冷宮の人形姫

りーさん

文字の大きさ
72 / 75
第二章 愛される末っ子姫

第14話 まだ機会はある

しおりを挟む
 一応、勉強はしたものの、陰謀を書くのは苦手ですので、うん?と思うところがあっても、生暖かく見守っていてください。(これでも何度も書き直しをしたんです……!)
 もちろん、誤字脱字、単語の意味を間違えていたり、文法的におかしなところがあれば、そこは遠慮なくご指摘くださってかまいません。

ーーーーーーーーーーーーーー

 大きさのわりには、見た目は質素な屋敷。その一室で、一人の男が椅子に腰かけている。
 この屋敷で主のように居座っていなければ、誰もこの男が高貴な存在だとは思うまい。それくらいに、容姿は平民にもありふれたものであり、貴族特有のオーラのようなものも感じられなかった。

「やはり、アベリナ皇族。簡単にはいかないか」 

 呟きのようにもとれるが、それは目の前にいる男に話しかける言葉だった。
 男は、丁寧な言葉遣いで言葉を返す。

「ですが、スピライトは消せました。一度に多くの目的を同時に達成するなど奇跡の領域でしょう」
「まぁ、そうだな。スピライトが消せたことで計画が一歩進んだと考えよう。そしてハンス、いまだに気づかれてはいないな」
「ええ。皇宮に忍ばせている奴らの話ですと、公爵様に罪を擦り付けようとした存在がいたそうですが、すでに処理は完了しているそうです。今のところは問題ありません」
「ずいぶんとお粗末なものだ。心当たりはあるがな」

 公爵様と呼ばれた男、アイザックは、不敵な笑みを浮かべている。
 自分でも、様々な方面で恨みを買っている自覚はある。だからといって、恨みを買わないようにしようというつもりはない。
 誰にも嫌われないように生活するなど、それこそ不可能に近い。自分の計画を邪魔に思う存在が出てくるのは当たり前のことだ。だが、そいつらも所詮は小物。
 そもそも公爵家に逆らおうなんて心の底から考えているものは少ない。実質口だけだ。
 皇帝にお情けをもらいたいからそう言っているに過ぎない者だって多い。
 そんな奴らには、金や権力をちらつかせれば、融通を利かせてくるものだ。こちらの味方になれとまでは言わないが、敵対するのならば排除する。それだけだった。

「それにしても、いくら公爵様が手を回したとはいえ、スピライトがあんなことをするとは」
「奴らも後がなかっただけのことだ。うまくいかないようであれば他の手を使ったが、侯爵が乗せやすい性格なのが災いしたな」

 ルメリナは元からあんな性格だったのではない。むしろ、以前は精神魔法を使うという点を除けば、どこにでもいるようなありふれた令嬢だった。
 それがあのように歪んだのは、父親である侯爵の影響である。言ってしまうと、自分たちは皇族すらも簡単には手出しできない存在なのだから、何をしても許される。
 そのまま言ったわけではないが、そのようなことを娘に自慢のように聞かせていたのが原因だ。
 それで性格が歪むようになった。

「あそこまでうまく行くと、罠のような気がしてなりませんでしたが」
「無論、それも警戒していた。だからこそ、裏で私が糸を引いていると気づかれないように何重にも糸を張っておいたんだ。必要なかったかもしれないがな」

 侯爵にそのような思想を植えつけておいたのは、何を隠そう、アイザックである。
 アイザックは、最初からスピライトと皇室の関係を知っていたわけではない。
 スピライトの力に目をつけ、侯爵が酒好きでありながら酒に弱いことを利用し、酒で弱らせたところを言葉巧みに誘導してこちら側に引き込む予定だった。
 もちろん、簡単にうまくいくはずもないだろうから、味方になり得るか確かめるくらいの気持ちでいた。
 だが、想定外のことが起こった。
 酒を飲むと口が軽くなってしまうらしく、契約のことをペラペラと話し出したのだ。
 そこでそれを利用することにした。もちろん、直接公爵が言おうものなら足がつく。だからと言って、噂を広めたりしても、まったく見聞きもしていない存在に広めさせたりなどしたら、なんでそんなことを知っていたんだという話になってしまう。
 そのために、公爵が考えたのは、今度は大勢がいる場所で話させることだった。
 それも、自分の派閥の者たちの前で。
 別に派閥の者だけでパーティーを開いたりするのは、他の公爵家たちもやっていることだし、そのこと自体には疑問を持たれたりはしないだろう。
 定期的に親睦を深めるとして開いているものでもあるからだ。
 ここまで予防していても、気づかれる可能性はある。そもそも、侯爵が飲まないという可能性だってあるし、皇族側のスパイが紛れ込んでいる可能性だってある。
 そのため、他に予防線を張っていたが、使うことはなかった。
 給仕として使っていた使用人の一言二言でその気になってしまうくらいに単純な男だったからだ。
 使用人を使うのは、あくまでも保険くらいでしかなかった。貴族は、噂の半分以上は使用人から仕入れると言っても過言ではないほど、使用人たちは噂好きだ。
 だからこそ、使用人が知っていたとしてもおかしくはない、くらいの感覚であった。いざとなれば、自分は指示していないで簡単に切り捨てることも可能だ。
 たとえ皇族側の人間が屋敷に紛れ込んで、そのようなことを聞いていたとしても、物的証拠がなければ、公爵をどうこうするのは難しい。
 というか、おそらくレイドリア公爵が生かされているのは、あくまでも企てただけで実行に移していないのと、その反逆がそこまで影響を及ぼさないようなかわいらしいレベルであったこと、そして、平民からの指示が一番高いからだ。
 自分たちを下手な理由で処罰してしまうと、平民たちが反発する。いくら皇族が優秀な魔法使いであるからと言って、大帝国のアベリナらしく、平民の人数はかなり多い。一万人は軽く越えるほどだ。
 貴族が私生児などを含めてもおよそ千人ほどと言われているのだから、かなり多いのがわかる。
 元々貴族よりも平民のほうが数が多いし、子どもは労働力になるため、貴族よりも平民のほうが子どもを多く産むことが多かったためである。
 よほどでなければ人に関心を抱くことなどない、俗に言うめんどくさがりなところがある奴らが、平民の反逆を招くような行いはそうそう行わない。

「学習能力がない奴は多い。侯爵はその一人だっただけだ」
「では、父上はお爺様の二の舞は踏まないと?」
「父上は慎重だもんね~」

 そう言いながら扉を開けて入ってきたのは、アイザックの息子であるラインハルトと娘のレティシア。

「なんだ?お前らは今は家庭教師と勉強している時間だろう」
「父上に用があったのですが、気になる会話をしていたので。聞き耳をたててしまいました」
「兄上、隠れる気なかったくせに~」

 レティシアがラインハルトをからかうようにつんつんと指で突いている。
 そんなレティシアにラインハルトは慈愛の視線を向ける。

「じゃあ、レティシアは戻って勉強していなさい。僕は父上と話があるから」
「ぶー。いっつもレティを仲間はずれにするんだから!」

 そうは言いながらも、素直に部屋を出ていく。
 先ほどまで慈愛の目を向けていたラインハルトの目は、視界からレティシアが消えたとたんに冷めた。

「後で機嫌をとってやらねばなりませんね」
「それは言葉通り、後にしろ。何の用だ?」
「僕の精霊に聞いたのですが、フィレンティア皇女殿下が大精霊石を手に入れたそうです」
「ほう……そうなると、計画を根本的に見直す必要があるな」

 大精霊石は、模倣品がお守り代わりとして平民の間で売られていることもあるほどお守りとして右に出るものはないとされている。
 それを所有しているのであれば、今の段階で企てている計画は役にたたないと見ていい。
 今回の計画はお遊びでは片づけられないものだ。慎重すぎるくらいがちょうどいい。

「では、しばらく様子見に?」
「そうだな。目の前に垂らされる餌に食いつくのは能無しのすることだ。餌が目の前にぶら下がるのを待つのではなく、餌がこちらに放り投げられるのを待つべきだろう。焦りは禁物だ。別に、計画が完了してからの期間が一年も残っていれば時間は充分だ。最悪十年かかっても構わん」
「では、ちょうど妹がフィレンティア皇女と同い年ですし、接触させてみます?妹は賢くはありませんが、口が堅いですしやるときはやりますし」
「いや、それは危険だ。あの警戒心の強い皇族が我々の接触を警戒していないわけがない。徹底的に我々の派閥の者と第三皇女が接触しない状態。最低でも、一人きりにはさせないだろう。第四皇女は知らないが、他の皇族は無駄に勘のいい奴らだ。下手に探ろうとして、こちらが探られては敵わんだろう」

 アベリナ皇族は平気でそういうことをしてくる。当主だけを処罰しているのも、家族が関わっている証拠がどこにもないからだ。
 それは当然である。なぜなら、その子どもは家門の危機となれば、実の親であろうと簡単に売る。アイザックもそうしてきた。
 たとえ自分が処分されたとしても、後継がいるのだから問題はない。
 自分の保身には走らない。そのように教育されてきたからだ。

「フィレンティア皇女は人形姫などと呼ばれていたそうだが、私からすれば皇族はほとんどが人形だ。感情もほとんど表に出さない。自分の意思を見せることもほとんどない。そのくせ、絶対に下まで引きずり下ろすことは叶わない」
「そうですね~。フィレンティア皇女は、他の皇族とは毛色が少し違うようですが……その分、周りが過保護ですからね。周りから狙うのがいいでしょう」
「だが、それこそ無謀というものだ。いきなり奴らの心臓や頭脳は狙えん。だからこそ、手足をもぎ取るところから始めなければならない」
「無論、承知しております。では、しばらくはお互いに人当たりのいいご子息と公爵を演じているとしましょう」
「そうだな。まだ機会はある」
「では、勉強に戻りますので、失礼いたします」
 
 最後まで笑みを絶やすことなく、ラインハルトは出ていった。
 パタンとドアが閉まる音が、静かな部屋に響いていた。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...