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※新たな生活の始まりを4話からにしました。そのほうが区切りが良さそうなので……。
↓本編
走るのは、はしたないと言われてしまったので、歩いてジルのところに向かっている。
すると、明らかに不機嫌なオーラを纏っているジルがいた。
「ジ、ジル……?待たせてごめんね?」
私が機嫌をうかがうように声をかけると、ジルはこちらと一瞬だけ目を合わせて、すぐにプイッと明後日の方向を見た。
これは、機嫌を直すのは難しいかも……。
「ほら、遊びましょう?ね?」
「……ん!」
それだけ言って、ジルは手を伸ばしてくる。これは……手を繋げってことかな?
私がジルの手を握って、歩き出すと、ジルはそのまま引かれるようについてきてくれる。
よし。なんとか、一緒に遊んではくれるみたい。……なんか、この言い方だと、私がジルと遊びたがってたみたいになるな。いや、遊びたかったけど、私から要求していたわけではない。……なんの弁明だ、これ。
ひとまず、勝手にどこかに行っていなかっただけましだと思って、私は訓練場に向かう。その道中で、レーラに会った。
「奥様。こちらにおられましたか」
「あれ?メイを見ていたんじゃないの?」
「ミリスに一任しまして、奥様を探しに来たのですよ」
ちょっと不安になったけど、護衛としての技術を持っているらしいし、メイは寝ているし、さすがに公爵家の屋敷の内部までは侵入してくることは少ないだろう。それなら、一人で大丈夫かもしれない。
「そうだ!今から遊ぶために着替えるから、ちょっとの間ジルを見ててくれない?」
「いえ、お着替えでしたら、わたくしがお手伝いいたします」
「ううん!一人で着られるから大丈夫よ!」
私がレーラを説得していると、何やら下のほうから視線を感じる。
うん?と思って、見てみるとーー
「ねーさま……」
4歳児とは思えないような、じとーという目をしながら、私を見ている弟がいた。心なしか、声もいつもよりも低く感じる。
あっ、これはヤバい。
「あっ、いや、違うわよ!今度はすぐに戻ってくるから!着替えるだけだから!着替えないと遊べないじゃない!」
慌てて弟にも説得を試みてみるけど、じとーとした目は変わらない。
弟よ。それは子どもがする目ではない。人間不信な人が、信用ができない人に向ける目なんだ。
「ほ、ほんとだから!」
「……ごふん。それいじょうはまてない」
「わかったわ!すぐに行ってくる!」
私は、ぎりぎり駆け足になるくらいの速さで、部屋に向かった。
「奥様も、家族には弱いんですね……」
そんな声が、後ろから聞こえたような気がした。
*ー*ー*ー
なんとか5分以内に、着替えて戻ってくることができた。見た目は、ちょっと素朴な感じはするけど、普通の服だ。当然だろう。運動にも使うけど、普段使いもできるようにしたのだから。飾りを最低限にして、動きやすさ重視の服だ。私が荷物として持ってきた、数少ない服の一つ。
これなら、侍女長に見られたとしても、そこまで不審感は抱かせないはずだ。
そんな私はというと、訓練場で頭を悩ませていた。
う~ん……失念していた。ボール遊びするには、道具が足りない。『ばっと』なるものを持ってきていれば、『べーすぼーる』なるものができたんだけど……。
あっ、『べーすぼーる』は、お母様発案の遊び。本来なら、大人数でやるらしいけど、二人でも、『ばってぃんぐ』というやつならできるそうだから、それをやったりしている。
それはともかくとして、できるとすれば、キャッチボールくらいだけど、ジルはキャッチボールはあまり好きじゃないのよね……。普段なら、ちょっと不満に思いながらもいいよって言ってくれるんだけど……どうだろう?
「ジル。キャッチボールでもいい?」
「うん!いいよ!」
ここに来るまでに、ジルの機嫌はすっかり良くなっていたようで、笑顔で了承してくれる。
50メートルくらいに距離を置いて、私とジルが向き合うと、シアンが声をかけてきた。
「お、奥様……。まさか、奥様も遊ばれるのですか?」
「ええ。ジルの球は慣れていないと、キャッチするのが難しいですから」
そういえば、あのときは騎士には言っていなかったっけ。そして、シアンにも言っていなかったような気がする。貴族の令嬢が、ボール遊びはしないものなのかもしれないと思ったけど、やっぱりそうみたい。私はお母様と一緒によくやってたけどなぁ。
「ジルー!!いつでもいいわよー!!でも、なるべく私を狙ってねー!!」
結構離れているので、なるべく大きな声でジルに伝える。耳がいいほうではあるし、あの魔法で身体能力あげているはずなので、さらに聴力もあがっているだろう。
(身体強化)
魔力で体を覆うことで、身体能力をあげる魔法。一家全員が使えるものだ。というか、これくらいできないと、あの領地では生き残れない。
あの領地は、魔物の被害が多くて、魔法が使えない領民の代わりに、よく討伐に駆り出されたから。
それで作物が荒らされてしまうのも、貧乏たる所以だと思う。……うん。今思うと、貧乏になる要素しかないな。
お父様はときどき領地経営に失敗するし、特産品もないし、たまーに飢饉があるし……。私たちを王国に留めるために、適当な場所を領地にしようという考えなのかもしれない。それなら、豊かな領地にしてくれたほうが、留まりそうな感じもするけど……。それは、他の貴族が許さなかったのかな。敵国の王家の血筋だしね。
「ねーさまー!いっくよー!」
ちょっと考えが脱線していたところを、ジルの幼い声で、現実に戻された。
おっとっと。危ない危ない。このボール遊びのときに、よそ見とか考え事は厳禁だ。
「いつでもきなさーい!」
さて、久しぶりに体を動かすとするかな。
↓本編
走るのは、はしたないと言われてしまったので、歩いてジルのところに向かっている。
すると、明らかに不機嫌なオーラを纏っているジルがいた。
「ジ、ジル……?待たせてごめんね?」
私が機嫌をうかがうように声をかけると、ジルはこちらと一瞬だけ目を合わせて、すぐにプイッと明後日の方向を見た。
これは、機嫌を直すのは難しいかも……。
「ほら、遊びましょう?ね?」
「……ん!」
それだけ言って、ジルは手を伸ばしてくる。これは……手を繋げってことかな?
私がジルの手を握って、歩き出すと、ジルはそのまま引かれるようについてきてくれる。
よし。なんとか、一緒に遊んではくれるみたい。……なんか、この言い方だと、私がジルと遊びたがってたみたいになるな。いや、遊びたかったけど、私から要求していたわけではない。……なんの弁明だ、これ。
ひとまず、勝手にどこかに行っていなかっただけましだと思って、私は訓練場に向かう。その道中で、レーラに会った。
「奥様。こちらにおられましたか」
「あれ?メイを見ていたんじゃないの?」
「ミリスに一任しまして、奥様を探しに来たのですよ」
ちょっと不安になったけど、護衛としての技術を持っているらしいし、メイは寝ているし、さすがに公爵家の屋敷の内部までは侵入してくることは少ないだろう。それなら、一人で大丈夫かもしれない。
「そうだ!今から遊ぶために着替えるから、ちょっとの間ジルを見ててくれない?」
「いえ、お着替えでしたら、わたくしがお手伝いいたします」
「ううん!一人で着られるから大丈夫よ!」
私がレーラを説得していると、何やら下のほうから視線を感じる。
うん?と思って、見てみるとーー
「ねーさま……」
4歳児とは思えないような、じとーという目をしながら、私を見ている弟がいた。心なしか、声もいつもよりも低く感じる。
あっ、これはヤバい。
「あっ、いや、違うわよ!今度はすぐに戻ってくるから!着替えるだけだから!着替えないと遊べないじゃない!」
慌てて弟にも説得を試みてみるけど、じとーとした目は変わらない。
弟よ。それは子どもがする目ではない。人間不信な人が、信用ができない人に向ける目なんだ。
「ほ、ほんとだから!」
「……ごふん。それいじょうはまてない」
「わかったわ!すぐに行ってくる!」
私は、ぎりぎり駆け足になるくらいの速さで、部屋に向かった。
「奥様も、家族には弱いんですね……」
そんな声が、後ろから聞こえたような気がした。
*ー*ー*ー
なんとか5分以内に、着替えて戻ってくることができた。見た目は、ちょっと素朴な感じはするけど、普通の服だ。当然だろう。運動にも使うけど、普段使いもできるようにしたのだから。飾りを最低限にして、動きやすさ重視の服だ。私が荷物として持ってきた、数少ない服の一つ。
これなら、侍女長に見られたとしても、そこまで不審感は抱かせないはずだ。
そんな私はというと、訓練場で頭を悩ませていた。
う~ん……失念していた。ボール遊びするには、道具が足りない。『ばっと』なるものを持ってきていれば、『べーすぼーる』なるものができたんだけど……。
あっ、『べーすぼーる』は、お母様発案の遊び。本来なら、大人数でやるらしいけど、二人でも、『ばってぃんぐ』というやつならできるそうだから、それをやったりしている。
それはともかくとして、できるとすれば、キャッチボールくらいだけど、ジルはキャッチボールはあまり好きじゃないのよね……。普段なら、ちょっと不満に思いながらもいいよって言ってくれるんだけど……どうだろう?
「ジル。キャッチボールでもいい?」
「うん!いいよ!」
ここに来るまでに、ジルの機嫌はすっかり良くなっていたようで、笑顔で了承してくれる。
50メートルくらいに距離を置いて、私とジルが向き合うと、シアンが声をかけてきた。
「お、奥様……。まさか、奥様も遊ばれるのですか?」
「ええ。ジルの球は慣れていないと、キャッチするのが難しいですから」
そういえば、あのときは騎士には言っていなかったっけ。そして、シアンにも言っていなかったような気がする。貴族の令嬢が、ボール遊びはしないものなのかもしれないと思ったけど、やっぱりそうみたい。私はお母様と一緒によくやってたけどなぁ。
「ジルー!!いつでもいいわよー!!でも、なるべく私を狙ってねー!!」
結構離れているので、なるべく大きな声でジルに伝える。耳がいいほうではあるし、あの魔法で身体能力あげているはずなので、さらに聴力もあがっているだろう。
(身体強化)
魔力で体を覆うことで、身体能力をあげる魔法。一家全員が使えるものだ。というか、これくらいできないと、あの領地では生き残れない。
あの領地は、魔物の被害が多くて、魔法が使えない領民の代わりに、よく討伐に駆り出されたから。
それで作物が荒らされてしまうのも、貧乏たる所以だと思う。……うん。今思うと、貧乏になる要素しかないな。
お父様はときどき領地経営に失敗するし、特産品もないし、たまーに飢饉があるし……。私たちを王国に留めるために、適当な場所を領地にしようという考えなのかもしれない。それなら、豊かな領地にしてくれたほうが、留まりそうな感じもするけど……。それは、他の貴族が許さなかったのかな。敵国の王家の血筋だしね。
「ねーさまー!いっくよー!」
ちょっと考えが脱線していたところを、ジルの幼い声で、現実に戻された。
おっとっと。危ない危ない。このボール遊びのときに、よそ見とか考え事は厳禁だ。
「いつでもきなさーい!」
さて、久しぶりに体を動かすとするかな。
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