脇役のオッサンが異世界無双

伊藤柳星張

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二章

ボーイミーツガール パート1

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  気づけばソウザは白ずんだ空間に浮かんでいた。
空間には小さなテーブル席に男女が二人。
ソウザはそんな彼らを俯瞰するような形で眺めていた。

一体これはなんなのかと、ソウザが手足を動かそうとしても指先一つ動かない。
そもそも手足の感覚すらない。
まるで自分の体と意識はこの空間に溶け込んでいるようだ。
視覚と聴覚だけがはっきりしているが、その視線は男女二人に固定されて動かすこともできない。
その上頭の中は霞みがかったようにはっきりせず、ソウザは結局彼らを眺めていることしかできなかった。

男女は両方共年頃で女の方は、顔はわからないが美しいブロンドの髪を流した美しい女性、とだけがわかった。
雰囲気的には自身の母ヴィクトリアに似てると思った。
男の方は姿形すらもぼやけていて特徴すらもわからないが、自身の父ウェイブではないことだけがわかった。

男女二人はソウザの存在など気づいてもいない様子で紅茶とケーキを楽しみながら会話を楽しんでいた。
その仲睦まじい二人のやりとりを見る限り、恐らく彼らは恋人か夫婦なのだろう。

「で、■■■。体の調子はどうだい?」
男が対面の女性に優しげな口調で話しかける。
名前の部分はうまく聞き取れない。
「いつもどおり。なに急にどうしたの? いままでそんな心配なんてしたこともないくせに」
女性はクスクスと可愛らしく笑いながらそう返すと、男は少し慌てた様子でそして若干嬉しそうに
「い、いや。君がだいたいのことには無敵なのは知ってるよ?
ただ今回ばかりは少しね。
ほら、お互いはじめてのことだし、子供が生まれてくるなんて、さ」
とはにかみながら弁解した。
見れば確かに女性のお腹は膨らんで見えた。
女性が自身のお腹を優しく撫でる。

「確かにそれはそうだけど、貴方に心配されるなんてなんだか気持ち悪い」
「き、気持ち悪いって、ひどいなぁ■■■は」
「嘘よ。ありがと■■■■」

男は彼女を心から気遣い、女はからかいながら親愛の情を男に向ける。
どちらもお互いを大事にしてることは彼らのやりとりで存分に伝わってきたが、
ソウザにはどうして自分はこんな状態で彼らを眺めているのか、
一体二人の男女は誰なのかは一向にわからなかった。
考察をしようにも頭の中は霞がかかりまるで綿飴のなかを泳いでるかのようにぐちゃぐちゃとかきまざるばかりだ。

せめて顔さえ見えれば、とソウザが動かない体を無理にでも男女に近づけようとした。
その瞬間、見ていた景色が急に切り変わった。
見えている景色はテーブルと、そのテーブルを挟んだ先にいるブロンドの髪の女性。
どうやら視界だけが男のものに切り替わったことが感覚でわかった。

ソウザはこの出来事にたいして驚きもせず、彼女が何者なのかとすぐさま彼女の顔を注視した。
向かいに見える女の顔は顔の上から霧がかかったように白いモヤが邪魔をして表情までは読み取れない。
どうにか見えないものかと、目を細めてみると(実際には男の体なので細めようがないが)
だんだんと女の顔にかかったモヤが薄れてきた。
もう少しで顔が見える。
ソウザがさらに目を細め注視したその時、
「さてそろそろ時間だ、いってくるね」
と男が席を後ろに引き立ち上がった。
女の顔は視界から離れ遠ざかりもう少しで見えそうだった顔がまた見えなくなった。
オイ、と出ない声でソウザがツッコむ。

「まだみんな休憩中よ。もう少しゆっくりしていけばいいのに」
女の方が穏やかな口調で男に話しかける。
「そうはいかないよ。お義父さんに仕事を任されてはじめての収穫期なんだ。
のんびりとはいかないさ」
「あら、身重の妻と話をするより仕事の方を優先するのね。
まだ結婚して一年も経ってないのに、これはお母様に相談しないといけないのかしら」
女はわざとらしく腕を組み、そっぽを向く。
「■、■■■……困ったな」
男は言葉の通り、困った様子で女の顔を見つめる。
男が今どんな顔をしているかはソウザには大体わかった。
女はしばらく男の顔を横目で眺め、
「しょうがないわね、これで許してあげる」
と男の方に両の手を差し出した。
それを見て男はふ、と短く笑い恭しく礼をした。
「……それで機嫌が直るならいくらでもお姫様」
男が彼女の前に膝をつく。
「あら次は許さないんだから」
そう言いながら彼女の両の手が男の背中に回る。

やりとりの一部始終を自分に見られていることを知ったらこの夫婦はなんというのだろうか。
ソウザは内心鼻で笑いながら、このやりとりに辟易していた。
何故オレがこんな不自由な思いをしながら、誰とも知らない男女の睦言に付き合わないといけないのか。
はっきり思考ができない上に、こんなものを見せられたらたまったもんじゃない。
少しばかり真剣に彼らを探ろうとしていた自身がただのバカだった。
もういいから早く終わってくれという感情が彼女の中を支配していた。

ソウザの視界は未だに男の視界と同調したままだ。
男の顔が近づくことでソウザの視界も彼女の顔に近づく。
そこでやっと白いモヤが晴れ、彼女の顔を露わにした。

もう既にソウザには女が何者であろうが興味はない。
絶世の美女であろうが、とんでもないブスだろうが、このが終われば忘れてやる気持ちであった。
だがしかし、
彼女の顔を視界に捉えた瞬間ソウザは横合いから思い切り殴られたような感覚を味わった。

見えたのは前者、とんでもない美人の方であった。
美しいブロンドの髪、目鼻立ちした母親譲りの整った顔、そして小さな口から覗く可愛らしい八重歯。
しかしこれは、とソウザが困惑する。

何故なら、
この女をソウザは知っている。
自分の顔からは幾分か大人びては見えるが見間違うはずもない。


 自身の顔は文字通り目と鼻の先。
この男が何をしようとしてるかは火を見るより明らかだ。
そして男は、
「じゃあ、行ってくるよソウザ」

と男はソウザに優しく告げながら、唇を重ね合わせ——



「やめろおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
人生で一度もしたことのないような喉が張りさけるほどの大絶叫。
自身の咆哮が脳内に何億とこだまし、同時に目の前の風景をグニャグニャと歪ませていく。
そして叫び終わると同時に、ソウザは文字通り跳ね起きた。

「………………ぁ?」
ソウザの目に映っているのは見慣れた自身の部屋。
急な視界の転換に一瞬面を食らったが、先ほどの出来事が何なのかをソウザはやっと理解した。
「……ちっ、最悪な夢見だぜ」
ソウザは悪態をつきながらベッドから降りると窓のカーテンを開ける。
窓の外はまだしらやんでいて、鳥のさえずりが聞こえるとこを見ると日が完全に昇るまでもう少しといったところだ。

普段ならもう少し寝ているところだが今更二度寝という気分にもなれない。
ソウザはため息を吐き、着替えるために寝間着のボタンに手をかけたその時、
「……うう、うん。お嬢うるさいっす……もう少し寝させてください」
ソウザのすぐ後ろから間の抜けた声が聞こえてくる。
聞き覚えのある声は自身のいたベッドから聞こえてくるようだ。
起きた時には気づかなかった人一人ぶんあるシーツの丸み。
ソウザはシーツの端を掴んで勢いをつけて剥ぎ取る。
そこには仕事着のままのネイム家のメイドが丸くなっていた。
見てくれは美人なのだが、みたままに残念な使用人。
そして屋敷の中でソウザが一番仲の良いメイド、アルフェリである。

「……アルフェリ、お前は家猫かなにかか」
「……いいっすねぇ猫、生まれ変わるなら次は猫がいいっす」
「今オレが告げ口すればその願いはすぐにでも叶うぞアルフェリ…………あのなぁ、いいから起きろこのダホ娘!!」
ゴロゴロとソウザの枕を掴みながらベッドで寝転がるアルフェリにイライラしたソウザは勢いよくベッドマットをひっくり返す。
「ふぎゃ」
カエルが潰れたような声を出しながらアルフェリは二回転がり締め切りのドアに顔をぶつけた。
しくしくいたいっすお嬢……と芝居がかった声を出しながら未だに起き上がらないアルフェリに、
ソウザはため息をついた後邪魔だと言わんばかりに後ろ足で踏みつけながら逆に蹴り出す。
アルフェリはまた二回転した後ソウザがひっぺがえしたマットに軟着陸した。

「なんすかお嬢、いつもならこっちで寝てても文句言わないのになんか機嫌わるいんスか」
アルフェリが微妙に不満そうな声出しながらソウザに向ける。
「……別に好きにオレの部屋に入っていいとは言ったが、ベッドを貸すという意味じゃねぇ。
てか遠慮なく雇用主の娘の部屋に入ってきやがって。
まったく変な夢みたのも絶対お前のせい……」
そう機嫌悪そうに返したソウザだがそこで言い淀んだ。


「夢? ……ああめっちゃ叫んでましたもんねお嬢。怖い夢でも見ました?」
「うるせぇ忘れろ」
「もしかしてエッチな夢スか? まぁ~お嬢も年頃っすからそろそろそういうのも」
「いいからもう一度寝てろこの駄メイド」
ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべているアルフェリに、
ソウザは近くにあった枕を彼女の頭に勢いよく投げつけ、川に出てくると言い残しドアを叩きつけるように閉めながら部屋を後にした。

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