冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第42話 計画の概要

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 そんなわけでここにいる。不本意ながらも!泉からは結構はなれてて、十日くらいかかったかな。転移魔法が使えないから。

 ここはお世辞にも心地よい場所とは言えない。じめじめしているし、全体的に薄暗い。感触からして、多分地面も壁も土だろうな。魔法で作られてるのかもしれないけど。

 別邸のときの方が1000倍はマシだったような気がする。時々面倒くさい存在が来たぐらいだったし。まぁ、僕は捕虜扱いだろうから、これが妥当なのかもしれない。

 ここに来てからまだ二日くらいか。おとなしくしているからか、見張りはいるが、そんなにこちらを見ることはない。その代わり、国の重鎮らしき人達がよく来るけど。あいつは始末せねば……とか言ってたかな。

 僕の扱いはこんなものだ。魔法が使えないように枷もつけられたけど、魔法の威力が少し弱くなるくらいだろう。たいして意味はない。

 しばらくここにいるうちに、見張りとは普通に話す顔見知り程度の仲にはなっていた。思いのほか抵抗がなかったから、警戒されていないだけかもしれない。

 まぁ、なんもいない空中に話しかける危ない奴みたいには見られているかもしれないけど。ただここにいるのも暇だから、精霊と話していたから。

 そういえば、一週間くらいとか言っておきながら、それ以上の時間をかけている。……うん、大丈夫だろう。くらいだから。一週間と断定しているわけではないから。そこまで説教は長くならないだろう。

「おい、不満はないか?」

 報告に来たのか、一番会いたくない奴が来た。

「たった今、不満ができたかな」
「えっ!?何なんだ?」
「お前が来たこと」

 お前がいなかったらここにいても全然いいんだけどなぁ。ハリナとカイルから離れられるし……ずっとグータラできるし。

「なんで俺のことをそんなに嫌うんだよ」
「変態だからかな」

 勝手に部屋に侵入してきたり、つけ回したり……そんな奴を好きになる奴がいるなら見てみたい。

「変態ではないだろ!」
「人の部屋に不法侵入するだけでもうアウトだから」

 当たり前のようにそこにいたから、最初は部屋を間違えたかと思ったくらいだ。そして、出ていこうとしたところで、あいつの顔を思い出した。そのあとは叩き出してやったけど。

「お前の強さの秘密が知れるかと思っただけなんだが……」
「僕が強いのは生まれつき。はい、秘密分かったね」

 もうまともに会話するのも無駄だと思って、適当に答えた。

「なるほど、そうだったのか」

 あれで納得したの!?

「じゃあ、本題の話があるんだが……」

 音を遮断する結界を張って話し始めた。さらっとこういう魔法が使えるのはさすが黒騎士といったところか。

「お前を処分するのと寝返らせるので、意見が割れてもめてるんだ」
「だろうね」

 敵国の魔法使いなんて、そのどっちかの扱いだ。でも、もめるほどに割れているのは、僕が皇室専属だからだろう。正確には、それくらいの実力があるからだろう。殺すべきだが、殺すのは惜しい。僕はそういう存在だ。

「それで、なんであそこにいたのか詳しく説明してくれるよね?」
「俺としては、お前が来るかもしれないから引き受けたが、国としては、泉をなくすつもりだったんだと」
「少なくともこの国にまともな奴がいないのは分かった」

 たとえ他国でも、泉の破壊はご法度だ。精霊に報復されて滅んでも自業自得というくらい。別に勝手に自滅するなら構わないけど、こっちにまで火の粉が飛んでくるのは困る。

「俺はまともだろ」
「どこが?」

 思わず素で返してしまった。こいつがまともなところを見たことがないから、つい条件反射で言ってしまった。

「そんな素で言わなくてもいいじゃないか……」
「今までの言動のせいだね。それで、後は?」
「あぁ、俺たち黒騎士を使うんだってよ。一斉攻撃がダメなら、侵入するって感じみたいだ」

 確かに、それができる奴が目の前にいるしね。さすがに不意打ちされれば、こちらもそれなりのダメージを受けるだろう。でも、それはこの国が黒騎士を切り捨てるともとれる。不法入国すれば、された国が処罰できるからだ。

「君らは使い捨てってこと?」
「あの貴族どもが俺らを対等の人間として見てるとでも?」

 そう言われて、ここに来てから会った重鎮達を思い出す。

「しないだろうね」

 普通なら僕をとらえたことで褒められでもしそうなこいつを始末するとか言っていた。こいつが情報を横流ししているのがバレたなら、僕を生かそうとする意見は出ないはずだ。

 考えられるとすれば、僕をとらえた功績を横取りしようとしたという感じだろうか。こいつは腐り果てていても貴族みたいだし、そうなると名誉を手にできるのはこいつと家だけだ。それに納得がいっていない奴らがいるというところだろう。

「そして、僕にどうしろと言うんだ」
「使い魔持ってるんだろ?それで知らせればいいじゃないか」

 ……おかしいな。隣国との戦いで使い魔を使ったことはないし、使い魔を持っているのはハリナにしか言わなかったはずなんだけど……

 うん、考えるのはやめよう。深く考えるだけ無駄だ。

「そうだね。ついでにお前が勝手なことをやったせいで皇女様に精霊が近づいたことも言っておこうか」
「なんだ?増えたのか、魔眼持ち」

 下手したら自分の命が危ういことになると気づいていないのかな?魔眼持ちが増えたことの方に関心がいっている。

「知らない?悪妃と呼ばれた人。その人の娘だよ」
「あぁ……こっちにも噂は届いてたなぁ。残虐の限りをつくした魔力だけは強い悪妃って」

 大雑把のような、脚色されているような、微妙な感じだな。あながち間違ってはいないから否定はできないけど。

「それなら魔眼持っててもおかしくないな」
「ちなみに、その皇女様は、第二皇女、第三皇女、第五皇子、皇帝から目をかけられているから頑張れよ」
「遺書を書いた方がいいかもしれないな……」

 皇族に限らず、帝国の王侯貴族は、自分や自分の興味があるものを害されると、一切の容赦をしなくなる性分だ。なので、こいつが勝手なことをやったせいで皇女様に精霊が近づいたことを報告すれば、こいつは5回は死ぬだろう。

「でも、本当に気をつけた方がいい」

 珍しく真面目な顔をしていた。そういう顔をするということは……

「もう向かっているのもいるはずだからな」
「皇族を狙いに……ってことね」

 嫌な予感ほどよく当たるというが、そうならなければいいけど。
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