聖女と邪龍の娘

りーさん

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第二章 神殿の少女達

第29話 精霊術

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 今日の授業が終わって、寮の部屋に戻る。寮の部屋は、完全に寝泊まり専用の部屋で、ベッドと、最低限の家具しかなかった。それでも、私にとっては充分贅沢な部屋。

「カオルさん。授業にはついていけそうですか?」
「まだ……大丈夫です」

 いつダメになるか分かりませんが。

「明日は初めての魔法の授業ですが、精霊術は使えるでしょうか?」
「多分……大丈夫だと思います」

 ギルドではあれだけ自信満々に言っていたし。

「大丈夫だよね?」
「トーゼン!」
「カオルサマ、ナニモシナクテイイ」

 一応聞いてみると、自信満々で返された。やっぱり、大丈夫みたい。

「では、明日に備えてもう寝ましょうか」
「そうですね」

 その翌日。またいつもの時間で起きてしまった。

 ……精霊達とお話ししていよう。リーズとは、出来るだけ一人で行動しないって約束をしたからね。

「今日はよろしくね」
「ン!」

 あまりやり過ぎないで欲しいけど……

 そのまま少し話しているうちに、こんな事を聞かれた。

「カオルサマ、アノシンカン、ドウオモッテル?」
「ナルミス様の事?」

 そう聞くと、精霊達は頷いている。

「信用出来るという訳ではないけど、根は悪い人ではないと思う」

 もやからしても、あまり悪い感じはしない。私を油断させるためじゃないのかって言われれば、言い返す事は出来ない。だけど、本当に悪い人なら、私が一人でいた時に何かしていたはずだから。

「カオルさん、起きていたんですのね」
「ルーフェミア様。起こしてしまいましたか?」
「いえ、そんな事はありませんわ。では、食堂に向かいましょうか。もう開いているはずですわ」
「は、はい」

 食堂に行って、朝ごはんを食べる。森に住んでいる時と比べたら、とても豪華だ。貴族様が通っているだけはある。

 マナーの先生に習ったように、食べ進めていく。

「カオルさん、この後は屋外での授業になりますから、向かいましょうか」
「はい」

 食べ終わって、食器を返したあとに、ルーフェミア様の後に続いて授業を行う場所まで来る。

 そこには、ナルミス様もいた。同じクラスではなかったはずだから、違うクラスと一緒に授業をするのかもしれない。

 先生がやってきて、授業の説明をする。予想通り、違うクラス……それどころか、全クラス合同の授業らしく、内容は、あの的に魔法をぶつければ良いらしい。

「カオルさんは編入してきたばかりですから、まずは見ていてください」
「はい」

 先生にそう言われたので、大人しくその場に立っている。他の人達は、次々と魔法を放っていく。

 きれいだな。

 真っ先に思ったのはそれだった。今まで浄化と回復魔法しか使っていなかったから、他の魔法がどんなものかなんて分からなかった。唯一、風の精霊の魔法と、ルクスの魔法を見たくらい。

 そうやってずっと見ていたら、ルーフェミア様の番になったみたい。ルーフェミア様は、水の塊を的にぶつける。水魔法かな?

「以前よりも威力が大幅に上がっていますね。何かあったのですか?」
「長期休暇中に精霊と契約しましたから、そのせいではないでしょうか」

 ルーフェミア様が精霊という言葉を出すと、周りがざわつき始める。

「精霊と契約ですって!」
「さすがファルメール様ですわ!」
「俺も見てみたいなぁ、精霊」
「お前には無理だろ」

 あちこちから声が聞こえる。やっぱり、精霊って相当すごい存在なんだな。

「静粛に!授業中ですよ!」

 その先生の言葉で、さっきまでざわついていた空間が、一気に静まり返った。先生、すごいな。

「最後はカオルさんですね。どんな属性でも構いません。あの的に向かって魔法を使ってください」

 何でも良いと言われても……クラウド様からはもう回数も分からないくらいに、浄化と回復魔法は人前では使ってはいけないと言われたし、それを抜いたら、私が使える属性が無くなっちゃうし……

「なかなか始めませんわね」
「きっと使えないのよ。精霊術士の素質があるからって、鍛練を怠ったんだわ」

 私、結構耳が良いので、ハッキリと聞こえるんですが……案外、声も大きいし……
 精霊達も──風の精霊が中心だけど──聞こえているから、今にも魔法で攻撃しそうなんだけど……べ、別の所に注意を向けないと!

「あの……精霊の魔法でも良いですか?」
「構いませんよ。むしろ、見てみたいです。精霊がどれほどの魔法を使うのか」

 先生がそう言うと、他の人達も、見てみたいと騒いでいる。

「誰か、やってくれる?」
「ワタシ!」
「ボクガヤル!」
「ボクダヨ!」
「アタシヨ!」

 あぁ……言い合いが始まってしまった。

「それぞれの属性を使っても良いでしょうか……」

 これなら、少しはマシになるはず。

「構いませんよ」
「聞いたでしょ。他の子は、次の時にやらせてあげるから、早く決めて」

 そう言うと、あまり納得していない様子だけど、次々と他の子達に譲り始めた。

 結果、本当にそれぞれ一人ずつやる事になった。

 まずは、火の精霊が、巨大な火の玉を生み出して、的にぶつける。すると、的は黒く焼け焦げて、周りに燃え移ってしまった。

 これって、やばいんじゃないの?

「水の精霊!今すぐ消して!」
「リョーカイ!」

 水の精霊も、同じくらいの大きさの水の塊を生み出して、炎の方に向かって放つ。火はみるみると消えていって、それどころか、地面が凍っている。

 もう、お腹いっぱいになってきた。他の子達も同じような感じで、竜巻を起こしたり、雷を落としたり、辺りを真っ暗闇にしたり、植物を操ったり……

 学園が壊れるんじゃないかってくらいに魔法を使いまくっていた。もう的だった物の周辺は、ボロボロだった。自然の化身と言っても過言ではない精霊が、自分で自然の一部を破壊してしまった。

 さっきまで悪口を言っていた人も怯えている。うん。こんなのを見せられたら、私でも怯えてしまう。

 先生は、いつの間にか放心状態になっていたけど、何とか自我を取り戻して、授業を再開していた。

 とりあえず、怒られなかったから良かったけど、精霊のみんなには、もう少し抑えて貰うように言っておかないといけないな。
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