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第一章 虐げられた姫
第24話 ハリナの過去 3
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「どうされましたか?」
頑張って開けて、隙間から覗く。
私と初めて会ったときのように話している。まだ10歳なのに、ああいうことができるんだ。私は……無理だな、きっと。
「様子を見に来たのですが……特に問題はないようで」
「はい、つつがなく過ごしております」
親子じゃなくて、大人が会話しているように見える。改めて思うけど、本当に10歳なの?
「あら、そうですか」
何なのよ、その言い方は。まるで、何か問題があって欲しかったみたい。どうやら、嫌ってるとかそういうレベルじゃないみたいね。
「本当に残念です」
そうあって欲しかったどころじゃないな。ここまで嫌うのもどうなんだろう。
「それはすみません」
「あなたに聞きたいことがあります。話では、あなたと同じ瞳を持つ者を街で見たという者がいるのですよ。心当たりは?」
あれは公爵夫人の手先だったのね。でも、撒いちゃったから分からないみたい。
「……はとこのハリナ嬢ではないでしょうか」
おいコラァ!何を普通に話してるのよ!普通は黙っておくべきじゃないの!?
「夫人はお会いになってはいないのですか?先週、こちらにいらっしゃったはずですが……」
「あら、そうなのですか。私は席を外しておりましたから気づきませんでしたわ」
公爵夫人がこちらを見ることはないから、私がここにいるのは気づいていないみたい。
「では、また招きましょう。旦那様に相談するとしますわ」
「そうですか」
「わたくしはこれで失礼いたしますわ。では、これからもご健康に」
「夫人こそ」
彼がそう言ったら、ドアが開く音がした。すると、クローゼットの扉も開く。
「聞いたでしょ」
「なんで言ったのよ」
「君を売っただけだけど?あの人に嘘をついたら僕はろくな目に合わないから」
「はぁ?」
本当に優しいのか、嫌な奴なのか分からない。
「ねぇ、あなたは何なの?私を守りたいの?私を犠牲にしたいの?」
「……どっちだったらいいと思う?」
……何?その言い方は。
「はっきり言うけど、僕には関わらない方がいい。こんな目に合うのは僕だけでいいんだ」
その目は、とても悲しそうに見えた。
「それでも君が僕と関わるんなら、僕が望まなくても、君は犠牲になる。僕が犠牲になったら、君は助かるだろうね」
……?言っている意味がこのときはよく分からなかった。
「中から外に転移はできないから、自分で出ていって。僕のことは忘れた方がいい。そろそろ動いてもおかしくない」
どう見ても、それはいつもの遠ざけるための軽口という感じはしなかった。私は、窓から出ていって、自分の屋敷に戻った。あのときの言葉の意味を理解するのは、すぐだというのも知らずに、何度も後ろを見ながら戻った。
それから一週間後。また呼ばれることになった。多分、公爵夫人が言っていたことだろう。今度は敵地に行くような覚悟だった。私はあのときクローゼットの中から見ていたけど、公爵夫人にとっては私とは初対面。あまり悪いイメージを与えてはいけない。
簡単に挨拶を済ませた。意外だったのは、その場にフェレスリードがいたこと。てっきり、別邸にいるものだと思っていた。
その後、私は公爵夫人に呼ばれた。二人で話しましょうと言われて。罠だろうけど、ついてきた。
「ハリナ嬢ね」
「はい。ハリナ・フィーレンと申します」
「フェレスリードとは会ったことがあると聞いたわ」
「はい。少々、お話の機会をいただきましたので」
何なの?何がしたいの?不敵な笑みを浮かべて。何を考えているの?他の人達とは印象が離れすぎて分からない。
「もう少しこちらに来てちょうだい」
怖いけど……従うしかない。少しずつ近づいていく。すると、頬を手で抑えられた。
「本当にきれいな青い瞳ね……あの人達が見たのはあなたで間違いないわね」
「あの……何のことですか?」
知っているけど、知らない振りをしないと。あのとき、あの部屋にいたのがバレてしまう。そしたら、フェレスリードがどんな目に合うか分からない。
「ちょっとね。街に買い出しに行かせた者が見たというの。なんで……なんでなのかしらね」
その目は、少し狂気にも写っていた。
「わたくしはできなかった……なのに、なぜあなたのような存在が子爵家に生まれたの?なぜ、わたくしはできないの?」
「それは分かりませんけど、何がしたいんですか?」
「あなた、わたくしの子になりなさい。良い暮らしは保証するわ」
「なら、ハリナは誰なんですか」
「あの出来損ないでいいわよ。あなたがいれば、旦那様はわたくしをまた見てくれるわ」
きっと、変わらないと思う。どっちにしろ、あなたは公爵夫人であって、公爵の妻とはなれない。そんな感じがする。
「私の母は子爵夫人である母さんだけですから。あなたではありません」
「いいえ、違うわ。あれが子爵の娘なのよ。あなたはわたくしの娘なの」
本気でそう思い込んでいる。もう病気だな。確かに、こんな人に嘘なんかついたら、ろくな目に合わないだろう。
もう離れた方がいいかと思って、不自然に思われない程度に後ろに下がる。
「なぜ離れるの?あなたはわたくしの娘なの。親から離れるなんて……あってはならないのよ!」
いよいよ持ってヤバイかも。今にも殴りかかりそうな様子で迫ってきた。目を瞑ったけど、いつまで経っても拳は来ない。何かが殴られるような音はしたのに。私ではない。
「あら……なぜここにいるのかしら?」
「ハリナ嬢は関係ありませんよ、夫人」
そんな会話が聞こえて目を開けると、私のすぐ隣にフェレスリードがいた。
えっ?何でここにいるの?
混乱しているなか、フェレスリードはこっちを見た。その頬は少し赤くなっている。もしかして、私の前に出て代わりに叩かれたの?
「なんでついていったの?」
「断ることもできなかったし……」
「フェレスリード!邪魔するんじゃないわよ!」
公爵夫人がそう言ったら、フェレスリードは軽く吹っ飛んだ。
えっ?何が起こったの?魔法?
私が混乱している間に、フェレスリードの方に向かった。
「先代の夫人はきっと誇らしいわ……青い瞳の子を生んだんだもの。あんな薄汚い瞳ではなくて、あなたのようなそのきれいな瞳を」
襟を掴まれている。それなのに、フェレスリードは何もしない。私には普通に魔法を使ったのに、さっきも普通に吹っ飛ばされていたし、何で抵抗しないのよ!
「薄汚い……ですか。あなたの瞳と同じではありませんか。自分の瞳すら薄汚いのですか?夫人」
「生意気よ!!」
そう言って、いよいよ首まで掴み始めた。助けようとした。でも、怖くて足が動かない。フェレスリードの方を見たら、目線をドアの方に送っている。
逃げろってことなの?あのときの言葉は……そういう意味だったの?
私がここにいたところで、何もできないのは分かりきってる。私がドアの方に行ったら、かすかに指を鳴らす音が聞こえて、ドアの鍵が開いた音がした。鍵が閉まってたんだ。
じゃあ、フェレスリードはどうやってここに来たの?転移魔法?なら、何で私を転移させないんだろう。
……私が、会いに行こうとしなければ、こんなことにはならなかったのかな。なら、もう会わない方がいいのかもしれない。
そう思って、私は部屋を出ていった。
頑張って開けて、隙間から覗く。
私と初めて会ったときのように話している。まだ10歳なのに、ああいうことができるんだ。私は……無理だな、きっと。
「様子を見に来たのですが……特に問題はないようで」
「はい、つつがなく過ごしております」
親子じゃなくて、大人が会話しているように見える。改めて思うけど、本当に10歳なの?
「あら、そうですか」
何なのよ、その言い方は。まるで、何か問題があって欲しかったみたい。どうやら、嫌ってるとかそういうレベルじゃないみたいね。
「本当に残念です」
そうあって欲しかったどころじゃないな。ここまで嫌うのもどうなんだろう。
「それはすみません」
「あなたに聞きたいことがあります。話では、あなたと同じ瞳を持つ者を街で見たという者がいるのですよ。心当たりは?」
あれは公爵夫人の手先だったのね。でも、撒いちゃったから分からないみたい。
「……はとこのハリナ嬢ではないでしょうか」
おいコラァ!何を普通に話してるのよ!普通は黙っておくべきじゃないの!?
「夫人はお会いになってはいないのですか?先週、こちらにいらっしゃったはずですが……」
「あら、そうなのですか。私は席を外しておりましたから気づきませんでしたわ」
公爵夫人がこちらを見ることはないから、私がここにいるのは気づいていないみたい。
「では、また招きましょう。旦那様に相談するとしますわ」
「そうですか」
「わたくしはこれで失礼いたしますわ。では、これからもご健康に」
「夫人こそ」
彼がそう言ったら、ドアが開く音がした。すると、クローゼットの扉も開く。
「聞いたでしょ」
「なんで言ったのよ」
「君を売っただけだけど?あの人に嘘をついたら僕はろくな目に合わないから」
「はぁ?」
本当に優しいのか、嫌な奴なのか分からない。
「ねぇ、あなたは何なの?私を守りたいの?私を犠牲にしたいの?」
「……どっちだったらいいと思う?」
……何?その言い方は。
「はっきり言うけど、僕には関わらない方がいい。こんな目に合うのは僕だけでいいんだ」
その目は、とても悲しそうに見えた。
「それでも君が僕と関わるんなら、僕が望まなくても、君は犠牲になる。僕が犠牲になったら、君は助かるだろうね」
……?言っている意味がこのときはよく分からなかった。
「中から外に転移はできないから、自分で出ていって。僕のことは忘れた方がいい。そろそろ動いてもおかしくない」
どう見ても、それはいつもの遠ざけるための軽口という感じはしなかった。私は、窓から出ていって、自分の屋敷に戻った。あのときの言葉の意味を理解するのは、すぐだというのも知らずに、何度も後ろを見ながら戻った。
それから一週間後。また呼ばれることになった。多分、公爵夫人が言っていたことだろう。今度は敵地に行くような覚悟だった。私はあのときクローゼットの中から見ていたけど、公爵夫人にとっては私とは初対面。あまり悪いイメージを与えてはいけない。
簡単に挨拶を済ませた。意外だったのは、その場にフェレスリードがいたこと。てっきり、別邸にいるものだと思っていた。
その後、私は公爵夫人に呼ばれた。二人で話しましょうと言われて。罠だろうけど、ついてきた。
「ハリナ嬢ね」
「はい。ハリナ・フィーレンと申します」
「フェレスリードとは会ったことがあると聞いたわ」
「はい。少々、お話の機会をいただきましたので」
何なの?何がしたいの?不敵な笑みを浮かべて。何を考えているの?他の人達とは印象が離れすぎて分からない。
「もう少しこちらに来てちょうだい」
怖いけど……従うしかない。少しずつ近づいていく。すると、頬を手で抑えられた。
「本当にきれいな青い瞳ね……あの人達が見たのはあなたで間違いないわね」
「あの……何のことですか?」
知っているけど、知らない振りをしないと。あのとき、あの部屋にいたのがバレてしまう。そしたら、フェレスリードがどんな目に合うか分からない。
「ちょっとね。街に買い出しに行かせた者が見たというの。なんで……なんでなのかしらね」
その目は、少し狂気にも写っていた。
「わたくしはできなかった……なのに、なぜあなたのような存在が子爵家に生まれたの?なぜ、わたくしはできないの?」
「それは分かりませんけど、何がしたいんですか?」
「あなた、わたくしの子になりなさい。良い暮らしは保証するわ」
「なら、ハリナは誰なんですか」
「あの出来損ないでいいわよ。あなたがいれば、旦那様はわたくしをまた見てくれるわ」
きっと、変わらないと思う。どっちにしろ、あなたは公爵夫人であって、公爵の妻とはなれない。そんな感じがする。
「私の母は子爵夫人である母さんだけですから。あなたではありません」
「いいえ、違うわ。あれが子爵の娘なのよ。あなたはわたくしの娘なの」
本気でそう思い込んでいる。もう病気だな。確かに、こんな人に嘘なんかついたら、ろくな目に合わないだろう。
もう離れた方がいいかと思って、不自然に思われない程度に後ろに下がる。
「なぜ離れるの?あなたはわたくしの娘なの。親から離れるなんて……あってはならないのよ!」
いよいよ持ってヤバイかも。今にも殴りかかりそうな様子で迫ってきた。目を瞑ったけど、いつまで経っても拳は来ない。何かが殴られるような音はしたのに。私ではない。
「あら……なぜここにいるのかしら?」
「ハリナ嬢は関係ありませんよ、夫人」
そんな会話が聞こえて目を開けると、私のすぐ隣にフェレスリードがいた。
えっ?何でここにいるの?
混乱しているなか、フェレスリードはこっちを見た。その頬は少し赤くなっている。もしかして、私の前に出て代わりに叩かれたの?
「なんでついていったの?」
「断ることもできなかったし……」
「フェレスリード!邪魔するんじゃないわよ!」
公爵夫人がそう言ったら、フェレスリードは軽く吹っ飛んだ。
えっ?何が起こったの?魔法?
私が混乱している間に、フェレスリードの方に向かった。
「先代の夫人はきっと誇らしいわ……青い瞳の子を生んだんだもの。あんな薄汚い瞳ではなくて、あなたのようなそのきれいな瞳を」
襟を掴まれている。それなのに、フェレスリードは何もしない。私には普通に魔法を使ったのに、さっきも普通に吹っ飛ばされていたし、何で抵抗しないのよ!
「薄汚い……ですか。あなたの瞳と同じではありませんか。自分の瞳すら薄汚いのですか?夫人」
「生意気よ!!」
そう言って、いよいよ首まで掴み始めた。助けようとした。でも、怖くて足が動かない。フェレスリードの方を見たら、目線をドアの方に送っている。
逃げろってことなの?あのときの言葉は……そういう意味だったの?
私がここにいたところで、何もできないのは分かりきってる。私がドアの方に行ったら、かすかに指を鳴らす音が聞こえて、ドアの鍵が開いた音がした。鍵が閉まってたんだ。
じゃあ、フェレスリードはどうやってここに来たの?転移魔法?なら、何で私を転移させないんだろう。
……私が、会いに行こうとしなければ、こんなことにはならなかったのかな。なら、もう会わない方がいいのかもしれない。
そう思って、私は部屋を出ていった。
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