聖女と邪龍の娘

りーさん

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第一章 森の少女達

第13話 分からない

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 薬草を精霊達も含めた全員で持って帰り、来た道を戻ってギルドについた。その間も、リーズは話しかけてこなかった。

「……さん」

 やっぱり怒ってるのかな?無理やり奥に引っ込めさせたから。

「……ルさん」

 でも、教えてくれないリーズも悪い気が──

「カオルさん!」
「はっ、はい!」
「先ほどから呼んでいるのに、なぜ返事をしてくれないのですか」

 えっ、嘘。全然気づかなかった。

「すみません……」
「ずっと上の空ですが、何かありましたの?わたくしには心当たりがないのですが……」
「いえ、何でもないです。少しボーっとしていただけで」

 ルーフェミア様もレナード様も私達の事は知らない。なので、話せる訳もない。クラウド様なら良いかもしれないけど……

 ……帰ったら、相談してみようかな?一人で考えても仕方ないし。

「ひとまず、査定をしますわよ」
「サテイ……ですか?」

 また知らない言葉が出てきた。“サテイ”って何?
他の人を見ても、何の反応もないから、ここでは当たり前に使われているのかな?

「カオルさん?どうしましたの?」
「お嬢様、おそらく査定の意味をご存じないかと……」
「そうでしたの?」
「はい、知りません……」
「薬草採取に向かう前に説明があったでしょう?五本で銅貨一枚ですから、本数や本物かどうか確かめるんですよ」

 つまり、鑑定するって事かな?確かに、そういう事をしないと、不正とかがあるかもしれない。
 
 数えて貰った所、全部本物で、1000本ほどあった。私の精霊が色々な所から採ってきてくれたので、数が多かったみたい。

 五本で銅貨一枚なので、銅貨二百枚になる。もしこの場で貰うんだとしたらどうしよう。二百枚一気に貰っても困るんだけど。

「はい。こちらが報酬になります」

 そう言って、お姉さんは銀色の小さく丸い物を二枚渡してくる。見た感じ銀で出来ているから、銀貨って呼ばれるものじゃないかな?銅貨じゃないの?

 報酬を受け取って、ギルドから出て宿の部屋に戻る。部屋で、ルーフェミア様にさっきの事を聞いてみる。

「さっきは何で銅貨じゃなかったんですか?」
「銅貨だと数が多すぎるからですわ。お金にも種類がありまして、全部で10種類ありますわ。小さいものから、小銅貨、中銅貨、大銅貨、小銀貨、中銀貨、大銀貨、小金貨、中金貨、大金貨、白金貨になりますわ」

 銅貨、銀貨、金貨がそれぞれ三種類ずつあって、一番価値があるのは白金貨になるのか。

「中の貨幣は中をつけずに呼ばれる事が多いんですのよ。ですので、さっきの銅貨は中銅貨という意味ですわ」
「それで、なぜ銀貨だったんですか?」
「あれは中銀貨ではなく小銀貨ですわ。銅貨十枚で大銅貨一枚。そうやって上がっていくんですの。先ほどは銅貨二百枚でしたから、小銀貨二枚で渡されたのですわ」

 同じものを十枚で一つ上の価値になるって事か。つまり、小銀貨は銅貨百枚分って事ね。

「では、話を戻して配分したい所ですが、わたくしは貰えませんわね」
「なぜですか?」
「ほとんどカオルさんの手柄ですもの。貢献度に応じて配分するのが当然ですわ」

 “コウケンド”……?また知らない言葉が出てきた。 何回知らない言葉を聞く事になるんだろう?

「あっ……貢献度というのは、複数で仕事をした時に、どれだけ役に立ったかという事ですわ。この薬草採取でいうと、採取した薬草の数という事ですわね」

 貢献度が薬草の数なら、確かに私の方がルーフェミア様よりも多い。でも、ルーフェミア様よりも多いのは、私の方が協力してくれる精霊が圧倒的に多かったからだし、私の力だけではない。

 そう言っても、真面目なルーフェミア様は受け取ろうとしないかもしれない。だからといって、私だけ多く貰うのも申し訳ない。どうしよう……私が折れるかルーフェミア様を説得するか……

「どうしましたか?今日は上の空になる事が多いですわね」
「あっ……えっと……」
「……疲れているようですわね。今日はわたくしは別室で休みますから、ゆっくりとお休みください」

 何も言う暇無く、バタンとドアが閉まる。

 ……何か、私らしくないな。リーズにも変な所で優しかったり、頑固だって言われてたのに。

 何でだろう。リーズの事を考えると、胸がモヤモヤする。今まで、こんな事は無かったのに。何の意識もなしに、手のひらを見てみる。すると、わずかに黒いもやがある。それにハッとなるけど、思ったよりは驚かなかった。何で黒いもやを纏っているのか、何となく分かる。多分、リーズの事が許せないから。

 でも、分かっててもどうすれば良いのか分からない。許せば良いだけ。でも許せない。リーズだけずるい。知ってたんなら、両親の事が恋しかった時に、聞かせてくれれば良かったのに。

 そんな思いが消えてくれない。母様なら、どうしたのかな?いつも笑っていたけど、人間なんだから、辛かった事なんてたくさんあったはず。私みたいに、怒った事もあるはず。

 母様、私はどうすれば良いのでしょうか?このまま仲違いはしたくないのです。でも、私の醜い感情がリーズと話す事すら許してくれない。

 父様、私にも記憶伝達は出来なかったのですか?なぜ、リーズにだけ引き継がれられたのですか?

 リーズは、何で教えてくれなかったの?私に教えたくなかったの?リーズが寂しくなかったのは、強かったのは、母様と父様の事をたくさん知っていたからなの?

 分からない。分からない。自分の事なのに。

 何かが頬を伝う。撫でてみると、冷たいものが流れている。

 これは……涙?

 泣いたのなんて、両親を亡くして、親が恋しかったあの時以来。泣くなんて、悲しいのかな?何で悲しいのかな?

 その時、誰かが来た気配がした。思わず布団を深く被る。

「カオル、私だ。入っても良いかい?」
「…………どうぞ」

 私がそう言うと、ドアの開く音がする。その人物の足音は、こちらに近づいてくる。

「ルーから相談を受けてね。魔獣が出てからカオルの様子が変だって。何か、悩み事があるんなら聞くよ」
「……」

 私一人で考えても分からないなら、相談した方が良いのかな?でも……

「もちろん、無理にとは言わない。カオルが言いたくなった時で構わないよ。君の悪いようにはしないと誓ったからね」

 その言葉を聞いて、森での事を思い出す。私でも忘れかけていたのに、覚えていてくれたんだ。ここまで言ってくれてるし、相談してみようかな。

「あの……」

 布団から少し顔を出す。

「お話を聞いてくれますか?クラウド様」
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