愛されたがりのオオカミは、愛したがりのトラに抱かれる。

野中にんぎょ

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おれたちの帰る場所

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 シシに手を引かれ辿り着いた場所に、マダラは瞳を瞬かせた。
「だめ、シシ、俺、ここ家賃入れられなくなって……」
 かつて二匹で生活していたアパートを前に、シシはマダラの手をもう一度握り返した。「うん。分かってる。だから、買ったんだ」その言葉の意味を咀嚼する間もなくマダラはシシに手を引かれ二階のドアの前まで連れて行かれてしまった。
「買ったって、どういう……、」
「文字通りだよ。この部屋に他の誰かを入れたくなかったから、買った。株やってた頃のお金が残ってたから、それ全部はたいて、このアパートごと買った」
 かぶ。マダラはエバーと剥いていたカブを思い浮かべ小首を傾げた。シシは懐から鍵を取り出し鍵穴へ差し込んだ。扉はいつもの音を立てて開いた。
「君が居た頃の部屋を再現したくて、あれこれしたんだけど……」
 ばつ悪そうに視線を逸らすシシ。部屋の中を見てマダラは目を丸くした。六畳しかない部屋の中には、毛足の長い高級そうな水色のラグと、ちゃぶ台というよりはインテリアの要素の強い丸いローテーブルが置かれている。部屋の隅に畳まれている布団でさえ、かつて使っていたものよりもずいぶんと寝心地がよさそうだ。
「……ホント駄目だ。かっこ悪いよね、僕……」
 俯いている年下の雄の手を、マダラはそっと引いた。
「どんなに広くても、どんなに綺麗な景色が見える窓があっても……だろ?」
 シシはその言葉に糸を引かれたように面を上げ、マダラに向き直った。
「そうだよ。君が居れば、君さえ居てくれれば、そこが僕の帰る場所になる。……君が僕の全てだ、マダラ……」
 心を重ねて、唇を重ねる。優しく啄むようなキスを繰り返しながら、履いている靴を、上着を、シャツを脱ぎ捨てる。ラグへ横たわると、高級感あふれるそれなのに、日に焼けた藺草の甘い香りがした。裸になった二匹はじゃれるようにしてラグの上を転がり、互いの素肌に頬や唇を擦り寄せた。
 マダラの目の前でなくしていたロザリオが揺れている。鈍く金色に光る十字に指先で触れれば、そのロザリオを首から下げたシシは「勝手に持って行っちゃって、ごめんね」と囁きマダラの胸に光る黒のロザリオに触れた。
「本当は、こうやって身につけるものじゃないんだよ」
「そうなの?僕、マダラがいつも首から下げてたから、てっきり……。でもマダラ、君だって……」
「俺にとってそのロザリオは祈りの道具じゃなく特別なものだったから」
「じゃあ、いま首に下げてくれている、これも?」
 期待の眼差しを注がれながら組み敷かれ、マダラは胸を高鳴らせた。黒のロザリオに触れていた手がゆっくりと逸れ、マダラの身体の輪郭を撫でていく。尻尾をシシの脚にすり寄せて焦れていることを伝えれば、シシは熱く湿った息を吐いてマダラを睨むように見つめた。
「わけわかんなくなっちゃう前に、今度はちゃんと訊いておきたい」
 再び一呼吸置いて、シシは「僕を愛してる?」と揺れた瞳でマダラに尋ねた。この間にも二匹の周囲に互いのフェロモンが漂い始め、マダラの爪先がラグを掻いた。
「お前はこの短い月日で十分に雄らしくなれたの?」
 熱っぽい視線を受けながら意地悪く問えばシシは小鼻をぴくりと震わせた。
「君は僕の何歩も先を歩いてて、自分よりも他人を思えるひと。僕はずっと君に憧れてた。君の前で自信があったことなんて一度もない。ああ、君には分からないだろう。僕がどれだけ眠れない夜を過ごしたか、君に僕を思い出してもらおうとどれだけ躍起になったか!」
 フェロモンの霧が部屋を満たす前にと声を荒げるシシ。マダラは彼の下で「ふ」とほどけたように微笑み、その背に腕を回した。
「お前だって、知らないだろ。お前はいないのに、頭の中がお前でいっぱいになって、職場では失敗ばっかりして、クビになっちゃった俺のこと……。視界に入れるだけで胸が苦しくなるから、ロザリオの贈り物を何か月も開けられなかった俺のこと」
 そんな、うそだ。そうとでも言いたげに唇を震わせるシシ。マダラは目の前の頬に触れ切なげに彼を睨んだ。
「そんな俺を知らないくせに、僕は僕はって、お前はやっぱり子どもだよ。……でも俺は、そんなお前を……シシを……」
 どちらともなくきつく腕が回される。「お前をあいしてる」そう囁いた声はうち震えていた。
栓を失ったようにシシのフェロモンが辺りに溢れかえる。爪先から頭の天辺まで肌がざわめき、おぞけと性感が互いを結びたがって全身を行き来した。
 下腹にシシの五本の指が押し付けられる。ハッとして見つめると、シシは肉食獣のそれらしくマダラの首筋から頬をべろりと舐め上げ獲物を見下ろした。
「ここに、僕の赤ちゃん作ってもいい?」
「シシ、俺、赤ちゃん欲しいけど、できたことないし、育てたことも、」
 疼く身体を捩らせながら言えば、シシはマダラの口を手のひらでふさいだ。
「欲しいって、言ったね?返事はそれだけで十分だよ。僕の姉さんたちは皆子どもがいるんだ。お腹が大きくなるまでのことはここに仕込んでから教えてもらおう?子育てのことならトラ以上に熱心な種族はいない。何匹産んでも僕がみんな大切にしてあげる。……だから安心して。いっぱい孕んで、いっぱい産んで」
 性感を引き出すようにすぼまりを擽っていた指先が濡れた縁をくぐる。二本の指はぐぷぐぷと容易く奥まで行きつき、“行き止まり”を確かめるかのように動き始めた。
「あ、あ、だめ、や、ししっ、へんなとこ触らないでっ」
「赤ちゃんの部屋、ちゃんと下りて来てる。入口までの道もふかふかだ。……もっとフェロモン出せる?そうしたら入り口ももう少し柔らかくなって孕みやすくなるから」
「むりだ、おれ、そんなことっ」
 シシは眼差しを鋭くしたままマダラの尻尾に触れた。「あっ」さらさらと毛を逆立てるように指を滑らせ根元まで行きついたかと思うと、次は付け根を規則的に叩き始める。マダラの身体にぶわりと汗が噴き出した。「なぉっ、にぃっ」掠れた鳴き声が切れ切れに上がり、尻尾はすぼまりを晒すようにピンと上がった。
「なあお、あおん、しし、だめ、そこ、やあぁ、」
「ほら、ここトントンしてあげる。もっと出せるでしょ?頑張って……」
 奥の入り口を指先で揺すられながら尻尾の付け根を刺激されると頭の中が真っ白になった。赤ちゃん、本当にお腹に来ちゃうんだ。マダラは強い性感と受精の予感に身を震わせた。
「中、よく濡れてる。僕のこと欲しがってくれて嬉しい……」
 シシのフェロモンに応え、マダラのフェロモンも際限なく溢れ出す。太ももに擦り付けられているシシの固く反りかえったそれ。マダラはおもむろに手を伸ばし、シシの性器を手のひらで包み込んだ。
「ん、マダラ、今は駄目。無駄打ち、したくないし」
「でも、くるしそう、かわいそう、あっ、ん、んう、きゃう、」
 中を行き来する指が深いところを抉り、いたずらに性器に触れたことを咎める。けれどマダラは再度そこに手を伸ばして拙く上下に扱き始めた。
「あ、マダラ、くそ、駄目だって、」
「くそって……、お前もそんな言葉使うんだ」
 微笑むマダラをシシはぎらりと睨んだ。それでも、マダラは目を細めてシシのそれを熱心に扱く。「う、あ、まだらっ」シシもたまらず頭を振り立てる。可愛いシシが乱れている様は胸がきゅっとなるほどいたいけで、マダラはそんなシシをつぶさに見つめた。
 マダラに覆い被さりシーツを握りしめていたシシがゆらりと身体を起こす。「あっ……」シシは中に埋めたままになっていた指を引き抜き、マダラの膝の裏を掴んで両脚を深く割り開いた。
「マダラの身体、柔らかいね」
「やだ、こわい、しし、」
「大丈夫。すぐに気持ちよくなるからね……」
 入口と切っ先は互いに熟れた湿り気を帯びていて、シシが腰を進めればマダラが何をせずとも簡単に繋がり合った。次第に強烈な圧迫感が忍び寄り、マダラは息を飲んだ。膝がシーツにつきそうなほど両脚を開かれ腰が浮く。急所を隠そうと腹に回った尻尾は縞模様の尻尾に絡めとられ、マダラは息をするので精一杯になってしまった。
「は、は、はあっ、は、はっ……!」
「初めてだもん。苦しいよね。……でも、頑張って。赤ちゃんが来てくれるように、一緒に動こうね」
 たしたしと尻尾の付け根を叩きながら言われて、マダラは頬に伝う涙を飲んだ。中を蠢く熱く硬いそれに合わせて拙く腰を揺する。奥を突かれると痛いのに、痛いからこそ気持ちよくて、マダラは涙を流して喘いだ。
「う、あ、ああ、ぐるるる……っ、うぅあ、きゃあっ、ンうぅっ……!」
「ああ、僕、いきそう、マダラはっ……?」
 いきそうなのか、そうでないのか、分からない。けれど腹の奥がどんどん熱く重くなっていく。マダラは腰をくねらせて胸を反らした。ぴんと張りつめたマダラの乳首をシシのざらついた舌が舐め上げる。
「ああっ、だめっ、そこ、いたいっ、あついっ……!」
「ここ、今から刺激しとけば赤ちゃんが生まれる前にミルク出るようになるからね。いっぱい舐めとくね……」
 柔い突起を舌で嬲られマダラは一層熱い涙をこぼした。薄い胸板に飾りのようについていただけのそれが痛みに甘く疼いて膨れる。陰茎を思いついたように扱かれると、マダラはいとも簡単に果ててしまった。
「あ、マダラ、いく、いくから、いきんでっ……!」
 達したばかりでぼうとしている意識のまま、マダラは言われるがまま腹に力を込めた。次の瞬間、熱が腹の中に迸る。ぐっぐっと腰を押し付けられ、マダラは甲高い声を上げながら再び快楽の高みへ駆け上った。
「マダラ、もうちょっと頑張ろうか」
 子種を注ぎ終えるや否や、シシはマダラの身体を転がし腹ばいの格好にさせた。息つく暇もなく後ろから挿入され、マダラは思わず「待って!」と声を上げた。
「お、俺、本当はネコなの。だから、何度もされたら、たぶん、何匹も産んじゃう……」
 真っ赤にした頬を震わせながら告白すればシシは困ったように微笑みマダラの頬にキスを落とした。
「うん、知ってる。だから大丈夫だよ。言ったでしょ、安心していっぱい産んでって」
 うそ、なんで、いつから。驚きに見開かれたマダラの瞳にシシの微笑みが映り込む。戸惑っている間にも項を噛まれ律動は激しくなっていき、マダラの意識は甘いフェロモンと強い性感に飲まれていった。「しし、ししっ」名を呼び振り返れば深い口づけが返って来る。マダラは瞳を閉じて彼の温みと匂いに心を研ぎ澄ませた。


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