【長編版】婚約破棄と言いますが、あなたとの婚約は解消済みです

りーさん

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6. 別れのとき

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 あの婚約破棄騒動から五日後の、わたくしがお父さまと残りわずかな家族としての時間を過ごしていたころ。
 使用人から、伯父さまがついに迎えに来られたことを伝えられました。それは、わたくしとお父さまのお別れを意味します。

「行こうか、エリス」
「はい、お父さま」

 わたくしは、屋敷の外に出て、馬車から降りてこられた伯父さまを出迎えます。

「伯父さま、お久しぶりです」

 手紙が届くまでおよそ五日。そして、わたくしが手紙を出したのも五日前。
 伯父さまは、やはり転移魔術を駆使して来られたようですわね。そうでなくては、一日で屋敷まで来られるはずがありませんもの。

「ああ。元気だったか?」
「はい、この通り」

 わたくしはにこりと微笑みますが、伯父さまの顔色は芳しくありません。どこか、わたくしの様子を伺っているかのような顔つきです。
 おそらく、あれほど拒否していたわたくしが、わずか一年の間に考えを変え、伯父さまとの養子縁組を引き受けた時点で、何かあったことには気づかれているのでしょう。

「では、早速ではあるが、帝国に向かおう。陛下が早く連れてこいと急かすのでな」
「はい……」

 わたくしの返事は煮えきりません。
 しっかりと、けじめをつけたと思っていたのに、まだ……ここを離れる勇気を、奮い立たせることができずにいます。
 これでは、帝国でちゃんと暮らしていけるのか怪しいですわね。

「……そういえば、転移陣の点検が必要なのを忘れていた。少し時間がかかるから、それまで待っていてくれるか?」
「伯父さま……?」

 公爵らしからない言い訳に近いような言葉をわたくしに告げ、伯父さまは馬車のほうに戻りました。乗り込むようなことはなく、周囲をうろうろとするだけです。
 わたくしには……いえ、この場に居合わせた者なら、全員が気づいたでしょう。

 伯父さまは、わたくしに時間をくれたのだと。しっかりと、けじめをつけられるように。
 わたくしも、しっかりと覚悟を決めなければ。

「お父さま。わたくしがいなくなれば、跡継ぎがいなくなりますが、どうしますか?」

 他にもっとかける言葉があるでしょうに、わたくしの口からはそんな言葉しか出ません。
 これではいけないのに。

「分家から養子を取る。私は、彼女を……アリー以外を、娶る気はない」
「そうなのですか」

 アリーというのは、お母さまの名前のアリエンティルの愛称です。
 お父さまだけでなく、お母さまもお父さまをラアンと名前呼びしていらしたくらいには、仲のよい夫婦だった記憶がございます。

「……お父さま。わたくし、必ず手紙を出しますわ。ですので、きちんと返信してくださいませ」
「かわいい娘の頼みを断るはずがないだろう。届かなくても、こちらから何通でも送るつもりだったさ」

 お父さまは、少し荒々しく、わたくしの頭を撫でてくださいました。
 その暖かみだけで、これからの不安が、すべて拭えたような気がいたしました。

「またお会いしましょう、お父さま」
「ああ。早めに会いに行く」
「遅ければ、わたくしのほうから会いに行きますわ」

 最後に、わたくしはお父さまと抱き合って、伯父さまの待つ馬車へと向かう。
 その僅かな道すがら、わたくしは何度もお父さまと、生まれ育った屋敷に手を振りました。
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