聖女と邪龍の娘

りーさん

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第一章 森の少女達

第17話 買い物

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「……ちゃん」

 ……誰?まだ眠いんだけど……

「……ルちゃん」
「う~ん……」
「カオルちゃん!」
「はい!」

 ばっと起き上がると、目に映ったのは、マルミア様だった。

「マルミア様……?」
「……やっぱり、男性と一緒にしない方が良いわね」

……?それってどういう意味?

「そんな事より、もうお昼前よ。そろそろ起きないと」

 いや、結構気になる……えっ、もうお昼前!?

 窓を見ると、太陽が高く昇っている。どうやら、本当にお昼前まで寝ていたみたい。疲れてたとはいえ、数時間くらい寝てしまった。

「すみません……今行きます」

 あくびをしながらにベッドから出る。

 まだちょっと眠い。私でも眠いから、リーズはまだ寝てそうだな。

「カオルさん、やっと起きたのですね」
「すみません……」
「いえ、怒ってはおりませんわ」

 どう見ても、不機嫌そうなのですが……
 
 席についてご飯を食べようとするも、ルーフェミア様の視線が気になって、ご飯が喉を通らない。何とか食べ終えると、ルーフェミア様が話しかけてくる。

「カオルさん」
「は、はい」
「一緒に街に行きませんか?」
「街……ですか?」

 昨日に街は行ったと思うんだけど……

「買いたい物があるので、ついてきて欲しいのです。昨日は調子が悪そうだったので誘いませんでしたが……」

 あの時か。あの時は、体調が悪かった訳ではなくて、いろいろ考え事をしてただけなんだけど、心配してくれた事には変わりない。

「構いませんよ。どこに行きたいのですか?」
「それは行ってのお楽しみですわ!」

 「行きますわよ!」と言って、私の腕を引っ張る。ルーフェミア様は強引な所があるな。マルミア様は私が落ち着いているって言ってたから、これくらいが普通なのかな?

 そう考えている間も、ルーフェミア様は離してくれず、足も止まらない。

 しばらく走ってついたのは、ある一件のお店。ここは、早朝に来た時に閉まっていた店。

「ここで本を買いますわよ」
「本……ですか?」
「そうですわ。学園に行くなら、読み書きは必要ですもの。これで字を教えて差し上げますわ」

 まだ学園に行くと決まった訳ではないんだけど……。こんなに目を輝かせていたら、もしかしたら行かないかもしれないなんて、ものすごく言いづらい。

「カオルさんはどの本が良いですか?題名を読みますから、興味のある物があったら教えてください」

 ルーフェミア様は、棚の上の段から、左から右にいくように読み上げていく。

 ……どれもあまり惹かれないなぁ。

 物語でも、いろいろな種類があるけど、これだと思うものがない。でも、何も選ばないのも、ルーフェミア様に申し訳ない。

 私は、なんとなくでルーフェミア様が読み上げていったものから、三冊ほど指名する。その一つが、上の方にあったので、私もルーフェミア様も届かない。

「どうしましょうか」
「それなら、頼んでみます?」

 そう言って私は、近くを飛んでいる精霊達の方を見る。精霊も、言わなくても分かったみたいで、人が見ていないのを確認して、本を取ってくれた。

「ありがとう」

 小さな声でお礼を言うと、精霊達は口々に「ドウイタシマシテ」と言ってきた。

 これで三冊全部。お金を払って会計して貰う。思ったよりも高くてびっくりしたけど。何とか買う事が出来た。

「カオルさん。重くはありませんか?」

 宿の方に戻っていると、前から人が走ってくる。オーヴェと呼ばれていた人だ。

「ルー様!カオルちゃん連れてどっか行かないでくださいよ!僕が怒られるんですから!」
「すみません、オーヴェ。どうしても早く連れていきたかったものですので」
「はぁ……まぁ良いでしょう。早く帰りますよ」

 オーヴェ様は、ルーフェミア様の後ろにつくように歩いていく。

 ちょ、ちょっと速い……少し休憩がしたい……

「ごめん。あなた、ルーフェミア様の精霊を介して、もう少しゆっくり歩いてって伝えてきてくれない?」

 たまたま近くにいたので、精霊に頼む事にした。その精霊は、フワフワと飛んでいき、アクアに話しかける。アクアは、聞いた事をルーフェミア様に伝えていた。伝えたというよりは、私の方を指差していたという感じだったけど。

「すみません、カオルさん!お気遣いが出来ずに……」
「いえ、私の体力が無いだけですので……」
「オーヴェ、彼女の持っている物を変わりに持ってください。カオルさんはそこに座ってください」

 ルーフェミア様は、近くにあった噴水を指差す。オーヴェ様に本を渡して、ルーフェミア様の言った通りに、噴水の端の部分に座る。座った途端に、大きくため息が出てしまう。

 何か今日は、いつもよりも疲れやすい。やっぱり、邪眼を使ってしまったからかな?

「カオルさん、何か飲み物でも買ってきましょうか?」
「それじゃあ、お願いします」
「僕もルー様についていくから、カオルちゃんはそこを動かないでね?」
「はい」
 
 ルーフェミア様とオーヴェ様は飲み物を買いに行ってしまったので、私一人。もう起きてると思うんだけど……

『リーズ、もう起きた?』
『……』

 ……まだ返事がない。どれだけ寝てるんだろう?リーズは、私よりも邪眼の疲れが出ているのかもしれない。なら、無理やりに起こすのは良くないよね。

 そのまましばらく待ってみたけど、ルーフェミア様は戻ってこない。何かあったのかな?オーヴェ様がいるから、あまり危険な目にはあっていないと思うんだけど……

 動くなと言われていたけど、ちょっと探してみよう。あまり遠くに行かないで、噴水が見える位置なら入れ違いになる事はないよね。

「ルーフェミア様~。オーヴェ様~」

 近くにはいないみたい。もう少し離れてみよう。

「ルーフェミア様~。オーヴェ様~」

 この辺りにもいない……一体、どこまで行ったんだろう?

 この路地裏を通って行ったのかな?人が多いから、人混みを避けたのかもしれない。探しに入りたいけど、ここに入ったら噴水が見えなくなる。

 どうしようと思いながらも、路地裏の近くまで来た。

「ルーフェミア様~。オーヴェ様~」

 路地裏の方に呼び掛けるけど、返事はない。人の姿はチラホラ見えるんだけど、その人達は黒いもやを纏ってる。精霊達も嫌がっているから、暗いからそう見える訳ではないだろう。

 ここには入っちゃダメ。

 本能的にそう思って路地裏に背を向けて歩きだそうとすると、後ろから腕を引っ張られる。

 なになになに!?誰なの!?
 
 あまりに突然の事に、精霊達も反応出来なかったようで、慌ててこっちに飛んでくる。

 精霊達に声をかけようとしたら、口を布で抑えられた。その途端に、さらに疲れが襲ってきて、そのままパタンと倒れ込んでしまった。
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