聖女と邪龍の娘

りーさん

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第一章 森の少女達

第20話 寝てる間に

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《ごめんね。カオル……》

 この声は……母様?でも、母様はもう……

《あなた達だけを残していくのを許してちょうだい》
《かあさま。やだよ、死なないでよぉ》
 
 ……これは……昔の私?何でこんな昔の事を……

《大丈夫よ。予知したの。あなたがもう少し大きくなったら、あなたの事を……》

 あの時の母様、何て言ってたかな……?

『……ル』

 ……誰かが呼んでいる気がする。母様?父様?

『カオル!』

 ハッキリと名前を呼ばれてハッとなる。目を開けると、そこは宿のベッドだった。周りには誰もいない。なら、話しかけてきたのは……

『……リーズ?』
『やっと起きたか。お前、一週間も目を覚まさなかったんだぞ』

 ……えっ!?一週間?

 確か、私は誘拐されて、そこで……ダメだ。思い出そうとすると、頭が痛くなる。それに、なんか眠くて、再び目を閉じてしまう。

 目を閉じていても、意識はハッキリしているから、リーズと会話は出来る。

『覚えてないのか?私が寝てたから、そのせいでフードを脱がされて“聖”と“邪”が暴走したんだ』

 そうだ。体が熱くなって、痛くなって……そのまま気を失ったんだ。でも、もう痛くない。誰かが治してくれたのかも。

 ほんの微かに話し声が聞こえ始めた。

 誰か来たのかな?

 目を開けようと思っても開かない。あれ?さっきは開いたのに……

『まだ疲れてるんだろ。起こした私が言うのもなんだが、もう少し寝てろ。起きたのが見つかったらしばらくは寝られなくなる』

 そう言われたので、お言葉に甘えてまた眠る。

ーーーーーーーーーーーーーー

(さて、どうするか)

 カオルが眠っているので、今の体の支配権はリーズが持っている。来た人物が誰なのか確かめはしたいが、起きてるのが見つかると厄介でしかない。

(“透視”しても良いんだが……あれも結構疲れるからな……)

 リーズはまだ力を完璧には使いこなせないので、邪龍としての能力を使うと、かなりの体力を消耗する。同じく、カオルも聖女としての能力を使うと、かなりの体力を消耗するが、長時間は使っていないので、少し休息を取るだけで済む。

(私ももう少し休んでるか)

ーーーーーーーーーーーーーー

「カオルちゃんはまだ目覚めないの?」

 部屋の近くに来ていたのは、公爵一家だった。

「外傷もかなり酷かったからな。体力が戻ってないんだろう」

 実際は、外傷よりも内側からのダメージの方が大きい。姿も、目立つ傷はあまり無く、内臓や筋肉、骨などのみが傷ついていた。でも、それは不自然だ。
 クラウドは家族や部下に上手いこと話をごまかしていた。倉庫の爆発に巻き込まれた事にしたのだ。

「カオルさん、大丈夫でしょうか。わたくしが置いていかなければ……」

 ルーフェミアは、先程からずっとこの調子だ。もちろん、周りはルーフェミアのせいではないと言っているが、ルーフェミアは自分を責めずにはいられない。

「ルーは悪くないわよ。悪いのはあの者達ですもの」
「そうだよ。そんなに気にする事はない。カオルも怒ってはいないと思うよ」
「そうかもしれませんが……」

 そうやって励まされても、立ち直る事が出来ない。

 そんな公爵一家に「まあまあ」とアウベルクが口を挟む。

「ひとまず、ご飯だけ置いて行きましょう。体力を回復させるために寝ているのでしたら、余計に起こしてはいけませんから」

 アウベルクの言葉に同意し、静かに扉を開け、脇にあるテーブルに食事を置いておく。

「ただ寝ているだけですわよね……?」

 ルーフェミアは不安を拭えなくて、何度も同じ事をルクスとアクアに聞く。

 ルクスとアクアは二人とも頷く。ルーフェミアは、精霊の姿が見えているだけで、声は聞こえないので、ルクスとアクアはジェスチャーでルーフェミアとコミュニケーションを取るしかない。

 ルクスはカオルの方を指差す。カオルではなく、カオルの近くを・・・を指差している。カオルの周りにいる精霊達を指差しているのだ。ルーフェミアも、水の精霊と光の精霊の姿は見る事が出来る。

「何ですの?」

 ルーフェミアには伝わっていない。それに業を煮やしたのか、ルクスはルーフェミアの服をグイグイと引っ張る。

 ついてこいと言わんばかりに服を引っ張りながら、カオルの精霊を指差す。仕方ないので、ルーフェミアはルクスについていく。

「ルー。どうしたんだい?」
「ルクスがついてきて欲しいと合図してるので……」

 そう言って、カオルの方に近寄るルーフェミアの後を、クラウド達もついていく。

「一体、何ですの?」

 ルーフェミア達が近づいてきたのに気がついて、カオルの周りにいる精霊達もルーフェミア達の方を見る。

「ナニシニキタ?」
「ルーフェミアガ、カオルサマノ、ブジキキタイ」

 当然、この声はルーフェミア達には聞こえていない。

「ダイジョウブ。ボクタチ、ナオシタカラ」
「イマ、ネテルダケ」

 やはり問題ないようだったので、ルーフェミア達にその事を伝えようと振り返るも、どう伝えたら良いのか分からない。言葉は通じないので、体で教えるしかないのだが、どうすれば伝わるのか分からない。

「ルクス、どうしたんですの?やはり危険なのですか?」

 ルクスが急に黙り込んだので、ルーフェミアは慌ててルクスにたずねる。

 ルクスは首を振って否定する。

「では、本当に眠ってらっしゃるだけなんですの?」

 今度は何度も頷く。

「そうですか……」

 ルクス達だけではなく、カオルの側にいる精霊達も大丈夫だと言っているので、ルーフェミアも安心した。

「大丈夫だったかい?」
「はい……」

 ルーフェミアのこの様子を見て、また不安がらないで欲しいとクラウドは思った。

「もし、カオルが目覚めたらすぐに教えてくれないか?」

 カオルの周りにいる精霊達は頷く。ルーフェミアはそれが見えているので、精霊達の反応に不安よりも、喜びが勝った。

「本当ですの?約束ですわよ!」

 タタタと部屋から出ていくルーフェミアを、クラウド達は追いかける。

「カオルサマ、モウメザメテルケド、イワナクテイイ?」
「カンゼンニ、メザメタトキガ、イイ。カオルサマガ、マタネタラ、アノショウジョ、シンパイスル」

 ルーフェミアは喜ばせるためにも、早く目が覚めて欲しいと願う精霊達だった。

 
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