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23. 魔物の棲む森 5
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一ヶ月以上空いてしまってすみません。短編の話を削除したのもあり、コピペができない状況なので、執筆に時間がかかっています。(展開はちゃんと覚えていますのでご安心を)
ひとまず、これを完結させるまで、他の作品は更新しないことにしたので、このまま突っ走ります。
ーーーーーーーーーー
わたくしが魔術を展開した数秒後、ファグニルがわたくしの風の盾に接触したとき、弾かれるように飛ばされました。
どうやら、魔術は通じるようです。
「エリス、ルーク!大丈夫か?」
養父さまが、わたくしたちのほうに駆け寄ってきました。養父さまの後ろには、息絶えたファグニルが転がっています。
どうやら、養父さまたちが相手をしていたファグニルは、問題なく討伐できたようです。
「エリスが守ってくれたので平気です。ですが、あのファグニルには剣が通じないようです」
「エリスの魔術で弾かれたのなら、魔術なら通じるかもしれないな。エリス、騎士たちが入れるように広くして、私たちが出入りできるように構築し直せるか?」
「やってみます」
わたくしは、一度展開した魔術を解除して、再度構築をします。
防御の手段がないのは危険ですが、養父さまが魔術で対応してくださっているようで、少しは余裕があります。
先ほどの防御魔術は、条件付加をしていなかったので、すべてのものを遮断するようになっていました。それは、ファグニルのような魔物はもちろんのこと、人や魔術も遮断します。
中の者の安全は守られますが、逆を言えば、術者が魔術を解かない限りは、中にいる者が外に出ることもできないので、周囲に人がいた場合は、その人を閉じ込めることになってしまいます。
そして、防御魔術だけでなく、どの魔術でも言えることですが、何の対策もしていない魔術では乗っ取られることもあります。今回のような防御魔術でそうなってしまっては、安全な鳥かごから、危険な独房に様変わりしてしまうでしょう。
そのような事態を避けるために、魔術には条件付加を行うのが通例です。
条件が満たされた場合にのみ魔法が使えるように制限をかける乗っ取り防止や、元の魔術に例外条件を組み込み、特定の対象や状況以外に魔術が行使されないように制限するなど、様々な条件付加が存在します。
今回行う条件付加は、人間の出入りを可能とするものです。
本当ならば、養父さまとルーク、騎士だけに絞れればよかったのですが、さすがにそこまでしてしまうと、構築に時間がかかりすぎてしまい、養父さまや騎士に危険が及ぶでしょう。条件付加は、すればするほど時間がかかってしまいます。
(……よし)
魔術を構築したわたくしは、周囲に魔力を広げました。
「展開ーーウォーレン」
魔術が展開され、わたくしたちの周囲に風が吹き荒れます。
先程よりも範囲を広くしておいたので、騎士たちは余裕をもって防御魔術の範囲内に入れるはずです。
「養父さま、出られますか?」
これで出入りできないようなら、もう一度構築し直す必要がありますが……養父さまが吹き荒れている風に手をかざしても、弾かれることはありませんでした。
どうやら、条件付加は成功したようです。
「これで問題ない。エリスは、このまま魔術を展開していてくれ。騎士たちをここに避難させるから、ルークは、怪我人の治療をしておいてほしい」
「わかりました」
ルークの返事を聞き、養父さまは防御魔術の外に出ます。
騎士たちに何やら話しかけると、何人かの騎士がわたくしの防御魔術のほうに向かってきました。するりと防御魔術を通り抜け、その場に座り込みました。
数名の騎士は、養父さまの元に戻ってファグニルに魔術で応戦しています。どうやら、攻撃魔術を行使できる人数は、そう多くはないようですわね。
「皆さん、大丈夫でしょうか?」
「ええ。こちらを見向きもせずにお嬢さまたちのほうに突っ走って行きましたので、大した怪我はありません」
それを聞き、ほっと胸を撫で下ろします。まだ安心できる状況ではありませんが、怪我がないのが何よりです。
「だが、傷口があるなら塞いでおいたほうがいい。僕が直すから、遠慮なく申し出てくれ」
騎士たちは遠慮がちな態度を取りますが、おそるおそるながらもルークの呼びかけに答えるように、ルークに怪我を申し出ます。
ルークは、ぶつぶつと呪文を唱え、傷口を癒していきます。
治療の最中に、ちょうどいいとばかりに、ルークは騎士たちに尋ねました。
「今までファグニルに剣が効かないということはなかったのか?」
「魔物が森から出てくることがなかったので、断言できるわけではありませんが……そのような記録は、残されていませんでした」
「先任の騎士からも聞いていません」
では、あのファグニルはなんだと言うのでしょうか?もし、自然に生まれていたのだとすれば、摂理として片づけられますが、もしそうでないのだとしたら、何の目的があるのでしょう?
魔物の森の外側付近での目撃が増えているのと、何か関係があったりするのでしょうか。
「ルーク。ファグニルの異常性が魔力によるものだと仮定して、そのような技術は帝国に存在していますか?」
魔術にはそれなりに種類があり、外からの干渉を遮断する防御魔術、相手を気絶させたり眠らせる攻撃魔術などがあります。
他にも、魔術具を作るのに使用する魔術付与などがありますが……魔物に魔術を付与する技術は聞いたことがありません。
通常の魔術付与は、技術はもちろんのこと、素材も限られたものにしか行えません。魔力が少ない素材は、魔力を受け付けにくいため、魔術付与は行えません。
かといって、素材の魔力が強すぎると魔術を反発してしまいます。そのため、微量の魔力が込められた素材に付与をするのが一般的です。
そのため、魔物の魔力は、当然ながら魔力を弾きます。通常ならば、ファグニルに直接魔術をかけることは不可能なはずです。
ですが、ハルムート帝国は、ライル王国よりも魔術の技術は高いので、わたくしが知らないだけで、そのような技術があるのかもしれません。
「僕も聞いたことがないな。調べれば似たような技術があるかもしれないが……」
「そうですか……」
公爵子息のルークが知らないのであれば、そのような技術は存在しないか、していたとしてもその情報の入手は困難でしょう。
「その件は、私が報告ついでに陛下にお尋ねするとしよう」
わたくしたちの会話に交ざりながら、養父さまが防御魔術の中に入ってきました。
「父上、ファグニルは……」
「私が仕留めておいたから大丈夫だ。だが、これ以上の調査は今の装備では危険だから、一度砦に戻ろう。エリスも、一度魔術を解いてかまわない」
「かしこまりました」
わたくしは、魔術を解き、深く息を吐きました。魔術を行使した時間は、そう長くはないはずですが、久々に使うと疲れますわね。
「では、行こう。砦に戻るまで、気を抜かないように」
養父さまはそのように呼びかけましたが、特に危険もなく、砦への帰還を果たせました。
ひとまず、これを完結させるまで、他の作品は更新しないことにしたので、このまま突っ走ります。
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わたくしが魔術を展開した数秒後、ファグニルがわたくしの風の盾に接触したとき、弾かれるように飛ばされました。
どうやら、魔術は通じるようです。
「エリス、ルーク!大丈夫か?」
養父さまが、わたくしたちのほうに駆け寄ってきました。養父さまの後ろには、息絶えたファグニルが転がっています。
どうやら、養父さまたちが相手をしていたファグニルは、問題なく討伐できたようです。
「エリスが守ってくれたので平気です。ですが、あのファグニルには剣が通じないようです」
「エリスの魔術で弾かれたのなら、魔術なら通じるかもしれないな。エリス、騎士たちが入れるように広くして、私たちが出入りできるように構築し直せるか?」
「やってみます」
わたくしは、一度展開した魔術を解除して、再度構築をします。
防御の手段がないのは危険ですが、養父さまが魔術で対応してくださっているようで、少しは余裕があります。
先ほどの防御魔術は、条件付加をしていなかったので、すべてのものを遮断するようになっていました。それは、ファグニルのような魔物はもちろんのこと、人や魔術も遮断します。
中の者の安全は守られますが、逆を言えば、術者が魔術を解かない限りは、中にいる者が外に出ることもできないので、周囲に人がいた場合は、その人を閉じ込めることになってしまいます。
そして、防御魔術だけでなく、どの魔術でも言えることですが、何の対策もしていない魔術では乗っ取られることもあります。今回のような防御魔術でそうなってしまっては、安全な鳥かごから、危険な独房に様変わりしてしまうでしょう。
そのような事態を避けるために、魔術には条件付加を行うのが通例です。
条件が満たされた場合にのみ魔法が使えるように制限をかける乗っ取り防止や、元の魔術に例外条件を組み込み、特定の対象や状況以外に魔術が行使されないように制限するなど、様々な条件付加が存在します。
今回行う条件付加は、人間の出入りを可能とするものです。
本当ならば、養父さまとルーク、騎士だけに絞れればよかったのですが、さすがにそこまでしてしまうと、構築に時間がかかりすぎてしまい、養父さまや騎士に危険が及ぶでしょう。条件付加は、すればするほど時間がかかってしまいます。
(……よし)
魔術を構築したわたくしは、周囲に魔力を広げました。
「展開ーーウォーレン」
魔術が展開され、わたくしたちの周囲に風が吹き荒れます。
先程よりも範囲を広くしておいたので、騎士たちは余裕をもって防御魔術の範囲内に入れるはずです。
「養父さま、出られますか?」
これで出入りできないようなら、もう一度構築し直す必要がありますが……養父さまが吹き荒れている風に手をかざしても、弾かれることはありませんでした。
どうやら、条件付加は成功したようです。
「これで問題ない。エリスは、このまま魔術を展開していてくれ。騎士たちをここに避難させるから、ルークは、怪我人の治療をしておいてほしい」
「わかりました」
ルークの返事を聞き、養父さまは防御魔術の外に出ます。
騎士たちに何やら話しかけると、何人かの騎士がわたくしの防御魔術のほうに向かってきました。するりと防御魔術を通り抜け、その場に座り込みました。
数名の騎士は、養父さまの元に戻ってファグニルに魔術で応戦しています。どうやら、攻撃魔術を行使できる人数は、そう多くはないようですわね。
「皆さん、大丈夫でしょうか?」
「ええ。こちらを見向きもせずにお嬢さまたちのほうに突っ走って行きましたので、大した怪我はありません」
それを聞き、ほっと胸を撫で下ろします。まだ安心できる状況ではありませんが、怪我がないのが何よりです。
「だが、傷口があるなら塞いでおいたほうがいい。僕が直すから、遠慮なく申し出てくれ」
騎士たちは遠慮がちな態度を取りますが、おそるおそるながらもルークの呼びかけに答えるように、ルークに怪我を申し出ます。
ルークは、ぶつぶつと呪文を唱え、傷口を癒していきます。
治療の最中に、ちょうどいいとばかりに、ルークは騎士たちに尋ねました。
「今までファグニルに剣が効かないということはなかったのか?」
「魔物が森から出てくることがなかったので、断言できるわけではありませんが……そのような記録は、残されていませんでした」
「先任の騎士からも聞いていません」
では、あのファグニルはなんだと言うのでしょうか?もし、自然に生まれていたのだとすれば、摂理として片づけられますが、もしそうでないのだとしたら、何の目的があるのでしょう?
魔物の森の外側付近での目撃が増えているのと、何か関係があったりするのでしょうか。
「ルーク。ファグニルの異常性が魔力によるものだと仮定して、そのような技術は帝国に存在していますか?」
魔術にはそれなりに種類があり、外からの干渉を遮断する防御魔術、相手を気絶させたり眠らせる攻撃魔術などがあります。
他にも、魔術具を作るのに使用する魔術付与などがありますが……魔物に魔術を付与する技術は聞いたことがありません。
通常の魔術付与は、技術はもちろんのこと、素材も限られたものにしか行えません。魔力が少ない素材は、魔力を受け付けにくいため、魔術付与は行えません。
かといって、素材の魔力が強すぎると魔術を反発してしまいます。そのため、微量の魔力が込められた素材に付与をするのが一般的です。
そのため、魔物の魔力は、当然ながら魔力を弾きます。通常ならば、ファグニルに直接魔術をかけることは不可能なはずです。
ですが、ハルムート帝国は、ライル王国よりも魔術の技術は高いので、わたくしが知らないだけで、そのような技術があるのかもしれません。
「僕も聞いたことがないな。調べれば似たような技術があるかもしれないが……」
「そうですか……」
公爵子息のルークが知らないのであれば、そのような技術は存在しないか、していたとしてもその情報の入手は困難でしょう。
「その件は、私が報告ついでに陛下にお尋ねするとしよう」
わたくしたちの会話に交ざりながら、養父さまが防御魔術の中に入ってきました。
「父上、ファグニルは……」
「私が仕留めておいたから大丈夫だ。だが、これ以上の調査は今の装備では危険だから、一度砦に戻ろう。エリスも、一度魔術を解いてかまわない」
「かしこまりました」
わたくしは、魔術を解き、深く息を吐きました。魔術を行使した時間は、そう長くはないはずですが、久々に使うと疲れますわね。
「では、行こう。砦に戻るまで、気を抜かないように」
養父さまはそのように呼びかけましたが、特に危険もなく、砦への帰還を果たせました。
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