冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第50話 無意識ならば

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 う~ん……寝てたのかな。記憶がすっぽり抜けている。目から光が入ってきた。寝てたみたいだな。

「起きたか」

 上から声が聞こえた。そこには、太陽光が当たったフェリクス兄様がそこにいた。
 なんで目の前に顔だけが映っているんだろう?

「なにやらうなされていたが、何かあったのか?」

 うなされていた……?……そうだったっけ……?

「わかんない……」

 とりあえず起き上がったところで、フェリクス兄様を見ると、こちらをじっと見ていた。

「話せるのか?」

 あれ?確かに、今話したような気がする。でも、もう一回話そうとすると話せない。胸がチリチリと熱くなる。

「…………」

 フェリクス兄様がじーっと見てくる。どうしたんだろう。私が話したことが不思議なのかな。

「フィレンティア。今のお前は、意識すると話せないんじゃないか?」

 意識すると……?もしかしたら、そうなのかもしれない。
 うなされていたというし、無意識なら声が出るのかもしれない。

「うなされている時は、顔も少し歪んでいたし。無意識に感情を表すのもできるみたいだな」

 無意識なのに、それはできるというのかな。でも、表情を浮かべて話せるのは間違いないから、できるというのかもしれない。

「……フィレンティア。さっき、ローランドが来ていたが、会いに行くか?」
「…………」

 会いに行かないといけないのだろうか。会いに行きたいわけではない。でも、会いたくないというわけでもない。今の私は、人間は、そこにいるだけの存在だから。誰がいても、いなくても、多分気にしないと思う。

「ハリナとセリアは忙しいだろうから、もう少しここにいることになるな」

 そういえば、二人がいなかったな。気にしてなかった。
 
「ティア?起きてるかしら?」

 声が聞こえた方を見ると、扉から誰か覗いている。

「アマリリス。せめてノックくらいはしろ」
「何ですか。フェルお兄様はどうせ気づいていたでしょうに」
「気配を消さずに来られたら気づくなという方が無理だ」

 そうなの?私は気づかなかったんだけど……私は人形だから、やっぱり違うのかな。
 そして、アマリリス……って、誰だったかな……どこかで会ったような気はする。顔を見れば名前が浮かぶくらいには分かる。
 ………………あっ、マリー姉様だ。はなかんむりを作った覚えがある。

「そういえば、お前は動かなかったのか?お前もやる気だったみたいだが……」
「ローラとお父様が全部やっちゃたんだもの。なんか、お母様も乗り気だったし……」

 二人の話についていけないのは、私だけだろうか。
 この会話で分かったのは、何かを父様とローランド兄様がしたことと、何かに皇妃様が乗り気なのは分かった。

「ティアは私の宮には来てくれないの~?」

 ほっぺを膨らましてマリー姉様はそう言っている。
 来いって言うなら行く。来るなって言うなら行かない。ただそれだけのこと。
 そんなことより、さっきのフェリクス兄様の質問に答えないといけない。でも、話せない私がどうやって答えるんだろう。
 胸の熱さを無視すれば話せるかな?それか、もっと、熱さを感じないようにしてみる?

「お前の宮に比べたら、こっちの方が良いだろう」
「どっちもどっちだと思いますけど?第一皇子であるお兄様は、皇太子に一番近いですし、それを望む人から、ティアが狙われるかもしれないじゃないですか」
「それなら、私達の母親の国もそうだろう。野心家しかいないぞ、あそこは」
「お母様にその気がないからいいんですよ!」

 意識が別のところに言っている間に、またよく分からない話をしている。私が狙われるかもしれないところと、マリー姉様の母親の国が野心家だという事くらいしか分からない。
 
「それに、お兄様が一番皇太子の位に近いんですから問題ないですよ」
「表向きの話だろう。フィレンティアは皇帝から目をかけられている。それを知ったら、排除しようと動いてもおかしくないだろう」
「そうかもしれませんけど……」

 ……?分からない単語が出てきたな。

「……こうたいし?」

 “こうたいし”って何なんだろう。フェリクス兄様が、それに一番近いらしいけど、それは何でなんだろう?

「……えっ?」
「皇太子は、一番帝位の位に近い皇子のことだ。皇女なら皇太女という」

 そうなのか……帝国とか、あまりそういうのは前世では聞かなかったら、知らなかった。

「いや、そうじゃなくて!ティア、話せるの!?」
「…………?」

 思わず首をかしげてしまった。あれ?また話してた?だから、フェリクス兄様が答えてくれたの?

「無意識なら話すみたいだぞ。意識して話すのはまだできないみたいだが」
「う~ん……それは、進歩なのですかね……?」
「話せるだけそうじゃないか?」

 私のことのはずなのに、話していることがよく分からなかった。
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