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シアンは、ちょっと離れたところで待機している。
厨房を覗いてみると、今は晩餐の用意をしているみたいだった。
ふむふむ。これは邪魔するのは良くないかな。わざわざ手を止めさせてまで、料理の品数減らせ!なんて言える度胸は私にはない。さっき公爵夫人としての決意を固めたばかりなのに、その決意は一瞬にして砕けかけている。
私がじーっと見ていたからか、お皿洗いをしていた一人が私に気づいた。お皿洗いをしているなら、多分見習いの子だろう。
その見習いの子が、慌てて手を拭いて私に応対してくれる。
「お、奥様!いかがされましたか!?」
結構大きな声で私を奥様と呼んだので、他のみんなも気がつく。
悪いことをしたわけではないはずなのに、なんかいたずらしているところを見つかった子どもみたいな心境になった。
もう見つかってしまったので、堂々と姿を現す。
「ここのシェフに少し頼みたいことがあって……」
私がそう言うと、おそらくシェフであろう人が私の前に出てくる。
「な、何か料理に不手際が……」
やけに怯えたように聞いてくる。
もしかしたら、私が食べて倒れたということが伝わっているのかもしれない。そうなると、私が難癖をつけにきたのかと思っているのかも。それなら、まずはその誤解を解かなければ。
「ううん!料理はおいしかったわよ。ただ、量が多かったから、もうちょっと減らしてくれると嬉しいな~と思って」
「そ、そうでしたか。好みがわかりませんでしたので、いろいろと用意させていただいたのですが……申し訳ございません……」
あーっと!そんな理由だったのか!それは申し訳ない!伝えておけばよかったわね。
「いやいや、そんなに謝らなくてもいいわよ!私は、お皿一つで充分だから!それに、嫌いなものはないから、なんでもいいわよ」
あっ、作る側からすれば、なんでもいいが一番困るって聞いたことあるな。この言葉はまずかった……?
「そ、そうですか……。では、晩餐は少なめにいたします」
「ありがとう!」
どうやら、心配の種はもう大丈夫そうだ。
「終わりましたか?」
「ええ。行きましょう!」
晩餐をおいしく食べるためにも、ジルと楽しく遊ばなきゃね!
そして、安全に遊ぶためにも、騎士団に護衛をお願いしなければ。
*ー*ー*ー
食事多すぎ問題が解決したところで、私たちは騎士団に向かっている。その道中で、シアンが騎士団について説明してくれた。
この国、ファルリア王国の騎士には、大きく分けて、3つの種類?といっていいのかな。区分があって、ほとんどが貴族の出身で、王族や王都の警備をしたり、パーティーなどの警備をしたりする近衛騎士。要請があれば、地方に出張することもある。ちなみに、公爵様はこの近衛騎士になる。
国境の警備や、戦、魔物の討伐をしたりする地方騎士。
貴族が個人的に雇っている私兵。これは、騎士であっても、私兵という区分に入るそう。
公爵家の騎士団は、私兵という扱いになるそうだが、それでも人数は多い。なので、三部隊に分けているのだそう。
一部隊15人、計45人だって。覚えられる気がしないよ。時間をかければできるかもしれないけど。
三部隊がローテーションとなって活動しているが、もちろん全部隊が出動することもあるので、ローテーションは、あくまでも目安なのだとか。
なら、なんでローテーションにするんだというと、訓練場の優先権をそれで決めているらしい。全部の部隊に公平にということみたいね。
ちなみに、今日は第二部隊だそうだ。
「第二部隊の隊長は、ジーク・クレマリンという名です。当然ですが、奥様は呼び捨てでかまいませんからね」
私がシアンさんと呼んだ前科があるからか、シアンはそんな風に忠告してくる。
そんなに言わなくても、ちゃんとわかっているつもりなんだけど……。でも、そんなことを言ったら、さらにグチグチ言われそうなので、黙っておいた。
騎士団の訓練場に来ると、汗水を流して、訓練している騎士たちがいた。なんか、懐かしい感じがする。騎士なんてものはいなかったから、自衛をしていたけど、自衛のために訓練もしていたからなぁ。あれを見ていると、私も剣が振りたくなる。
そんなことを言えば、この隣にいる人から説教をされるのが目に見えているから、言わないけど。シアンは、私に公爵夫人らしくいてくれることを望んでいるみたいだからね。いらぬいさかいは招きたくないし、シアンが望むならがんばってみるよ。
……まぁ、最悪公爵様に言ってしまえば、どうにでもなりそうだしね。ふふふ。
おっと。悪巧みはこれくらいにしておいて、護衛のお願いをしなければ……どうやって?
近づいたら危ない。遠ければ声なんて聞こえない。大声を出せば、シアンに怒られる。八方塞がりとはまさにこのこと。何も手段がない!
私が悩んでいると、シアンが、普段よりも少し大きめの声で言った。
「アルスフェイス公爵夫人がお見えです!訓練はお止めなさい!」
それで聞こえるの?と思ったけど、騎士たちはすぐに気がついて、持っていた剣を鞘に仕舞った。気づくものなんだね。騎士って、耳もいいのかな。
「お初にお目にかかります、奥様。わたくしは第二部隊隊長、ジーク・クレマリンと申します」
「フィリス・アリジェント・アルスフェイスと申しますわ。こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
夫人らしい言葉遣いって、疲れるなぁ……。でも、契約だからがんばらないと!
「それで、我々には何のご用で」
「わたくしの弟が来ているのだけど、その子が外で遊びたいと申しておりますの。ですので、警備をお願いしたいのですわ」
私もそれに混じりまーすと堂々と言ったらダメよね。侍女長がどこで聞いているかわからないんだから!気を抜いてはダメだ。
「それならば、喜んでお引き受けしましょう。差し支えなければ、どのようなことをするのかお教えいただけますか」
「ボール遊びですわ。けれど、ボール遊びは危険ですから」
「危険……とは?」
……あれ?ボール遊びって、結構危ないわよね?周りに被害が出るもの。私たちも、敷地内でしかやってはいけないと言われていたのに。
「木を折ったりするからに決まってるではないですか」
「「……えっ?」」
私がボソッと呟くと、ジークとシアンの声がそろった。う~ん?この時点でおかしいの?
あれ?もしかして……普通は木を折ったりしないものなの?いつも折ってたんだけど……?
「……奥様。そのボール遊びとやらは、訓練場でさせてください」
「えっ?……ええ、わかったわ」
確かに、訓練場のほうが安心かもしれないわね。
「それなら、ジルを連れてくるわね」
ずっと待たせてしまっていたから、また機嫌が悪くなっているかもしれないけど……遊んだら発散してくれるでしょ!……現実逃避は、これくらいにしておこう。
どうか、怒りが増していないようにと祈りながら、私はジルの元に向かった。
厨房を覗いてみると、今は晩餐の用意をしているみたいだった。
ふむふむ。これは邪魔するのは良くないかな。わざわざ手を止めさせてまで、料理の品数減らせ!なんて言える度胸は私にはない。さっき公爵夫人としての決意を固めたばかりなのに、その決意は一瞬にして砕けかけている。
私がじーっと見ていたからか、お皿洗いをしていた一人が私に気づいた。お皿洗いをしているなら、多分見習いの子だろう。
その見習いの子が、慌てて手を拭いて私に応対してくれる。
「お、奥様!いかがされましたか!?」
結構大きな声で私を奥様と呼んだので、他のみんなも気がつく。
悪いことをしたわけではないはずなのに、なんかいたずらしているところを見つかった子どもみたいな心境になった。
もう見つかってしまったので、堂々と姿を現す。
「ここのシェフに少し頼みたいことがあって……」
私がそう言うと、おそらくシェフであろう人が私の前に出てくる。
「な、何か料理に不手際が……」
やけに怯えたように聞いてくる。
もしかしたら、私が食べて倒れたということが伝わっているのかもしれない。そうなると、私が難癖をつけにきたのかと思っているのかも。それなら、まずはその誤解を解かなければ。
「ううん!料理はおいしかったわよ。ただ、量が多かったから、もうちょっと減らしてくれると嬉しいな~と思って」
「そ、そうでしたか。好みがわかりませんでしたので、いろいろと用意させていただいたのですが……申し訳ございません……」
あーっと!そんな理由だったのか!それは申し訳ない!伝えておけばよかったわね。
「いやいや、そんなに謝らなくてもいいわよ!私は、お皿一つで充分だから!それに、嫌いなものはないから、なんでもいいわよ」
あっ、作る側からすれば、なんでもいいが一番困るって聞いたことあるな。この言葉はまずかった……?
「そ、そうですか……。では、晩餐は少なめにいたします」
「ありがとう!」
どうやら、心配の種はもう大丈夫そうだ。
「終わりましたか?」
「ええ。行きましょう!」
晩餐をおいしく食べるためにも、ジルと楽しく遊ばなきゃね!
そして、安全に遊ぶためにも、騎士団に護衛をお願いしなければ。
*ー*ー*ー
食事多すぎ問題が解決したところで、私たちは騎士団に向かっている。その道中で、シアンが騎士団について説明してくれた。
この国、ファルリア王国の騎士には、大きく分けて、3つの種類?といっていいのかな。区分があって、ほとんどが貴族の出身で、王族や王都の警備をしたり、パーティーなどの警備をしたりする近衛騎士。要請があれば、地方に出張することもある。ちなみに、公爵様はこの近衛騎士になる。
国境の警備や、戦、魔物の討伐をしたりする地方騎士。
貴族が個人的に雇っている私兵。これは、騎士であっても、私兵という区分に入るそう。
公爵家の騎士団は、私兵という扱いになるそうだが、それでも人数は多い。なので、三部隊に分けているのだそう。
一部隊15人、計45人だって。覚えられる気がしないよ。時間をかければできるかもしれないけど。
三部隊がローテーションとなって活動しているが、もちろん全部隊が出動することもあるので、ローテーションは、あくまでも目安なのだとか。
なら、なんでローテーションにするんだというと、訓練場の優先権をそれで決めているらしい。全部の部隊に公平にということみたいね。
ちなみに、今日は第二部隊だそうだ。
「第二部隊の隊長は、ジーク・クレマリンという名です。当然ですが、奥様は呼び捨てでかまいませんからね」
私がシアンさんと呼んだ前科があるからか、シアンはそんな風に忠告してくる。
そんなに言わなくても、ちゃんとわかっているつもりなんだけど……。でも、そんなことを言ったら、さらにグチグチ言われそうなので、黙っておいた。
騎士団の訓練場に来ると、汗水を流して、訓練している騎士たちがいた。なんか、懐かしい感じがする。騎士なんてものはいなかったから、自衛をしていたけど、自衛のために訓練もしていたからなぁ。あれを見ていると、私も剣が振りたくなる。
そんなことを言えば、この隣にいる人から説教をされるのが目に見えているから、言わないけど。シアンは、私に公爵夫人らしくいてくれることを望んでいるみたいだからね。いらぬいさかいは招きたくないし、シアンが望むならがんばってみるよ。
……まぁ、最悪公爵様に言ってしまえば、どうにでもなりそうだしね。ふふふ。
おっと。悪巧みはこれくらいにしておいて、護衛のお願いをしなければ……どうやって?
近づいたら危ない。遠ければ声なんて聞こえない。大声を出せば、シアンに怒られる。八方塞がりとはまさにこのこと。何も手段がない!
私が悩んでいると、シアンが、普段よりも少し大きめの声で言った。
「アルスフェイス公爵夫人がお見えです!訓練はお止めなさい!」
それで聞こえるの?と思ったけど、騎士たちはすぐに気がついて、持っていた剣を鞘に仕舞った。気づくものなんだね。騎士って、耳もいいのかな。
「お初にお目にかかります、奥様。わたくしは第二部隊隊長、ジーク・クレマリンと申します」
「フィリス・アリジェント・アルスフェイスと申しますわ。こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
夫人らしい言葉遣いって、疲れるなぁ……。でも、契約だからがんばらないと!
「それで、我々には何のご用で」
「わたくしの弟が来ているのだけど、その子が外で遊びたいと申しておりますの。ですので、警備をお願いしたいのですわ」
私もそれに混じりまーすと堂々と言ったらダメよね。侍女長がどこで聞いているかわからないんだから!気を抜いてはダメだ。
「それならば、喜んでお引き受けしましょう。差し支えなければ、どのようなことをするのかお教えいただけますか」
「ボール遊びですわ。けれど、ボール遊びは危険ですから」
「危険……とは?」
……あれ?ボール遊びって、結構危ないわよね?周りに被害が出るもの。私たちも、敷地内でしかやってはいけないと言われていたのに。
「木を折ったりするからに決まってるではないですか」
「「……えっ?」」
私がボソッと呟くと、ジークとシアンの声がそろった。う~ん?この時点でおかしいの?
あれ?もしかして……普通は木を折ったりしないものなの?いつも折ってたんだけど……?
「……奥様。そのボール遊びとやらは、訓練場でさせてください」
「えっ?……ええ、わかったわ」
確かに、訓練場のほうが安心かもしれないわね。
「それなら、ジルを連れてくるわね」
ずっと待たせてしまっていたから、また機嫌が悪くなっているかもしれないけど……遊んだら発散してくれるでしょ!……現実逃避は、これくらいにしておこう。
どうか、怒りが増していないようにと祈りながら、私はジルの元に向かった。
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