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第二章 神殿の少女達
第43話 司教の思惑
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少し時間は戻り、カオルがルーフェミアとセレスティーナと別れた時。
「どうしましょう、ルーフェミア様」
「わたくし達だけでも、神殿の外に出るべきですわ。ここでただ待っているのは時間の無駄ですもの。きっと、カオルさんは他の道を見つけて脱出しますわ」
「……そうですわね。道は分かりますわ。案内します」
ルーフェミアの提案に同意し、セレスティーナは道案内する。周りを警戒しながら、神殿の入り口に向かう。
その途中で、中に入ってきていたクラウド達と合流した。
「ルー!無事だったか!」
「お父様!」
「ファルメール公爵様」
「君は、クルメンディア公爵家の──」
「セレスティーナ・クルメンディアですわ。訳あって、ここに忍び込んでいたんですの」
もしかしたら、あの時ティーナとして入ったのがばれているのではないかと思い、怒られないかと不安に思いながらも、なるべく正直に話した。
「あの時ティーナって言ってた子じゃないですか?」
レナードが、思い出したように呟いた。それに、クラウドも納得する。
「助けに来ようとしたのは分かるが、一人は危険だ。なぜ周りを頼らなかったんだい?」
「カオルさんとルーフェミア様が危険かもしれないと思うと、いてもたっても居られなくなってしまいまして……」
「特に何ともありませんでしたわ。出ようとした時に大きな揺れがあった以外は……」
「あぁ……オーヴェが放った魔法だろう。少し威力が高かったようだな」
少しではない気がすると思いながらも、ルーフェミアとセレスティーナはそれを口に出す事はしなかった。
神殿の外に向かおうとすると、クラウドが「所で」と話しかけてきた。
「カオルはどうしたんだ?一緒じゃないのか?」
「途中ではぐれてしまいましたの。探そうかと思いましたが、わたくし達だけで探すのは危険ですし、わたくし達だけでも戻ってきたのですわ」
「そうか……どこではぐれたんだ?」
そう聞かれたが、ここには転移石で連れてこられたルーフェミアには、道が分からない。
「説明が難しいですし、わたくしが案内しますわ。ついてきてくださいますか?」
「分かった、行こう。ルーは先に外にいなさい」
「分かりましたわ」
そして、セレスティーナは再び神殿の奥に進み、ルーフェミアは神殿の外に出た。
それから十数分ほど経った。ルーフェミアは、アウベルクとグレンと共にセレスティーナ達とカオルを待っているが、一向に現れる気配がない。
「ルー様。大丈夫ですよ。セレスティーナ嬢はクラウド様がついていますし、カオルちゃんは精霊術士でしょう?神殿は、精霊が多い場所ですし、問題ありませんよ」
「そうですが……」
心配は要らないだろうと思っている。セレスティーナはクラウド達と一緒にいるし、カオルは精霊術士。何かあっても、精霊術で対応出来る。
(あの大きな揺れは神殿のものかと思っていましたが、そうではないようですし……)
そう考えて、ルーフェミアの脳内に一つの疑問が浮かんだ。
「オーヴェ。あなた、魔法を放ったと言っていましたが、なぜ二回も放ったんですか?」
強行突破するために魔法を放ったとルーフェミアは聞いていた。だが、それなら最初の一回だけで済むはずだ。それなのに、神殿内は二回揺れた。なので、ルーフェミアはアウベルクが二回魔法を放ったと思っている。
だが、ルーフェミアにとって予想外の返事が返ってきた。
「えっ?僕は一回しか魔法は使ってませんよ?」
「えっ……でも、揺れは二回ありましたわ。さの二回目の揺れのせいで、わたくし達とカオルさんははぐれてしまいましたし……」
「いやいやいや!最初のは僕の魔法かもしれませんが、二回目のは知りませんよ!?」
(オーヴェの魔法じゃないんですの……?じゃあ、あの揺れを起こしたのは──)
先ほどまで、心配はせんと思っていたのに、急に不安が押し寄せてきた。
(カオルさん、セレスティーナ様、どうかご無事で──)
ーーーーーーーーーーーーーー
「なぜ、あなた方が共にいるのでしょう?あの小娘はどうしたのですか?」
こういう風に聞くという事は、やっぱり私とリーズが同一人物という事には気づいていないみたい。
「知りません」
そう言いながら、ゆっくりと後ずさる。何とか逃げられないかな。今はリーズが出る事は出来ない。ティルは戦闘は出来ないだろうし、いざとなれば、私が何とかするしかない。
「……まぁ、あの小娘の事はどうでも良いです。ですが、カオル嬢は今までどこにおられたのですか?いつの間にかルーフェミア嬢もいなくなっていますし……」
ルーフェミア様……ちゃんと逃げてくれたんだ。なら、多分セレスティーナ様も大丈夫だ。……そう言えば、ナルミス様は?セレスティーナ様がナルミス様に場所を教えてもらったと言っていたから、道中で会えるかもしれないと思っていたけど、会えなかった。
たまたまなのかもしれないけど、ちょっと違和感を覚える。まさかとは思うけど──
「手引きしたのは誰ですか?ファルメール公爵が来ていたのは知っていますが、中には入らなかったはずです。では、他に手引きした者がいるという事になりますよね?」
「何が言いたいのですか?」
ティルが司教様を睨みつけながらそう言った。
「裏切り者の彼は捕らえました。ですが、手引きされたのが誰なのかは話してくれないんですよ。教えてくれませんか?カオル嬢」
「……あなたに話す事は何もありません」
「そうですか。では、これだけには答えていただきたい」
そう言って、司教様は私の方に近づいて、私のフードを掴む。
「あなたは頑なにこれを脱ぎたがらないそうですが、それはなぜですか?魔力を制御する道具でしたら、他にもたくさんあると言うのに」
「……親の形見だからです」
嘘ではない。私とリーズに唯一形として残してくれたのは、これだけだったから。
「そうなのですか。では、これには聖女の力が籠っているのですね」
「……どういう意味ですか」
「あの時はナルミスもいましたし、誤魔化されてあげましたが、やはり納得がいかない。あまりにも似すぎている。娘でもなければ、説明がつかない。そして、父親は……邪龍と言った所ですか?」
どうして?どうしてそこまで知ってるの?そこまで知っていて、なぜリーズと私が同一人物だとは分からないんだろう。
「なぜ知っているのかと言いたげですね。マリア聖女は、迷いの森の方角を向かったのを最後に、行方知らずになっていました。その数年後、邪龍と共に退治されたという情報がありました。邪龍側についたとしてね。だとすれば、あなたがマリア聖女の娘ならば、父親として考えられるのは、邪龍しかいませんから」
そんな情報が出回ってたんだ。でも、邪龍は悪いものというイメージがあれば、そういう風に広める方が良いかもしれない。本当は、父様は悪さをするどころか、母様以外の人間に興味すらなかったけど。
「私があなたの血にこだわるのは、聖女と邪龍の血が流れているからです。他にも優秀な精霊術士は探せばいますからね。でも、聖女と邪龍の力を受け継いでいるのはあなただけ。聖女の力も、邪龍の力も、様々な事に利用できる!」
そう言う司教様の目は、明らかに普通じゃなかった。黒いもやが濃すぎて、顔以外は何も見えなくなっている。
「カオルさん!早く逃げましょう!あれは普通ではありません!」
私の腕を引っ張って、聖騎士から逃げる時よりも早く走る。
後ろを見てみると、司教様が何やら話している。ティルには聞こえていないかもしれないけど、耳が良い私には、声もハッキリとしていたので聞こえていた。
『絶対に逃がさない』
「どうしましょう、ルーフェミア様」
「わたくし達だけでも、神殿の外に出るべきですわ。ここでただ待っているのは時間の無駄ですもの。きっと、カオルさんは他の道を見つけて脱出しますわ」
「……そうですわね。道は分かりますわ。案内します」
ルーフェミアの提案に同意し、セレスティーナは道案内する。周りを警戒しながら、神殿の入り口に向かう。
その途中で、中に入ってきていたクラウド達と合流した。
「ルー!無事だったか!」
「お父様!」
「ファルメール公爵様」
「君は、クルメンディア公爵家の──」
「セレスティーナ・クルメンディアですわ。訳あって、ここに忍び込んでいたんですの」
もしかしたら、あの時ティーナとして入ったのがばれているのではないかと思い、怒られないかと不安に思いながらも、なるべく正直に話した。
「あの時ティーナって言ってた子じゃないですか?」
レナードが、思い出したように呟いた。それに、クラウドも納得する。
「助けに来ようとしたのは分かるが、一人は危険だ。なぜ周りを頼らなかったんだい?」
「カオルさんとルーフェミア様が危険かもしれないと思うと、いてもたっても居られなくなってしまいまして……」
「特に何ともありませんでしたわ。出ようとした時に大きな揺れがあった以外は……」
「あぁ……オーヴェが放った魔法だろう。少し威力が高かったようだな」
少しではない気がすると思いながらも、ルーフェミアとセレスティーナはそれを口に出す事はしなかった。
神殿の外に向かおうとすると、クラウドが「所で」と話しかけてきた。
「カオルはどうしたんだ?一緒じゃないのか?」
「途中ではぐれてしまいましたの。探そうかと思いましたが、わたくし達だけで探すのは危険ですし、わたくし達だけでも戻ってきたのですわ」
「そうか……どこではぐれたんだ?」
そう聞かれたが、ここには転移石で連れてこられたルーフェミアには、道が分からない。
「説明が難しいですし、わたくしが案内しますわ。ついてきてくださいますか?」
「分かった、行こう。ルーは先に外にいなさい」
「分かりましたわ」
そして、セレスティーナは再び神殿の奥に進み、ルーフェミアは神殿の外に出た。
それから十数分ほど経った。ルーフェミアは、アウベルクとグレンと共にセレスティーナ達とカオルを待っているが、一向に現れる気配がない。
「ルー様。大丈夫ですよ。セレスティーナ嬢はクラウド様がついていますし、カオルちゃんは精霊術士でしょう?神殿は、精霊が多い場所ですし、問題ありませんよ」
「そうですが……」
心配は要らないだろうと思っている。セレスティーナはクラウド達と一緒にいるし、カオルは精霊術士。何かあっても、精霊術で対応出来る。
(あの大きな揺れは神殿のものかと思っていましたが、そうではないようですし……)
そう考えて、ルーフェミアの脳内に一つの疑問が浮かんだ。
「オーヴェ。あなた、魔法を放ったと言っていましたが、なぜ二回も放ったんですか?」
強行突破するために魔法を放ったとルーフェミアは聞いていた。だが、それなら最初の一回だけで済むはずだ。それなのに、神殿内は二回揺れた。なので、ルーフェミアはアウベルクが二回魔法を放ったと思っている。
だが、ルーフェミアにとって予想外の返事が返ってきた。
「えっ?僕は一回しか魔法は使ってませんよ?」
「えっ……でも、揺れは二回ありましたわ。さの二回目の揺れのせいで、わたくし達とカオルさんははぐれてしまいましたし……」
「いやいやいや!最初のは僕の魔法かもしれませんが、二回目のは知りませんよ!?」
(オーヴェの魔法じゃないんですの……?じゃあ、あの揺れを起こしたのは──)
先ほどまで、心配はせんと思っていたのに、急に不安が押し寄せてきた。
(カオルさん、セレスティーナ様、どうかご無事で──)
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「なぜ、あなた方が共にいるのでしょう?あの小娘はどうしたのですか?」
こういう風に聞くという事は、やっぱり私とリーズが同一人物という事には気づいていないみたい。
「知りません」
そう言いながら、ゆっくりと後ずさる。何とか逃げられないかな。今はリーズが出る事は出来ない。ティルは戦闘は出来ないだろうし、いざとなれば、私が何とかするしかない。
「……まぁ、あの小娘の事はどうでも良いです。ですが、カオル嬢は今までどこにおられたのですか?いつの間にかルーフェミア嬢もいなくなっていますし……」
ルーフェミア様……ちゃんと逃げてくれたんだ。なら、多分セレスティーナ様も大丈夫だ。……そう言えば、ナルミス様は?セレスティーナ様がナルミス様に場所を教えてもらったと言っていたから、道中で会えるかもしれないと思っていたけど、会えなかった。
たまたまなのかもしれないけど、ちょっと違和感を覚える。まさかとは思うけど──
「手引きしたのは誰ですか?ファルメール公爵が来ていたのは知っていますが、中には入らなかったはずです。では、他に手引きした者がいるという事になりますよね?」
「何が言いたいのですか?」
ティルが司教様を睨みつけながらそう言った。
「裏切り者の彼は捕らえました。ですが、手引きされたのが誰なのかは話してくれないんですよ。教えてくれませんか?カオル嬢」
「……あなたに話す事は何もありません」
「そうですか。では、これだけには答えていただきたい」
そう言って、司教様は私の方に近づいて、私のフードを掴む。
「あなたは頑なにこれを脱ぎたがらないそうですが、それはなぜですか?魔力を制御する道具でしたら、他にもたくさんあると言うのに」
「……親の形見だからです」
嘘ではない。私とリーズに唯一形として残してくれたのは、これだけだったから。
「そうなのですか。では、これには聖女の力が籠っているのですね」
「……どういう意味ですか」
「あの時はナルミスもいましたし、誤魔化されてあげましたが、やはり納得がいかない。あまりにも似すぎている。娘でもなければ、説明がつかない。そして、父親は……邪龍と言った所ですか?」
どうして?どうしてそこまで知ってるの?そこまで知っていて、なぜリーズと私が同一人物だとは分からないんだろう。
「なぜ知っているのかと言いたげですね。マリア聖女は、迷いの森の方角を向かったのを最後に、行方知らずになっていました。その数年後、邪龍と共に退治されたという情報がありました。邪龍側についたとしてね。だとすれば、あなたがマリア聖女の娘ならば、父親として考えられるのは、邪龍しかいませんから」
そんな情報が出回ってたんだ。でも、邪龍は悪いものというイメージがあれば、そういう風に広める方が良いかもしれない。本当は、父様は悪さをするどころか、母様以外の人間に興味すらなかったけど。
「私があなたの血にこだわるのは、聖女と邪龍の血が流れているからです。他にも優秀な精霊術士は探せばいますからね。でも、聖女と邪龍の力を受け継いでいるのはあなただけ。聖女の力も、邪龍の力も、様々な事に利用できる!」
そう言う司教様の目は、明らかに普通じゃなかった。黒いもやが濃すぎて、顔以外は何も見えなくなっている。
「カオルさん!早く逃げましょう!あれは普通ではありません!」
私の腕を引っ張って、聖騎士から逃げる時よりも早く走る。
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