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心から愛を込めて
第七話
しおりを挟むその声に目を向けると俺の胸が跳ねた。
先生だ。先生がいる。本物?嘘。何で?え?聞いてないよ?マジで?嘘。俺、ヤバ。ヤバい?ダメだっ。ヤバい。
「あ~。先生こいつ、この間の飲み会からヨッシー言うのやめろってすっげーしつこいんですよ。ヨシノリって呼べって煩くって。主張を曲げるかどうかで固まってんじゃない?なあ、ヨシノリ。いきなり先生がいてビックリしただろ。ケイも見た?ヨシノリ超固まって可愛いくない?」
「…可愛い。」
「ふむ。ではヨシノリ?久しぶりだね。元気だったかな?」
「ふぇっ…!?は…い?…うぇぇ~!」
「ヨシノリ煩い。兎に角座れ。」
バシッと音が鳴るような頭への突っ込みに渋々と先生の隣へと腰を下げる。
クスクス笑ってる声がする。
先生の声がっ。
ヤバい。
近い近い近いっっ。
先生が近いっ。
目が見れなさすぎて、近過ぎて俯いたままで何とか声を出す。
「げ、元気です。お久しぶりです。堤先生。」
あああ、ダメだ。顔見れない。ヤバいっ。
先生がいる。先生がいるよっ。
興奮と心臓の動悸がヤバい。
嬉しい。会えた。先生先生先生先生がいる。
先生だぁぁーーーっ。
もう頭も心もパニックで周りの声が聞こえない。
ダメだ。ヤバい。先生見ちゃった。
どうしよう。チラッとしか見えなかったけど、あんまり変わってないかも。てか、渋くてカッコ良くなった?ヤバい。目尻のシワにキュンキュンした。え~っ禿げてないし、フサフサだし、お、お、お、おじさまって感じ?紳士?紳士がいる。おじさま紳士がっ。
「ヨッシーは本当に先生ラブだな~。その反応。先生呼んだ甲斐があったな。」
ニヤニヤと俺を笑いながら盛り上がる先輩2人にキッと顔を向ける。
「ヨッシーって言わないで下さいよっ。」
2人とも見た目は真面目なサラリーマンなのに、本当悪ノリするんだからっ。俺をからかって楽しいって子供か?子供なのか?
いや、この2人幼馴染みだし、昔から変わらないだけか?
くそっ。大人になれよ。
言葉にならない気持ちが溢れそうでプルプルと身体が震えている所に、ふわっと頭を撫でられた。
「やっぱり後頭部丸いまんまだな~。変わってないな。何て呼ぼうか?木原?美実(よしのり)?」
ふおっ⁉︎ヤバいぃぃ⁉︎
好きな人から呼び捨てとか何それ⁉︎ご馳走様⁉︎俺美味しいの⁉︎
「あああの、あっあのヨシノリって呼んで下さいっ。」
先輩2人の馬鹿笑いもそのままに何とか先生へと声を出す。
ダメだ。
急過ぎて何も取り繕えない。
絶対顔赤い。
もう、パニック過ぎて、先生の事見れなくて、俺はやっぱりまだまだ先生が好きで好き過ぎて、会話はぎこちないし、もうこれって高校の時より酷いんじゃないかってぐらい。
嬉しくて恥ずかしくて好き過ぎて切なくて、もうマジヤバい。
俺、死ぬかも。
それでも何とか先輩達と会話して、ドキドキして逆上(のぼ)せる頭を酒で冷やして、やり過ごした。
いや、いやいや、やり過ごすってなんだ。
ダメだ。
ダメだろ。
彼女の人生を奪った俺が、正面からぶつからなくてどうするよ。
傷つくのが怖いとか、最低だから。彼女に最低なことして、底辺でまだ穴掘ってどうするよ。
同じ方向だからって、先輩達と別れて、このまま先生と、またサヨナラってダメだろ。
決着付けないと。
ここだからと電車から降りようとする先生に挨拶が出来ない。俯く俺の頭をポンっと軽く撫でて去って行く。
ダメだ。嫌だ。先生。
「先生っ。…っ待って!」
涼しげなスーツの袖を少しだけ引っ張った。
びっくりしてる先生の視線が痛い。
「最寄駅は次じゃないのか?」
「大丈夫です。あの、歩ける距離なんで…。」
「どうした?ずっと様子が変だったな?」
俯いたままの俺の頭にまた手が乗る。
「あのっ…。」
好きですじゃダメだ。
それじゃ高校の時と同じだ。
「先生に、話したい事と、聞きたい事があるんです。もう少し付き合ってくれませんか」
少しの無言が胸に痛くて顔が歪みそうになるのを堪える。
「とりあえず、ここから出ようか。」
話したくなさそうな声音に顔を上げられないまま、先生の後に着いて行った。
どういう風に話せば良いんだろう。
どう言えば伝わるだろう。
先生は、今、何を考えているんだろう。
見上げる程の身長が、自分を拒絶する壁のように感じて心が竦(すく)みそうになった。
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