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第二章 神殿の少女達
第25話 カオルの処遇
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カオルがその場から立ち去った後、その場には私と国王、ジェイドの他にカオルの事を反対している貴族がいる。
「して、カオルをどうするのだ?」
「制度に乗っ取り、彼女に準貴族の身分を与え、我がファルメール公爵家が保護します」
カオルにはまだ言っていないが、精霊術士の素質がある者は、準貴族の身分が与えられる。準貴族は、貴族よりは身分が低いが、平民よりは高い。
「して、その事で何か意見のある者はいるか?」
「彼女は身分がはっきりしておりません。それなのに、素質があるからと言って準貴族にするなど……」
そう言うのは、反対派の貴族、ロナルド侯爵だ。彼は、生粋の身分主義。身分が上の者が絶対という考えを持っており、カオルの事も認めてはいない。
「ふむ。公爵、どうするのだ?」
発言の許可をいただいたので、侯爵に反論する。
「確かに、彼女は身元がはっきりとしてはおりませんが、だからと言って、自由にさせてしまえば、他国に流れる恐れもあります。侯爵は、そうなった場合はどうするのですか?」
カオルは、自分がどれだけ価値がある存在なのかを自覚していない。なので、自由に行動する権利を与えてしまうと、普通に他国に何のためらいもなく行ってしまうだろう。
そんな自体を避けるための制度だというのに、彼はその事が分かっているのか?
「その場合は、私が責任を持って捕らえましょう。戦力となるものを他国に渡す訳にはいきませんから」
本音はそっちか。私がカオルという存在を保有している事に納得がいっていないのだろう。だから、力ずくでも手に入れたいのだ。たとえ、捕らえるという手段でも。
捕らえるという言葉に、私は今でも怒鳴りたいのを我慢する。感情的になれば、向こうの思うつぼだからだ。
捕らえるなんて、まるで罪人扱いではないか。カオルが侯爵に捕らわれたとしたら、ろくな扱いを受けないのは目に見えている。そうなっては、再び人間を信用しなくなる。彼女は、森の中という狭い世界に戻ってしまうのだ。
それだけはあってはならない。
「一度いらぬものと扱っておきながら、他国には渡さないと?侯爵は自分の発言が矛盾している事にお気づきで?」
そう言うと、黙ってしまった。これくらいで黙り込んでしまうなら、最初からそのような事は言わねば良いのに。
「他に意見のある者はいるか?」
国王の言葉に今度は誰も反応しない。
「では、本日は解散とする。だが、ファルメール公爵は話がある。この場に残れ」
そう言われてしまったので、自分だけこの場に残る事になった。後日、社交の場で何と言われるか分からないな。
「公爵よ」
他の者が立ち去った後、国王はそう言ってきた。
「はい、陛下」
「貴殿は、彼女の事についてどこまで知っているのだ?」
「どこまで……とは?」
カオルの事は、ある程度は知っている。彼女が聖女と邪龍の娘だという事も。フードが“聖”と“邪”を分けている事も。最も、国王にその事を話す訳にはいかないので、魔力を抑えるためだと伝えているが。
「森で会ったと言ったな。公爵家の近くにある森なら、迷いの森と呼ばれている所だろう。そこに人が暮らせるのか?」
「彼女だけではなく、彼女の両親も精霊が見え、会話が出来たそうです。おそらく、精霊に気に入られていたのでしょう」
あくまでも憶測の話だ。出会ったばかりの頃、彼女は精霊が見える事も、声が聞こえる事も不思議に思っていなかった。
それは、それが当たり前だったからだと考えられる。つまり、両親も精霊が見えて声も聞く事が出来たという事だ。
「では、なぜ儂に手を回してまで彼女がフードを身につけないといけないのだ?」
「以前申したように、カオルの魔力を抑えるためです」
「精霊術士の素質がある者は、確かに魔力は多いだろう。だが、本当にそれだけか?」
これは感づかれているな。だが、彼女との約束だ。言う訳にはいかない。
「そうです。たとえ違うとしても、カオルには、彼女の事を詮索しない事を条件に来て貰ったのです。これ以上話す訳にはいきません」
「……そうか。もう下がって良い」
「はい、陛下」
そう言われたので、謁見の間を出る。本当に腹黒い国王だ。カオルを逃がさないために、カオルの事を知ろうとしたのだ。もし、カオルが聖女と邪龍の娘だという事を知ったら、聖女の娘という事だけ公にするだろう。
話せないと言って、あっさり引き下がったのは、カオルに悪印象を持たせないためだ。国王なら、国の利益になるような存在を知りたいと思うのは当然の事だ。だから、公の場だったら、あのような発言も咎めようとは思わない。
だが、あの場には私と国王以外はいなかったのだから、少しくらい肩の力を抜いてくれれば良いのに。
カオルが、準貴族になったとすれば、危険なのは神殿だ。カオルは、聖女の血を引いている。それに、精霊と会話できるとなれば、保護するなどと言いかねない。
保護などと言うのは、表向きの理由だ。実際は、さらに力をつけるためにカオルを欲しているだけだ。
準貴族は、国外に出したくない平民に与える身分だ。立場的には平民と貴族の間。準貴族以上の身分の者は、国の許可無くは国外に出られない。そのために精霊術士の素質を持つ者には準貴族の身分が与えられる。他にも、腕の良い騎士などにも送られる。
準貴族は、自由を制限された平民のような立場なので、後見人がいたとしても、神殿が連れていっても問題ない立場なのだ。
カオルが、神殿に行きたいと言えば止めるつもりはない。だが、無理やり連れていかれるのはダメだ。カオルを飾りなどにはさせたくないし、扱いによっては、リーズが出てきてしまう。
本来は、神殿のような浄化された場所には、邪龍のような邪なる力を持つ者は入るどころか、近づく事も出来ない。だが、彼女は聖女の血を引いている。
それに、憶測だが、おそらくは、あのフードは中の力を分けるだけではなく、外からの力も遮断してしまう。聖なる力も邪なる力も。おそらくは魔力すらも。あの時、フードを持っていた男はあまり外傷は目立たなかった。
フードが守っていたのだとすれば、説明がつく。
聖女と邪龍の娘。精霊術士としての才能。あの容姿。特殊なフードを持っている。
そんな存在を、周りは放っておかない。
カオルの周りを取り巻く環境に、私は頭痛がした。
「して、カオルをどうするのだ?」
「制度に乗っ取り、彼女に準貴族の身分を与え、我がファルメール公爵家が保護します」
カオルにはまだ言っていないが、精霊術士の素質がある者は、準貴族の身分が与えられる。準貴族は、貴族よりは身分が低いが、平民よりは高い。
「して、その事で何か意見のある者はいるか?」
「彼女は身分がはっきりしておりません。それなのに、素質があるからと言って準貴族にするなど……」
そう言うのは、反対派の貴族、ロナルド侯爵だ。彼は、生粋の身分主義。身分が上の者が絶対という考えを持っており、カオルの事も認めてはいない。
「ふむ。公爵、どうするのだ?」
発言の許可をいただいたので、侯爵に反論する。
「確かに、彼女は身元がはっきりとしてはおりませんが、だからと言って、自由にさせてしまえば、他国に流れる恐れもあります。侯爵は、そうなった場合はどうするのですか?」
カオルは、自分がどれだけ価値がある存在なのかを自覚していない。なので、自由に行動する権利を与えてしまうと、普通に他国に何のためらいもなく行ってしまうだろう。
そんな自体を避けるための制度だというのに、彼はその事が分かっているのか?
「その場合は、私が責任を持って捕らえましょう。戦力となるものを他国に渡す訳にはいきませんから」
本音はそっちか。私がカオルという存在を保有している事に納得がいっていないのだろう。だから、力ずくでも手に入れたいのだ。たとえ、捕らえるという手段でも。
捕らえるという言葉に、私は今でも怒鳴りたいのを我慢する。感情的になれば、向こうの思うつぼだからだ。
捕らえるなんて、まるで罪人扱いではないか。カオルが侯爵に捕らわれたとしたら、ろくな扱いを受けないのは目に見えている。そうなっては、再び人間を信用しなくなる。彼女は、森の中という狭い世界に戻ってしまうのだ。
それだけはあってはならない。
「一度いらぬものと扱っておきながら、他国には渡さないと?侯爵は自分の発言が矛盾している事にお気づきで?」
そう言うと、黙ってしまった。これくらいで黙り込んでしまうなら、最初からそのような事は言わねば良いのに。
「他に意見のある者はいるか?」
国王の言葉に今度は誰も反応しない。
「では、本日は解散とする。だが、ファルメール公爵は話がある。この場に残れ」
そう言われてしまったので、自分だけこの場に残る事になった。後日、社交の場で何と言われるか分からないな。
「公爵よ」
他の者が立ち去った後、国王はそう言ってきた。
「はい、陛下」
「貴殿は、彼女の事についてどこまで知っているのだ?」
「どこまで……とは?」
カオルの事は、ある程度は知っている。彼女が聖女と邪龍の娘だという事も。フードが“聖”と“邪”を分けている事も。最も、国王にその事を話す訳にはいかないので、魔力を抑えるためだと伝えているが。
「森で会ったと言ったな。公爵家の近くにある森なら、迷いの森と呼ばれている所だろう。そこに人が暮らせるのか?」
「彼女だけではなく、彼女の両親も精霊が見え、会話が出来たそうです。おそらく、精霊に気に入られていたのでしょう」
あくまでも憶測の話だ。出会ったばかりの頃、彼女は精霊が見える事も、声が聞こえる事も不思議に思っていなかった。
それは、それが当たり前だったからだと考えられる。つまり、両親も精霊が見えて声も聞く事が出来たという事だ。
「では、なぜ儂に手を回してまで彼女がフードを身につけないといけないのだ?」
「以前申したように、カオルの魔力を抑えるためです」
「精霊術士の素質がある者は、確かに魔力は多いだろう。だが、本当にそれだけか?」
これは感づかれているな。だが、彼女との約束だ。言う訳にはいかない。
「そうです。たとえ違うとしても、カオルには、彼女の事を詮索しない事を条件に来て貰ったのです。これ以上話す訳にはいきません」
「……そうか。もう下がって良い」
「はい、陛下」
そう言われたので、謁見の間を出る。本当に腹黒い国王だ。カオルを逃がさないために、カオルの事を知ろうとしたのだ。もし、カオルが聖女と邪龍の娘だという事を知ったら、聖女の娘という事だけ公にするだろう。
話せないと言って、あっさり引き下がったのは、カオルに悪印象を持たせないためだ。国王なら、国の利益になるような存在を知りたいと思うのは当然の事だ。だから、公の場だったら、あのような発言も咎めようとは思わない。
だが、あの場には私と国王以外はいなかったのだから、少しくらい肩の力を抜いてくれれば良いのに。
カオルが、準貴族になったとすれば、危険なのは神殿だ。カオルは、聖女の血を引いている。それに、精霊と会話できるとなれば、保護するなどと言いかねない。
保護などと言うのは、表向きの理由だ。実際は、さらに力をつけるためにカオルを欲しているだけだ。
準貴族は、国外に出したくない平民に与える身分だ。立場的には平民と貴族の間。準貴族以上の身分の者は、国の許可無くは国外に出られない。そのために精霊術士の素質を持つ者には準貴族の身分が与えられる。他にも、腕の良い騎士などにも送られる。
準貴族は、自由を制限された平民のような立場なので、後見人がいたとしても、神殿が連れていっても問題ない立場なのだ。
カオルが、神殿に行きたいと言えば止めるつもりはない。だが、無理やり連れていかれるのはダメだ。カオルを飾りなどにはさせたくないし、扱いによっては、リーズが出てきてしまう。
本来は、神殿のような浄化された場所には、邪龍のような邪なる力を持つ者は入るどころか、近づく事も出来ない。だが、彼女は聖女の血を引いている。
それに、憶測だが、おそらくは、あのフードは中の力を分けるだけではなく、外からの力も遮断してしまう。聖なる力も邪なる力も。おそらくは魔力すらも。あの時、フードを持っていた男はあまり外傷は目立たなかった。
フードが守っていたのだとすれば、説明がつく。
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