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16. 領地視察 4
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昼食後、わたくしたちは領地へと出向くことになりました。といっても、馬車から外には出ていないのですが。
わたくしたちの身の安全のため、仕方のないことではあるのですが、少し残念な気持ちはあります。
「養父さま、どこへ向かうのですか?」
「ひとまず、街を見て回ろう。それから、代官邸に行く」
「このまま……ですか?」
街を見て回ると言いますが、まさか馬車に乗ったまますべてを終えるつもりでしょうか……?
馬車の窓から見える景色だけでは、判断材料が足りないように思えるのですが。
「途中で降りて見たりもする。直接領地に金を落とすのも領主の仕事だからな」
わたくしの心のうちを察してか、ルークがそう答えてくれます。
初対面のときと比べれば、だいぶ話してくれるようになりました。まぁ、エリスと名前呼びで、姉とは呼んでくれないのは、少し寂しいですが。
「気になるなら、ここで降りてみるか?エリスが興味を持つものもあるかもしれない」
「許可をいただけるのでしたら」
「なら、行こうか」
養父さまは、御者に声をかけ、道の脇で馬車を止めさせ、わたくしたちは馬車を降りました。
わたくしは、しばらく街の様子を見ていましたが、わたくしたちのほうに領民が気づくと、皆が礼を尽くします。
どうやら、馬車で来たために領主一族と知られているようです。
養父さまは、わたくしの肩をちょんちょんとつついて、袋を渡してきます。
そこには、数十枚の通貨が入っていました。
「ここは、ルミニエで一番発展している街で、多くの露店がある。ルミニエの特産品も多く売られているから、気になったものがあれば遠慮せずに購入するといい」
「かしこまりました」
わたくしが目についた店のほうに歩いていこうとすると、わたくしの通る道を開けるようにして領民たちが散ります。
そして、あちらこちらから、こそこそと話し声が聞こえます。
「あのお嬢さまはどなたかしら?領主さまの子どもって、ルークさましかいらっしゃらないのではなかったの?」
「それにあの瞳って、おそらく宝石眼よね。あの人って皇女さま?」
「皇女さまがこんな田舎まで来ないわよ……」
ずいぶんといろいろ言われております。
領民たちの反応からすると、わたくしが公爵家の養子であることは知られていないようですわね。
宝石眼のため、皇族の血を引いているとは思われているようですが。
まぁ、悪意のようなものはなさそうですし、放っておきましょう。
「こちらはどんなものかしら」
「は、はい!こちらは木工職人が作成した木箱です」
わたくしは、その木箱を手に取ります。片手で持てるくらいの大きさなので、入るのはイヤリングなどの装飾品くらいでしょうが、デサインがとても素敵です。
それぞれ使っている木が異なるのか、同じひし形でも赤茶色のものから黒色のものが不規則に並んでおり、その不規則さが二つとない美しさを醸し出しているようでした。
ですが、一つ気になるのは、この木箱を開ける蓋のようなものが見当たらないことと、なぜか上の面に小さくひし形の窪みがあることです。
「こちらはどのように開けるのですか?」
「そちらは、窪みにこの石を嵌め込めば、その魔力の持ち主にだけ開けられるものです」
「あら、魔石ですか?それはかなり高価なもののはずですが……」
少なくとも、わたくしが住んでいたライル王国では、平民が買えるような代物ではありません。
裕福な商人なら、小さなものなら購入できるかもしれませんが……それほどのものです。
「これは、売り物にならないくらいの小さなくず石ですので、そこまで高価でもありませんよ。一万ニールほどです」
「あら、確かに安いわね」
通常、魔石を使うような魔術具は、最低でも五十万はくだりません。
小さいとはいえ魔石があり、このような細かな細工品で、一万はかなり安いです。
ただ、一つ気になるのが……
「くず石はわざわざ購入しているの?」
売り物にならないほどならば、普通の魔石よりも手に入れにくい代物のはずです。
このような露店が手に入れられるものでしょうか。
その質問には、いつの間にか近くに来ていたルークが答えてくれました。
「ルミニエには、小さめな魔石採掘場があるから、くず石はそこの直売所で手に入るんだ。領地に来るまでにそれくらい勉強しておけばいいだろう」
「それはすみません」
領地で直接学べばよいかと思っておりましたが、それは確かに怠慢かもしれません。
ですが、手厳しい言葉をかけながらも、ちゃんと教えてくださるルークは、やはり根は優しいのですね。
「……なぜ笑ってるんだ」
「いいえ、なんでもございませんわ」
まだ少し笑いながらも、わたくしは露店の店主に向き直ります。
「それ、一ついただけるかしら」
「か、かしこまりました!」
わたくしは、養父さまから貰った一万ニールを支払い、その木箱を購入し、養父さまの元へと戻りました。
わたくしたちの身の安全のため、仕方のないことではあるのですが、少し残念な気持ちはあります。
「養父さま、どこへ向かうのですか?」
「ひとまず、街を見て回ろう。それから、代官邸に行く」
「このまま……ですか?」
街を見て回ると言いますが、まさか馬車に乗ったまますべてを終えるつもりでしょうか……?
馬車の窓から見える景色だけでは、判断材料が足りないように思えるのですが。
「途中で降りて見たりもする。直接領地に金を落とすのも領主の仕事だからな」
わたくしの心のうちを察してか、ルークがそう答えてくれます。
初対面のときと比べれば、だいぶ話してくれるようになりました。まぁ、エリスと名前呼びで、姉とは呼んでくれないのは、少し寂しいですが。
「気になるなら、ここで降りてみるか?エリスが興味を持つものもあるかもしれない」
「許可をいただけるのでしたら」
「なら、行こうか」
養父さまは、御者に声をかけ、道の脇で馬車を止めさせ、わたくしたちは馬車を降りました。
わたくしは、しばらく街の様子を見ていましたが、わたくしたちのほうに領民が気づくと、皆が礼を尽くします。
どうやら、馬車で来たために領主一族と知られているようです。
養父さまは、わたくしの肩をちょんちょんとつついて、袋を渡してきます。
そこには、数十枚の通貨が入っていました。
「ここは、ルミニエで一番発展している街で、多くの露店がある。ルミニエの特産品も多く売られているから、気になったものがあれば遠慮せずに購入するといい」
「かしこまりました」
わたくしが目についた店のほうに歩いていこうとすると、わたくしの通る道を開けるようにして領民たちが散ります。
そして、あちらこちらから、こそこそと話し声が聞こえます。
「あのお嬢さまはどなたかしら?領主さまの子どもって、ルークさましかいらっしゃらないのではなかったの?」
「それにあの瞳って、おそらく宝石眼よね。あの人って皇女さま?」
「皇女さまがこんな田舎まで来ないわよ……」
ずいぶんといろいろ言われております。
領民たちの反応からすると、わたくしが公爵家の養子であることは知られていないようですわね。
宝石眼のため、皇族の血を引いているとは思われているようですが。
まぁ、悪意のようなものはなさそうですし、放っておきましょう。
「こちらはどんなものかしら」
「は、はい!こちらは木工職人が作成した木箱です」
わたくしは、その木箱を手に取ります。片手で持てるくらいの大きさなので、入るのはイヤリングなどの装飾品くらいでしょうが、デサインがとても素敵です。
それぞれ使っている木が異なるのか、同じひし形でも赤茶色のものから黒色のものが不規則に並んでおり、その不規則さが二つとない美しさを醸し出しているようでした。
ですが、一つ気になるのは、この木箱を開ける蓋のようなものが見当たらないことと、なぜか上の面に小さくひし形の窪みがあることです。
「こちらはどのように開けるのですか?」
「そちらは、窪みにこの石を嵌め込めば、その魔力の持ち主にだけ開けられるものです」
「あら、魔石ですか?それはかなり高価なもののはずですが……」
少なくとも、わたくしが住んでいたライル王国では、平民が買えるような代物ではありません。
裕福な商人なら、小さなものなら購入できるかもしれませんが……それほどのものです。
「これは、売り物にならないくらいの小さなくず石ですので、そこまで高価でもありませんよ。一万ニールほどです」
「あら、確かに安いわね」
通常、魔石を使うような魔術具は、最低でも五十万はくだりません。
小さいとはいえ魔石があり、このような細かな細工品で、一万はかなり安いです。
ただ、一つ気になるのが……
「くず石はわざわざ購入しているの?」
売り物にならないほどならば、普通の魔石よりも手に入れにくい代物のはずです。
このような露店が手に入れられるものでしょうか。
その質問には、いつの間にか近くに来ていたルークが答えてくれました。
「ルミニエには、小さめな魔石採掘場があるから、くず石はそこの直売所で手に入るんだ。領地に来るまでにそれくらい勉強しておけばいいだろう」
「それはすみません」
領地で直接学べばよいかと思っておりましたが、それは確かに怠慢かもしれません。
ですが、手厳しい言葉をかけながらも、ちゃんと教えてくださるルークは、やはり根は優しいのですね。
「……なぜ笑ってるんだ」
「いいえ、なんでもございませんわ」
まだ少し笑いながらも、わたくしは露店の店主に向き直ります。
「それ、一ついただけるかしら」
「か、かしこまりました!」
わたくしは、養父さまから貰った一万ニールを支払い、その木箱を購入し、養父さまの元へと戻りました。
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