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5. あの方との出会い
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部屋に戻ったわたくしは、しばらく呆けていました。
パーティーや謁見では平気に振る舞ってはいましたが、少しは傷を負っていたようです。
いや、そこではないかもしれません。わたくしは、きっと、お父さまと離れるのが寂しいのでしょう。ですが、自分で決めたことですし、いつまでもくよくよしているわけにもいきません。
「もう一年……ですわね」
わたくしは、あの時のことを思い返しました。
◇◇◇
二年前、わたくしは、お母さまを亡くしたショックで、部屋にこもりきりの子どもでした。
カーテンも閉めて、ドアにも鍵をかけ、一日中部屋にいたのです。
お母さまが亡くなったとき、不思議と涙は出ませんでした。いや、出せませんでした。
悲しさや辛さよりも、理解が追いつかなかったのです。
亡くなるって、もっと辛くて、苦しいものだと思っていたわたくしは、お母さまのあの安らかな笑みを浮かべたまま眠っていたのを見て、もう息をしていないなんて、とても思えなかったのですから。
何度、お母さまの名前を呼んだかわかりません。それでもお母さまは、わたくしの名前を呼ぶどころか、目を開くことすらなく、そのときに初めてお母さまの死を理解しました。
それから一年後、ようやくわたくしは外出ができる程度にまで回復し、庭を散歩しておりました。
父から、客が来ることは聞いていたので、邪魔にならないように裏庭のほうにいたのですが……
「エリスお嬢さま!」
わたくしを呼ぶ声が聞こえて、わたくしは振り向きます。
そこには、わたくしの専属侍女であるアニーがいました。
「アニー、どうしたの?」
「旦那さまがお呼びです。すぐに支度するようにと」
「わ、わかったわ」
あまりのアニーの慌てように、わたくしも慌てながら部屋に戻りました。
お父さまは、今はお客さまの対応をしているはずなのに、どうしてわたくしを呼ぶのか、まったくわかりませんでした。
急いで支度を整え、お父さまの待つ応接室へと向かいました。
そして、応接室のドアをノックします。
「お父さま、エリスですわ」
「入りなさい」
入室の許可を聞き、わたくしが部屋の中に入ると、そこにはお父さまと、お父さまに向き合うように、一人の男性が座っておりました。
この人がお客さまだと理解したわたくしは、すぐに礼をします。
「ごきげんよう、お客さま。わたくしは、ハワード侯爵家のエリス・ハワードと申します」
「これはご丁寧に。私はルミナーラ公爵家当主のエルハルト・ルミナーラと申します。ハルムート帝国からやってきました」
「帝国から……ですの?どうして……」
わたくしは、素直に驚きます。ハルムート帝国と、ライル王国の仲は世辞にも仲がいい……どころか、険悪です。
表向きには同盟を組み、争っていませんが、二国の間には、決して埋めることのできない溝があります。
「実は、あなたの母君は私の妹でしてね。一年前に、妹が儚くなったと聞いたのですが、なかなか時間がとれず、ようやく花を手向けに来ることができたのです」
「……そう、だったのですね……」
当時は、お母さまの親族が帝国の方とは知りませんでした。そもそも、お母さまが帝国出身なのも知りませんでした。
わたくしのお母さまは、とても美しい人ではありましたが、容姿は赤茶髪に青い瞳と、どちらもありふれたものだったのですから。
唯一、その青い瞳が時折、美しいサファイアのような輝きを放つことだけは印象的ではありましたが、それだけです。
伯父と名乗る男性も、容姿は紺色の髪に黄色の瞳と、お母さまとは似ても似つかないものですし、簡単に伯父と受け入れることはできませんでした。
「といっても、花の手向けは先週に終えておりまして、本日は別の用事で来たのですが」
「別の用事……とは?」
わたくしがたずねると、エルハルトさまはにこりと笑い、わたくしのほうに近づいてきます。
そして、わたくしと視線を合わせるようにしゃがみこむと、わたくしの目を覗き込むように観察してきました。
わたくしは、少し体を硬直させたものの、あるがまま受け入れます。
一体、何なのかしらという訝しむ目は向けておりましたが。
「やはり、銀……いや、もしかしたら、プラチナか……?」
わたくしの目を覗き込みながら、エルハルトさまはぶつぶつと呟きます。
わたくしは、何のことだかさっぱりわかりませんでしたが、お父さまは頭を抱え、はぁとため息をつきました。
「やはり、娘は宝石眼なのですか?」
「ええ、間違いありません。それに、これはおそらくプラチナです」
「プラチナ……なら、帝国は見逃してはくれぬか……」
お父さまは、さらに深くため息をつかれました。
一体、何のことでしょう?わたくしだけ置いていかれてしまって、なにがなんだかわかりません。
「あの……宝石眼とか、帝国とか……何なのですか?」
「もしや、母君から聞いていないのかい?」
エルハルトさまの言葉に、わたくしはこくりと頷きます。
「……妻は、娘を苦労させたくないと常に言っておりましたから、話していないでしょう」
「そうか……なら、エリス嬢。君の母上のことから話そうか」
そう言って、エルハルトさまはゆっくりと話し始めました。
そこでわたくしは、お母さまの出自や、わたくしの特殊な瞳のことを知ったのです。エルハルトさまの瞳も、トパーズの宝石眼だそうです。
そして、宝石眼を持つ者は、どのような立場に置いても、帝位継承権を持つことになると。
「そ、そのようなことを急におっしゃられましても……わたくしのおばあさまが皇女など……」
到底、信じられるようなものではありませんでした。
ですが、わたくしが皇族の血筋であるのは、わたくしの宝石眼が証明していると、エルハルトさまはおっしゃいます。
「だからこそ、エリス嬢には、ハルムート帝国に来てもらいたいんだ。帝位継承権所有者を、外国に置いておくわけにいかない」
「で、ですが、一体どうするのですか?帝位継承権所有者としてなら、客人として滞在するわけにはいかないのでは?」
「ああ。陛下から提案されているのは、君を私の養子にすることだ。君は私の姪という立ち位置であるから、国の貴族では私が一番血が近いからな」
養子。確かに、それが一番いいのでしょう。皇帝陛下としても、わたくしが貴族の娘になるほうが扱いやすいはずですもの。
ですが、それではーー
「それでは、もうライル王国には……」
「戻れないだろう。侯爵とも、家族として接することはできなくなる」
王国に戻れないだけでなく、お父さまも親として見ることができなくなるなど、お母さまを亡くした心が癒えていなかったわたくしには、到底耐えられるものではありませんでした。
「お断りします。帝国に向かうくらいでしたら、継承権は放棄いたしますわ!」
帝国の皇帝の座なんて、ちっとも欲しくない。わたくしは、お父さまと一緒に、お母さまの温もりが残っている屋敷にいたいだけですもの。
「君の意見は尊重したいが、こちらも簡単には引き下がれない。特に、プラチナとなれば」
「プラチナの何が大事なのですか!お母さまは、皇族の血を引いていたのですから、宝石眼を持つ子どもが生まれる可能性は考えられたではありませんか!」
宝石眼を持っているからと奪いに来るのであれば、なぜお母さまが隣国に嫁ぐのを許したのか。どうして、宝石眼を持つだけでこのようなことになるのか。
「……わかった。この件は保留にしよう。だが、君が宝石眼を持っている限り、帝国からは逃げられないということは覚えておいてくれ」
「……かしこまりました。わたくしの覚悟が決まれば、ご連絡いたしますわ」
本当は、永遠に行きたくない。でも、それで帝国が強行手段にでも出て、周りに何かあるほうが、わたくしは自分を許せなくなりますもの。
そうなるくらいなら、きっとーーわたくしは、帝国に行くのを選ぶわ。
そうしてわたくしは、お父さまと共に伯父さまを見送りました。
◇◇◇
あれから、一年。予定とは違いますし、まだお母さまの死や家族と離れることを完全に受け入れたわけではありませんが、もう王国には居づらい状況です。今が潮時なのでしょう。
「きっと……大丈夫よ」
隣国で暮らす不安を拭うように、わたくしは自分を奮い立たせた。
パーティーや謁見では平気に振る舞ってはいましたが、少しは傷を負っていたようです。
いや、そこではないかもしれません。わたくしは、きっと、お父さまと離れるのが寂しいのでしょう。ですが、自分で決めたことですし、いつまでもくよくよしているわけにもいきません。
「もう一年……ですわね」
わたくしは、あの時のことを思い返しました。
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二年前、わたくしは、お母さまを亡くしたショックで、部屋にこもりきりの子どもでした。
カーテンも閉めて、ドアにも鍵をかけ、一日中部屋にいたのです。
お母さまが亡くなったとき、不思議と涙は出ませんでした。いや、出せませんでした。
悲しさや辛さよりも、理解が追いつかなかったのです。
亡くなるって、もっと辛くて、苦しいものだと思っていたわたくしは、お母さまのあの安らかな笑みを浮かべたまま眠っていたのを見て、もう息をしていないなんて、とても思えなかったのですから。
何度、お母さまの名前を呼んだかわかりません。それでもお母さまは、わたくしの名前を呼ぶどころか、目を開くことすらなく、そのときに初めてお母さまの死を理解しました。
それから一年後、ようやくわたくしは外出ができる程度にまで回復し、庭を散歩しておりました。
父から、客が来ることは聞いていたので、邪魔にならないように裏庭のほうにいたのですが……
「エリスお嬢さま!」
わたくしを呼ぶ声が聞こえて、わたくしは振り向きます。
そこには、わたくしの専属侍女であるアニーがいました。
「アニー、どうしたの?」
「旦那さまがお呼びです。すぐに支度するようにと」
「わ、わかったわ」
あまりのアニーの慌てように、わたくしも慌てながら部屋に戻りました。
お父さまは、今はお客さまの対応をしているはずなのに、どうしてわたくしを呼ぶのか、まったくわかりませんでした。
急いで支度を整え、お父さまの待つ応接室へと向かいました。
そして、応接室のドアをノックします。
「お父さま、エリスですわ」
「入りなさい」
入室の許可を聞き、わたくしが部屋の中に入ると、そこにはお父さまと、お父さまに向き合うように、一人の男性が座っておりました。
この人がお客さまだと理解したわたくしは、すぐに礼をします。
「ごきげんよう、お客さま。わたくしは、ハワード侯爵家のエリス・ハワードと申します」
「これはご丁寧に。私はルミナーラ公爵家当主のエルハルト・ルミナーラと申します。ハルムート帝国からやってきました」
「帝国から……ですの?どうして……」
わたくしは、素直に驚きます。ハルムート帝国と、ライル王国の仲は世辞にも仲がいい……どころか、険悪です。
表向きには同盟を組み、争っていませんが、二国の間には、決して埋めることのできない溝があります。
「実は、あなたの母君は私の妹でしてね。一年前に、妹が儚くなったと聞いたのですが、なかなか時間がとれず、ようやく花を手向けに来ることができたのです」
「……そう、だったのですね……」
当時は、お母さまの親族が帝国の方とは知りませんでした。そもそも、お母さまが帝国出身なのも知りませんでした。
わたくしのお母さまは、とても美しい人ではありましたが、容姿は赤茶髪に青い瞳と、どちらもありふれたものだったのですから。
唯一、その青い瞳が時折、美しいサファイアのような輝きを放つことだけは印象的ではありましたが、それだけです。
伯父と名乗る男性も、容姿は紺色の髪に黄色の瞳と、お母さまとは似ても似つかないものですし、簡単に伯父と受け入れることはできませんでした。
「といっても、花の手向けは先週に終えておりまして、本日は別の用事で来たのですが」
「別の用事……とは?」
わたくしがたずねると、エルハルトさまはにこりと笑い、わたくしのほうに近づいてきます。
そして、わたくしと視線を合わせるようにしゃがみこむと、わたくしの目を覗き込むように観察してきました。
わたくしは、少し体を硬直させたものの、あるがまま受け入れます。
一体、何なのかしらという訝しむ目は向けておりましたが。
「やはり、銀……いや、もしかしたら、プラチナか……?」
わたくしの目を覗き込みながら、エルハルトさまはぶつぶつと呟きます。
わたくしは、何のことだかさっぱりわかりませんでしたが、お父さまは頭を抱え、はぁとため息をつきました。
「やはり、娘は宝石眼なのですか?」
「ええ、間違いありません。それに、これはおそらくプラチナです」
「プラチナ……なら、帝国は見逃してはくれぬか……」
お父さまは、さらに深くため息をつかれました。
一体、何のことでしょう?わたくしだけ置いていかれてしまって、なにがなんだかわかりません。
「あの……宝石眼とか、帝国とか……何なのですか?」
「もしや、母君から聞いていないのかい?」
エルハルトさまの言葉に、わたくしはこくりと頷きます。
「……妻は、娘を苦労させたくないと常に言っておりましたから、話していないでしょう」
「そうか……なら、エリス嬢。君の母上のことから話そうか」
そう言って、エルハルトさまはゆっくりと話し始めました。
そこでわたくしは、お母さまの出自や、わたくしの特殊な瞳のことを知ったのです。エルハルトさまの瞳も、トパーズの宝石眼だそうです。
そして、宝石眼を持つ者は、どのような立場に置いても、帝位継承権を持つことになると。
「そ、そのようなことを急におっしゃられましても……わたくしのおばあさまが皇女など……」
到底、信じられるようなものではありませんでした。
ですが、わたくしが皇族の血筋であるのは、わたくしの宝石眼が証明していると、エルハルトさまはおっしゃいます。
「だからこそ、エリス嬢には、ハルムート帝国に来てもらいたいんだ。帝位継承権所有者を、外国に置いておくわけにいかない」
「で、ですが、一体どうするのですか?帝位継承権所有者としてなら、客人として滞在するわけにはいかないのでは?」
「ああ。陛下から提案されているのは、君を私の養子にすることだ。君は私の姪という立ち位置であるから、国の貴族では私が一番血が近いからな」
養子。確かに、それが一番いいのでしょう。皇帝陛下としても、わたくしが貴族の娘になるほうが扱いやすいはずですもの。
ですが、それではーー
「それでは、もうライル王国には……」
「戻れないだろう。侯爵とも、家族として接することはできなくなる」
王国に戻れないだけでなく、お父さまも親として見ることができなくなるなど、お母さまを亡くした心が癒えていなかったわたくしには、到底耐えられるものではありませんでした。
「お断りします。帝国に向かうくらいでしたら、継承権は放棄いたしますわ!」
帝国の皇帝の座なんて、ちっとも欲しくない。わたくしは、お父さまと一緒に、お母さまの温もりが残っている屋敷にいたいだけですもの。
「君の意見は尊重したいが、こちらも簡単には引き下がれない。特に、プラチナとなれば」
「プラチナの何が大事なのですか!お母さまは、皇族の血を引いていたのですから、宝石眼を持つ子どもが生まれる可能性は考えられたではありませんか!」
宝石眼を持っているからと奪いに来るのであれば、なぜお母さまが隣国に嫁ぐのを許したのか。どうして、宝石眼を持つだけでこのようなことになるのか。
「……わかった。この件は保留にしよう。だが、君が宝石眼を持っている限り、帝国からは逃げられないということは覚えておいてくれ」
「……かしこまりました。わたくしの覚悟が決まれば、ご連絡いたしますわ」
本当は、永遠に行きたくない。でも、それで帝国が強行手段にでも出て、周りに何かあるほうが、わたくしは自分を許せなくなりますもの。
そうなるくらいなら、きっとーーわたくしは、帝国に行くのを選ぶわ。
そうしてわたくしは、お父さまと共に伯父さまを見送りました。
◇◇◇
あれから、一年。予定とは違いますし、まだお母さまの死や家族と離れることを完全に受け入れたわけではありませんが、もう王国には居づらい状況です。今が潮時なのでしょう。
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