聖女と邪龍の娘

りーさん

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第二章 神殿の少女達

第40話 檻の少女の力

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「なっ……貴様、どうやってここに……」
「お前には関係ないな」

 そう言ったら、司教は睨みつけてくる。ふむ。この感じだと、私とカオルが同一人物だとは気づいていないみたいだな。

 まぁ、顔や声が同じでも、口調や雰囲気で結構印象は変わるし、気づかなくてもおかしくはない。

 にしても、こいつは精霊術士になりたいのか。レティア神の話だと、精霊術士の血とこいつの力があれば可能らしいが……力って何なんだ?

「ふざけるな!どけ!離せ!」

 どけと言われて素直にどくような私ではない。私が掴んでいる腕を振り払おうとしているが、邪龍の娘で、その力を引き継いでいる私の腕を、神官ごときの力で振り払える訳がない。だが、ここはまだ神殿内。母上の聖女としての血とこのフードのおかげでマシになっているだけで、長時間表に出ていると、苦しみが襲ってくる。

 邪眼も、神殿内では使い物にならない。何とか短時間で終わらせないといけない。

「お前がこの腕を下ろして二度と上げないって言うんなら離してやっても良いが、信用が出来ないな」
「この小娘!私を誰だと──」
「立場が偉いだけの勘違い野郎」

 一言で言えばこうだろ。レティア神が言うには、こいつは縁故で司教になったらしいから、本来はそこまでの地位に昇れるほどの実力はない事が想像出来る。

 さっきの私の言葉に怒り狂って、封じられていないもう一つの手で私を叩こうとする。その手もなんて事ないように掴んで防ぐ。馬鹿な奴だ。さっき私に防がれたんだから、こうなる事は予想出来るだろうに。怒りで全く考えてなかったのか、小娘だと侮っていたんだろうがな。

 ──っ!

 胸が焼けるように熱くなってきた。そろそろ限界か。早く何とかしないと。

『リーズ、大丈夫?』
『平気だ。心配するな』

 平気ではないが……あまり心配をかけたくないしな。

「間違った事は何も言ってないだろう?それよりもここにいても良いのか?大事なカオルという娘が逃げ出そうとしているのに」
「何っ!?」

 カオルを出汁にすると、すぐに来た道を戻っていった。最初からこうすれば良かったか。逃げ出そうとしているのは、ルーフェミアとか言う奴の方だが。

 さて、残る問題はこいつか。今すぐにでも奥に引っ込みたいが、そうするとばれてしまうからな。

「大丈夫か?」
「……大丈夫です。ありがとうございました」
「なら良い。鍵を閉め忘れたみたいだし、外に出るか?」
「……いえ、兄に迷惑がかかってしまいますから」

 兄想いな妹だな。あいつは多分大丈夫だとは思うが……絶対にそうだという自信はない。

「……一つ、お聞きしても良いですか?」
「……何だ?」

 立ち去ろうとした私をそう言って呼び止めた。

「なぜ、嘘を言ったのですか・・・・・・・・・?」
「嘘……?」
「カオルさんが逃げていると言う発言の事です。あれは嘘なのでしょう?」
「なぜ分かった?」

 自分で言うのもなんだが、私はあまり顔に出るタイプではない。それどころか、私はフードを被っていて、司教の方を見ていたから、顔は見えないはずだ。それに、なぜ逃げていると知っていたのかではなく、嘘をついていると断言している。

「私の特技です。相手が何を考えているのか、言った事が嘘かどうかなんとなく分かるんです」

 第六感って奴か。本当にそう言うのが使える奴がいるとは思わなかったな。

「それに答える前に、私も聞いて良いか?」
「何でしょう?」
「お前の“力”って何だ?あのアホが欲しがるなんて相当だろ」
「付与の力です。……私は、付与の加護を持っていますから」

 付与の加護?あの時レティア神が言っていた加護の一つか?言葉からして、何かを別のものに宿らせるという感じか?

「カオルさんは、強い精霊術士と聞きました。そして付与は、そもそも付与する物がないと意味を成しません。ですので、カオルさんの血にある精霊術士としての力を、司教は自分に付与させようとしたのでしょう。そうすれば、精霊術士になれますから」

 そうか。血は全ての力の源だ。魔力も血の中に流れているし、カオルの“聖”の力も、私の“邪”の力も血を流れている。このフードは、その片方を封印するだけで、無くなる訳ではない。血を採れば、聖女……精霊術士としての力を得る事は可能だろう。

「では、質問に答えてください」
「ああいうしか無かったからだ。これで納得出来ないか?」
「……そうですか。では、カオルさんはどこに?」

 ……こいつになら、言っても良いかもしれない。信用出来る。直感でそう思った。

『良いの?リーズ』
『兄の方は信用ならないが、妹は大丈夫だろ』

 カオルがそう言ってくるなんて、私はどれだけ人間不信だと思われているんだ。……まぁ、人間不信なのは否定しないが。

「ここにいる」
「……?」

 辺りをキョロキョロ見渡している。こんな風に言われたら、この反応が普通だろう。

「……見当たらないようですが……」

 嘘が分かると言っていたから、私の発言を疑ってはいないようだった。

「ここだ」

 そう言って、私は自分を指差す。

「……はい?」
「こうした方が分かりやすいか」

 そろそろ限界だったし、ちょうど良い。私は右胸のイニシャルを二回叩く。フードは勝手に裏返り、私は奥に引っ込んだ。代わりに、カオルが表に出る。

「……こんにちは」
「…………えっ?」

 状況が飲み込めていないようで、しばらく沈黙が続く。すると、急にこの静寂を破った。

「えぇーーーーーーー!!?」
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