6 / 25
6. 別れのとき
しおりを挟む
あの婚約破棄騒動から五日後の、わたくしがお父さまと残りわずかな家族としての時間を過ごしていたころ。
使用人から、伯父さまがついに迎えに来られたことを伝えられました。それは、わたくしとお父さまのお別れを意味します。
「行こうか、エリス」
「はい、お父さま」
わたくしは、屋敷の外に出て、馬車から降りてこられた伯父さまを出迎えます。
「伯父さま、お久しぶりです」
手紙が届くまでおよそ五日。そして、わたくしが手紙を出したのも五日前。
伯父さまは、やはり転移魔術を駆使して来られたようですわね。そうでなくては、一日で屋敷まで来られるはずがありませんもの。
「ああ。元気だったか?」
「はい、この通り」
わたくしはにこりと微笑みますが、伯父さまの顔色は芳しくありません。どこか、わたくしの様子を伺っているかのような顔つきです。
おそらく、あれほど拒否していたわたくしが、わずか一年の間に考えを変え、伯父さまとの養子縁組を引き受けた時点で、何かあったことには気づかれているのでしょう。
「では、早速ではあるが、帝国に向かおう。陛下が早く連れてこいと急かすのでな」
「はい……」
わたくしの返事は煮えきりません。
しっかりと、けじめをつけたと思っていたのに、まだ……ここを離れる勇気を、奮い立たせることができずにいます。
これでは、帝国でちゃんと暮らしていけるのか怪しいですわね。
「……そういえば、転移陣の点検が必要なのを忘れていた。少し時間がかかるから、それまで待っていてくれるか?」
「伯父さま……?」
公爵らしからない言い訳に近いような言葉をわたくしに告げ、伯父さまは馬車のほうに戻りました。乗り込むようなことはなく、周囲をうろうろとするだけです。
わたくしには……いえ、この場に居合わせた者なら、全員が気づいたでしょう。
伯父さまは、わたくしに時間をくれたのだと。しっかりと、けじめをつけられるように。
わたくしも、しっかりと覚悟を決めなければ。
「お父さま。わたくしがいなくなれば、跡継ぎがいなくなりますが、どうしますか?」
他にもっとかける言葉があるでしょうに、わたくしの口からはそんな言葉しか出ません。
これではいけないのに。
「分家から養子を取る。私は、彼女を……アリー以外を、娶る気はない」
「そうなのですか」
アリーというのは、お母さまの名前のアリエンティルの愛称です。
お父さまだけでなく、お母さまもお父さまをラアンと名前呼びしていらしたくらいには、仲のよい夫婦だった記憶がございます。
「……お父さま。わたくし、必ず手紙を出しますわ。ですので、きちんと返信してくださいませ」
「かわいい娘の頼みを断るはずがないだろう。届かなくても、こちらから何通でも送るつもりだったさ」
お父さまは、少し荒々しく、わたくしの頭を撫でてくださいました。
その暖かみだけで、これからの不安が、すべて拭えたような気がいたしました。
「またお会いしましょう、お父さま」
「ああ。早めに会いに行く」
「遅ければ、わたくしのほうから会いに行きますわ」
最後に、わたくしはお父さまと抱き合って、伯父さまの待つ馬車へと向かう。
その僅かな道すがら、わたくしは何度もお父さまと、生まれ育った屋敷に手を振りました。
使用人から、伯父さまがついに迎えに来られたことを伝えられました。それは、わたくしとお父さまのお別れを意味します。
「行こうか、エリス」
「はい、お父さま」
わたくしは、屋敷の外に出て、馬車から降りてこられた伯父さまを出迎えます。
「伯父さま、お久しぶりです」
手紙が届くまでおよそ五日。そして、わたくしが手紙を出したのも五日前。
伯父さまは、やはり転移魔術を駆使して来られたようですわね。そうでなくては、一日で屋敷まで来られるはずがありませんもの。
「ああ。元気だったか?」
「はい、この通り」
わたくしはにこりと微笑みますが、伯父さまの顔色は芳しくありません。どこか、わたくしの様子を伺っているかのような顔つきです。
おそらく、あれほど拒否していたわたくしが、わずか一年の間に考えを変え、伯父さまとの養子縁組を引き受けた時点で、何かあったことには気づかれているのでしょう。
「では、早速ではあるが、帝国に向かおう。陛下が早く連れてこいと急かすのでな」
「はい……」
わたくしの返事は煮えきりません。
しっかりと、けじめをつけたと思っていたのに、まだ……ここを離れる勇気を、奮い立たせることができずにいます。
これでは、帝国でちゃんと暮らしていけるのか怪しいですわね。
「……そういえば、転移陣の点検が必要なのを忘れていた。少し時間がかかるから、それまで待っていてくれるか?」
「伯父さま……?」
公爵らしからない言い訳に近いような言葉をわたくしに告げ、伯父さまは馬車のほうに戻りました。乗り込むようなことはなく、周囲をうろうろとするだけです。
わたくしには……いえ、この場に居合わせた者なら、全員が気づいたでしょう。
伯父さまは、わたくしに時間をくれたのだと。しっかりと、けじめをつけられるように。
わたくしも、しっかりと覚悟を決めなければ。
「お父さま。わたくしがいなくなれば、跡継ぎがいなくなりますが、どうしますか?」
他にもっとかける言葉があるでしょうに、わたくしの口からはそんな言葉しか出ません。
これではいけないのに。
「分家から養子を取る。私は、彼女を……アリー以外を、娶る気はない」
「そうなのですか」
アリーというのは、お母さまの名前のアリエンティルの愛称です。
お父さまだけでなく、お母さまもお父さまをラアンと名前呼びしていらしたくらいには、仲のよい夫婦だった記憶がございます。
「……お父さま。わたくし、必ず手紙を出しますわ。ですので、きちんと返信してくださいませ」
「かわいい娘の頼みを断るはずがないだろう。届かなくても、こちらから何通でも送るつもりだったさ」
お父さまは、少し荒々しく、わたくしの頭を撫でてくださいました。
その暖かみだけで、これからの不安が、すべて拭えたような気がいたしました。
「またお会いしましょう、お父さま」
「ああ。早めに会いに行く」
「遅ければ、わたくしのほうから会いに行きますわ」
最後に、わたくしはお父さまと抱き合って、伯父さまの待つ馬車へと向かう。
その僅かな道すがら、わたくしは何度もお父さまと、生まれ育った屋敷に手を振りました。
144
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
婚約者は嘘つき!私から捨ててあげますわ
あんり
恋愛
「マーティン様、今、わたくしと婚約破棄をなさりたいと、そうおっしゃいましたの?」
愛されていると信じていた婚約者から、突然の別れを告げられた侯爵令嬢のエリッサ。
理由も分からないまま社交界の噂に晒され、それでも彼女は涙を見せず、誇り高く微笑んでみせる。
―――けれど本当は、あの別れの裏に“何か”がある気がしてならなかった。
そんな中、従兄である第二王子アダムが手を差し伸べる。
新たな婚約、近づく距離、揺れる心。
だがエリッサは知らない。
かつての婚約者が、自ら悪者になってまで隠した「真実」を。
捨てられた令嬢?いいえ違いますわ。
わたくしが、未来を選び直すの。
勘違いとすれ違いから始まる、切なくて優しい恋の物語。
【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます
よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」
婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。
「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」
「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」
両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。
お姉様からは用が済んだからと捨てられます。
「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」
「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」
ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。
唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。
ここから私の人生が大きく変わっていきます。
私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?
榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」
“偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。
地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。
終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。
そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。
けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。
「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」
全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。
すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく――
これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる