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第三章 休みくらい好きにさせて

第22話 事件発生 1

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 長期休暇が終わるまで、残り一週間ほどとなった。今回の、私とカインが何者かにつけられていたというのがあり、領地内は危険だとなったため、私は外出禁止。モニカちゃんとソフィアも巻き込まれる可能性があるとして禁止となった。
 それどころか、ほとぼりが冷めないようならば、学園を休ませることも視野に入れているという。そこまで過保護にしなくてもいいのにとは思うけど、私を狙っていたあいつなら、これでも足りないのかもしれない。
 まぁ、私としては、そこまで外に出たいと思っているわけでもないし、ずっと家にいてもいいというお墨付きをもらったも同然なので、そう考えると私にはほぼメリットしかない。
 学園に行かなければ、ヒロインと会う確率なんて段違いだ。どんなに多めに見積もっても、一割くらいまでは下がるはずだ。
 それに、攻略対象とヒロインのイチャイチャを見なくても済む。誰かを踏み台にしての恋愛なんて、見ていて気持ちの良いものではない。本人が『お互いを愛し合っているのに結ばれないかわいそうな自分たち』に酔っているだけでね。
 周りから見れば、それは素敵な恋ではなく、少し痛いものがある。
 私がやったら大人になるころには黒歴史に確定しているに違いないだろう。
 でも、簡単にはほとぼりが冷めないような気がするのは、私の考えすぎなのだろうか。
 
 そんな私たち……というか、モニカちゃんは危機に面している。

「課題があるのを忘れてました……」

 モニカちゃんが、机に顔を伏せている。そう。長期休暇の今は課題がある。ここでのんびりしていたとき、ソフィアから課題は終わったのかと聞かれてモニカちゃんはこうなってしまった。
 大丈夫よ。私も終わってないから。やる暇なかったからね。

「それは大丈夫ではありませんよね?」

 冷静なツッコミを入れてくるのは、澄まし顔で立っているアイリス。護衛のために、白梟の一人が私の側で護衛してくれるのだとか。
 うん。まぁ、護衛してくれるのはありがたいんだけど、あんたの場合は精神に関しては護衛どころか鋭い刃で攻撃してくるのよね。
 一番良いのはメイアだったんだけどなぁ……。
 メイアは、白梟としての仕事があると言って席を外しているから、何もできない。メイアほど優秀ならすぐに帰ってきそうではあるけど。

「どうしたのですか?リリアン様」

 ソフィアが、不思議そうな顔で聞いてくる。長く友人をしてきた私には、たとえ顔が変わっていてもわかる。これは、演技ではない。本当に不思議に思っている。
 でも、この友人に私も終わってないなんて言ったらどうなるだろう。絶対にめんどくさいことになるに違いない。
 だからと言って、この友人に嘘は通用しない。

「私も終わってないから……。でも、残り半分もないし、すぐに終わるーー」

 ちょっと言い訳になるような感じに説明すると、ソフィアに笑みが浮かんでくる。
 あ、あれは……ヤバい笑みだ。

「それじゃあ、早いところ終わらせましょう?」
「そ、そうね。私は一人でやるから助けはいらなーー」
「いいえ。リリアン様がちゃんとやるかどうか見ていませんと。モニカさんも私が見てあげますから、早く終わらせちゃいましょう?」
「はい……」

 モニカちゃんは、ソフィアのスパルタのオーラが見えていないのだろうか。すごく楽しそうに笑っているあのドSな女王の顔が。
 こいつと勉強なんてしたら、今度は別の意味で意気消沈すると思うのだけど……。

「それじゃあ、モニカさんの方を手伝ってあげて。私は一人でも大丈夫よ」

 私は意地でも拒否する!あのときの二の舞になるわけにはいかない!
 でも、これで簡単にはいそうですかと引いてくれる友人ではない。

「いえいえ。ちゃんと見てますからーー」
「私がいいって言ってるのよ?従いなさい」

 もう仕方ないと最終手段として、今の身分を逆手にとった。ソフィアは、特待生とはいえ平民。そして、今の私は公爵令嬢。本来なら、こんな風にキャッキャウフフとは話せない。
 こうやって偉そうな態度を取ってしまえば、ソフィアも何をしたいのかは理解できるだろう。ソフィアは、一瞬苦虫を噛み潰したような顔をして、ため息をついた。

「仕方ありませんね……ベルテルク公爵令嬢の命とあらば、従わないわけには参りませんし」

 さすがに、“公爵令嬢の私”には逆らう気は起きなかったようで、渋々ながらも納得してくれた。
 最初からこうすれば良かったのか。めんどくさい人たちも、公爵家の権力で黙らせればいいのかも。リリアンが悪役令嬢としての道を歩めたのは、公爵家の威光もあるはず。
 公爵家じゃなければ、取り巻きもできないし、自分には誰も従わない。多少平民を虐げたところでそこまで問題にもならない。
 ひどい話だろうが、それが身分差社会というもの。
 だからこそソフィアも、“友人の私”には遠慮なくガツガツ来ていたけど、“公爵令嬢の私”には逆らわなかった。身分差をよく理解しているから。

「じゃあ、私はお二人の邪魔にならないように別室に移るわ」
「はい。お気をつけを」
「ええ」

 こんなやり取りをしてしまうと、ちょっと居づらくなって、私は部屋を移った。そう……移ってしまった。
 この後、二人がいなくなるなんて夢にも思わずに。
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