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24. 残された痕跡
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一度、砦に帰還したわたくしたちは、今回の件についての緊急対策会議を行っていました。
安全第一だったため、荷物を増やさぬよう、森で退治したファグニルの死体は持ち帰らなかったのですが、罠にかかったファグニルの死体はまだ残っています。
唯一、間近で接していた養父さまいわく、あのファグニルから感じ取った魔力は、罠にかかったファグニルの反応とよく似ていたそうなので、研究はこのファグニルで行えるとのこと。
そのため、問題としては、これからの警備についてが主なようです。
「ひとまず、防御魔術が得意な人材を派遣してもらえるように、皇帝と交渉してみよう。それが無理なら、うちの騎士団のなかから派遣する」
「外部にばかり頼っていられません。こちらも魔術の腕を磨く必要がありそうです」
「では、指導を行える者も探しておこう。それまでは、なるべく私が顔を出して指導を行うこととする」
特に意見がぶつかるようなことはなく、会議というよりかは、確認作業のようになっています。わたくしたちが口を挟む余地など、当然ながらありませんので、わたくしたちはその会議を見学しているだけです。
「エリス。僕からも君に尋ねたいことがあるのだが」
見学していて退屈なのか、ちょうどいいとばかりにルークが尋ねてきます。ですが、視線は養父さまに向けられたままでした。
ルークは次期公爵となるのですから、養父さまの対応を見て学ばないといけないからでしょう。
「なんでしょう?」
「君は、侯爵令嬢だったのだろう?ならば、攻撃魔術のほうが扱いが慣れているはずだが、防御魔術の展開が早くなかったか?」
貴族ならば、攻撃魔術は誰でも習わされます。もちろん、防御魔術も習うには習うのですが、攻撃魔術が中心になっています。ライル王国も例外ではなく、わたくしも攻撃魔術は学園で習っておりました。
「わたくしは、防御魔術のほうが得意なのです。学園に通う前から、母に教わっていましたので」
母がわたくしに魔力の扱い方を教え出したのは、五歳くらいの頃からです。
母いわく、わたくしは早めに魔力を制御する術を身につけたほうがよいとのことで、魔術を教わっていたのですが、攻撃魔術は危険なことと、母が防御魔術を得意としていたのもあり、教わる魔術は防御のものが多かったのですよね。
幼き心では、母の思惑がわかりませんでしたが……今では、なんとなくわかるような気もいたします。
「ルークは攻撃魔術のほうが?」
「そうだな……どちらかといえば、そちらのほうが得意だと思う。父には負けてしまうがな」
「養父さまとは経験の差が段違いですもの。よほどの天才でなければ親を越えることなどーー」
「奴は越えているがな」
あり得ませんとわたくしが言いきる前に、ルークが口を挟みます。そして、じっとわたくしと目を合わせました。
名前は出していませんが、ルークが奴と呼ぶということは、あの方のことを言っているのでしょうね。
一度も会ったことはないのですが、ルークの評価がここまで低いと、あまりいい印象がありません。ですが、宝石眼の持ち主でルミナーラ公爵令嬢のわたくしが関わらずにいるのは不可能ですし……どうしましょうか。
「……すまない。余計な口を挟んだな」
「い、いえ。気にしておりませんわ」
宝石眼を持たないルークからしてみれば、いろいろと思うところはあるのでしょうし、何も知らない部外者がとやかく口を挟むものでもありません。
ですが、どうも空気が気まずいです。な、何か話すべきでしょうか?ですが、話題が何も思いつきませんわ。
「エリス、ルーク、待たせたな。話は終わったから戻ろう」
「え、ええ!行きましょう、ルーク」
「あ、ああ……」
ルークは、申し訳なさそうな顔をしてわたくしの手を取りました。養父さまには訝しまれてしまいましたが、わたくしがにこりと笑みを向け続けると、それ以上は何もお聞きになりませんでした。
◇◇◇
馬車に戻ったわたくしたちに、養父さまが話しかけてきます。
「さて、今回の件だが、エリスは特に意識して聞いてもらいたい」
「……わたくしの、宝石眼に関することでしょうか」
わたくしにだけそのようにおっしゃる理由など、それしかないでしょう。
「ああ。理由まではわからないが、あのファグニルは、エリスの宝石眼に反応して襲ってきた可能性がある」
「宝石眼に、ですか……」
そのことについては、対して驚きはしませんでした。むしろ、なぜわたくしが狙われたかの理由も説明がつきます。
ですが、なぜそのような魔術をファグニルに施していたのかわかりません。
わたくしではなく、皇族を狙っていたのだとしても、そもそもあの森に皇族が近づくことなど滅多にありません。そのような魔術など、保険にもならないでしょう。
「一応、可能性としてあるのは、ファグニルはあくまでも実験対象であり、本命が別にいるというものだ。ログナの森には、人は滅多に近寄らないし、簡易の柵が設けられていただけだから、侵入は容易だからな」
「仮にそれが事実だとして、その者の狙いはなんなのでしょう?」
「さあな。だが、宝石眼の持ち主を何らかの理由で狙っているのは確かだろう。陛下にも報告するが、エリスも身の回りには注意しろ。異変を感じたなら、些細なことでもすぐに報告しなさい」
「はい、養父さま」
わたくしは、力強く返事を返しました。
安全第一だったため、荷物を増やさぬよう、森で退治したファグニルの死体は持ち帰らなかったのですが、罠にかかったファグニルの死体はまだ残っています。
唯一、間近で接していた養父さまいわく、あのファグニルから感じ取った魔力は、罠にかかったファグニルの反応とよく似ていたそうなので、研究はこのファグニルで行えるとのこと。
そのため、問題としては、これからの警備についてが主なようです。
「ひとまず、防御魔術が得意な人材を派遣してもらえるように、皇帝と交渉してみよう。それが無理なら、うちの騎士団のなかから派遣する」
「外部にばかり頼っていられません。こちらも魔術の腕を磨く必要がありそうです」
「では、指導を行える者も探しておこう。それまでは、なるべく私が顔を出して指導を行うこととする」
特に意見がぶつかるようなことはなく、会議というよりかは、確認作業のようになっています。わたくしたちが口を挟む余地など、当然ながらありませんので、わたくしたちはその会議を見学しているだけです。
「エリス。僕からも君に尋ねたいことがあるのだが」
見学していて退屈なのか、ちょうどいいとばかりにルークが尋ねてきます。ですが、視線は養父さまに向けられたままでした。
ルークは次期公爵となるのですから、養父さまの対応を見て学ばないといけないからでしょう。
「なんでしょう?」
「君は、侯爵令嬢だったのだろう?ならば、攻撃魔術のほうが扱いが慣れているはずだが、防御魔術の展開が早くなかったか?」
貴族ならば、攻撃魔術は誰でも習わされます。もちろん、防御魔術も習うには習うのですが、攻撃魔術が中心になっています。ライル王国も例外ではなく、わたくしも攻撃魔術は学園で習っておりました。
「わたくしは、防御魔術のほうが得意なのです。学園に通う前から、母に教わっていましたので」
母がわたくしに魔力の扱い方を教え出したのは、五歳くらいの頃からです。
母いわく、わたくしは早めに魔力を制御する術を身につけたほうがよいとのことで、魔術を教わっていたのですが、攻撃魔術は危険なことと、母が防御魔術を得意としていたのもあり、教わる魔術は防御のものが多かったのですよね。
幼き心では、母の思惑がわかりませんでしたが……今では、なんとなくわかるような気もいたします。
「ルークは攻撃魔術のほうが?」
「そうだな……どちらかといえば、そちらのほうが得意だと思う。父には負けてしまうがな」
「養父さまとは経験の差が段違いですもの。よほどの天才でなければ親を越えることなどーー」
「奴は越えているがな」
あり得ませんとわたくしが言いきる前に、ルークが口を挟みます。そして、じっとわたくしと目を合わせました。
名前は出していませんが、ルークが奴と呼ぶということは、あの方のことを言っているのでしょうね。
一度も会ったことはないのですが、ルークの評価がここまで低いと、あまりいい印象がありません。ですが、宝石眼の持ち主でルミナーラ公爵令嬢のわたくしが関わらずにいるのは不可能ですし……どうしましょうか。
「……すまない。余計な口を挟んだな」
「い、いえ。気にしておりませんわ」
宝石眼を持たないルークからしてみれば、いろいろと思うところはあるのでしょうし、何も知らない部外者がとやかく口を挟むものでもありません。
ですが、どうも空気が気まずいです。な、何か話すべきでしょうか?ですが、話題が何も思いつきませんわ。
「エリス、ルーク、待たせたな。話は終わったから戻ろう」
「え、ええ!行きましょう、ルーク」
「あ、ああ……」
ルークは、申し訳なさそうな顔をしてわたくしの手を取りました。養父さまには訝しまれてしまいましたが、わたくしがにこりと笑みを向け続けると、それ以上は何もお聞きになりませんでした。
◇◇◇
馬車に戻ったわたくしたちに、養父さまが話しかけてきます。
「さて、今回の件だが、エリスは特に意識して聞いてもらいたい」
「……わたくしの、宝石眼に関することでしょうか」
わたくしにだけそのようにおっしゃる理由など、それしかないでしょう。
「ああ。理由まではわからないが、あのファグニルは、エリスの宝石眼に反応して襲ってきた可能性がある」
「宝石眼に、ですか……」
そのことについては、対して驚きはしませんでした。むしろ、なぜわたくしが狙われたかの理由も説明がつきます。
ですが、なぜそのような魔術をファグニルに施していたのかわかりません。
わたくしではなく、皇族を狙っていたのだとしても、そもそもあの森に皇族が近づくことなど滅多にありません。そのような魔術など、保険にもならないでしょう。
「一応、可能性としてあるのは、ファグニルはあくまでも実験対象であり、本命が別にいるというものだ。ログナの森には、人は滅多に近寄らないし、簡易の柵が設けられていただけだから、侵入は容易だからな」
「仮にそれが事実だとして、その者の狙いはなんなのでしょう?」
「さあな。だが、宝石眼の持ち主を何らかの理由で狙っているのは確かだろう。陛下にも報告するが、エリスも身の回りには注意しろ。異変を感じたなら、些細なことでもすぐに報告しなさい」
「はい、養父さま」
わたくしは、力強く返事を返しました。
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