冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第51話 好機

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「はぁ……暇だ」

 専属らしいことをやるかと思ったものの、その好機が全然訪れないので、暇でしかない。
 もう処分がくだっても全然おかしくはないが、まだその気配すら感じられないということは、まだ意見が真っ二つになっているんだろう。

「暇そうだな」
「君はお呼びじゃないから、帰ってくれない?」

 最近はあまり変なところはなくなってきたけど、元が元だったから、まだ警戒は解いていない。
 この中に入ってこなくなっただけマシだろう。前はちょこちょこ入ってきて、くつろいでたせいで、心が全然休まらなかった。

「だってよ、あんま向こうにいたくないんだよ。なぁ?」

 目の前にいる奴は見張りに同意を求める。そして、見張りの奴らは、こいつが上の立場だからなのかもしれないけど、何度もうなずいている。

「わかった。帰って」
「話を聞いてないのか!?」

 聞いてたよ?でも、それとこれとは別だ。誰が自分をまさぐろうとかするような奴と、同じ空間にいたいと思うだろうか。

「そうだ。お前にはあまり関係ないかもしれないが」

 そういう前置きをして、結構真剣な顔で話し始めたので、寝転がってたのを座り直して、真面目に聞くことにした。

「何?」
「うすうす感じ取ってはいたかもしれないが、クーデターがな……」
「だろうね。自分の手柄にばかりしようとする奴らが平民にろくな施しをしてるわけがないし」

 帝国にもクーデターが起こるかもしれないという噂は入ってきていた。というのも、不法入国にはなるが、こちらに逃げてきた者達がよくいたのだ。こちらからしてみれば、労働力が手に入るので、断る理由はないに等しい。
 カイルは、一応、皇帝としては優れている方で、凶作になったとなれば、食糧倉庫から支援するし、影から定期的に街の報告を聞いていろいろな施策を敷いている。

 それが、な~んでフィレンティア皇女様のことに気づかなかったのか分からないけど……ルメリア妃に関わりたくなかったんだろうな。
 あいつがそんな私的で動くのは珍しい。第四皇妃が何をしたのか、宮で働く奴らはほとんど知っているから、その事でカイルを責める奴は少ないだろう。
 だが、皇女様を好意的に思っているローランドやフローラル皇女殿下とかは、父親を嫌いそうだな。

「さて。それじゃあ、やるか」
「何を……って、聞くまでもないか」
「あれ?止めないの?」

 なんとなく、答えは分かっているけど、あえて聞いてみる。

「だって、クーデターでこの国がなくなっても構わないし」
「仕事なくなるよ?」
「お前のところに行くから問題ない」

 こっちが問題大ありだ。何が悲しくて変態と同じ敷地内で空気を吸わないといけないんだ。
 だが、人を雇うのを決めるのは宮の主。つまりは、カイルだ。カイルは、たとえ腹に一物を抱えていたりしても、使えるなら使うという考えだ。
 たとえ、出生が孤児だとしても、優秀なら使う。貴族でも無能なら使わない。そんな合理的な考えを持っている。
 そんなんだから、僕があいつは嫌だからいれるなとか言っても、有能なら雇ってしまうだろう。対人関係くらい自分で解決しろって平気で言う奴だからね、カイルは!

「いっそ、帰らない方がいいかな」
「お前の仕事が無くならないか?」
「あんたといるくらいなら、その辺をブラブラしてたいんでね」


 僕が専属になったのは、そもそも給料が良い割には、そんなに働かなくてすむからだ。別に、嫌ならすぐに止めても全然構わない。そういう自分勝手な奴なんだ、僕は。
 こんな事、誰にも言わないけどね。こんなの他の魔法師に言ったら、間違いなくいろんな意味で袋叩きだから。

「じゃあ、一番下の皇女様はどうするんだよ。時々暴走させるんだろ?」

 ……なんでこいつが知ってるんだ?皇女様が魔力を制御できないってなったら、それを狙う狡猾な蛇達が多くいる。だから、皇族に関する事は、魔眼以外は公表されないはずだ。誰か潜り込ませでもしないと……

「いつも思うんだけどさ、その君の謎の情報網は何なのさ」
「情報は最大の武器だしな。……まぁ、皇女様の事は、お前の事を探ってたら、偶然知っただけなんだが」

 この際、こいつの変態ぶりには突っ込まないとして……そんなところに穴があったのは知らなかったな。もう皇女様の宮は蟻の子一匹入れないようにするべきかなぁ……でも、そんなレベルの結界使ったりすると、中でも何が起こるか分からないし……
 まぁ、こいつ自身が忍び込んだにしろ、何か手先を使ったにしろ、情報が漏れたんなら、誰かが話したんだろうな。皇族以外で知ってるのは、ハリナとセリアくらいだろうが……あの二人は、たとえ二人きりでもそんな機密事項は話さないだろう。
 その犯人捜しは一度置いておくとして、結構痛いところをつかれたな。魔力の暴走を止められるのは僕くらいだろう。他の奴らは痛みを和らげるとかそういう時間稼ぎくらいしかできないだろうし。
 そうなると、もし暴走するような事が起きて、僕がいなかったら、皇女様はかなり危険だ。

「さっさと終わらせるか」

 僕は指を鳴らして、使い魔を呼び、手紙を結んで飛ばしておいた。そして、転移で牢の外に出る。枷をつけただけで、魔法を使えない部屋にも入れないとは思わなかった。まぁ、そのおかげで出られるけど。

「おー、頑張れよ」
「何を言ってるの?君も行くんだよ?」
「……は?」

 変態は抜きにしても、こいつは結構優秀な方だ。使わないのはもったいないというもの。

「たくさんこき使……協力して貰うから、よろしくね」
「今、何か口走らなかったか!?」

 気のせい気のせい。決して部屋の魔改造や、弱点知られた事とかの逆恨みではないよ。

 その後も嫌がるこいつを無理やり連れて、僕は外に出た。
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