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10 (レーラ視点)
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奥様とジルスタ様についてきたレーラは、目を見開いている。
(……なに……これ)
目の前に、信じられないような光景が映っている。
レーラが公爵家に使用人として働くようになってから、3年は経過している。
公爵家当主である旦那様は、若くして騎士団長まで登り詰めた腕の持ち主。自分に護身術の心得をつけさせてくれると、鍛練の相手もしていた。だからこそ、規格外の力というのは見慣れていたはずだった。
でも、目の前の光景は、規格外なんて言葉では片づけられない。
「ねーさま!はい!」
「やるわね~……。はい!」
字面だけを見れば、普通にキャッチボールをしているだけにしか見えないだろう。でも、奥様の弟君であるジルスタ様は、3メートルはあるであろう高さを跳躍して、残像を追うのがやっとというくらいの豪速球を投げ、奥様はそれを生身で受け止めるという、そんな言葉には似合わない光景が広がっている。
そして、そんな高さから跳躍をして着地したというのに、怪我なんてしていなさそうに見える。
奥様も、跳び跳ねたりはしなかったが、先ほどのジルスタ様が投げたボールよりも速いスピードで投げている。それを、ジルスタ様はキャッチしようとしたけど、手を滑らせて、ボールが外れてしまい、ほとんどその勢いのまま、後ろのほうに生えていた木にぶつかる。
ーーバキッ!!
そんな音が響いたかと思えば、大きな音をたてながら、その木が崩れ去った。
(ええぇえええぇぇえええ!!?)
そんな風に叫んでしまいたかったが、レーラのわずかに残っていた侍女としてのプライドにより、心の中に押し留まった。
叫んでしまいたくなるのは当然だ。その木は、ジルスタ様からでも、明らかに50メートルは離れており、ボールは投げた直後は威力があっても、だんだんと、高度とともに落ちていくもののはずなのに、高さも変わらず、平行に飛んでいって、木にぶつかって、折れてしまったのだ。
「木が折れると言ったのは、事実でしたか……」
隣にいたシアンさんが、そのように呟いていて、レーラは詰め寄った。
「折れるってどういうことですか!?奥様がそのようなことを言っていたのですか!?」
「落ち着きなさい。そのようなことは言っていました。ですので、ここでお遊びいただくように宣言したのですが……」
その続きは、言いにくかったのか言わなかった。
だが、レーラにはその続きがなんとなくわかった。
(意味がなかったってことか……)
もちろん、普通に庭で遊ばせるよりも、この裏庭のほうが、被害は少ないだろう。
客が来たりはしないので、見栄えをよくする必要もなく、飾りなんかもいらない。植物だって、遠くに的用の木が何本か植えてあるだけ。でも、被害が出ないわけではない。
現に、奥様が木を折っている。
でも、もうちょっと手心というものを加えてほしい。この後に、後始末をするのは、使用人である我々なのだから。
「ねーさま~!ちゃんとねらってよ~!」
「ごめんごめん!今度はちゃんと狙うから!」
当の本人たちは、こちらの心境など露しらず、木が折れたことなんて気にも止めずに、ジルスタ様が文句を言って、奥様は謝っている。
「そんなねーさまには……こうだ!」
「あっと!」
ジルスタ様は、ボールを先ほどよりも豪速球で投げる。
奥様は、それを平然と受け止めた。また投げ返して、外して、どこかの木が、さっきの木の二の舞になるのかと思っていたら、奥様が慌て出している。
「わ、わ、わわ!」
そんな慌てた声を出しながら、奥様が宙に浮かぶ。
(あれは……念動力!?)
噂に聞いたことがあった。風魔法の浮遊に似たような無属性魔法の存在を。
宙に浮かぶというのは、単純でいて、とても便利なものだ。宙に浮かべない相手を、一方的に攻撃できるのだから。それなのに、それができる無属性魔法が無能というような扱いを受けているのは、魔力の消費量が莫大だからに過ぎない。
風魔法の浮遊は、風を起こし、その風の力で浮き上がらせるだけ。風は、自分の意志か、障害物にぶつからない限り、消えることはない。つまりは、風を起こせるだけの魔力があれば、なんの問題もない。
だが、無属性魔法の念動力は違う。魔力で、動かしたいものを覆う必要がある。いわば、魔力で膜を張り続ける必要があるので、常に魔力を消費し続ける。重さや数によって、消費する魔力量も違う。重いものほど、数が多いほど、消費量は増える。
成人した大人くらいの重さならば、一般人でも普通は10秒でも浮かせられればいいというレベルらしい。風魔法は、ほぼ無制限に浮かせられるというのに。
そして、ーー奥様から聞いた話ではーー4歳児だというジルスタ様は、こんな考え事をしている間に、もう20秒くらいは浮遊させている。この時点で、一般人の魔力量よりも、格段に多いということがわかる。
「ちょっと!目が回るじゃないの!」
そう言って、奥様は自分の前を手刀で切る動作をする。
すると、さっきまで好き勝手飛ばされていた奥様が地面に落ちて着地した。
「シアンさん……。奥様の一家って、どんな一家なのですか?」
「……ユールフェース男爵家。アリジェント王家の血筋だそうです。末端の末端だそうですが……かなりの強さですね」
それを聞いて、妙に納得してしまった。そして、奥様が公爵夫人に選ばれた理由も。
末端の末端。それなのに、これほどの無属性魔法を使える。国王陛下は、他国に流れるのを恐れたに違いない。旦那様は、国王に忠誠を誓っているから、王家から何かしらの指示があって、奥様を妻に迎えたのだろう。
政略結婚の手本のようなお二人。できれば、仲良くしていただきたいけど……似た者同士な感じなので、同族嫌悪などになりかねない。
「ちょっと!キャッチボールじゃなくなってきてるわよ!」
(意外とできるかもね)
ボールから逃げ惑っている奥様を見て、レーラは小さく微笑みながらそう感じた。
(……なに……これ)
目の前に、信じられないような光景が映っている。
レーラが公爵家に使用人として働くようになってから、3年は経過している。
公爵家当主である旦那様は、若くして騎士団長まで登り詰めた腕の持ち主。自分に護身術の心得をつけさせてくれると、鍛練の相手もしていた。だからこそ、規格外の力というのは見慣れていたはずだった。
でも、目の前の光景は、規格外なんて言葉では片づけられない。
「ねーさま!はい!」
「やるわね~……。はい!」
字面だけを見れば、普通にキャッチボールをしているだけにしか見えないだろう。でも、奥様の弟君であるジルスタ様は、3メートルはあるであろう高さを跳躍して、残像を追うのがやっとというくらいの豪速球を投げ、奥様はそれを生身で受け止めるという、そんな言葉には似合わない光景が広がっている。
そして、そんな高さから跳躍をして着地したというのに、怪我なんてしていなさそうに見える。
奥様も、跳び跳ねたりはしなかったが、先ほどのジルスタ様が投げたボールよりも速いスピードで投げている。それを、ジルスタ様はキャッチしようとしたけど、手を滑らせて、ボールが外れてしまい、ほとんどその勢いのまま、後ろのほうに生えていた木にぶつかる。
ーーバキッ!!
そんな音が響いたかと思えば、大きな音をたてながら、その木が崩れ去った。
(ええぇえええぇぇえええ!!?)
そんな風に叫んでしまいたかったが、レーラのわずかに残っていた侍女としてのプライドにより、心の中に押し留まった。
叫んでしまいたくなるのは当然だ。その木は、ジルスタ様からでも、明らかに50メートルは離れており、ボールは投げた直後は威力があっても、だんだんと、高度とともに落ちていくもののはずなのに、高さも変わらず、平行に飛んでいって、木にぶつかって、折れてしまったのだ。
「木が折れると言ったのは、事実でしたか……」
隣にいたシアンさんが、そのように呟いていて、レーラは詰め寄った。
「折れるってどういうことですか!?奥様がそのようなことを言っていたのですか!?」
「落ち着きなさい。そのようなことは言っていました。ですので、ここでお遊びいただくように宣言したのですが……」
その続きは、言いにくかったのか言わなかった。
だが、レーラにはその続きがなんとなくわかった。
(意味がなかったってことか……)
もちろん、普通に庭で遊ばせるよりも、この裏庭のほうが、被害は少ないだろう。
客が来たりはしないので、見栄えをよくする必要もなく、飾りなんかもいらない。植物だって、遠くに的用の木が何本か植えてあるだけ。でも、被害が出ないわけではない。
現に、奥様が木を折っている。
でも、もうちょっと手心というものを加えてほしい。この後に、後始末をするのは、使用人である我々なのだから。
「ねーさま~!ちゃんとねらってよ~!」
「ごめんごめん!今度はちゃんと狙うから!」
当の本人たちは、こちらの心境など露しらず、木が折れたことなんて気にも止めずに、ジルスタ様が文句を言って、奥様は謝っている。
「そんなねーさまには……こうだ!」
「あっと!」
ジルスタ様は、ボールを先ほどよりも豪速球で投げる。
奥様は、それを平然と受け止めた。また投げ返して、外して、どこかの木が、さっきの木の二の舞になるのかと思っていたら、奥様が慌て出している。
「わ、わ、わわ!」
そんな慌てた声を出しながら、奥様が宙に浮かぶ。
(あれは……念動力!?)
噂に聞いたことがあった。風魔法の浮遊に似たような無属性魔法の存在を。
宙に浮かぶというのは、単純でいて、とても便利なものだ。宙に浮かべない相手を、一方的に攻撃できるのだから。それなのに、それができる無属性魔法が無能というような扱いを受けているのは、魔力の消費量が莫大だからに過ぎない。
風魔法の浮遊は、風を起こし、その風の力で浮き上がらせるだけ。風は、自分の意志か、障害物にぶつからない限り、消えることはない。つまりは、風を起こせるだけの魔力があれば、なんの問題もない。
だが、無属性魔法の念動力は違う。魔力で、動かしたいものを覆う必要がある。いわば、魔力で膜を張り続ける必要があるので、常に魔力を消費し続ける。重さや数によって、消費する魔力量も違う。重いものほど、数が多いほど、消費量は増える。
成人した大人くらいの重さならば、一般人でも普通は10秒でも浮かせられればいいというレベルらしい。風魔法は、ほぼ無制限に浮かせられるというのに。
そして、ーー奥様から聞いた話ではーー4歳児だというジルスタ様は、こんな考え事をしている間に、もう20秒くらいは浮遊させている。この時点で、一般人の魔力量よりも、格段に多いということがわかる。
「ちょっと!目が回るじゃないの!」
そう言って、奥様は自分の前を手刀で切る動作をする。
すると、さっきまで好き勝手飛ばされていた奥様が地面に落ちて着地した。
「シアンさん……。奥様の一家って、どんな一家なのですか?」
「……ユールフェース男爵家。アリジェント王家の血筋だそうです。末端の末端だそうですが……かなりの強さですね」
それを聞いて、妙に納得してしまった。そして、奥様が公爵夫人に選ばれた理由も。
末端の末端。それなのに、これほどの無属性魔法を使える。国王陛下は、他国に流れるのを恐れたに違いない。旦那様は、国王に忠誠を誓っているから、王家から何かしらの指示があって、奥様を妻に迎えたのだろう。
政略結婚の手本のようなお二人。できれば、仲良くしていただきたいけど……似た者同士な感じなので、同族嫌悪などになりかねない。
「ちょっと!キャッチボールじゃなくなってきてるわよ!」
(意外とできるかもね)
ボールから逃げ惑っている奥様を見て、レーラは小さく微笑みながらそう感じた。
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