【長編版】婚約破棄と言いますが、あなたとの婚約は解消済みです

りーさん

文字の大きさ
12 / 25

12.  お出かけの準備

しおりを挟む
 短編のときの感想に、宝石眼のチートさが知りたいというのがありましたので、それに関する新エピソードを導入します。なので、極端に更新が遅いです。

ーーーーーーーーーーー

 ルークとの距離が少し縮まって、公爵家の居心地がよくなってきたころ。朝食の時間に、養父さまがとある提案をしてきました。

「近いうちに、領地に顔を出してこようと思うのだが、ルークとエリスも来ないか」
「僕と……」
「わたくし……ですか?」

 ルークはまだわかります。次期公爵となるのですから、領民に顔を覚えてもらう必要はありますし、領地の特色や暮らしを知っておく意味はあるでしょう。
 ですが、なぜわたくしまで?

 ルークも同じようなことを思っているのか、わたくしのほうを見ています。

「ああ。ルークはちょうど学園の休暇に入るし、エリスも帝国の文化を知る必要がある。直接経験すること以上に深く学べるものはないからね」

 確かに、養父さまの言う通りです。ルミナーラ公爵令嬢となってしまった以上、それ相応の振る舞いが求められます。
 それなのに、その令嬢が無知なのはいけません。学びの機会を与えてくださるというのであれば、それに甘えることといたしましょう。

「かしこまりました。同行させていただきますわ」
「ぼ、僕も行かせていただきます!」
「では、一週間後に出発するから、準備しておくように」

 わたくしとルークは、「はい」と返事をしました。

 それから、屋敷は騒がしい日々が続きました。
 公爵だけでなく、わたくしとルークがしばらく屋敷を開けるということで、ついていく使用人の選別や仕事の引き継ぎ、持っていく荷物の整理など、使用人の仕事が普段以上に増えているので、当然のことではあるのですが。

 わたくしはというと、やることがなさすぎるので、お父さまへの手紙を出しておこうと、文を認めておりました。

 領地に向かってしまっては、あまり手紙が出せなくなりますものね。

 わたくしは、まだ手紙で伝えていない近況や、領地に出かけるため手紙を出せなくなることを記し、封をします。
 印籠を押し、わたくしは近くに置いてある四角い魔術具を手に取りました。

 これは、養父さまがくださった小規模転移魔術の魔術具で、お父さまの屋敷にも同じものがございます。
 今のわたくしは、ルミナーラ公爵令嬢。実の父とはいえ、あまり頻繁に交流を持つのは褒められる行いではございません。

 そのため、手紙を送るときはこれを使うように言われました。本来なら、距離が広がれば広がるほど魔力を消費し、国境を超えるほどとなると、ほとんどの者は一ヶ月に一度使うのが限界のようですが、わたくしはそれなりに高い魔力を持っており、回復も早いほうですので、三日に一度ほどなら手紙の往復が可能です。
 養父さまいわく、わたくしのこの強い魔力は、父からの遺伝である可能性が高いとのことで、お父さまとの繋がりを強く感じることができて嬉しい限りです。

(……そうだ。あの件も聞いておきましょう)

 もう一枚目の手紙は封を閉じてしまったので、新たに二枚目の手紙で用件を書いていく。

 わたくしが手紙に書いているのは、ルークから聞いたこと。

 婚約破棄騒動に、皇族が関わっているかもしれないというもの。

 もちろん、言葉を飾らずに書いてしまっては、中身を見られたときがまずいので、遠回しに書いておきます。
 お父さまの目にだけ入ってほしいですが、それは不可能でしょうし。

 言葉を飾りたてつつ、お父さまには伝わるような言葉選びをした結果、一枚目のときよりも時間はかかりましたが、なんとか書き終えることができました。
 わたくしは、二枚の手紙を魔術陣が描いてあるほうに乗せて、魔力を通します。

「転移ーーハワード侯爵家」

 わたくしが転移先を指定すると、置いてあった手紙はふっと消えます。
 これで、無事にお父さまの元へと届いたはずです。
 後は、返事を待つことといたしましょう。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。

BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。 だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。 女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね? けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

モブは転生ヒロインを許さない

成行任世
恋愛
死亡ルートを辿った攻略対象者の妹(モブ)が転生ヒロインを断罪します。 .

『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら

黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。 最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。 けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。 そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。 極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。 それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。 辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの? 戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる? ※曖昧設定。 ※別サイトにも掲載。

処理中です...