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幼少期

16. フィオリアの思い (フィオリア視点)

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 アドリアンネの元から去ったフィオリアは、深くため息をついていた。

「思い出さないと思っていたのに、思い出しそうになるなんて……」

 ずっと、忘れているはずだった。忘れたまま、幸せにするはずだった。
 それなのに、何かのきっかけでアドリアンネは思い出しそうになっていた。

「リア」

 優しくそう呼ぶのは、ここではただ一人。
 フィオリアは後ろを向いて、その人物の名を口にした。

「レリアーナ王妃殿下……」
「リア……いいえ、フィオリア。あなたには、聞きたいことがあります」
「……娘の件でしょうか?それとも、私の件でしょうか」
「両方です。私についてきなさい」

 有無を言わさない言い方で、レリアーナは歩き出す。
 フィオリアは、静かに後をついていった。
 しばらく歩くと、ある一室の前にたどり着く。王妃が中に入ったので、フィオリアも中に入った。

「ここならば、邪魔は入りません」
「……殿下は、何をお聞きになりたいので?」
「当然、あなたが病弱になった・・・・・・理由です。知らないとは言わせません」

 疑いをかけているのではなく、確信を持っている表情だった。
 フィオリアは、諦めたようにため息をつく。

「代償……とだけ、言わせてください」
「……そう。今のところは、それで納得いたしましょう。では、娘のほうは?倒れた理由に心当たりは?」
「ない……と言えば、嘘になります。ですが、今はこの口からの公表は控えたく。確信はありませんので」
「……わかりました。娘は精神的な疲労もあったようですので、しばらくは休まれるといいでしょう。では、私はこれにて」

 王妃が立ち去ったのを見て、フィオリアはため息をついた。

「もう、隠し通せないのかしら。でも、誰が信じるというのよ……」

 フィオリアは葛藤していた。
 話したほうがいいのかもしれない。それが、アドリアンネを苦しみから救うにはいいのかもしれない。
 でも、真相を知ったら、もっと苦しめてしまいかねない。それを見たくはなかった。

(……いや、結局、言い訳よね)

 自分の行いが、このようなことを招いた。それを誰にも話さないで、胸の底にしまうのが罪滅ぼしだと思っていた。
 でも、きっと違う。自分は、また・・責められるのを恐れているだけだ。あのような、憎悪を向けられたくないと思っているからこそ、誰にも話したくはない。
 我が身かわいさに、娘を苦しめている悪女なのだ。

(ねぇ、ドリー。あなたは、これを望んでいたの?)

 離れた場所にいる娘に、そう語りかける。聞こえるはずもないというのに。

(……やっぱり、やめておいたほうがよかったのよね。異能の譲渡なんて・・・・・・・・)

 フィオリアは、今さら後悔しても何もできないというのに、ただ静かに悲しみの涙を浮かべていた。
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