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1巻
1-2
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彼の話を聞いて、ますます私も智賀子さんも困惑している。事情は理解したものの、なぜ私なの? 智賀子さんのお友達で信頼できる人なら、きっと他にもいるだろう。
それよりも、彼は本当に私のことに気づいていないのだろうか。それとも、気づいていて敢えて知らない振りをしているのか。一体、何の意図があってこんなことを言い出すのか……
たしかに私は独身だけどシングルマザーだし、シングルマザーへの偏見や風当たりが強いのは私自身が身をもって経験している。そんな私が高宮家の花嫁だと、それこそ彼に迷惑をかけてしまうに違いない。
おそらく私と同じことを考えていた智賀子さんがおもむろに口を開いた。
「たしかに私は、雅人さんに『独身で口が固くて信頼できる人を紹介してほしい』と言われて、今ここにいる文香さんが思い浮かんだけど……申し訳ないけど、そんな事情なら紹介はできない。あなたのバックには高宮グループがあるんだよ? 文香さんだけでなく、史那ちゃんまで世間の目に晒すような真似はできない」
智賀子さんの声色はいつもと違って怒気を含んでいる。
母である智賀子さんの、いつもと違うただならぬ雰囲気に、愛由美ちゃんがグズり始めた。
智賀子さんも慌てて愛由美ちゃんを抱っこする。
「びっくりさせてごめんね。あゆちゃんに言ったんじゃないよ、大丈夫だからね」
愛由美ちゃんは智賀子さんにしがみついて離れそうになさそうだ。
智賀子さんは少し席を外すと言って、愛由美ちゃんを抱っこすると隣の部屋へと移動して、この場には彼と私と史那の三人が残された。史那も愛由美ちゃん同様に驚いて私にしがみついている。
私は史那を膝の上に抱き彼を見つめると、彼は何とも言えない表情を浮かべている。
「……たしかに智賀子さんの言う通り、私のバックには高宮の名前が常につきまといます。史那ちゃんの存在を考えると、今回の話をお願いするべきではないとは思います。でも……もし、今回の件を承諾して頂けるなら、私は全力であなた方親子を守ります」
彼の態度に嘘は混じっていなさそうだけれど、こればかりは私にはわからない。
智賀子さんが反対した理由は、きっと自分も一般家庭の出身だから、もし仮にこの話を私が受けた場合、後々苦労するのがわかっているからだ。
彼ならきっと有言実行で私たちを守ってくれるだろう。でも、彼の家族や親戚の人たちや、高宮家を取り巻く環境はどうだろうか。私だけならともかく、史那に対して理不尽な態度を取られるようなら……ましてや私の目の届かないところで史那が嫌な思いをするようなことがあるならば、私の答えは一つだけだ。
「高宮さんの事情はわかりました。でも、この通り私には娘がいます。史那のことは、ご家族の方にどう説明されるおつもりでしょうか?」
史那は自分の名前を呼ばれたことで、私と彼の間を交互に見つめている。
「それは問題ありません。もし承諾頂けるなら、あなた方親子に関して親戚一同、文句は言わせません。お約束します。……今井さん、お願いできないでしょうか」
まるで土下座することすら辞さない勢いで頭を下げる彼に、史那が不思議そうな顔をする。
「ママ、なんでこのおじちゃんあやまってるの?」
彼が私に頭を下げているのが、史那には謝罪しているように見えたのだろう。私は史那にそうじゃないと言うものの、どのように説明すればいいのかわからない。
そんな史那に向かって、彼が声をかけた。
「はじめまして、史那ちゃん。おじちゃんが、君のパパになってもいいかな?」
唐突な彼の申し出に、史那は一瞬キョトンとしたものの、愛由美ちゃんや児童館で会うお友達には父親がいるのに、自分には父親がいないことをやはり寂しく思っていたのだろう。史那の顔に笑顔が浮かんだ。
「おじちゃんがふみなのパパ? おじちゃん、ママのことすき?」
史那の問いに、彼は答えた。
「うん、好きだよ。だからおじちゃんは、史那ちゃんと史那ちゃんのママと、家族になりたいんだ。史那ちゃん、おじちゃんが君のパパになってもいいかな?」
史那が『ママのこと好き?』の問いに、すんなりと『好きだよ』と返事する彼の真意がわからない。だからまだ、彼の言葉を鵜呑みにしてはいけない。
彼が史那の目線に合わせて話をする。
史那は驚きの表情を見せたものの、パパになりたいという言葉に喜びを隠せない。
「ほんとうにふみなのパパになってくれるの? あのね、あゆみちゃんにはパパがいるのに、ふみなにはいないの。ふみな、いいこにしてるのに。クリスマスプレゼントで、サンタさんにパパをおねがいしても、ママがそれはむりだっていうの」
史那の返事に私は思わず口を挟みたくなるものの、もう手遅れだ。史那はすっかりその気になってしまっている。追い打ちをかけるかのように、高宮が史那に語りかける。
「史那ちゃん、いいこにしてるの? じゃあ、おじちゃんが史那ちゃんのパパになるって約束するよ。おじちゃんは、君たちを泣かせるようなことはしないし、何があっても守ってみせるから」
そう言うと、史那の目の前に小指を立てて出してきた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 勝手なことをしないで‼ 私はまだ了承もしていないのに、何で史那にそんなことを言うんですか? 史那に取り入ってその気にさせるなんて卑怯じゃないですか⁉」
私の言葉なんて無視して彼は史那と指切りげんまんをしている。史那と約束を交わした後、改めて私に向かって口を開いた。
「今、史那ちゃんにも約束しました。私は何があってもあなたたちを守ります。子どもの前で嘘なんて吐かないし、この言葉に嘘偽りはありません。突然こんなことを言われて困惑するのは充分承知でお話をしております。もしよろしければ、一度きちんと考えてみてもらえないでしょうか」
高宮が何を考えているかわからない。口ではそんな甘いことを言って、また裏切るのではないかと思わずにはいられない。そう、『あのとき』のように。
子どもの目の前でこんなことをいけしゃあしゃあと言ってのける彼に対して、腹の底から怒りが込み上げてくる。それなのに、私は何も言えなかった。こちらを見る高宮と、史那の顔が、あまりにも似すぎていたから。そう──彼こそが、史那の『父親』なのだ。
愛由美ちゃんが落ち着いたのか、智賀子さんに抱っこされて二人が戻ってきた。
愛由美ちゃんはもう泣いてはおらず、でも手にはベビー用のおせんべいがしっかりと握られていた。
智賀子さんが席に戻ると、彼はおもむろに口を開いた。
「今、史那ちゃんにはパパになってもいいと言ってもらえたから、今井さんの返事待ち。今井さん、連絡先を交換してもらえますか?」
先ほどのやり取りを智賀子さんは知らない。知ればきっと智賀子さんも私と同じく怒りの感情をあらわにするだろう。でも今ここでそれを伝えると、せっかく愛由美ちゃんも落ち着いたところなのに再びグズグズになるのは目に見えている。これ以上智賀子さんを巻き込むわけにはいかない。それに、一番最初に彼の口から『期間限定』の言葉が出たのだ。詳細を聞くためにもやはりもう一度改めて会って話をする必要がありそうだ。
私はいろんな言葉が溢れ出しそうな自分の感情を抑えてバッグの中からスマホを取り出すと、連絡先を交換した。
連絡先交換が終わったら、彼は最初から長居をする気はなかったらしく、席を立つと智賀子さんが見送りのために後に続く。史那は彼がパパになる約束を交わしたばかりなのに彼が帰って行くことに驚き、智賀子さんの後を追って玄関へと駆けていく。私は一人、リビングでその様子を茫然と眺めていた。
玄関先で話し声が聞こえるものの、せっかく暖まった室内の空気を逃がさないために閉ざされたリビングの扉がその声を遮って、こちらには何を話しているかは聞こえない。高宮が千賀子さんの家を出て少ししてから、智賀子さんと愛由美ちゃん、史那が戻ってきた。
智賀子さんが有料動画配信チャンネルで子ども向けのアニメをつけて、子どもたちに見せて気を逸らせている間に、大人同士で話をする。
「まさか雅人さんの話があんなことだっただなんて……文香さん、嫌な思いをさせてごめんなさい」
智賀子さんは私に深々と頭を下げた。
「そんな、智賀子さん、頭を上げて。内容なんて知らなかったんでしょう? たしかにびっくりしたけど……」
「私自身が普通の家庭から沢井の家に嫁いで来て、夫や夫の両親、夫の姉夫婦には可愛がってもらってるけど、親戚や対外的なお付き合いは本当に苦労してるから……ましてや文香さんには史那ちゃんがいるから、史那ちゃんまで巻き込んでしまうと思ったら口を挟まずにはいられなくて。私が席を外している間に何か変なこと言われたんじゃない? 本当にごめんなさい」
やっぱり智賀子さんは私のことを考えた上で彼に噛みついてくれたんだ。その気持ちが嬉しかった。
智賀子さんは続けて口を開く。
「大体、何でそんな大事なことを私の友達に頼もうとするのがまずおかしくない? そんなの、自分の知り合いに数年契約とかでお願いすればいい話じゃない? 『高宮専務の妻』なんてポジション、きっと誰もが狙ってるよ。それなら、それを逆手に取って、離婚のときにある程度まとまったお金を渡せばそれで済む話でしょ。まさかそんなことを文香さんに言うような人だと思わなかったの……嫌な思いをさせて、本当にごめんなさい」
たしかにそうだ。
でも彼は、あえて智賀子さんの知り合いで口の固い人という条件を出して私に当たったということは、彼の周りには、本当に信頼できる人がいないのかも知れない。
そう考えると、仮にそんな人の中から誰かを選んで契約結婚をしたとしても、相手が高宮の名前に固執するあまり、離婚後も揉めごとが絶えないなんてことも考えられる。
いや、それよりも史那が彼の実の娘だとわかったら、それこそ私との契約結婚の話はどうなるのだろう。契約満了時、つまり離婚するときに、下手したら高宮家に史那を奪われてしまう可能性もあるの……? それだけは絶対に避けなければ。史那も彼に懐かなければなんとかなるかも知れないという考えは、現時点での可能性は限りなくゼロに近い。
「さっき、高宮さんからも『期間限定』って言葉が出たから、後日改めて連絡を取ってみようかと思ってるの。からかわれてるにしては手が込みすぎだし、史那にまで取り入って外堀を埋められて逃げられなくされてしまったら、話だけでも聞いてみないと納得もいかないし……」
「うん、そうだね。でもすぐに返事しなくていいよ。もしかしたら、それまでに適任者が現れるかも知れないし」
私たちはそう言うと、この話を終わらせた。
彼から連絡が来たのは、翌週月曜日の夜。
連絡先を交換した無料通話アプリにメッセージが届いた。
『高宮です。金曜日の夜は失礼しました。もしよろしければ、一度二人だけでお会いしてお話ができればと思いますが、ご都合はいかがでしょうか?』
絵文字やら顔文字は一切ない、淡々と用件を伝えるメッセージだった。
気がつかなかったとスルーするつもりが、誤って既読をつけてしまったので無視をする訳にはいかないだろう。
あれから数日空いたことで私も多少は冷静に考える時間があり、今回の彼の提案は断る方向で考えが固まっていた矢先のメッセージだ。
史那を理由に断るにしても、会ってしまうとまた先日みたいに流されてしまいそうだ。
画面を見つめながら文章を考えている時に、史那が私を呼ぶ声が聞こえ、スマホは一旦放置した。
「ママ、えほんよんでー」
史那はそう言って、最近のお気に入りである絵本を私に差し出した。
TVでも放送されている国民的なキャラクターの絵本で、史那のおもちゃもそのグッズで溢れている。私は絵本を受け取ると、史那の隣に座って一緒に絵本のページを開いた。
ある程度一緒に読んで満足したのか、史那も眠そうな素振りを見せたので、絵本を閉じると私は史那を寝室へと連れて行った。入浴も歯磨きも済ませており、そのまま一緒に布団に入ると安心したのか史那はそのまますぐに眠りについた。
私もしばらくの間史那の隣でじっとしていたけれど、熟睡したのを確認すると、布団から出て明日の朝の準備をした。
いくら実家で世話になっているとはいえ、家事の全てを母任せにする訳にはいかない。
みんなが使った食器を洗って片づけたり、洗濯物をしまったり、少しでもやれることはやろうと行動を起こす。
私がキッチンで片づけをしていると、物音を聞いた母がやって来た。
「お茶でも淹れようか?」
洗い物が終わり、食器の水気を切ってちょうどふきんで皿を拭き終わったところだった。私は母に声をかける。
「寝る前のカフェインはいいわ。それより、史那ちゃんはもう寝たの?」
母はダイニングの椅子に座って私を見つめている。きっと何か話があるのだろう。
「うん、寝入りは早かったよ。今日は日中何やってたの?」
私は食器棚に器を片づけながら母に聞いてみる。いつもなら寝る前はグズグズになるのに、今日みたいにすんなり眠りに落ちるのは珍しいことだった。
「今日は児童館まで歩いて行ったの。子どもには結構な距離があるから疲れたんだろうね。グズらずにちゃんと歩いてくれたから助かったわ」
児童館は、実家から大人の足で片道三十分は余裕でかかる距離にある。それを母と二人で歩いて往復したとなると、疲れるのも納得だ。
「史那ちゃん体力あるから、夏場はプール遊びで体力消耗させないと身がもたないわ」
母も今日はお疲れの様子で、私は母の向かいの席に座った。
私の家事が一通り落ち着いたのを確認すると、母が切り出す話題は、あのことだった。
「史那ちゃんから聞いたけど、あなた、結婚するの?」
彼が『史那のパパになってもいいか』と言ったことを史那が母に話したのだろう。
「まだどうしようか悩んでる……」
溜息を吐きながら答える私に、母は高宮のことを聞いてきた。
そりゃそうだろう。自分の娘が結婚するかも知れないのだから、相手のことが気にならない訳がない。ましてや、義理の息子になるかも知れない相手だ。自分たちの身内になる人間がどんな人なのか、母だって知る権利がある。
「少なくとも史那ちゃんの口ぶりでは、悪い印象は受けなかったけど、まだ子どもの言うことだから真に受けるわけにもいかないし。お相手はどんな方なの?」
私は、先週の金曜の夜の出来事を母にどこまで話をしていいか考えた。契約結婚だなんて、母が聞いたら卒倒するに違いない。なので、契約のことは抜きにして、智賀子さんの家で高宮を紹介され、事情があって結婚を急いでいると話した。話を聞いた母は、困惑の表情を浮かべている。
当たり前だ。
もし高宮家に嫁ぐことになったとした時の私の苦労は想像もつかないし、史那にも今のようには会えなくなる可能性だってあるのだから。
「まだきちんと返事はしないほうがいいわね。文香は高宮さんのこと、よく知らないんでしょう? それに、そんなので仮に結婚しても、うまくいかなかったとき……考えたくないけど、離婚なんてことになったら、史那ちゃんを傷つける可能性だってあるんだよ。文香一人だけの問題じゃない、史那ちゃんのこともあるんだからね」
母も智賀子さんと同じ意見だ。
「さっき、スマホに一度二人で会ってきちんと話をしたいって連絡があったの。私も史那のことがあるし、ここまで外堀を埋められて逃げ場をなくされた以上、きちんと話を聞いた上で今後のこととか考えたいから、仕事が終わってから一度会ってみようと思ってる。日程が決まったら、その時は史那のことお願いするけどいいかな?」
私の言葉に母は頷いた。
「きちんと話をしてきなさい。文香の人生だから、自分が納得する答えを見つけるまで、焦らなくていいから。史那ちゃんのこともだけど、文香の幸せも考えなさいね」
母はそれだけ言って自分の部屋に引き上げて行った。
私は、母の言葉を噛み締めながら、彼に連絡を取ることを決意した。
片づけも終わり、私も史那が眠る寝室に戻り、先ほど放置していたスマホを手に、液晶画面を見つめていた。
彼は自身の花嫁役を探していると言ったけれど……
もしかして、智賀子さんが紹介する相手が私だと最初からわかっていたのだろうか。そして、史那が自分の娘であるということも。
彼が史那の父親だということは誰一人として知らないはずだし、私も口にしたことすらない。もちろん、両親や智賀子さんにだって話していない。でも史那の顔を見れば、わかる人には彼が父親だと気づかれるかも知れない。それに、史那の誕生日を逆算していけば、当然のことながらあの日授かった子だということは彼に一発でバレてしまう。
彼に再会するまでは、みんな史那は私に似ていると言ってくれるし、実際似ていると思っていた。
けれど……
やはり遺伝は隠せない。金曜日に少しだけ顔を合わせただけなのに、何気ない表情が、やはり彼にとても似ていた。史那のことは内緒にしていたから、彼に娘がいたなんて思ってもみなかっただろう。
私は彼の資産目当てで出産したわけではない。
純粋に、あの頃の私は彼を愛していた。今だってそうだ。あの頃と何ら変わりはない。
でも、彼の側にいることが叶わなくて、逃げ出したのは私……もし仮に彼が女性不信に陥っているとすれば、それは間違いなく私のせいだろう。でも、そもそも逃げ出す前も、逃げ出してからも連絡をしなかったのは彼なのだ。しばらくの間はずっと連絡を待っていたのに、それすらなかった。最終的に、私は彼に裏切られたのだ。
一体どうすれば……
既読スルーする勇気はなく、でも、できることならば、あちらから今回の話はなかったことにしてもらうように仕向けたい。それか、史那を理由にドタキャンするか……多分その方が角は立たないだろう。私は文面を考えてメッセージを送る。
『夜分遅くにすみません。連絡が遅くなりました。先週と同じく金曜日なら大丈夫ですが、もしかしたら娘の体調次第では、当日に突然お断りしてしまう可能性もありますので、はっきりとお約束は致しかねます。それでもよろしいでしょうか?』
メッセージを送信したのは二十三時前。
さすがに迷惑な時間帯の返信だとは思いながら、スマホをベッドサイドに置いているスツールの上に置いた瞬間、メッセージを受信した。
まさか、彼からの返信……?
私はまだ手に触れているスマホの液晶画面のお知らせ通知画面を見て驚愕する。
そこには、紛れもなく彼の名前が表示されていた。
画面を開くと既読をつけてしまうので、私はそっとスマホから手を離して史那の眠る布団の中に潜り込んだ。私の気配を感じた史那は、無意識に私のほうへ顔を擦り寄せて何かムニャムニャと寝言を発したかと思うと、私の気配に起きることなくそのまま眠っている。
私は史那がこうして側にいることが何よりの幸せだと痛感する。
何があっても、この子だけは絶対に守らなければ。期間限定の花嫁なんて引き受けたら最後、史那まで巻き込んでしまう。そうさせないためにもこの話はきちんとお断りしよう。そう決意して私は眠りに就いた。
翌朝、五時半にセットしていたスマホのアラームで目覚めたものの、寒くてなかなか布団から出られない。ぼんやりとする頭でスマホのアラームを止め、再び布団の中に腕を入れて暖を取る。隣で眠る史那がふにゃふにゃと柔らかく温かくて、思わず抱き寄せると寝ぼけた彼女のグーパンチを浴びてしまい、しっかりと目が覚めてしまった。
改めて布団の中で思いっきり伸びをしてから、史那を起こさないようにそっとベッドから出ると、スツールの上に置いていたスマホを手に取った。
昨日、彼からメッセージが届いていたので今のうちに内容を確認しよう。
私はスマホの画面を開き、無料通話アプリのメッセージ欄を見た。
ニュースや広告等のメッセージの内容を確認しながら一つずつ消して、最後に彼とのトーク欄を開く。
すると……
『もちろん史那ちゃんが最優先です。今回のお願いに関しては、史那ちゃんがいてこそのことですので。では、金曜日にまたご連絡させていただきます。おやすみなさい』
文面を読んで、鳥肌が立つ。
『史那がいてこそ』の一文で、彼が史那が自分の娘だと気づいていることを察した。どうにかして逃げ切りたくても、きっと逃げ切れないだろう。それならば……
私は金曜日の夜、彼に会う覚悟を決めた。
彼との約束の金曜日まで、どうやって過ごしたのか正直言って記憶がない。
金曜日が来るのがとても怖い。私たちの運命が大きく動き出そうとしているのは明らかだった。願わくば、このままひっそりと親子二人で穏やかに過ごすことができるのならば……
私はこの時ほど神様に祈ったことはない。
神社の前を通りかかったときに、鳥居の外から手を合わせて祈るしかない無力な私は、常に史那の身に危険が及ばないように願わずにはいられなかった。
――どうか、史那のことをお守り下さい。
精神的なダメージで食欲もないけれど、家族……特に史那に心配をかけたくなくて、朝食と夕食はなんとか食べていたけれど、さすがに昼食は喉を通らなくてお弁当は持って行かなかった。きっと持って行っても食べずに無駄にしてしまうのが目に見えている。
母には、今週は同僚からランチに誘われているとか、忙しくてゆっくりごはんを食べる時間がなさそうだからコンビニのおにぎりで済ませるとか言ってごまかした。
母はきっと、なんとなくわかっているのだろうけど、何も言わずに見守ってくれている。
職場でも、いつも休憩室で持参したお弁当を広げて昼食をとっているのに、休憩室にも顔を出さない私のことを、黒川くんが目ざとく見つけて色々と声をかけてくれた。年末が近づいて仕事が忙しいのだとそれらしく話すと、深くは追及されなかったものの、休憩時間が終わって自分の席に戻ると、栄養補助食品の差し入れが机の上に置かれていた。
「あ、それ、さっき黒川くんが来て置いて行ったよ。今井さん、忙しいのはわかるけど、ごはんはきちんと食べなきゃだめだよー」
どうやら村上さんにも、私が食欲がないことを気づかれていたようだ。今度黒川くんに会ったときに、きちんとお礼を伝えなければ。村上さんにも気を遣わせてしまったのですみませんとお詫びして、午後からの業務に取りかかった。
実際に十二月は何かと気忙しいし、私も派遣社員なので勤務時間内にその日の仕事をきちんと片づけなければならない。口にした言葉は嘘ではないけれど、食欲不振の本当の理由がそこではないだけに、このさり気ない気遣いに何だか申し訳ない気持ちになる。
この平穏な生活を守るために、今私にできることは一体何だろう……
考えても答えは出ない。全ては彼との話し合い次第だ。
そうして迎えた金曜日。
お昼前に、私のスマホにメッセージが届いていた。
『仕事が終わる頃に、そちらへ迎えに行きます』
私のサワイでの契約は、朝八時から十七時。途中お昼の休憩が一時間だから、八時間勤務である。
大抵の企業の就業時間と一緒で、違うのは派遣だから残業がないことと、賞与がないことだ。
給料は時給での計算になるが、智賀子さんの知り合いだからか、ありがたいことに同じ社内の他の派遣より少し高めだ。智賀子さんのご主人である専務から、他の人には内緒ねと最初に言われた契約書でもきちんと取り交わしてあるし、母子家庭ということもあり、税制面でも優遇されている。なので、実は独身時代の給料と手取り金額は大差がない。
賞与支給がないから贅沢はできないけれど、もし他の企業に就職していたとしても、多分職場環境も待遇もここよりいいところなんてなかなか見つからないだろう。今はとにかく、数年後の中途採用枠を目標に、真面目に働くだけだ。
午後からの業務は、決算に向けて経費支払いの適正処理ができているか、過去の領収書と帳簿の付き合わせだったので、かなり神経を使う。精査は特に気が抜けない作業だ。
村上さんと手分けして取りかかったおかげで、なんとか就業時間ギリギリで終わらせることができた。
経理の部署で帰宅の挨拶を済ませてロッカーに荷物を取りに行くと、ちょうどのタイミングでスマホが彼からのメッセージを受信した。
『お仕事お疲れさまです。サワイ本社ビル地下駐車場に車を停めてます。ご足労をかけますが、そちらへお願いします』
このメッセージに続き、車の車種、ナンバーを知らせる通知が届いた。
――え? このビル地下駐車場にいるの?
私は驚いて思わず手にしているスマホを落としてしまった。
幸いにも液晶画面に影響はなく、電源も落ちてはいない。あまりの衝撃に、言葉も行動も固まってしまう。今この場に私以外誰もいないのは幸いだ。もし誰かがいたら、変に勘ぐられたりする。
私はようやく我に返るとスマホを拾い上げ、手早く荷物をまとめてエレベーターに向かった。
「あれ、今井さん、お疲れさまです。今帰りですか?」
廊下で黒川くんにばったりと出会い、声をかけられた。営業の帰りだろうか、手には大きな紙袋を下げている。
「お疲れさまです。はい、定時を回ったので。あ、この前は差し入れをありがとうございました。お礼を言うのが遅くなってしまってすみません」
黒川くんとは、顔を合わせるときはこれでもかというくらい重なるのに、この時期は営業も忙しいのだろう。こちらから会いたいと思うときに限って、営業で外回りに出かけていてずっと空振りだった。ようやく会えたので、やっと先日の栄養補助食品のお礼が言えた。
それよりも、彼は本当に私のことに気づいていないのだろうか。それとも、気づいていて敢えて知らない振りをしているのか。一体、何の意図があってこんなことを言い出すのか……
たしかに私は独身だけどシングルマザーだし、シングルマザーへの偏見や風当たりが強いのは私自身が身をもって経験している。そんな私が高宮家の花嫁だと、それこそ彼に迷惑をかけてしまうに違いない。
おそらく私と同じことを考えていた智賀子さんがおもむろに口を開いた。
「たしかに私は、雅人さんに『独身で口が固くて信頼できる人を紹介してほしい』と言われて、今ここにいる文香さんが思い浮かんだけど……申し訳ないけど、そんな事情なら紹介はできない。あなたのバックには高宮グループがあるんだよ? 文香さんだけでなく、史那ちゃんまで世間の目に晒すような真似はできない」
智賀子さんの声色はいつもと違って怒気を含んでいる。
母である智賀子さんの、いつもと違うただならぬ雰囲気に、愛由美ちゃんがグズり始めた。
智賀子さんも慌てて愛由美ちゃんを抱っこする。
「びっくりさせてごめんね。あゆちゃんに言ったんじゃないよ、大丈夫だからね」
愛由美ちゃんは智賀子さんにしがみついて離れそうになさそうだ。
智賀子さんは少し席を外すと言って、愛由美ちゃんを抱っこすると隣の部屋へと移動して、この場には彼と私と史那の三人が残された。史那も愛由美ちゃん同様に驚いて私にしがみついている。
私は史那を膝の上に抱き彼を見つめると、彼は何とも言えない表情を浮かべている。
「……たしかに智賀子さんの言う通り、私のバックには高宮の名前が常につきまといます。史那ちゃんの存在を考えると、今回の話をお願いするべきではないとは思います。でも……もし、今回の件を承諾して頂けるなら、私は全力であなた方親子を守ります」
彼の態度に嘘は混じっていなさそうだけれど、こればかりは私にはわからない。
智賀子さんが反対した理由は、きっと自分も一般家庭の出身だから、もし仮にこの話を私が受けた場合、後々苦労するのがわかっているからだ。
彼ならきっと有言実行で私たちを守ってくれるだろう。でも、彼の家族や親戚の人たちや、高宮家を取り巻く環境はどうだろうか。私だけならともかく、史那に対して理不尽な態度を取られるようなら……ましてや私の目の届かないところで史那が嫌な思いをするようなことがあるならば、私の答えは一つだけだ。
「高宮さんの事情はわかりました。でも、この通り私には娘がいます。史那のことは、ご家族の方にどう説明されるおつもりでしょうか?」
史那は自分の名前を呼ばれたことで、私と彼の間を交互に見つめている。
「それは問題ありません。もし承諾頂けるなら、あなた方親子に関して親戚一同、文句は言わせません。お約束します。……今井さん、お願いできないでしょうか」
まるで土下座することすら辞さない勢いで頭を下げる彼に、史那が不思議そうな顔をする。
「ママ、なんでこのおじちゃんあやまってるの?」
彼が私に頭を下げているのが、史那には謝罪しているように見えたのだろう。私は史那にそうじゃないと言うものの、どのように説明すればいいのかわからない。
そんな史那に向かって、彼が声をかけた。
「はじめまして、史那ちゃん。おじちゃんが、君のパパになってもいいかな?」
唐突な彼の申し出に、史那は一瞬キョトンとしたものの、愛由美ちゃんや児童館で会うお友達には父親がいるのに、自分には父親がいないことをやはり寂しく思っていたのだろう。史那の顔に笑顔が浮かんだ。
「おじちゃんがふみなのパパ? おじちゃん、ママのことすき?」
史那の問いに、彼は答えた。
「うん、好きだよ。だからおじちゃんは、史那ちゃんと史那ちゃんのママと、家族になりたいんだ。史那ちゃん、おじちゃんが君のパパになってもいいかな?」
史那が『ママのこと好き?』の問いに、すんなりと『好きだよ』と返事する彼の真意がわからない。だからまだ、彼の言葉を鵜呑みにしてはいけない。
彼が史那の目線に合わせて話をする。
史那は驚きの表情を見せたものの、パパになりたいという言葉に喜びを隠せない。
「ほんとうにふみなのパパになってくれるの? あのね、あゆみちゃんにはパパがいるのに、ふみなにはいないの。ふみな、いいこにしてるのに。クリスマスプレゼントで、サンタさんにパパをおねがいしても、ママがそれはむりだっていうの」
史那の返事に私は思わず口を挟みたくなるものの、もう手遅れだ。史那はすっかりその気になってしまっている。追い打ちをかけるかのように、高宮が史那に語りかける。
「史那ちゃん、いいこにしてるの? じゃあ、おじちゃんが史那ちゃんのパパになるって約束するよ。おじちゃんは、君たちを泣かせるようなことはしないし、何があっても守ってみせるから」
そう言うと、史那の目の前に小指を立てて出してきた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 勝手なことをしないで‼ 私はまだ了承もしていないのに、何で史那にそんなことを言うんですか? 史那に取り入ってその気にさせるなんて卑怯じゃないですか⁉」
私の言葉なんて無視して彼は史那と指切りげんまんをしている。史那と約束を交わした後、改めて私に向かって口を開いた。
「今、史那ちゃんにも約束しました。私は何があってもあなたたちを守ります。子どもの前で嘘なんて吐かないし、この言葉に嘘偽りはありません。突然こんなことを言われて困惑するのは充分承知でお話をしております。もしよろしければ、一度きちんと考えてみてもらえないでしょうか」
高宮が何を考えているかわからない。口ではそんな甘いことを言って、また裏切るのではないかと思わずにはいられない。そう、『あのとき』のように。
子どもの目の前でこんなことをいけしゃあしゃあと言ってのける彼に対して、腹の底から怒りが込み上げてくる。それなのに、私は何も言えなかった。こちらを見る高宮と、史那の顔が、あまりにも似すぎていたから。そう──彼こそが、史那の『父親』なのだ。
愛由美ちゃんが落ち着いたのか、智賀子さんに抱っこされて二人が戻ってきた。
愛由美ちゃんはもう泣いてはおらず、でも手にはベビー用のおせんべいがしっかりと握られていた。
智賀子さんが席に戻ると、彼はおもむろに口を開いた。
「今、史那ちゃんにはパパになってもいいと言ってもらえたから、今井さんの返事待ち。今井さん、連絡先を交換してもらえますか?」
先ほどのやり取りを智賀子さんは知らない。知ればきっと智賀子さんも私と同じく怒りの感情をあらわにするだろう。でも今ここでそれを伝えると、せっかく愛由美ちゃんも落ち着いたところなのに再びグズグズになるのは目に見えている。これ以上智賀子さんを巻き込むわけにはいかない。それに、一番最初に彼の口から『期間限定』の言葉が出たのだ。詳細を聞くためにもやはりもう一度改めて会って話をする必要がありそうだ。
私はいろんな言葉が溢れ出しそうな自分の感情を抑えてバッグの中からスマホを取り出すと、連絡先を交換した。
連絡先交換が終わったら、彼は最初から長居をする気はなかったらしく、席を立つと智賀子さんが見送りのために後に続く。史那は彼がパパになる約束を交わしたばかりなのに彼が帰って行くことに驚き、智賀子さんの後を追って玄関へと駆けていく。私は一人、リビングでその様子を茫然と眺めていた。
玄関先で話し声が聞こえるものの、せっかく暖まった室内の空気を逃がさないために閉ざされたリビングの扉がその声を遮って、こちらには何を話しているかは聞こえない。高宮が千賀子さんの家を出て少ししてから、智賀子さんと愛由美ちゃん、史那が戻ってきた。
智賀子さんが有料動画配信チャンネルで子ども向けのアニメをつけて、子どもたちに見せて気を逸らせている間に、大人同士で話をする。
「まさか雅人さんの話があんなことだっただなんて……文香さん、嫌な思いをさせてごめんなさい」
智賀子さんは私に深々と頭を下げた。
「そんな、智賀子さん、頭を上げて。内容なんて知らなかったんでしょう? たしかにびっくりしたけど……」
「私自身が普通の家庭から沢井の家に嫁いで来て、夫や夫の両親、夫の姉夫婦には可愛がってもらってるけど、親戚や対外的なお付き合いは本当に苦労してるから……ましてや文香さんには史那ちゃんがいるから、史那ちゃんまで巻き込んでしまうと思ったら口を挟まずにはいられなくて。私が席を外している間に何か変なこと言われたんじゃない? 本当にごめんなさい」
やっぱり智賀子さんは私のことを考えた上で彼に噛みついてくれたんだ。その気持ちが嬉しかった。
智賀子さんは続けて口を開く。
「大体、何でそんな大事なことを私の友達に頼もうとするのがまずおかしくない? そんなの、自分の知り合いに数年契約とかでお願いすればいい話じゃない? 『高宮専務の妻』なんてポジション、きっと誰もが狙ってるよ。それなら、それを逆手に取って、離婚のときにある程度まとまったお金を渡せばそれで済む話でしょ。まさかそんなことを文香さんに言うような人だと思わなかったの……嫌な思いをさせて、本当にごめんなさい」
たしかにそうだ。
でも彼は、あえて智賀子さんの知り合いで口の固い人という条件を出して私に当たったということは、彼の周りには、本当に信頼できる人がいないのかも知れない。
そう考えると、仮にそんな人の中から誰かを選んで契約結婚をしたとしても、相手が高宮の名前に固執するあまり、離婚後も揉めごとが絶えないなんてことも考えられる。
いや、それよりも史那が彼の実の娘だとわかったら、それこそ私との契約結婚の話はどうなるのだろう。契約満了時、つまり離婚するときに、下手したら高宮家に史那を奪われてしまう可能性もあるの……? それだけは絶対に避けなければ。史那も彼に懐かなければなんとかなるかも知れないという考えは、現時点での可能性は限りなくゼロに近い。
「さっき、高宮さんからも『期間限定』って言葉が出たから、後日改めて連絡を取ってみようかと思ってるの。からかわれてるにしては手が込みすぎだし、史那にまで取り入って外堀を埋められて逃げられなくされてしまったら、話だけでも聞いてみないと納得もいかないし……」
「うん、そうだね。でもすぐに返事しなくていいよ。もしかしたら、それまでに適任者が現れるかも知れないし」
私たちはそう言うと、この話を終わらせた。
彼から連絡が来たのは、翌週月曜日の夜。
連絡先を交換した無料通話アプリにメッセージが届いた。
『高宮です。金曜日の夜は失礼しました。もしよろしければ、一度二人だけでお会いしてお話ができればと思いますが、ご都合はいかがでしょうか?』
絵文字やら顔文字は一切ない、淡々と用件を伝えるメッセージだった。
気がつかなかったとスルーするつもりが、誤って既読をつけてしまったので無視をする訳にはいかないだろう。
あれから数日空いたことで私も多少は冷静に考える時間があり、今回の彼の提案は断る方向で考えが固まっていた矢先のメッセージだ。
史那を理由に断るにしても、会ってしまうとまた先日みたいに流されてしまいそうだ。
画面を見つめながら文章を考えている時に、史那が私を呼ぶ声が聞こえ、スマホは一旦放置した。
「ママ、えほんよんでー」
史那はそう言って、最近のお気に入りである絵本を私に差し出した。
TVでも放送されている国民的なキャラクターの絵本で、史那のおもちゃもそのグッズで溢れている。私は絵本を受け取ると、史那の隣に座って一緒に絵本のページを開いた。
ある程度一緒に読んで満足したのか、史那も眠そうな素振りを見せたので、絵本を閉じると私は史那を寝室へと連れて行った。入浴も歯磨きも済ませており、そのまま一緒に布団に入ると安心したのか史那はそのまますぐに眠りについた。
私もしばらくの間史那の隣でじっとしていたけれど、熟睡したのを確認すると、布団から出て明日の朝の準備をした。
いくら実家で世話になっているとはいえ、家事の全てを母任せにする訳にはいかない。
みんなが使った食器を洗って片づけたり、洗濯物をしまったり、少しでもやれることはやろうと行動を起こす。
私がキッチンで片づけをしていると、物音を聞いた母がやって来た。
「お茶でも淹れようか?」
洗い物が終わり、食器の水気を切ってちょうどふきんで皿を拭き終わったところだった。私は母に声をかける。
「寝る前のカフェインはいいわ。それより、史那ちゃんはもう寝たの?」
母はダイニングの椅子に座って私を見つめている。きっと何か話があるのだろう。
「うん、寝入りは早かったよ。今日は日中何やってたの?」
私は食器棚に器を片づけながら母に聞いてみる。いつもなら寝る前はグズグズになるのに、今日みたいにすんなり眠りに落ちるのは珍しいことだった。
「今日は児童館まで歩いて行ったの。子どもには結構な距離があるから疲れたんだろうね。グズらずにちゃんと歩いてくれたから助かったわ」
児童館は、実家から大人の足で片道三十分は余裕でかかる距離にある。それを母と二人で歩いて往復したとなると、疲れるのも納得だ。
「史那ちゃん体力あるから、夏場はプール遊びで体力消耗させないと身がもたないわ」
母も今日はお疲れの様子で、私は母の向かいの席に座った。
私の家事が一通り落ち着いたのを確認すると、母が切り出す話題は、あのことだった。
「史那ちゃんから聞いたけど、あなた、結婚するの?」
彼が『史那のパパになってもいいか』と言ったことを史那が母に話したのだろう。
「まだどうしようか悩んでる……」
溜息を吐きながら答える私に、母は高宮のことを聞いてきた。
そりゃそうだろう。自分の娘が結婚するかも知れないのだから、相手のことが気にならない訳がない。ましてや、義理の息子になるかも知れない相手だ。自分たちの身内になる人間がどんな人なのか、母だって知る権利がある。
「少なくとも史那ちゃんの口ぶりでは、悪い印象は受けなかったけど、まだ子どもの言うことだから真に受けるわけにもいかないし。お相手はどんな方なの?」
私は、先週の金曜の夜の出来事を母にどこまで話をしていいか考えた。契約結婚だなんて、母が聞いたら卒倒するに違いない。なので、契約のことは抜きにして、智賀子さんの家で高宮を紹介され、事情があって結婚を急いでいると話した。話を聞いた母は、困惑の表情を浮かべている。
当たり前だ。
もし高宮家に嫁ぐことになったとした時の私の苦労は想像もつかないし、史那にも今のようには会えなくなる可能性だってあるのだから。
「まだきちんと返事はしないほうがいいわね。文香は高宮さんのこと、よく知らないんでしょう? それに、そんなので仮に結婚しても、うまくいかなかったとき……考えたくないけど、離婚なんてことになったら、史那ちゃんを傷つける可能性だってあるんだよ。文香一人だけの問題じゃない、史那ちゃんのこともあるんだからね」
母も智賀子さんと同じ意見だ。
「さっき、スマホに一度二人で会ってきちんと話をしたいって連絡があったの。私も史那のことがあるし、ここまで外堀を埋められて逃げ場をなくされた以上、きちんと話を聞いた上で今後のこととか考えたいから、仕事が終わってから一度会ってみようと思ってる。日程が決まったら、その時は史那のことお願いするけどいいかな?」
私の言葉に母は頷いた。
「きちんと話をしてきなさい。文香の人生だから、自分が納得する答えを見つけるまで、焦らなくていいから。史那ちゃんのこともだけど、文香の幸せも考えなさいね」
母はそれだけ言って自分の部屋に引き上げて行った。
私は、母の言葉を噛み締めながら、彼に連絡を取ることを決意した。
片づけも終わり、私も史那が眠る寝室に戻り、先ほど放置していたスマホを手に、液晶画面を見つめていた。
彼は自身の花嫁役を探していると言ったけれど……
もしかして、智賀子さんが紹介する相手が私だと最初からわかっていたのだろうか。そして、史那が自分の娘であるということも。
彼が史那の父親だということは誰一人として知らないはずだし、私も口にしたことすらない。もちろん、両親や智賀子さんにだって話していない。でも史那の顔を見れば、わかる人には彼が父親だと気づかれるかも知れない。それに、史那の誕生日を逆算していけば、当然のことながらあの日授かった子だということは彼に一発でバレてしまう。
彼に再会するまでは、みんな史那は私に似ていると言ってくれるし、実際似ていると思っていた。
けれど……
やはり遺伝は隠せない。金曜日に少しだけ顔を合わせただけなのに、何気ない表情が、やはり彼にとても似ていた。史那のことは内緒にしていたから、彼に娘がいたなんて思ってもみなかっただろう。
私は彼の資産目当てで出産したわけではない。
純粋に、あの頃の私は彼を愛していた。今だってそうだ。あの頃と何ら変わりはない。
でも、彼の側にいることが叶わなくて、逃げ出したのは私……もし仮に彼が女性不信に陥っているとすれば、それは間違いなく私のせいだろう。でも、そもそも逃げ出す前も、逃げ出してからも連絡をしなかったのは彼なのだ。しばらくの間はずっと連絡を待っていたのに、それすらなかった。最終的に、私は彼に裏切られたのだ。
一体どうすれば……
既読スルーする勇気はなく、でも、できることならば、あちらから今回の話はなかったことにしてもらうように仕向けたい。それか、史那を理由にドタキャンするか……多分その方が角は立たないだろう。私は文面を考えてメッセージを送る。
『夜分遅くにすみません。連絡が遅くなりました。先週と同じく金曜日なら大丈夫ですが、もしかしたら娘の体調次第では、当日に突然お断りしてしまう可能性もありますので、はっきりとお約束は致しかねます。それでもよろしいでしょうか?』
メッセージを送信したのは二十三時前。
さすがに迷惑な時間帯の返信だとは思いながら、スマホをベッドサイドに置いているスツールの上に置いた瞬間、メッセージを受信した。
まさか、彼からの返信……?
私はまだ手に触れているスマホの液晶画面のお知らせ通知画面を見て驚愕する。
そこには、紛れもなく彼の名前が表示されていた。
画面を開くと既読をつけてしまうので、私はそっとスマホから手を離して史那の眠る布団の中に潜り込んだ。私の気配を感じた史那は、無意識に私のほうへ顔を擦り寄せて何かムニャムニャと寝言を発したかと思うと、私の気配に起きることなくそのまま眠っている。
私は史那がこうして側にいることが何よりの幸せだと痛感する。
何があっても、この子だけは絶対に守らなければ。期間限定の花嫁なんて引き受けたら最後、史那まで巻き込んでしまう。そうさせないためにもこの話はきちんとお断りしよう。そう決意して私は眠りに就いた。
翌朝、五時半にセットしていたスマホのアラームで目覚めたものの、寒くてなかなか布団から出られない。ぼんやりとする頭でスマホのアラームを止め、再び布団の中に腕を入れて暖を取る。隣で眠る史那がふにゃふにゃと柔らかく温かくて、思わず抱き寄せると寝ぼけた彼女のグーパンチを浴びてしまい、しっかりと目が覚めてしまった。
改めて布団の中で思いっきり伸びをしてから、史那を起こさないようにそっとベッドから出ると、スツールの上に置いていたスマホを手に取った。
昨日、彼からメッセージが届いていたので今のうちに内容を確認しよう。
私はスマホの画面を開き、無料通話アプリのメッセージ欄を見た。
ニュースや広告等のメッセージの内容を確認しながら一つずつ消して、最後に彼とのトーク欄を開く。
すると……
『もちろん史那ちゃんが最優先です。今回のお願いに関しては、史那ちゃんがいてこそのことですので。では、金曜日にまたご連絡させていただきます。おやすみなさい』
文面を読んで、鳥肌が立つ。
『史那がいてこそ』の一文で、彼が史那が自分の娘だと気づいていることを察した。どうにかして逃げ切りたくても、きっと逃げ切れないだろう。それならば……
私は金曜日の夜、彼に会う覚悟を決めた。
彼との約束の金曜日まで、どうやって過ごしたのか正直言って記憶がない。
金曜日が来るのがとても怖い。私たちの運命が大きく動き出そうとしているのは明らかだった。願わくば、このままひっそりと親子二人で穏やかに過ごすことができるのならば……
私はこの時ほど神様に祈ったことはない。
神社の前を通りかかったときに、鳥居の外から手を合わせて祈るしかない無力な私は、常に史那の身に危険が及ばないように願わずにはいられなかった。
――どうか、史那のことをお守り下さい。
精神的なダメージで食欲もないけれど、家族……特に史那に心配をかけたくなくて、朝食と夕食はなんとか食べていたけれど、さすがに昼食は喉を通らなくてお弁当は持って行かなかった。きっと持って行っても食べずに無駄にしてしまうのが目に見えている。
母には、今週は同僚からランチに誘われているとか、忙しくてゆっくりごはんを食べる時間がなさそうだからコンビニのおにぎりで済ませるとか言ってごまかした。
母はきっと、なんとなくわかっているのだろうけど、何も言わずに見守ってくれている。
職場でも、いつも休憩室で持参したお弁当を広げて昼食をとっているのに、休憩室にも顔を出さない私のことを、黒川くんが目ざとく見つけて色々と声をかけてくれた。年末が近づいて仕事が忙しいのだとそれらしく話すと、深くは追及されなかったものの、休憩時間が終わって自分の席に戻ると、栄養補助食品の差し入れが机の上に置かれていた。
「あ、それ、さっき黒川くんが来て置いて行ったよ。今井さん、忙しいのはわかるけど、ごはんはきちんと食べなきゃだめだよー」
どうやら村上さんにも、私が食欲がないことを気づかれていたようだ。今度黒川くんに会ったときに、きちんとお礼を伝えなければ。村上さんにも気を遣わせてしまったのですみませんとお詫びして、午後からの業務に取りかかった。
実際に十二月は何かと気忙しいし、私も派遣社員なので勤務時間内にその日の仕事をきちんと片づけなければならない。口にした言葉は嘘ではないけれど、食欲不振の本当の理由がそこではないだけに、このさり気ない気遣いに何だか申し訳ない気持ちになる。
この平穏な生活を守るために、今私にできることは一体何だろう……
考えても答えは出ない。全ては彼との話し合い次第だ。
そうして迎えた金曜日。
お昼前に、私のスマホにメッセージが届いていた。
『仕事が終わる頃に、そちらへ迎えに行きます』
私のサワイでの契約は、朝八時から十七時。途中お昼の休憩が一時間だから、八時間勤務である。
大抵の企業の就業時間と一緒で、違うのは派遣だから残業がないことと、賞与がないことだ。
給料は時給での計算になるが、智賀子さんの知り合いだからか、ありがたいことに同じ社内の他の派遣より少し高めだ。智賀子さんのご主人である専務から、他の人には内緒ねと最初に言われた契約書でもきちんと取り交わしてあるし、母子家庭ということもあり、税制面でも優遇されている。なので、実は独身時代の給料と手取り金額は大差がない。
賞与支給がないから贅沢はできないけれど、もし他の企業に就職していたとしても、多分職場環境も待遇もここよりいいところなんてなかなか見つからないだろう。今はとにかく、数年後の中途採用枠を目標に、真面目に働くだけだ。
午後からの業務は、決算に向けて経費支払いの適正処理ができているか、過去の領収書と帳簿の付き合わせだったので、かなり神経を使う。精査は特に気が抜けない作業だ。
村上さんと手分けして取りかかったおかげで、なんとか就業時間ギリギリで終わらせることができた。
経理の部署で帰宅の挨拶を済ませてロッカーに荷物を取りに行くと、ちょうどのタイミングでスマホが彼からのメッセージを受信した。
『お仕事お疲れさまです。サワイ本社ビル地下駐車場に車を停めてます。ご足労をかけますが、そちらへお願いします』
このメッセージに続き、車の車種、ナンバーを知らせる通知が届いた。
――え? このビル地下駐車場にいるの?
私は驚いて思わず手にしているスマホを落としてしまった。
幸いにも液晶画面に影響はなく、電源も落ちてはいない。あまりの衝撃に、言葉も行動も固まってしまう。今この場に私以外誰もいないのは幸いだ。もし誰かがいたら、変に勘ぐられたりする。
私はようやく我に返るとスマホを拾い上げ、手早く荷物をまとめてエレベーターに向かった。
「あれ、今井さん、お疲れさまです。今帰りですか?」
廊下で黒川くんにばったりと出会い、声をかけられた。営業の帰りだろうか、手には大きな紙袋を下げている。
「お疲れさまです。はい、定時を回ったので。あ、この前は差し入れをありがとうございました。お礼を言うのが遅くなってしまってすみません」
黒川くんとは、顔を合わせるときはこれでもかというくらい重なるのに、この時期は営業も忙しいのだろう。こちらから会いたいと思うときに限って、営業で外回りに出かけていてずっと空振りだった。ようやく会えたので、やっと先日の栄養補助食品のお礼が言えた。
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