聖女と邪龍の娘

りーさん

文字の大きさ
42 / 107
第二章 神殿の少女達

第41話 共感

しおりを挟む
「どっ、どどど……どういう事ですか!?」
「……私がカオルです」
「それは分かります!……いや、良くは分からないですけど……」

 分かるのか分からないのかどっちなんだろう。

「どういう事ですか?」
「それはこちらのセリフです!何がどうなっているのですか!」
「リーズの時にフードを裏返すと私が表に出てくるんです。逆に、私の時にフードを裏返すとリーズが表に出てきます」

 簡単に言えばこういう事。もっと詳しく話すと長くなってしまう。

「分かるような……分からないような……」
「それよりも、先ほどの付与の加護と言うのは……」

 リーズの中からある程度聞いてはいたけど、付与の加護がどれだけすごいのか、どんな力なのか詳しい事は分からない。

「聞こえていたんですか?」
「リーズが表に出ていても、視界などは共有出来ますから」
「そうですか。それならある程度は把握しているという前提で話します。付与の加護は、その名の通り、宿らせる事が出来る加護です。この加護があれば、宿らせる物や宿る物には制限はかからなくなります。ですが、同時に宿らせる事は出来ず、一つずつしか出来ません」

 一つずつしか出来ないという事は、逆に言えば、一つだけを絞って宿らせる事も出来るという事になると思う。それなら、私の精霊術士としての力だけでなく、私の虹の加護も付与出来るかもしれない。

「それでは、私からも質問しますが、カオルさんはなぜここにいるんですか?」
「え~っと……絵の裏にあった道を通ってきたら、大きな揺れで入り口が塞がってしまいまして……そのまま道なりに進んでいたら、ここに出たんです」
「では、逃げている途中なのですか?」
「はい」

 逃げている途中でレティア神に頼まれたから、ここに来たなんて事は言えないけど……

「では、早めにここを出た方が良いですよ」
「あなたを置いては行けませんよ」
「私なら大丈夫です。私が欠けたら司教の目的は果たせなくなりますから、危害を加えられる事はありません」
「先ほどの暴力は危害ではないと言うのですか!」

 直接見た訳ではないけど、あの時頬を抑えているのと、パァンという音が聞こえたから、叩かれたのは間違いない。

「心配してくれるのはありがたいですが、私はここを離れる訳にはいきません。兄に迷惑がかかります」
「ナルミス様の事ですか?……多分、大丈夫だと思いますが……」
「そう言える根拠はあるのですか?私は人質としての役割もある事は理解しています。逆に言えば、私がいるから兄は生かされていると言っても過言ではありません。私達は、お互いを人質として取られている状態なのです」

 そう言われて、初めて本当の意味で理解する。ナルミス様が、契約を破棄しようとしなかったのを。これは予想だけど、ナルミス様は、従う代わりに、妹さんの安全の保証をされていたんじゃないかと思う。逆に妹さんは、ナルミス様の安全の保証をする代わりに、ここから出ないように言われていた?

 でも、そうだとしたら、何で逃げないだけなのかな?力を使うように強要すれば良かったのに。こんなに兄想いなんだから、そう言われたら力を使いそうな気がする。

「……どうかしましたか?」
「なぜ、あなたに力を使うように強要しなかったのかと思いまして」
「加護の力は、本人が心から望まない限り・・・・・・・・・使えませんから。なので、命じても私が嫌だと思っていたら使えないんですよ」

 それなら、私の加護の力も、私が望まなかったら使えないって事?私の虹の加護は、全属性の精霊術が使える。だったら、私が望まなければ、精霊術は使えない。良く考えたら、当たり前の事だ。精霊は、相手が望んでいるから力を貸しているだけで、相手が嫌々されていたら、精霊術を使う訳がない。むしろ、そうさせている相手を攻撃しそう。

 「もう良いでしょう?助けていただいた事は感謝しますが、私の事は放っておいてください」

 冷たく突き放される。あの時大きな声で驚いていた様子とは、似ても似つかない。何か、以前の私と似ている。リーズがいるだけマシだったけど、母様と父様を一度で失って、心のぽっかり穴が空いたような感じになった。

 一時期は、誰も信じられなくなって、精霊とも話さなくなっていた。ただ意味のない毎日を過ごしているだけだった。

 でも、そんな私を叱責してくれたのは、リーズだった。精霊達も、私の気持ちを察してくれていたのか、何でそんな事をするのかとか聞く事もせず、遠くから見ているだけだった。私から話しかけない限り、話す事はなかった。

 それで、少しずつ、いつもの私に戻っていった。以前、両親がやっていたように、困っている人達を助けるようにもなった。きっと、両親なら無理しなくて良いと言ってくれるだろうけど、両親の真似をする事で、気持ちが満たされていった。

 そんな風に過ごした私だから、良く分かる。この子は、私の事を信じたいけど、信じる事が出来ないでいる。裏切られる事を恐れているから、兄であるナルミス様以外は信用していないのだと思う。本当に私の事を信用しているなら、名前くらいは教えてくれるはずだし。

「出来ません。あなたがここに残ると言うなら、私もここにいます」
「……なぜですか。あなたは、どうしてそんなに……!」

 それ以上は泣いて言わなかった。多分、どうしてそんなに気にかけるんだとか、そう言う事を言いたかったんだと思う。

 偽善者と言われるかもしれない。同情するなと言われるかもしれない。でも、あの時私にリーズがしてくれたように、私もこの子の心の支えになりたい。

「私も、そんな思いだった事がありましたから、自分と似ていて、放っておけないんです。これが理由ではいけませんか?」
「そんな思い……?」
「私は3歳の頃に両親を殺されて孤児になりましたから。この子達とリーズが支えてくれなければ、あなたのようになっていたままだったと思うんです」

 精霊が見えているか分からないけど、だからと言って、隠す気はなかった。

「あなたはどうですか?ナルミス様は、あなたの支えにならなかったのでしょうか?」
「……そんな事はありません。私も両親を亡くしてから、ずっと側にいて、支えてくれたのは……」

 また泣き出してしまった。もしかして、ナルミス様に会えていないのかもしれない。だって、この涙は、寂しいという思いから流れたように見えるから。

「……司教が使っている道なら、出る方法は分かります。行きましょう」

 そう言って、立ち上がった。

「行くんですか?」
「気が変わりました。あなたは思ったよりも頑固者のようですから、本当に離れなさそうなので。それでは煩わしいです」
「うぅ……そうですか……」

 『頑固者』と『煩わしい』という言葉が刃となって突き刺さった。

「……ティレツィアです」
「……はい?」
「私の名前はティレツィアです。いつまでもあなたと呼ばれるのは嫌なので。行きましょう、カオルさん」
「はっ、はい!ティレツィア様!」

 スタスタと一人で行ってしまうティレツィア様の背中を急いで追いかけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。 ※タイトルはそのうち変更するかもしれません※ ※お気に入り登録お願いします!※

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...