これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子

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第8章

見た目に騙されてはいけません 2

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 それにしても、弘樹が婚約者候補だったという話は初耳だ。この前弘樹が私を家に送ってくれたとき、母と弘樹、二人ともそんな素振りを見せなかったのだ。これは帰って母に問いつめなければ。

 そんな私の思いとは裏腹に、徹也くんはハッとした表情を浮かべると、彼女のことを説明するのを忘れていたと、今さらのように話し始めた。

「そう言えば、この前紹介してなかったよな、ごめん。こちらは坂下さかした……」

 そこへ、最後まで徹也くんが紹介する前に、彼女が割って入った。

「初めまして、私、坂下雪奈ゆきなです。晶紀ちゃんのお話は、随分前から徹也から耳にタコができるくらい、よく聞かされてたから、こうしてお会いできて嬉しいわ」

 にこやかに挨拶をされ、私と弘樹はその笑顔に圧倒された。坂下さんの声は掠れ気味で、女性にしては少し低い。
 そして坂下さんの右手薬指には、弘樹がチェックしていた通り、しっかりと指輪が光り輝いている。

「えっと……、あ、初めまして。高田晶紀です」

 まさかこんなふうに面と向かって会話をすることになるとは思わず、私は動揺が隠せずしどろもどろだ。弘樹は、アイスコーヒーを飲み干しながら、その場を見守っている。

「私たち、それこそ学生時代からの付き合いでね。あ、付き合いって言っても、そういった関係とかじゃないから安心してね」

 坂下さんの説明に、徹也くんもそうだと必死で頷いている。
 そんなこと言われても、雑魚寝とはいえ一緒の現場を見てしまってるだけに、すんなり信用できるわけがない。
 坂下さんは私たちのことはお構いなしに、話を続けた。

「昨夜は『今日は新居の内覧だ』って、散々惚気に付き合わされていたのよ。結納の翌日もそう。晶紀ちゃん、本当にお人形さんみたいで可愛いっ。このままうちに連れて帰りたいっ」

「おい、やめろよ」

「やぁねぇ、これくらい軽く流しなさいよ。器の小さい男ねぇ」

 坂下さんのテンションについていけない私は、はぁ、としか返事ができない。
 弘樹に関しては、胡散臭そうな眼差しで坂下さんと徹也くんを交互に見つめている。

「で、今日は内覧する約束だったのに、なんで晶紀は僕を起こさず帰ったの? 急に帰ったから母さん驚いてたぞ」

 徹也くんの言葉に言い返したいのに、上手い言葉が見つからない。

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