱い。前は固くはれ上がって先走りを零し、後ろは勝手に収縮を繰り返しながら蜜を溢れさせている。
覆いかぶさっていた体を起こして跨れば、優しく微笑む巴と目が合った。その瞳にはもう冷たさも戸惑いもない。こちらを見上げる美しい眼差しに旭はほうっと熱のこもった息をついた。
――本当にきれいだ。
なだらかな稜線を描く頬を指の腹でなぞり、そのまま首筋を辿っていく。でも、すぐにTシャツの襟首が行く手を阻む。
「巴、脱いで」
「いいよ、全部?」
「うん、全部見たい」
ふふっと笑いながら起き上がった巴は、するすると服を脱ぎ捨てると、またごろりとベッドにあおむけになった。
その上にまた跨り、さっき行き止まった首筋からその下へ指を這わせていく。
デコルテに沿って左右対称にまっすぐと伸びた鎖骨。厚くはないけど、しっかりと境目のわかる胸。その下にある腹筋も同じ。きれいに六個に割れている。その中心を辿っていけば、本来はもっと下にあるはずのものが圧倒的な存在感を持って反り勃っていた。
サイズだけで言っても旭の二回りは大きい。ドクドクと脈打ち、血管を浮かび上がらせるその様は、獲物を狙う生き物にすら見える。
旭はそのどう猛さに思わず息をのんだ。
――いつも、こんなふうになってたんだろうか。
発情状態の時の記憶は全く残っていないわけではないが、どこかぼんやりとして途切れ途切れだ。だから、こうしてちゃんと意識して巴の身体を見るのも触れるのも、旭にとっては初めてのことだった。
どこをどう切り取っても美しい、ため息が出るほどに完ぺきな造形。
さっき、巴は旭のことを『神様』だと言った。でも、巴の方がよっぽど神様のようだと思う。
その畏れ多いほどに美しい体を自由にさせてくれている。
そう思うと滲み出る喜びは、優越感だろうか。
旭は頬と同じように、指の腹で反り勃つ巴のものをゆっくりと撫で、持ち上げる。ずっしりと重みのあるその先端にキスをすると、巴はふるりと小さく体を震わせた。
「旭……」
ため息交じりの声に、胸が高鳴る。伸びてきた手に一度だけ頬を摺り寄せてから、旭は手の内にある巴のものを口に含んだ。
でも、大きくてその半分も納められない。余った部分はぎゅっと握り、上下に動かす。その動きに合わせ、口いっぱいに含んだ先端に舌を這わせながら吸い上げる。じゅぶじゅぶと唾液が泡立つ音を聞きながら、手と口を懸命に動かしていれば、熱を持った悩まし気なため息が頭上から落ちてきた。
うまくできてるかはわからないが、たぶん気持ちよくなってくれている。
限界まで開いた口はだるいし、息もちゃんとできない。苦しくて、つらいのに、なぜか下腹が疼いて堪らない。
巴の低い唸り声が聞こえ、いきなり頭を抑え込まれた瞬間、ぐっと喉奥まで押し込まれた巴のものがさらに膨らんだ。同時に喉奥に熱くてどろどろとした液体が流れ込み、青臭い香りがツンと鼻奥に抜ける。
巴が達したのだと気が付いた時には、触れてもいなかった旭のものからも白濁が零れ落ちていた。
「喉の奥に出されて、イっちゃったの?」
楽し気な巴の声にはっと我に返ると、一気に羞恥に襲われた。
自分でも、まさか、と驚いている。しかも、直接的な刺激を与えられたわけじゃないそこはまだ緩く勃ち上がり、白く濁った液体をとろとろと零している。
恥ずかしい、恥ずかしくてたまらない。
――でも、足りない。
再び巴の中心に目をやれば、先ほど弾けたのがウソだったのではないかと思うほど、また立派にそびえ勃っている。それどころか旭の唾液で濡れ、テラテラと光るそれはさらに硬度を増したように見えた。
意識ははっきりしている。羞恥も感じる。
それなのに『欲しい』なんて思うのは、また発情しているせいだろうか。
でも、欲しくて、欲しくてたまらないんだ。
旭はもう一度巴の腰元にまたがり、後ろ手に巴のものを持つと、ぐっと自分の後孔に押し当てた。
すっかり濡れすぼったそこは、くちゅりとはしたない水音を立てながら、抵抗なく巴を飲み込んでいく。
腰をゆっくりと落としているせいか、いつもより巴の熱も形も、脈打つ動きまではっきりとわかってしまう。それだけでまた達してしまいそうで、半分ほどの納めたところで一度腰を止めた。
痛みなどはないが、そのサイズに見合うだけの圧迫感がある。息をつめながらその圧迫感をやり過ごしていると、それまでとろけたような優しい瞳で旭を見上げていた巴が旭の腰を掴んだ。
「あぁっ!!」
つかまれた腰を強引に引き下ろされ、一気に巴のものが旭の奥を貫いた。
目の前が真っ白になるほどの衝撃に喉が反り、体がガクガクと震える。でも、巴はそんな旭の様子などお構いなしに、腰を掴んでいる手に力を込め、容赦なく突き上げてくる。
奥を穿たれるたびにイっているような、際限のない快感から戻ってこられない。体が真ん中から割れてしまうんじゃないかと思うほどの激しい抽挿に耐えられず、後ろに倒れかけそうになると、咄嗟に起き上った巴に抱き留められた。
つかの間の休憩かと思いきや、巴は旭の身体を強く抱き込み、噛みつくように旭の唇をふさいだ。性急に差し込まれた舌は旭の口内をむさぼり、すべてを食らいつくそうとするかのように動き回る。呼吸すら飲み込まれ、視界が明滅する。
その苦しさすらも気持ちがいい。
気が付けばベッドに背が付き、見上げた先には美しい巴の顔があった。
「ともえ……」
酸素がいきわたらずぼんやりとした意識のまま両腕と両足を巴の体に巻き付け、少しの隙間すら惜しむように体を密着させる。触れ合った肌の表面は汗に濡れ、ひんやりとしているのに、そのすぐ奥は燃えるように熱くて重なったところから溶けてしまいそうだ。
いや、もう溶けているのかもしれない。
巴に揺さぶられるまま終わりのない快楽に身を任せれば、あっという間に迎えた今日何度目かの絶頂とともに旭は意識を失った。
目を覚ました時にまず感じたのは下半身の違和感。それもそのはず、首筋には旭を背後から抱え込んでいる巴の寝息がかかっているのに、下半身がつながったままなのだ。
さすがにさほどの硬度はないが、それでも十分に存在感がある。抜け出そうと身をよじっても、強く抱き込まれていて動けないし、そもそも力が出ない。
まぁいいかとされるがままにまた意識をまどろませ始めると、下半身に与えられる違和感が増した。
かすかな律動とともに旭の中に入ったままになっている巴のものが徐々に硬度を取り戻し始めたのだ。
「んっっ、と、ともえ、起きてるのか?」
ゆっくりとした動きに合わせて粘りを帯びた水音が立つ。
巴が旭のナカに吐き出したものなのか、旭から湧き出る粘液なのか。あぁ、たぶん両方だ。
このままあったかい湯の中を漂うような緩やかな快感に身を預けてしまいたいけれど、たぶんそれだけでは終わらない。
そうやってさっきもろくに話もしないまま快楽に溺れてしまった。まぁ先に仕掛けたのは旭なのだが。
だって、堪らなくなってしまったんだ。
巴があんな愛おしそうな目で、声で、旭のことを『神様』だなんていうから、泣きそうなほど嬉しくてたまらなかった。
巴が言わんとする『神様』が何を意味しているかは分からない。だけど、少なくとも巴にとって旭は『ただの幼馴染』ではなかった。それだけでも十分だと思えた。
「あっあっあぁ、ともえ、ともえ」
案の定激しくなり始めた律動に合わせて、首筋にかかる息も荒くなっていく。
ずっと快感を与えられ続け溶け切っていた旭の身体はあっという間に絶頂を迎えてしまった。それに合わせて背後で獣のように短く吐き出されていた息がぐっと詰まり、旭のナカに熱が流れ込んだ。
もう何度中で受け止めたのだろう。昨夜から何も食べていないはずなのに、ぽっこりとおなかが膨らんでいる。
無意識にそこを撫でると、ドクンと鼓動のような動きを感じた。
そういえばここには今、神様のたまご? があるんだった。もしかしたらたくさん精を得られたと喜んでいるかもしれない。
あと十日余りで孵ると土地神は言っていたが、そもそも『孵る』ってどういうことだろう。孵るというからにはたまごのまま出てくるということはないだろう。じゃあどうやって出てくるんだろうか。
忌避感が強すぎて、全く細かい話を聞いていなかった。今度また会ったら聞いてみよう。
なんて考えているうちに気が付けば、後ろにいたはずの巴が今は真上にいる。しかも眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな顔で。
「何か考え事?」
苛立ちを含んだ声に、また心が喜んでいる。
求められている、そう感じるだけで堪らない気持ちになる。
――巴が俺のことを神様だと言ってくれるのなら、俺は巴だけの神様であり続けよう。
そうすれば、巴にとって特別な存在できっといられるはずだから。
まずはそうだな。いい加減腹をくくって、役目の話をしようか。
「巴、俺の話聞いてくれる?」
旭の言葉に巴は一瞬目を見開いたが、すぐにまた眩いほど美しくて優しい微笑みを向けた。
「もちろん」
その笑顔の美しさに、やっぱり神様は巴の方なんじゃないかな、と旭は思った。
当然だ。発情状態でないときに旭から巴にキスをしたのはこれが初めてなんだから。
これまでのキスは熱に支配された身体が巴を誘うためだけのものだった。
そこにあるのは、浅ましい欲望だけ。それを拒めば拒むほど旭の身体は欲に操られ、快楽をむさぼった。
心と体がばらばらになっていくようで、恐ろしくて仕方がなかった。
でも、今は違う。
発情は収まっているし、旭の体は旭の意思で動く。
旭の心が、体が、「キスがしたい」と動いた。
「なんで、巴は怒ってるの?」
教えて欲しい、その答えを。勘違いじゃないと、そう言ってほしい。
まだ戸惑ったままの巴の瞳をじいっと見つめる。
長い睫毛が揺れる少しだけ吊り上がった切れ長の目。その間を通る高い鼻筋と、形の整った唇。いつ見ても、どんな表情でも、その造形は完ぺきに美しい。
何度も、何年も見ているのに、つい見とれてしまう。
大切な、大切な幼馴染。特別で、唯一無二の存在。
でも、巴にとって旭はそうじゃない。
ずっとそう思っていた。
だって、巴は旭のほかに特別な存在を作ったから。
初めて巴が恋人を作ったのは中学の時。
学内で有名人だった巴に恋人ができたという噂はすぐに旭の耳にも入った。
相手は巴と同じクラスの女の子。同じ委員会に所属していたから、旭も何度か話したことがあった。
笑うと頬に浮かぶえくぼがかわいい子だなと思ったことを覚えている。
でも、巴は恋人のことを旭に話すことはなかったし、旭もなにも聞かなかった。それに学校の行き帰りはそれまでと変わらず二人だったし、休日も特に変わることなくいつも二人でいた。
そうしているうちに、今度は別れたらしいことを噂で知った。
それ以降も巴は何度も恋人を作ったけど、巴は何も言わなかったし、旭から聞いたこともない。
恋人がいてもいなくても巴と旭の関係は少しも変わらなかった。だから、わざわざ聞く必要もなかった。
そのせいもあってか、幼馴染なんかよりもよっぽど特別であるはずの恋人は、巴にとってなぜか希薄な存在のように思えた。
それは、巴にとって恋人は特別な存在ではないからじゃないか。
だとしたら、ただの幼馴染でしかない自分が巴の“特別”になるはずがない。
だから、巴を特別だと思う気持ちは旭の一方通行なのだと、ずっとそう思っていた。
それなのに、今、巴は旭に怒り、執着を向けている。
これまで誰にも向けることのなかった特別な感情を。
「俺は、巴の何?」
その問いかけに、そらすことなく見つめたままでいた巴の瞳が揺れた。
さっきまであった戸惑いとは違う。驚きや困惑でもない。
冷たく、凍り付いた瞳に光が差し込んだように、巴は優しく微笑んだ。
「旭は僕の神様。僕だけの神様」
指の背で旭の頬を撫でた巴はそのまま顔を近づけると、そっと触れるだけのキスをした。
ついばむように何度も唇を重ねていると、不意に聞こえた金属音とともに後ろ手に回されていた腕が自由を得た。
その途端、まるで飛び掛かるように巴の首へと両腕を回せば、その勢いで巴ごとベッドへと倒れこんだ。
外れたのは片腕だけだったようで、まだ右手には黒い革の手錠が付いている。内側にはふわふわのファーが付いていて、どうりで動かない割に痛みはなかったわけだ。もちろん、外れた左手には何の痕も残っていない。
旭を傷つけないようにとする優しさと、逃がすまいとする執着をそのまま表したようなその手錠を見て、旭は一気に体温が上がった。
さっきの発情はもう収まっている。でも、確かに旭の身体は昂っていた。
その証拠に、下半身が焼けそうなほどに熱い。前は固くはれ上がって先走りを零し、後ろは勝手に収縮を繰り返しながら蜜を溢れさせている。
覆いかぶさっていた体を起こして跨れば、優しく微笑む巴と目が合った。その瞳にはもう冷たさも戸惑いもない。こちらを見上げる美しい眼差しに旭はほうっと熱のこもった息をついた。
――本当にきれいだ。
なだらかな稜線を描く頬を指の腹でなぞり、そのまま首筋を辿っていく。でも、すぐにTシャツの襟首が行く手を阻む。
「巴、脱いで」
「いいよ、全部?」
「うん、全部見たい」
ふふっと笑いながら起き上がった巴は、するすると服を脱ぎ捨てると、またごろりとベッドにあおむけになった。
その上にまた跨り、さっき行き止まった首筋からその下へ指を這わせていく。
デコルテに沿って左右対称にまっすぐと伸びた鎖骨。厚くはないけど、しっかりと境目のわかる胸。その下にある腹筋も同じ。きれいに六個に割れている。その中心を辿っていけば、本来はもっと下にあるはずのものが圧倒的な存在感を持って反り勃っていた。
サイズだけで言っても旭の二回りは大きい。ドクドクと脈打ち、血管を浮かび上がらせるその様は、獲物を狙う生き物にすら見える。
旭はそのどう猛さに思わず息をのんだ。
――いつも、こんなふうになってたんだろうか。
発情状態の時の記憶は全く残っていないわけではないが、どこかぼんやりとして途切れ途切れだ。だから、こうしてちゃんと意識して巴の身体を見るのも触れるのも、旭にとっては初めてのことだった。
どこをどう切り取っても美しい、ため息が出るほどに完ぺきな造形。
さっき、巴は旭のことを『神様』だと言った。でも、巴の方がよっぽど神様のようだと思う。
その畏れ多いほどに美しい体を自由にさせてくれている。
そう思うと滲み出る喜びは、優越感だろうか。
旭は頬と同じように、指の腹で反り勃つ巴のものをゆっくりと撫で、持ち上げる。ずっしりと重みのあるその先端にキスをすると、巴はふるりと小さく体を震わせた。
「旭……」
ため息交じりの声に、胸が高鳴る。伸びてきた手に一度だけ頬を摺り寄せてから、旭は手の内にある巴のものを口に含んだ。
でも、大きくてその半分も納められない。余った部分はぎゅっと握り、上下に動かす。その動きに合わせ、口いっぱいに含んだ先端に舌を這わせながら吸い上げる。じゅぶじゅぶと唾液が泡立つ音を聞きながら、手と口を懸命に動かしていれば、熱を持った悩まし気なため息が頭上から落ちてきた。
うまくできてるかはわからないが、たぶん気持ちよくなってくれている。
限界まで開いた口はだるいし、息もちゃんとできない。苦しくて、つらいのに、なぜか下腹が疼いて堪らない。
巴の低い唸り声が聞こえ、いきなり頭を抑え込まれた瞬間、ぐっと喉奥まで押し込まれた巴のものがさらに膨らんだ。同時に喉奥に熱くてどろどろとした液体が流れ込み、青臭い香りがツンと鼻奥に抜ける。
巴が達したのだと気が付いた時には、触れてもいなかった旭のものからも白濁が零れ落ちていた。
「喉の奥に出されて、イっちゃったの?」
楽し気な巴の声にはっと我に返ると、一気に羞恥に襲われた。
自分でも、まさか、と驚いている。しかも、直接的な刺激を与えられたわけじゃないそこはまだ緩く勃ち上がり、白く濁った液体をとろとろと零している。
恥ずかしい、恥ずかしくてたまらない。
――でも、足りない。
再び巴の中心に目をやれば、先ほど弾けたのがウソだったのではないかと思うほど、また立派にそびえ勃っている。それどころか旭の唾液で濡れ、テラテラと光るそれはさらに硬度を増したように見えた。
意識ははっきりしている。羞恥も感じる。
それなのに『欲しい』なんて思うのは、また発情しているせいだろうか。
でも、欲しくて、欲しくてたまらないんだ。
旭はもう一度巴の腰元にまたがり、後ろ手に巴のものを持つと、ぐっと自分の後孔に押し当てた。
すっかり濡れすぼったそこは、くちゅりとはしたない水音を立てながら、抵抗なく巴を飲み込んでいく。
腰をゆっくりと落としているせいか、いつもより巴の熱も形も、脈打つ動きまではっきりとわかってしまう。それだけでまた達してしまいそうで、半分ほどの納めたところで一度腰を止めた。
痛みなどはないが、そのサイズに見合うだけの圧迫感がある。息をつめながらその圧迫感をやり過ごしていると、それまでとろけたような優しい瞳で旭を見上げていた巴が旭の腰を掴んだ。
「あぁっ!!」
つかまれた腰を強引に引き下ろされ、一気に巴のものが旭の奥を貫いた。
目の前が真っ白になるほどの衝撃に喉が反り、体がガクガクと震える。でも、巴はそんな旭の様子などお構いなしに、腰を掴んでいる手に力を込め、容赦なく突き上げてくる。
奥を穿たれるたびにイっているような、際限のない快感から戻ってこられない。体が真ん中から割れてしまうんじゃないかと思うほどの激しい抽挿に耐えられず、後ろに倒れかけそうになると、咄嗟に起き上った巴に抱き留められた。
つかの間の休憩かと思いきや、巴は旭の身体を強く抱き込み、噛みつくように旭の唇をふさいだ。性急に差し込まれた舌は旭の口内をむさぼり、すべてを食らいつくそうとするかのように動き回る。呼吸すら飲み込まれ、視界が明滅する。
その苦しさすらも気持ちがいい。
気が付けばベッドに背が付き、見上げた先には美しい巴の顔があった。
「ともえ……」
酸素がいきわたらずぼんやりとした意識のまま両腕と両足を巴の体に巻き付け、少しの隙間すら惜しむように体を密着させる。触れ合った肌の表面は汗に濡れ、ひんやりとしているのに、そのすぐ奥は燃えるように熱くて重なったところから溶けてしまいそうだ。
いや、もう溶けているのかもしれない。
巴に揺さぶられるまま終わりのない快楽に身を任せれば、あっという間に迎えた今日何度目かの絶頂とともに旭は意識を失った。
目を覚ました時にまず感じたのは下半身の違和感。それもそのはず、首筋には旭を背後から抱え込んでいる巴の寝息がかかっているのに、下半身がつながったままなのだ。
さすがにさほどの硬度はないが、それでも十分に存在感がある。抜け出そうと身をよじっても、強く抱き込まれていて動けないし、そもそも力が出ない。
まぁいいかとされるがままにまた意識をまどろませ始めると、下半身に与えられる違和感が増した。
かすかな律動とともに旭の中に入ったままになっている巴のものが徐々に硬度を取り戻し始めたのだ。
「んっっ、と、ともえ、起きてるのか?」
ゆっくりとした動きに合わせて粘りを帯びた水音が立つ。
巴が旭のナカに吐き出したものなのか、旭から湧き出る粘液なのか。あぁ、たぶん両方だ。
このままあったかい湯の中を漂うような緩やかな快感に身を預けてしまいたいけれど、たぶんそれだけでは終わらない。
そうやってさっきもろくに話もしないまま快楽に溺れてしまった。まぁ先に仕掛けたのは旭なのだが。
だって、堪らなくなってしまったんだ。
巴があんな愛おしそうな目で、声で、旭のことを『神様』だなんていうから、泣きそうなほど嬉しくてたまらなかった。
巴が言わんとする『神様』が何を意味しているかは分からない。だけど、少なくとも巴にとって旭は『ただの幼馴染』ではなかった。それだけでも十分だと思えた。
「あっあっあぁ、ともえ、ともえ」
案の定激しくなり始めた律動に合わせて、首筋にかかる息も荒くなっていく。
ずっと快感を与えられ続け溶け切っていた旭の身体はあっという間に絶頂を迎えてしまった。それに合わせて背後で獣のように短く吐き出されていた息がぐっと詰まり、旭のナカに熱が流れ込んだ。
もう何度中で受け止めたのだろう。昨夜から何も食べていないはずなのに、ぽっこりとおなかが膨らんでいる。
無意識にそこを撫でると、ドクンと鼓動のような動きを感じた。
そういえばここには今、神様のたまご? があるんだった。もしかしたらたくさん精を得られたと喜んでいるかもしれない。
あと十日余りで孵ると土地神は言っていたが、そもそも『孵る』ってどういうことだろう。孵るというからにはたまごのまま出てくるということはないだろう。じゃあどうやって出てくるんだろうか。
忌避感が強すぎて、全く細かい話を聞いていなかった。今度また会ったら聞いてみよう。
なんて考えているうちに気が付けば、後ろにいたはずの巴が今は真上にいる。しかも眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな顔で。
「何か考え事?」
苛立ちを含んだ声に、また心が喜んでいる。
求められている、そう感じるだけで堪らない気持ちになる。
――巴が俺のことを神様だと言ってくれるのなら、俺は巴だけの神様であり続けよう。
そうすれば、巴にとって特別な存在できっといられるはずだから。
まずはそうだな。いい加減腹をくくって、役目の話をしようか。
「巴、俺の話聞いてくれる?」
旭の言葉に巴は一瞬目を見開いたが、すぐにまた眩いほど美しくて優しい微笑みを向けた。
「もちろん」
その笑顔の美しさに、やっぱり神様は巴の方なんじゃないかな、と旭は思った。
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