聖女と邪龍の娘

りーさん

文字の大きさ
44 / 107
第二章 神殿の少女達

第43話 司教の思惑

しおりを挟む
 少し時間は戻り、カオルがルーフェミアとセレスティーナと別れた時。

「どうしましょう、ルーフェミア様」
「わたくし達だけでも、神殿の外に出るべきですわ。ここでただ待っているのは時間の無駄ですもの。きっと、カオルさんは他の道を見つけて脱出しますわ」
「……そうですわね。道は分かりますわ。案内します」

 ルーフェミアの提案に同意し、セレスティーナは道案内する。周りを警戒しながら、神殿の入り口に向かう。

 その途中で、中に入ってきていたクラウド達と合流した。

「ルー!無事だったか!」
「お父様!」
「ファルメール公爵様」
「君は、クルメンディア公爵家の──」
「セレスティーナ・クルメンディアですわ。訳あって、ここに忍び込んでいたんですの」

 もしかしたら、あの時ティーナとして入ったのがばれているのではないかと思い、怒られないかと不安に思いながらも、なるべく正直に話した。

「あの時ティーナって言ってた子じゃないですか?」

 レナードが、思い出したように呟いた。それに、クラウドも納得する。

「助けに来ようとしたのは分かるが、一人は危険だ。なぜ周りを頼らなかったんだい?」
「カオルさんとルーフェミア様が危険かもしれないと思うと、いてもたっても居られなくなってしまいまして……」
「特に何ともありませんでしたわ。出ようとした時に大きな揺れがあった以外は……」
「あぁ……オーヴェが放った魔法だろう。少し威力が高かったようだな」

 少しではない気がすると思いながらも、ルーフェミアとセレスティーナはそれを口に出す事はしなかった。

 神殿の外に向かおうとすると、クラウドが「所で」と話しかけてきた。

「カオルはどうしたんだ?一緒じゃないのか?」
「途中ではぐれてしまいましたの。探そうかと思いましたが、わたくし達だけで探すのは危険ですし、わたくし達だけでも戻ってきたのですわ」
「そうか……どこではぐれたんだ?」

 そう聞かれたが、ここには転移石で連れてこられたルーフェミアには、道が分からない。

「説明が難しいですし、わたくしが案内しますわ。ついてきてくださいますか?」
「分かった、行こう。ルーは先に外にいなさい」
「分かりましたわ」

 そして、セレスティーナは再び神殿の奥に進み、ルーフェミアは神殿の外に出た。
 
 それから十数分ほど経った。ルーフェミアは、アウベルクとグレンと共にセレスティーナ達とカオルを待っているが、一向に現れる気配がない。

「ルー様。大丈夫ですよ。セレスティーナ嬢はクラウド様がついていますし、カオルちゃんは精霊術士でしょう?神殿は、精霊が多い場所ですし、問題ありませんよ」
「そうですが……」

 心配は要らないだろうと思っている。セレスティーナはクラウド達と一緒にいるし、カオルは精霊術士。何かあっても、精霊術で対応出来る。

(あの大きな揺れは神殿のものかと思っていましたが、そうではないようですし……)

 そう考えて、ルーフェミアの脳内に一つの疑問が浮かんだ。

「オーヴェ。あなた、魔法を放ったと言っていましたが、なぜ二回も・・・放ったんですか?」

 強行突破するために魔法を放ったとルーフェミアは聞いていた。だが、それなら最初の一回だけで済むはずだ。それなのに、神殿内は二回揺れた。なので、ルーフェミアはアウベルクが二回魔法を放ったと思っている。

 だが、ルーフェミアにとって予想外の返事が返ってきた。

「えっ?僕は一回しか・・・・魔法は使ってませんよ?」
「えっ……でも、揺れは二回ありましたわ。さの二回目の揺れのせいで、わたくし達とカオルさんははぐれてしまいましたし……」
「いやいやいや!最初のは僕の魔法かもしれませんが、二回目のは知りませんよ!?」

(オーヴェの魔法じゃないんですの……?じゃあ、あの揺れを起こしたのは──)

 先ほどまで、心配はせんと思っていたのに、急に不安が押し寄せてきた。

(カオルさん、セレスティーナ様、どうかご無事で──)

ーーーーーーーーーーーーーー

「なぜ、あなた方が共にいるのでしょう?あの小娘はどうしたのですか?」

 こういう風に聞くという事は、やっぱり私とリーズが同一人物という事には気づいていないみたい。

「知りません」

 そう言いながら、ゆっくりと後ずさる。何とか逃げられないかな。今はリーズが出る事は出来ない。ティルは戦闘は出来ないだろうし、いざとなれば、私が何とかするしかない。

「……まぁ、あの小娘の事はどうでも良いです。ですが、カオル嬢は今までどこにおられたのですか?いつの間にかルーフェミア嬢もいなくなっていますし……」

 ルーフェミア様……ちゃんと逃げてくれたんだ。なら、多分セレスティーナ様も大丈夫だ。……そう言えば、ナルミス様は?セレスティーナ様がナルミス様に場所を教えてもらったと言っていたから、道中で会えるかもしれないと思っていたけど、会えなかった。

 たまたまなのかもしれないけど、ちょっと違和感を覚える。まさかとは思うけど──

「手引きしたのは誰ですか?ファルメール公爵が来ていたのは知っていますが、中には入らなかったはずです。では、他に手引きした者がいるという事になりますよね?」
「何が言いたいのですか?」

 ティルが司教様を睨みつけながらそう言った。

「裏切り者の彼は捕らえました。ですが、手引きされたのが誰なのかは話してくれないんですよ。教えてくれませんか?カオル嬢」
「……あなたに話す事は何もありません」
「そうですか。では、これだけには答えていただきたい」

 そう言って、司教様は私の方に近づいて、私のフードを掴む。

「あなたは頑なにこれを脱ぎたがらないそうですが、それはなぜですか?魔力を制御する道具でしたら、他にもたくさんあると言うのに」
「……親の形見だからです」

 嘘ではない。私とリーズに唯一形として残してくれたのは、これだけだったから。

「そうなのですか。では、これには聖女の力が籠っているのですね」
「……どういう意味ですか」
「あの時はナルミスもいましたし、誤魔化されてあげましたが、やはり納得がいかない。あまりにも似すぎている。娘でもなければ、説明がつかない。そして、父親は……邪龍と言った所ですか?」

 どうして?どうしてそこまで知ってるの?そこまで知っていて、なぜリーズと私が同一人物だとは分からないんだろう。

「なぜ知っているのかと言いたげですね。マリア聖女は、迷いの森の方角を向かったのを最後に、行方知らずになっていました。その数年後、邪龍と共に退治されたという情報がありました。邪龍側についたとしてね。だとすれば、あなたがマリア聖女の娘ならば、父親として考えられるのは、邪龍しかいませんから」

 そんな情報が出回ってたんだ。でも、邪龍は悪いものというイメージがあれば、そういう風に広める方が良いかもしれない。本当は、父様は悪さをするどころか、母様以外の人間に興味すらなかったけど。

「私があなたの血にこだわるのは、聖女と邪龍の血が流れているからです。他にも優秀な精霊術士は探せばいますからね。でも、聖女と邪龍の力を受け継いでいるのはあなただけ。聖女の力も、邪龍の力も、様々な事に利用できる!」

 そう言う司教様の目は、明らかに普通じゃなかった。黒いもやが濃すぎて、顔以外は何も見えなくなっている。

「カオルさん!早く逃げましょう!あれは普通ではありません!」

 私の腕を引っ張って、聖騎士から逃げる時よりも早く走る。

 後ろを見てみると、司教様が何やら話している。ティルには聞こえていないかもしれないけど、耳が良い私には、声もハッキリとしていたので聞こえていた。

『絶対に逃がさない』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。 ※タイトルはそのうち変更するかもしれません※ ※お気に入り登録お願いします!※

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...